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第一章≪再会≫

6.理想の部屋

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「お、お兄ちゃん!ここに住んでいるの?!」
わたしは馬鹿みたいに大きな声で叫んだ。

都心のタワーマンションの最上階ってだけでビックリなのに、まるでホテルのスイートルームみたいな部屋だった。
ホテルのスイートルームなんて、行ったことないからわからないけど。

部屋の色合いは、壁紙の淡いオレンジを基調に統一されて、ところどころアクセントのように濃い赤や黒の家具が置かれていた。
その家具は、まるで家具屋さんのショールームにいるみたいな高価そうでお洒落なソファやテーブルで、ダイニングテーブルは6人掛けだ。
正面ともう一方の壁がぐるっと大きな窓で、外からの光が入ってきて、明るくて開放的なお部屋だった。

「お父さんとお母さんの遺骨は、ここでいいかな」
広々とした明るいリビングの窓際にアンティークなウッドラックがあって、棚の上にはお花が生けられた花瓶が置かれていた。
春らしい、黄色のチューリップがメインの可愛いお花だった。

兄が持っていたお父さんの遺骨をウッドラックに置いて、わたしも、わたしが持っていたお母さんの遺骨を隣に置いた。

「あとで、お水を置こう。それから、ここには花音が好きな写真を置いていいからね」
「ありがとう、お兄ちゃん」

春休みに入ってから、未来ちゃんの家に預けていたお父さんとお母さん、また、一緒に暮らせてよかった。

「さあ、花音の部屋に案内するよ」
「え?わたしの部屋があるの?」

なんだか、夢の中にいるみたいな気分で兄に着いていくと、兄は廊下を玄関の方に戻って右側のドアを開けた。

「う、嘘でしょ」

その部屋は、一言で言うならファンシーだった。
もう一言付け加えるなら、メルヘン。

壁紙はサーモンピンク。
窓にはフリルたっぷりのレースのカーテン。
部屋の中にある家具、引き出しチェストも化粧台も本棚も、エレガントなデザインで白で統一されている。
ベッドはまるでお姫様が眠るような天蓋付きのベッドで、ふかふかの羽根布団には薄い花柄のピンクのカバー。
一人で寝るには大きすぎるそのベッドには、いろんな大きさのクッションがたくさん乗っていた。

「花音は覚えていないかもしれないけど、子供の頃、雑誌に載っていた子供部屋を気に入って、切り取って見せてくれたことがあったんだ。それを参考にした」
兄はそう言った。
「今の花音には、ちょっと子供ぽかったかな」
「ううん、そんなことないよ。すごく可愛いくて素敵な部屋だよ」

言いながら、部屋の中を見渡すと、本棚に本が並んでいて、わたしは近づいて手にとった。
「こ、これ、わたしの部屋にあった本だわ。処分したのに、どうしてここにあるの?」
「叔母さんが処分した家具や日用品はすべて買い戻した。ちょうど、トラックが出ていくところで、間に合ってよかったよ。本だけ、ここに運ぶように頼んで、他のものは、とりあえずレンタル倉庫に保管してもらったから、花音が見たくなったら、いつでも見にいけばいいし、必要なら、洋服とかは取りに行こう」

まるで魔法みたいだ。
わたしはここに来てから、驚いてばかりいる。

「いろいろ、ありがとう、お兄ちゃん」

胸がいっぱいで言葉にならなかったけど、わたしはなんとか、それだけ言った。
お父さんとお母さんとの思い出が、捨てらなかったことには、ほっとしたし、兄に心から感謝した。

童話に出てきそうな、夢のような部屋をもう一度ゆっくり見回す。
確かに子供の頃、こんな部屋に住んでみたいと思ったことはあったかもしれない。
でも、夢が叶うなんて、あるだろうか。

兄は、わたしの頭にぽんと、手を乗せた。
「今日からここが、花音のお城だよ」

わたしのお城。
全然、実感がない。
なんだか、騙されているみたいだ。

もしかしたら、わたし、攫われたのかな。
どこか外国に売られちゃうんじゃないだろうか。

ちらっと兄を伺うように、横目で見上げると、兄は「ん?」て顔をして微笑んだ。

本当に、お兄ちゃん、だよね?
わたしの兄なら、6歳年上だから、23歳か24歳のはずだけど、そんな年齢で、どんな仕事をしたら、こんな部屋に住めるのか、わたしには全然想像出来ない。
もしかして、ホスト、とかかな。
こんなに美形なんだもん。
ホストだったら、すごく売れっ子だと思う。
テレビで、人気ナンバーワンのホストさんがホテルのスイートルームに住んでいるってドキュメント番組を見たことがある。
あのときテレビで見たホストさんより、兄のほうが、カッコいいし。
でも、兄はアメリカに住んでいた、って言った。
ま、まさか、ギャングとか、マフィアとか、じゃ、ないよね…?

「花音、大事な話をするから、ちょっと休んだあと、リビングに来てくれる?」

わたしが貧困な想像力を屈指して慌てていると、兄はそう言った。








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