青は藍より出でて藍より青し

青は藍より出でて藍より青し

卒業前夜〔１〕

卒業前夜。

高谷は桐生邸を訪ねた。
玄関に出た葉月は申し訳なさそうな表情で、高谷に詫びた。
「内々の祝いの席の最中です。せっかくですが、今夜はお会い出来ないと思います」
「そうか」
すぐに踵を返して帰ろうとする高谷を、葉月は呼び止める。
「就職、決まったそうですね。おめでとうございます」
高谷は曖昧に頷いた。
「あなたが、組に入ってくれないのは今にして思えばとても残念ですが。それでも、綾瀬の側にいてやってくれますね？」

それは高谷には答えられない質問だった。
なぜか、それを決めるのは綾瀬だという気がする。
高谷にはこの先の自分達の関係が予想出来ない。
「綾瀬にはおまえが側にいれば、充分だ」
思ってもいないことを言ってしまったのは、つまらない嫉妬心のせいかもしれない。

葉月はそんな高谷の気持ちを見抜いたように、笑った。
「来年、司法試験を受けるつもりです。亡くなった親父の夢なんですよ、オレが弁護士になるのが」
意外な返事に高谷は顔を上げる。
面白い冗談を言ったように得意そうな顔の葉月を軽く睨んで、高谷は何も言わないで桐生邸を離れた。