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番外編 ハリンストン国王ディビット
凱旋
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オルチモア伯爵邸には、たくさんの人が集まっており、中心はケイトである。
「いえ、陛下は遠征に出られているので長くお会いしていません。」
ケイトが頬染めて話すと、
「娘は陛下が戻られて迎えに来るのを待っているのですよ。」
伯爵は上機嫌で周りに集まる貴族達に説明する。
「陛下は何と言われているのか?」
「陛下から直接には何もありません。
何分、王妃様はマクレンジー帝国皇女、調整が難しいのだと察してます。」
ずいぶん勝手に話が伯爵の中で進んでいる。
アーサーの手の者もこの会合に参加しているが、話を聞いていると呆れてくる。
確かな言葉も親書も何もないのだ。全部が運命の出会いで都合よく想像されている。
「側妃になられたら、陛下に領地の税率をあげるように進言していただけますか。」
ダイヤのネックレスをケイトに贈呈している伯爵もいれば、
「美しい側妃様なら、私の能力を陛下に推挙して下さることと思っております。」
とケイトにお茶を入れている男は、過去にディビットから横領で職務解雇され領地を半分取り上げられている。
「考えておきます。私は陛下の側にずっといるつもりですもの。王妃様とは違います。
きっと陛下も優遇してくださるわ。」
「参加者はここに記してあります。」
翌日、王宮の国務大臣執務室ではレオナールに報告書が渡された。
会合報告を聞いていたレオナールもシャルルも開いた口が塞げない。
ディビットの遠征に同行しているアーサーからの指示で動いている部下達はレオナールに報告すると共にアーサーにも報告書を送っている。ディビットの目にも入っているだろう。
「あの二人を見たら、政略結婚とは思うまいに。
陛下がサーシャを隠しているからな。」
レオナールも初めて見た時は、驚いたと付け足す。
「叔父上、どんなのだったのですか?」
シャルルが聞いてくるので、レオナールはマクレンジー帝国時代のディビットとサーシャの事を話す。
「両親の仲がいいのは、子供にとって幸せな事ですよ。」
他人事のように話す5歳児、普通の子供とは違いすぎて、叔父であるレオナールは別の心配をしている。
この子に情緒教育をせねばなるまい、賢すぎる子供は難しい。
3週間後、ディビットが戻って来た。
隣国はハリンストン軍の支援により新しい政権が樹立され、ハリンストン王国の属国となる条約が締結された。
軍の凱旋を見ようと沿道にはたくさんの貴族、平民があふれている。
黒い軍馬に乗るディビットは女性達の憧れの的だ。
国王ディビット35歳、母親譲りの美貌とオッドアイに精悍さが加わり、観衆の女性達から黄色い声があがる。
脇をかためるアーサーと将軍達がさらに威厳を付加させている。
もちろんサーシャも城を抜け出し、侍女達と共に町娘の姿で人ごみに紛れて見ていた。
「ディビットかっこいい。」
王宮のバルコニーで待っているより、ここで観る方が躍動感があって断然いいわ、と一人で呟いている。
そして、ケイトも豪華なドレスで同じように沿道に来て見ていた。
貴族達が前列で平民達は後方から見ている。
サーシャは前の方にケイトがいるのに気が付いていた、そこにいた者達をどかして騒ぎを起こしていたからだ。
「あんなのが側妃になるなんて、王様も目がない。」
口々に囁き合っている。
「王妃様はたいそう美しいと聞くから反動だろうか。
王妃様は深窓の姫君で滅多に公式の場に出てこないらしい。お可哀そうに何もご存じないのだろう。」
例え町娘の姿でもサーシャの美貌は遜色することなく、男達の目を惹く。
侍女と護衛達がガードするが軍の凱旋を見ようとする人々であふれた沿道では隙が出来てしまった。
サーシャの腕を貴族の男が掴んだ。
「いい暮らしをさせてやるよ。」と言い寄っている、目を付けていてタイミングを狙っていたらしい。
「いや!」
サーシャの声に反応したのは護衛だけではない、ディビットもだ。
軍馬から飛び降り駆けだして、人ごみに飛び込む。
歓声とも嬌声とも聞こえる叫び声が辺りをつんざく。
凱旋の軍は止まり、人々は王に近寄ろうと戦場よりも凄い事になっていく。
ケイトは自分の方に人を押しのけ走ってくるディビットに期待が高まる。
もう自分の元に駆け寄って来ている、としか思えない。
「ケイト、凄い、陛下がこちらにいらっしゃるわ。ケイトを見つけたのよ!」
周りの貴族達も興奮を隠せない。
だが、期待むなしくディビットはケイトに目をくれる事もなく、ケイトの斜め後に駆けて行く。
「サーシャを離せ!!」
驚いている貴族男の手からサーシャの腕を離すと、勢いのままに殴りつけた。
そして、サーシャの掴まれた腕を見ると、
「サーシャのかわいい腕が赤くなっている!医者だ!」
人ごみが割れて、皆の注目が集まっているのも気にしないディビットはサーシャを抱き上げて、赤くなった腕にキスをしている。
追いかけてやって来たアーサーが周りの人々の整理をするように兵士に指示を出している。
それでも喧騒はやまないが、原因であるディビットは二人の世界に入っている。
「心配でたまらない、サーシャは綺麗なんだ、もう街に出るのは止めてくれ。」
「ディビットがいる時はちゃんと篭の鳥で王宮から出ないわよ。」
二人で見つめ合って話しているのを、周りは固唾を飲んで聞いている、どうなっているのか状況が解らないといった人々ばかりだ。
「だって、兵士の妻になるつもりだったのよ。街の暮らしは好きよ。」
「マクレンジー帝国の皇女を兵士の妻にさせられないだろう、だから兵士から王になった、王宮で暮らしておくれ。」
「兵士の時のディビットも好きだけど、王様のディビットも好きよ。」
「私はもう18年もサーシャに恋しているよ。」
ゴホン、ゴホンと咳払いしながらアーサーが割って入ってきた。
「相変わらず仲が良いのはいいですが、続きは私室でお願いします。凱旋中なのですよ、陛下。」
「邪魔するなよ、アーサー。
サーシャは怖い思いをしたんだ、あいつはどうした?」
「すでに憲兵によって牢に連れ去りました。明日にでも、どうぞご自由に取り調べてください。」
人々は、王妃様の名前がサーシャだったと思い出し、街娘の姿で時々見かけていた娘だと言い合っている。
ディビットに抱かれたままのサーシャが声をあげる。
「ケイト・オルチモア。」
ケイトも周りの貴族達も飛びあがらんばかりに驚く。
「貴女が側妃になることなどないわ。
人の夫を取りたがるタイプの女性のようだけど、仲のいい夫婦を嘘の噂を流して壊したいなんて、こわーい。」
サーシャはケイトを大勢の人の前で潰しにかかった。オルチモア家が処分されるのはわかっているのに、群衆の前で恥をかかし、叩き潰そうとしている。
ディビットにしがみ付いて怖がっている、振りだとディビットもアーサーもわかっているが、周りはサーシャに同情をしている。
サーシャは自分の容姿をフル活用する術を知っているのだ、美しい姿は好感を得やすい。
あの噂は嘘だったのか、と口々に囁いては、王妃様可哀そうにと言っている。
サーシャは顔見知りの露天商を見つけると声をかけた。
「黙っていてごめんなさい。この人は私の夫でシャルルの父親、この国の王よ、私は王妃サーシャ。
人々の生活を知りたくって時々街に出ていたの。」
「サーシャちゃん。」
露天商はそれ以上言葉が続かないが、王妃が街娘の姿でいて、平民と同じところで凱旋を観ていた事は人々の想像をかきたてた。
「嘘じゃないわ!陛下と運命の出会いで!」
ケイトが周りの突き刺さるような視線に耐えきれなく叫ぶ。
「何が出会いなのか、まったく身に覚えがないのだが。
私は12年付き合った恋人と結婚した、大事な妻だ、それだけだ。
愛するサーシャに疑われるような事を捏造するな。」
ディビットはサーシャの頬を撫でながら言う。
誰もが驚く事が多すぎて、サーシャが18年前何歳だったかと気づかない。
オルチモア伯爵家は謀反の罪で取りつぶし、伯爵とケイトを含め一家は極刑となる。
オルチモア家は善良な貴族であったかもしれないが、噂に踊らされ、娘を側妃にと思った時点で判断ができなくなり、王家に害なす者となった。
ケイトにすり寄っていた貴族達も謀反を加担したと取りつぶされ、極刑を含む重い刑罰が与えられた。
王と王妃が仲のいい夫婦と知れ渡ると、サーシャに言い寄る男達も減ったが、無くなったわけではない。
益々、ディビットがサーシャを閉じ込めることとなる。
ハリンストン国王ディビット、過去16代の王の中でも賢王と誉れ高いが、美しい王妃に公務を与えることはほとんどなかった。
だが、時々王妃が街に出て住民達に匿ってもらうと、王が探しに来るようになり、二人で街を歩く姿が見られることになる。
「いえ、陛下は遠征に出られているので長くお会いしていません。」
ケイトが頬染めて話すと、
「娘は陛下が戻られて迎えに来るのを待っているのですよ。」
伯爵は上機嫌で周りに集まる貴族達に説明する。
「陛下は何と言われているのか?」
「陛下から直接には何もありません。
何分、王妃様はマクレンジー帝国皇女、調整が難しいのだと察してます。」
ずいぶん勝手に話が伯爵の中で進んでいる。
アーサーの手の者もこの会合に参加しているが、話を聞いていると呆れてくる。
確かな言葉も親書も何もないのだ。全部が運命の出会いで都合よく想像されている。
「側妃になられたら、陛下に領地の税率をあげるように進言していただけますか。」
ダイヤのネックレスをケイトに贈呈している伯爵もいれば、
「美しい側妃様なら、私の能力を陛下に推挙して下さることと思っております。」
とケイトにお茶を入れている男は、過去にディビットから横領で職務解雇され領地を半分取り上げられている。
「考えておきます。私は陛下の側にずっといるつもりですもの。王妃様とは違います。
きっと陛下も優遇してくださるわ。」
「参加者はここに記してあります。」
翌日、王宮の国務大臣執務室ではレオナールに報告書が渡された。
会合報告を聞いていたレオナールもシャルルも開いた口が塞げない。
ディビットの遠征に同行しているアーサーからの指示で動いている部下達はレオナールに報告すると共にアーサーにも報告書を送っている。ディビットの目にも入っているだろう。
「あの二人を見たら、政略結婚とは思うまいに。
陛下がサーシャを隠しているからな。」
レオナールも初めて見た時は、驚いたと付け足す。
「叔父上、どんなのだったのですか?」
シャルルが聞いてくるので、レオナールはマクレンジー帝国時代のディビットとサーシャの事を話す。
「両親の仲がいいのは、子供にとって幸せな事ですよ。」
他人事のように話す5歳児、普通の子供とは違いすぎて、叔父であるレオナールは別の心配をしている。
この子に情緒教育をせねばなるまい、賢すぎる子供は難しい。
3週間後、ディビットが戻って来た。
隣国はハリンストン軍の支援により新しい政権が樹立され、ハリンストン王国の属国となる条約が締結された。
軍の凱旋を見ようと沿道にはたくさんの貴族、平民があふれている。
黒い軍馬に乗るディビットは女性達の憧れの的だ。
国王ディビット35歳、母親譲りの美貌とオッドアイに精悍さが加わり、観衆の女性達から黄色い声があがる。
脇をかためるアーサーと将軍達がさらに威厳を付加させている。
もちろんサーシャも城を抜け出し、侍女達と共に町娘の姿で人ごみに紛れて見ていた。
「ディビットかっこいい。」
王宮のバルコニーで待っているより、ここで観る方が躍動感があって断然いいわ、と一人で呟いている。
そして、ケイトも豪華なドレスで同じように沿道に来て見ていた。
貴族達が前列で平民達は後方から見ている。
サーシャは前の方にケイトがいるのに気が付いていた、そこにいた者達をどかして騒ぎを起こしていたからだ。
「あんなのが側妃になるなんて、王様も目がない。」
口々に囁き合っている。
「王妃様はたいそう美しいと聞くから反動だろうか。
王妃様は深窓の姫君で滅多に公式の場に出てこないらしい。お可哀そうに何もご存じないのだろう。」
例え町娘の姿でもサーシャの美貌は遜色することなく、男達の目を惹く。
侍女と護衛達がガードするが軍の凱旋を見ようとする人々であふれた沿道では隙が出来てしまった。
サーシャの腕を貴族の男が掴んだ。
「いい暮らしをさせてやるよ。」と言い寄っている、目を付けていてタイミングを狙っていたらしい。
「いや!」
サーシャの声に反応したのは護衛だけではない、ディビットもだ。
軍馬から飛び降り駆けだして、人ごみに飛び込む。
歓声とも嬌声とも聞こえる叫び声が辺りをつんざく。
凱旋の軍は止まり、人々は王に近寄ろうと戦場よりも凄い事になっていく。
ケイトは自分の方に人を押しのけ走ってくるディビットに期待が高まる。
もう自分の元に駆け寄って来ている、としか思えない。
「ケイト、凄い、陛下がこちらにいらっしゃるわ。ケイトを見つけたのよ!」
周りの貴族達も興奮を隠せない。
だが、期待むなしくディビットはケイトに目をくれる事もなく、ケイトの斜め後に駆けて行く。
「サーシャを離せ!!」
驚いている貴族男の手からサーシャの腕を離すと、勢いのままに殴りつけた。
そして、サーシャの掴まれた腕を見ると、
「サーシャのかわいい腕が赤くなっている!医者だ!」
人ごみが割れて、皆の注目が集まっているのも気にしないディビットはサーシャを抱き上げて、赤くなった腕にキスをしている。
追いかけてやって来たアーサーが周りの人々の整理をするように兵士に指示を出している。
それでも喧騒はやまないが、原因であるディビットは二人の世界に入っている。
「心配でたまらない、サーシャは綺麗なんだ、もう街に出るのは止めてくれ。」
「ディビットがいる時はちゃんと篭の鳥で王宮から出ないわよ。」
二人で見つめ合って話しているのを、周りは固唾を飲んで聞いている、どうなっているのか状況が解らないといった人々ばかりだ。
「だって、兵士の妻になるつもりだったのよ。街の暮らしは好きよ。」
「マクレンジー帝国の皇女を兵士の妻にさせられないだろう、だから兵士から王になった、王宮で暮らしておくれ。」
「兵士の時のディビットも好きだけど、王様のディビットも好きよ。」
「私はもう18年もサーシャに恋しているよ。」
ゴホン、ゴホンと咳払いしながらアーサーが割って入ってきた。
「相変わらず仲が良いのはいいですが、続きは私室でお願いします。凱旋中なのですよ、陛下。」
「邪魔するなよ、アーサー。
サーシャは怖い思いをしたんだ、あいつはどうした?」
「すでに憲兵によって牢に連れ去りました。明日にでも、どうぞご自由に取り調べてください。」
人々は、王妃様の名前がサーシャだったと思い出し、街娘の姿で時々見かけていた娘だと言い合っている。
ディビットに抱かれたままのサーシャが声をあげる。
「ケイト・オルチモア。」
ケイトも周りの貴族達も飛びあがらんばかりに驚く。
「貴女が側妃になることなどないわ。
人の夫を取りたがるタイプの女性のようだけど、仲のいい夫婦を嘘の噂を流して壊したいなんて、こわーい。」
サーシャはケイトを大勢の人の前で潰しにかかった。オルチモア家が処分されるのはわかっているのに、群衆の前で恥をかかし、叩き潰そうとしている。
ディビットにしがみ付いて怖がっている、振りだとディビットもアーサーもわかっているが、周りはサーシャに同情をしている。
サーシャは自分の容姿をフル活用する術を知っているのだ、美しい姿は好感を得やすい。
あの噂は嘘だったのか、と口々に囁いては、王妃様可哀そうにと言っている。
サーシャは顔見知りの露天商を見つけると声をかけた。
「黙っていてごめんなさい。この人は私の夫でシャルルの父親、この国の王よ、私は王妃サーシャ。
人々の生活を知りたくって時々街に出ていたの。」
「サーシャちゃん。」
露天商はそれ以上言葉が続かないが、王妃が街娘の姿でいて、平民と同じところで凱旋を観ていた事は人々の想像をかきたてた。
「嘘じゃないわ!陛下と運命の出会いで!」
ケイトが周りの突き刺さるような視線に耐えきれなく叫ぶ。
「何が出会いなのか、まったく身に覚えがないのだが。
私は12年付き合った恋人と結婚した、大事な妻だ、それだけだ。
愛するサーシャに疑われるような事を捏造するな。」
ディビットはサーシャの頬を撫でながら言う。
誰もが驚く事が多すぎて、サーシャが18年前何歳だったかと気づかない。
オルチモア伯爵家は謀反の罪で取りつぶし、伯爵とケイトを含め一家は極刑となる。
オルチモア家は善良な貴族であったかもしれないが、噂に踊らされ、娘を側妃にと思った時点で判断ができなくなり、王家に害なす者となった。
ケイトにすり寄っていた貴族達も謀反を加担したと取りつぶされ、極刑を含む重い刑罰が与えられた。
王と王妃が仲のいい夫婦と知れ渡ると、サーシャに言い寄る男達も減ったが、無くなったわけではない。
益々、ディビットがサーシャを閉じ込めることとなる。
ハリンストン国王ディビット、過去16代の王の中でも賢王と誉れ高いが、美しい王妃に公務を与えることはほとんどなかった。
だが、時々王妃が街に出て住民達に匿ってもらうと、王が探しに来るようになり、二人で街を歩く姿が見られることになる。
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