お妃さま誕生物語

すみれ

文字の大きさ
上 下
76 / 96
番外編 ジェラルド

君だけが

しおりを挟む
ジェラルドの剣はひるがえっただけのように見えた。
それほど速くきらめいた。
ジェラルドに続き、オリバー、リアムも次々と飛び込んできた。
ならず者達が次々と倒れる。

10人を超える男達の抵抗も無駄だった、血しぶきを受けてジェラルドは斬りつける。
すでに事切れている男にも手加減をしない。
遺体にさえ、さらに斬りつける。
孤児院から連れてくる時にレイラに触ったに違いない、許すことができない。

「ジェラルド、終わったんだ、止めるんだ。他にもいた暴漢は全て始末した。イライジャとアレンが向こうの部屋で子爵達を捕まえた。」
もう生きているならず者達はいない。
「ジェラルド。」
オリバーが制してもジェラルドの剣は止まらない。

「ジェラルド。」
レイラが名を呼ぶのと同時に前に飛び出してきた。
「レイラ!」
レイラに剣を向けそうになった手を止める為に身体が後ろにぶれる。
「レイラ、君を斬ってしまう、怖ろしいことをしないでくれ。」
「ジェラルド、もういいの、もういいのよ。」
「ダメだよ、君を傷つけようとした。僕から奪おうとしたんだ、絶対に許せない。」
レイラの手がジェラルドの頬をなでる。
「ジェラルドが助けてくれたわ。きっと助けてくれると信じてたわ。」
ならず者の遺体を見ていたジェラルドの瞳がゆっくりとレイラを見る。
「ありがとう、ジェラルド。」
「レイラ。」
ジェラルドの手から剣が音を立てて落ちる。
「大丈夫よ、私はここにいるから、心配しないでもいいのよ。」
「レイラがいなくなるかと、思って。」
ジェラルドの瞳から涙がつーっと落ちた。


あんなに恐いと思っていたジェラルドがはかげにみえる。
一方的な断罪を見たのに、ジェラルドが恐くない、とレイラは感じていた。
レイラはジェラルドを抱きしめた、今はジェラルドがちゃんと年下の男の子に見える。
なんて綺麗な男の子なんだろう。

「まるで猛獣使いだな。」
顔を覗かせたのはアレンだ。
「子爵と女はデュバル公爵家に委ねたよ。」
「ジェラルドは取りこみ中だ、僕達で始末してしまおう。」
気を利かせたオリバーがアレンに声かける。
「そうだな。」
リアムが笑っている、釣られるように残りのメンバーも笑いだす。
しかも部屋に入って来たばかりのロバーツ達デュバル家の人間まで追い出す始末。
子供達を連れてアレン達が部屋から出て行った、これからやって来る王国の兵やデュバル公爵の相手をせねばならない。
孤児院の再建も必要だろうが、リアム達が関与することではない。


落ち着いたジェラルドの顔が赤くなる。
「参ったな、こんなところを見られるなんて。」
「あら親しみを感じたわよ。」
レイラがフフフと笑う。
二人で目を合わせ笑い合う。
そこかしこに遺体が転がっている場所ですることじゃない。
ジェラルドがレイラを抱き上げると耳元にささやいた。
「お姫様ケガはないかい。」
「大丈夫よ、でもすごく怖かった。」
僕もだよ、ジェラルドが囁く。
「君がいなくなるかもと思うと怖くて震えた。」
ジェラルドはレイラを抱いたまま外に出ると、乗って来た馬にレイラを乗せ自分も後ろに乗った。
馬のひづめの音にオリバー達も気づいたが、追っても無駄だと諦めて、公爵家の説得にまわった。


ジェラルドは馬を街のはずれにあるグレネド伯爵邸に向かわせた。
今は誰も住んでいないが、警備兵が巡回しているし、掃除も月に1度はいる。
留学の為に使おうかと思ったが、結局は王都中心部にある屋敷を使った。

ジェラルドは2階の北側の部屋にレイラを抱いたまま入り、クローゼットの前で降ろした。
「ここに母のウェディングドレスがある。それは母の母から受け継いだものだ。
レイラに着て欲しい。」
「お祖母様の?」
「そうだ。1人で着れるかい?」
「後ろのボタンは無理だわ。」
「しばらく席をはずすよ、戻ったら1人でできないことを手伝う。」
「今すぐ着るの?」
「レイラ、愛してる。」
ジェラルドの唇が重なってきた。
レイラにもわかった、ジェラルドは結婚式を挙げようとしている。
逃げるなら、ジェラルドが席を外した時だ。
逃げきれるのか、ジェラルド・マクレンジーから。自問自答だ、無理だろう。


ジェラルドは庭の花を切って戻ってきた。
「レイラ綺麗だ。」
「後ろができないの。」
「後ろを向いてごらん。」
ウェディングドレスの後ろボタンをジェラルドが留めていく。
髪をゆるくあげ花を挿す。
レイラの頬が染まっていく。
「とても、とても綺麗だ。レイラ。」

ジェラルドに手をひかれ、広間に向かう。
ウェディングドレスは15歳のレイラには少し裾が長い。
ステンドグラス越しに光さす広間はかつてリヒトールとシーリアが式を挙げた広間。
今はジェラルドとレイラの二人きりだ。
レイラの手にはジェラルドが集めた庭の花の花束。


ジェラルドとレイラは向き合っている。
「私、ジェラルド・マクレンジーはレイラ・デ・デュバルを永遠に愛することを誓います。」
ジェラルドがレイラの指にキスをする。
「私、レイラ・デ・デュバルはジェラルド・マクレンジーに永遠に愛されることを誓います。」
ふふ、とほほ笑みながらレイラが小さな声で言う。
「まだ愛することがわからないの。」
「僕が教えるよ。」
ジェラルドにキスされる、それは深くなり、吐息が絡まる。

ジェラルドはレイラを抱き上げると2階の寝室に向かった。
ジェラルドが留めたボタンはジェラルドに外された。




朝の光の中でベッドに広がる銀の髪をもてあそびながら、ジェラルドは眠るレイラに告げる。
「君だけが、僕の光。僕の妃。」



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。

yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~) パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。 この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。 しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。 もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。 「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。 「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」 そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。 竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。 後半、シリアス風味のハピエン。 3章からルート分岐します。 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。 表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。 https://waifulabs.com/

大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです

古堂すいう
恋愛
祖父から溺愛され我儘に育った公爵令嬢セレーネは、婚約者である皇子から衆目の中、突如婚約破棄を言い渡される。 皇子の横にはセレーネが嫌う男爵令嬢の姿があった。 他人から冷たい視線を浴びたことなどないセレーネに戸惑うばかり、そんな彼女に所有財産没収の命が下されようとしたその時。 救いの手を差し伸べたのは神官長──エルゲンだった。 セレーネは、エルゲンと婚姻を結んだ当初「穏やかで誰にでも微笑むつまらない人」だという印象をもっていたけれど、共に生活する内に徐々に彼の人柄に惹かれていく。 だけれど彼には想い人が出来てしまったようで──…。 「今度はわたくしが恩を返すべきなんですわ!」 今まで自分のことばかりだったセレーネは、初めて人のために何かしたいと思い立ち、大好きな旦那様のために奮闘するのだが──…。

お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。 私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。 やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。 そう自由……自由になるはずだったのに…… ※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です ※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません ※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります

ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?

望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。 ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。 転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを―― そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。 その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。 ――そして、セイフィーラは見てしまった。 目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を―― ※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。 ※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)

処理中です...