お妃さま誕生物語

すみれ

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番外編 ジェラルド

フェルナンデス・デ・デュバル

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レイラは自室で思い出していた。
今日はマクレンジー帝国の皇太子ジェラルドに会った。
ずっと私を見ている目が恐い。
父の妹がマクレンジー皇妃なので従弟になる。
美形だけど、底なし沼のような目だ。
私より1歳下だというのに10歳も上の様な雰囲気だった。


マクレンジー帝国ではリヒトールがジェラルドからの書簡を受け取っていた。
「ジェラルドが婚約の許可を申請してきたぞ。相手の同意は取ってないらしい。」
私と同じだな。
急いで書いたらしい字も崩れている、しかも伝書鳥で急報してきた。
「陛下、楽しそうに言うということは、そんなに難しいのですか?」
ケインズが確認してきた。
「セルジオ王国王太子の婚約者でデュバル公爵家の姫だ。」
「またですか!」
ポールが苦笑いしている。
「息子達に確認と、力ずくで行くのを止めさせましょう。」
「今夜にでも姫の部屋に押し入りそうだな、あのジェラルドだ。」


その通りであった。
側近の息子達である4人がジェラルドを羽交い締めにしていた。
リアムから状況を聞いて注意をしていたら、強行突破しようとしたジェラルドがいたのだ。
「放せ!お前達、後でみてろよ!」
「女性の同意なしに押し入ろうとするなんて、どうしたんですか!」
「彼女は天使だ、妖精なんだ、早くしないと逃げてしまう。」
ダメだ、これ。
「僕のものだ!」

「協力すると言ってるでしょ、落ち着きなさい。」
ポールの息子のアレンがため息をつきながら言った。

話を聞いてるのも恥ずかしいぐらいの一途だ。
何故にこうなった、軍で仕込まれたから女の経験もある。
間違いなく初恋だが、マクレンジー家は全員初恋を成就している。

まずは確認からします、とイライジャが言う。
「ジェラルドは彼女から嫌われるのと、好かれるのとどちらがいいですか?」
「好かれたいに決まっている。」
「無理やり貞操を奪われた女性が相手を好きになると思いますか?」
「無理だな。」
ジェラルドが力なく答える。
「止めてくれて、助かった。僕はどうかしている。」
「冷静になってくれてよかったよ。」
「何かプレゼントから始めてはどうですか?」
「エメラルドのイヤリングだ、僕の目と同じ色を探せ。」
「それは、いいですね。花も用意しましょう。」
「さて、婚約をどうするか。相手の王太子は11歳、どうとでもできるな。」
どうとでも、の中に暗殺は入ってないと助かるなと4人は思う。


セルジオ王とデュバル宰相は、マクレンジー帝国皇太子ジェラルドから会見を申し込まれていた。
数日前に皇太子が公爵家を訪問し、レイラを凝視していた話は息子達から聞いていた。
翌日には、レイラに花束とエメラルドのイヤリングが届けられた。
毎日花束が届く。
イヤな予感しかしない。
「約束を覚えているか。」
「ああ。」
アランとフェルナンデスが執務室で会話を交わす。
「レイラを王宮で保護する為の婚約だった。お互いが結婚を希望しない限り、仮のものだ。」
「そうだ、昔の教訓を覚えているからな。」
「リヒトール・マクレンジーの息子だ、絶対に諦めないぞ。」
「私もそう思う。レイラに聞いたが、好印象じゃないようだ。」
「参ったな。」
二人にとって、リヒトールの印象は蛇よりしつこいだ。
その息子だ、同じに決まっている。


ジェラルドはアラン王とフェルナンデス宰相より王宮で説明を受けていた。
堂々と王と対面する姿は14歳のできることではない。
側近としてシュバルツの息子のオリバーとダーレンの息子のリアムが付いている。
「なるほど、安全の為にですか。たしかにセルジオ王宮の警備の高さは有名ですからね。
レイラは地上に降りた天使ですから保護は必要です。美しすぎます。」
真顔で言うジェラルドの言葉に聞いてる方が恥ずかしくなる。
レイラは美人だが、シーリアの方がずっと美人だったぞとフェルナンデスは思う。
姪のリデルもサーシャもレイラより美しいぞ、それに囲まれて育ったのに審美眼まで変えてしまうのか。
マクレンジーの血はすごいな、レイラは逃げれないな。

「フェルナンデス・デ・デュバル公爵、レイラ嬢に結婚を申し込みます。」
婚約を飛ばして結婚ときた。
「まて、まだセルジオ王国王太子の婚約者だ。すぐには無理だ。」
「仮のものだと先ほどお聞きしましたが。」
「それでも正式に婚約している、すぐには解消するのは難しい。」
アランが王としてフェルナンデスの代わりに答える。
ジェラルドはニヤリと笑ったかと思うと恐ろしい言葉を紡いだ。
「ここには両方の父親がいますよね、それでも出来ないと言われる。
セルジオ王国の第2王子はまだ小さいですが、次の王太子に問題ないでしょう。」
それはオリバーが止めた。
「ジェラルド、王の前で王太子の交代など不謹慎な事を言うのではない。」
「不慮の事故だよ、どこにでもある。」
アランは子供と思っているジェラルドに屈するつもりはない。
「父親のリヒトール皇帝に泣きついて、暗殺者をださせるのか。」

はぁ、と溜息をつきながらリアムがアランに言う。
「セルジオ王、ジェラルドを刺激しないでください。
それぐらい自分でできます。
マクレンジー帝国ではジェラルドを含め、我々も父親を頼ったりしません。
父親も我々を保護しようとしません。
我々は6~7歳で軍隊に放り込まれました。
周りは手加減などしません、自力で生き残るしかないのです。
こちらの王子様方とは違うとお思いください。
生き残るために雑草を食べる時もありました、体中傷だらけです。
野戦に行くと、まず最初に子供が虫にたかられます。周りの大人は子供を囮にして虫から逃れます。
10歳で戦場に立ちました。
生き抜いた我々を子供と見ない事です。」
答えるリアムも子供の顔つきではない。
ディビットが全て教えてくれた、生きる術、戦う術。それまで習っていた剣術など役にたちはしない。
ガサフィの戦争では前線が当たり前だった。
前線ではディビットを先頭にアーサー、ガサフィ、ジェラルドと自分達が続き、大人よりも戦果をあげていた。

レイラはジェラルドの目が怖いと言っていた。
そうだろう、レイラの周りにいる貴公子達とはレベルが違う。
フェルナンデスはジェラルドを見つめて問いかける。
「レイラは大人しい娘だ、皇太子の強さについて行けないと思うが、それでも望まれるか。」

「戦場に立つのは僕です。レイラを戦場にださない世界を創るために。レイラの役目は僕を戦わせることです。」
大人に怯むことなく言い切るジェラルド、誰もが未来の皇帝を見る。
東の極東首長国、西のハリンストン王国、巨大国のバランスをとっているのがマクレンジー帝国だ。
そして最強の経済大国。
後継者を育てる方法は恐ろしい、自分には出来ないとフェルナンデスは思う。
息子を無くす可能性は高いのだ、6歳で軍隊に投入などあり得ない。
投入できるように、その前から育てているという事だろう。
そこを生き残るとこうなるのか。皇位を継ぐ、側近になる、共に試練の道なのだな、能力のない者は必要とされない。

「僕にはレイラをあきらめる道はありません。」
「わかった。レイラはやろう。」
「フェルナンデス!」
アランが声をあげるが、フェルナンデスは手で制す。
「ただし、帝国に連れて行くのはレイラが納得してからだ。」
「ありがとうございます。」
「アラン、直ぐに婚約解消の書類を用意するから、サインが欲しい。」
シーリアの時も父が王からサインをもぎ取ってきたな、と思い出す。
「フェルナンデス。」
渋るアランにフェルナンデスが言った。
「アラン、率直に言おう。お前の息子よりジェラルド皇太子の方が娘婿に望ましい。」
娘を預けるには、ジェラルドの方が何倍も大事にしてくれるだろう。

シーリアだって種々あったが元気に暮らしている。
先の心配をしても仕方ないのだ、ジェラルド以上にレイラを守る男はいないだろう。
フェルナンデスは、我が家の姫はマクレンジーに浚われる定めなのかもしれないと思った。
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