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本編
極東首長国
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極東首長国の後宮の一室でリヒトールの側近ウィリアム・カーンはロナウド・グラハム王と対面していた。
手にはシーリアの部屋から発見された呪符がある、それはこの地域で信仰されているスレナ宗教言語が書かれていた。
「マクレンジー帝国の皇妃は姫神だ、我らの豊穣の女神は銀の髪、紫の瞳であられる。
俺でさえ初めて見た時は姫神降臨と思った、こうあって欲しいと願う美しさであられたからな。この姫神は砂漠地域に連なる国々で信仰されている、特にサルシュ大公国の宗派では最高位の神である。
我らの国は厳しい環境地域が多い、心のよりどころが必要なんだよ。
その姿を見てしまえば欲しいと思う者もいるだろう。」
ロナウドの言葉にウィリアムの目は貴殿はどうだ、と聞いてくる。
「正直に言うと欲しいと思う、手に入るなら何でもするだろう、だが無理だというのも知っている。」
我が国は砂漠の小国に過ぎなかった、マクレンジー帝国との取引によって岩塩地域の制圧、次々と近隣国を吸収することによって砂漠を統一して広大な領土となった。
砂漠で接するマクレンジー帝国トーバ領は塩と砂糖の供給を中心として、海にある港よりも天候に左右されない内陸にあるヤムズ大河の港として大きく繁栄している魅力的な地域だ。我が軍ならば砂漠を走破して急襲することで一時的に手に入れられるが、奪還にくるマクレンジー本軍には歯が立たない、これが実状だとロナウドは思う。
わずか数年でこの極東砂漠地域を統一したのだ、天の采配のある王なのだろう。信用できるわけではないが信頼すべきであろう、とウィリアムは結論づけた、敵に廻すべきでない。
「この呪符には相手の心を操るための呪文が書かれている。すでにご存じのようだが過激な宗派で使われているようだ、効果の真偽はわからない。
皇妃を改宗させようとしたのだろう、自分から帝国をでるように。」
マクレンジー帝国相手では奪い取れない、とロナウドは続けた。
まったくだ、とウィリアムはこの呪符を見つけた時を思い出した。
リヒトール陛下はすぐに犯人捜しを命じ、部屋の温度が下がったと感じる程の怒りだったのに、皇妃自身は、
「バカバカしい」
と呪符を踏みつけたのだ。バンバンと何度も、我が皇妃様はすばらしすぎる。
あれで部屋の温度は戻った、リヒトール陛下が声をあげて笑っていた、けれど決して犯人は許しはしないが。
あの呪符は妃殿下のドレスの内側に縫い止めてあった。調べると他にも数着あり、納品の仕立屋に入り込んでいたようだった、既に始末したが。
呪符ごときでも、人の洗脳アイテムとして大勢の誘導に使われるとやっかいだ、それが宗教となると尚更である。
魅力的すぎる妃殿下であられる、しかも外見利用でわざとイメージを作っておられる。神聖な新興宗教でも創れるだろうが、中身は呪符とはいえ宗教札を踏むようなお人である。
「俺もサルシュ大公国はじゃまなんだよな、あっちは俺を嫌っているらしい、この国が欲しいそうだ。」
犯人はサルシュ大公国だと決めつけるような言い方だ、何を知っているとウィリアムが反応する前に、
「サルシュ大公は女神を近々後宮に入れると言ってるらしいぞ。」
後宮だと、ハーレムの一人にするだと、我が国の皇妃を。
「だがな、サルシュ大公ギルティオは欲張った男だが、それだけでは公言はできるまい、黒幕がいるだろう。」
ロナウド陛下が言う。
「噂があるのだよ、占い師が国政を握っていると。」
ウィリアムも宗教国家でありがちなと聞き始めたが、内容に耳を疑った。
「女神を復活させるために、女神によく似た女の生き血を生け贄にすると占い師が言ってるという話も聞く。
後宮にいれたい大公と生け贄にしたい占い師。」
額に汗が滲むのがわかる、絶対にリヒトール陛下の耳に入れたくないと思っても報告はせねばならないのだ。
サルシュ大公国から戻ってきた諜報員の報告では、深くは探れなかったが占い師はいるらしい。
そこで焚かれている香を持ち帰ってきたので、報告書と一緒にマクレンジー帝国に送ったところ、化学者と医者を引き連れた側近のポールが返書を持ってきた。
「香は植物の種で麻薬です、それで人心を掌握しているのでしょう。」
ポールの後を継いで、
「少しの煙で幻覚をみさせる中毒性の高い麻薬だと判明しましたが、今までに見たことのない植物のようです、生物学者にも確認しました。」
と嬉々として話す化学者。
見たことのない麻薬の性能に詳しいじゃないか、僅かな時間でどれだけ実験したんだ、と思っても口には出さない、人体実験に間違いないからだ。
リヒトールからの指示をポールがウィリアムに伝えた、
「サルシュ大公国は極東首長国にやれ、麻薬植物の生息地帯を手にいれろ。」
もちろん主犯の首をとったうえでの話である、側近二人を投入するほどのリヒトールの怒りが伝わる。
宗教という隠れ蓑を被った狂人である、遠い地のことなら関係なかった。マクレンジー帝国の皇妃を狙った時点で距離は関係なく、叩き潰すものとなった。
リヒトール・マクレンジーは決して許さない。
手にはシーリアの部屋から発見された呪符がある、それはこの地域で信仰されているスレナ宗教言語が書かれていた。
「マクレンジー帝国の皇妃は姫神だ、我らの豊穣の女神は銀の髪、紫の瞳であられる。
俺でさえ初めて見た時は姫神降臨と思った、こうあって欲しいと願う美しさであられたからな。この姫神は砂漠地域に連なる国々で信仰されている、特にサルシュ大公国の宗派では最高位の神である。
我らの国は厳しい環境地域が多い、心のよりどころが必要なんだよ。
その姿を見てしまえば欲しいと思う者もいるだろう。」
ロナウドの言葉にウィリアムの目は貴殿はどうだ、と聞いてくる。
「正直に言うと欲しいと思う、手に入るなら何でもするだろう、だが無理だというのも知っている。」
我が国は砂漠の小国に過ぎなかった、マクレンジー帝国との取引によって岩塩地域の制圧、次々と近隣国を吸収することによって砂漠を統一して広大な領土となった。
砂漠で接するマクレンジー帝国トーバ領は塩と砂糖の供給を中心として、海にある港よりも天候に左右されない内陸にあるヤムズ大河の港として大きく繁栄している魅力的な地域だ。我が軍ならば砂漠を走破して急襲することで一時的に手に入れられるが、奪還にくるマクレンジー本軍には歯が立たない、これが実状だとロナウドは思う。
わずか数年でこの極東砂漠地域を統一したのだ、天の采配のある王なのだろう。信用できるわけではないが信頼すべきであろう、とウィリアムは結論づけた、敵に廻すべきでない。
「この呪符には相手の心を操るための呪文が書かれている。すでにご存じのようだが過激な宗派で使われているようだ、効果の真偽はわからない。
皇妃を改宗させようとしたのだろう、自分から帝国をでるように。」
マクレンジー帝国相手では奪い取れない、とロナウドは続けた。
まったくだ、とウィリアムはこの呪符を見つけた時を思い出した。
リヒトール陛下はすぐに犯人捜しを命じ、部屋の温度が下がったと感じる程の怒りだったのに、皇妃自身は、
「バカバカしい」
と呪符を踏みつけたのだ。バンバンと何度も、我が皇妃様はすばらしすぎる。
あれで部屋の温度は戻った、リヒトール陛下が声をあげて笑っていた、けれど決して犯人は許しはしないが。
あの呪符は妃殿下のドレスの内側に縫い止めてあった。調べると他にも数着あり、納品の仕立屋に入り込んでいたようだった、既に始末したが。
呪符ごときでも、人の洗脳アイテムとして大勢の誘導に使われるとやっかいだ、それが宗教となると尚更である。
魅力的すぎる妃殿下であられる、しかも外見利用でわざとイメージを作っておられる。神聖な新興宗教でも創れるだろうが、中身は呪符とはいえ宗教札を踏むようなお人である。
「俺もサルシュ大公国はじゃまなんだよな、あっちは俺を嫌っているらしい、この国が欲しいそうだ。」
犯人はサルシュ大公国だと決めつけるような言い方だ、何を知っているとウィリアムが反応する前に、
「サルシュ大公は女神を近々後宮に入れると言ってるらしいぞ。」
後宮だと、ハーレムの一人にするだと、我が国の皇妃を。
「だがな、サルシュ大公ギルティオは欲張った男だが、それだけでは公言はできるまい、黒幕がいるだろう。」
ロナウド陛下が言う。
「噂があるのだよ、占い師が国政を握っていると。」
ウィリアムも宗教国家でありがちなと聞き始めたが、内容に耳を疑った。
「女神を復活させるために、女神によく似た女の生き血を生け贄にすると占い師が言ってるという話も聞く。
後宮にいれたい大公と生け贄にしたい占い師。」
額に汗が滲むのがわかる、絶対にリヒトール陛下の耳に入れたくないと思っても報告はせねばならないのだ。
サルシュ大公国から戻ってきた諜報員の報告では、深くは探れなかったが占い師はいるらしい。
そこで焚かれている香を持ち帰ってきたので、報告書と一緒にマクレンジー帝国に送ったところ、化学者と医者を引き連れた側近のポールが返書を持ってきた。
「香は植物の種で麻薬です、それで人心を掌握しているのでしょう。」
ポールの後を継いで、
「少しの煙で幻覚をみさせる中毒性の高い麻薬だと判明しましたが、今までに見たことのない植物のようです、生物学者にも確認しました。」
と嬉々として話す化学者。
見たことのない麻薬の性能に詳しいじゃないか、僅かな時間でどれだけ実験したんだ、と思っても口には出さない、人体実験に間違いないからだ。
リヒトールからの指示をポールがウィリアムに伝えた、
「サルシュ大公国は極東首長国にやれ、麻薬植物の生息地帯を手にいれろ。」
もちろん主犯の首をとったうえでの話である、側近二人を投入するほどのリヒトールの怒りが伝わる。
宗教という隠れ蓑を被った狂人である、遠い地のことなら関係なかった。マクレンジー帝国の皇妃を狙った時点で距離は関係なく、叩き潰すものとなった。
リヒトール・マクレンジーは決して許さない。
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