お妃さま誕生物語

すみれ

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本編

ヒステン王国落ちる

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爆音が辺りを震わせた。


外を振り向くこともなく、リヒトール・マクレンジーは言った。
「勝ったな。」

「あの音だ、無傷ではあるまい。誰かを迎えにいかせろ。」
リヒトールの言葉が終わる前に駆けだすものが数人。

リヒトールの歩みは止まらない、諜報の者から、王の居場所を突き止めたと連絡があった。
周りの騒音に隠れることなく、響く足音、リヒトールと配下の集団が通り過ぎる。

王の居住区らしく警備も厳重になってくるが、足を止めさせるものにはならない。誰もが無言だが、役割を分かっている。今、時間を無駄にはできないのだ、時間がかかればかかるほど、損失が増える、それは味方の命だ。


側女の一人の部屋だったか、豪奢ごうしゃな扉の中は静まり返っている、外の騒ぎがわかるだろうに隠れているらしい、王ともあろうものが。
ケインズとダーレンが扉を蹴り上げる、鍵がかかっているみたいだが何度か繰り返すうちに扉自体が壊れた。先払いにポールとシュバルツが飛び込む。
部屋の静寂に緊張する、この部屋のどこかにいるはずだ。
隠れる場所は限られている、ケインズが寝所のベッドをたたき切る。
「ひいいい!!」
ベッドの下から抱き合って震えている男女が引きずり出された、これが王かとなげきたくなる。

リヒトールが王の前に立って最終宣告をくだす、
「マクレンジー商会を弾圧する予定であったとか、例え商会を手に入れても、貴様じゃ手に負えなかっただろうな、すぐに倒産だ。残念だったね。」
「マクレンジー商会はずっと優遇してきた、助けてくれ。」
王が涙と鼻水を垂らして震えながら懇願する。

「昨日私は、ヒステン王国のマクレンジー商会はなくなる、と言ったよね。
ヒステン王国がなくなるからであって、マクレンジー商会がなくなるわけじゃないんだよ。」
リヒトールが楽しそうに笑った。

だが、王がその笑顔を見ることはかなわなかった。
一刀のもとに、リヒトールが王の首を刎ねたからだ。

ゴロンと首が転がる、ヒステン王国陥落の瞬間だった、側近を含め周りの配下がリヒトールに膝を折る。

マクレンジー帝国初代皇帝リヒトール・マクレンジーが誕生した。


「その女も始末しろ、王の子をはらんでるかもしれん。」
「はっ。」
返す刃でダーレンが側女の首を切り落とした。


「謁見の間に行く、他の王族も連れてこい、首だけでもいいぞ。」
5人の側近以外が散らばって駆けて行く。

王打ち取りたりの報は、宮殿内をかけぬけた。歓声があがり、投降の声が叫ばれる。

後は隠れている王族を集めて始末するだけだ。

喧騒の中に悲鳴はかき消された。
謁見の間は血の海となっていた、王妃も寵妃も王族は全てその場で処刑された。
昨日、リヒトールに抱きつこうとした第2王女もだ。
「うそでしょ。リヒトール様、私は貴方の」言葉をいいきることもなく、側近の刃に倒れた。
妊婦の妃も、幼児の王族も全てである、後宮にいた王族でない女も処分とされた、妊娠の可能性のあるもの全てだ。
ただ、セルジオ王国に留学中の第3王子だけはどうしようもなかった。

リヒトールは玉座に座り全てを見ていた。
「御苦労であった、大変な役をやらせたね。私よりいい腕だから、痛みを感じる間もなくいけたろう。」
痛みを感じなくとも恐怖の対象であったろうに、側近を労うリヒトールはやはり悪魔だった。

「外はどうなっている?」
「各自が収拾作業にはいっています。マクレンジー隊はこれより、国軍となります。」



王宮では後宮が救護棟となり、負傷兵が運び込まれ、マクレンジー商会から医師や救護班が派遣された。
充分な薬と器具が運び込まれることになっている。

ヒステン軍の惨状はひどいものだったが、従来の軍の宿舎が救護棟にあてられ、マクレンジー商会の医師を含め、国の医師や侍女達が看護にあたった。生きて動ける者はそのままマクレンジー帝国に属することとなる。



長い夜が明けてきた、朝日が昇る。
血まみれの王宮に陽があたる。
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