お妃さま誕生物語

すみれ

文字の大きさ
上 下
28 / 96
本編

ヒステン王国落ちる

しおりを挟む
爆音が辺りを震わせた。


外を振り向くこともなく、リヒトール・マクレンジーは言った。
「勝ったな。」

「あの音だ、無傷ではあるまい。誰かを迎えにいかせろ。」
リヒトールの言葉が終わる前に駆けだすものが数人。

リヒトールの歩みは止まらない、諜報の者から、王の居場所を突き止めたと連絡があった。
周りの騒音に隠れることなく、響く足音、リヒトールと配下の集団が通り過ぎる。

王の居住区らしく警備も厳重になってくるが、足を止めさせるものにはならない。誰もが無言だが、役割を分かっている。今、時間を無駄にはできないのだ、時間がかかればかかるほど、損失が増える、それは味方の命だ。


側女の一人の部屋だったか、豪奢ごうしゃな扉の中は静まり返っている、外の騒ぎがわかるだろうに隠れているらしい、王ともあろうものが。
ケインズとダーレンが扉を蹴り上げる、鍵がかかっているみたいだが何度か繰り返すうちに扉自体が壊れた。先払いにポールとシュバルツが飛び込む。
部屋の静寂に緊張する、この部屋のどこかにいるはずだ。
隠れる場所は限られている、ケインズが寝所のベッドをたたき切る。
「ひいいい!!」
ベッドの下から抱き合って震えている男女が引きずり出された、これが王かとなげきたくなる。

リヒトールが王の前に立って最終宣告をくだす、
「マクレンジー商会を弾圧する予定であったとか、例え商会を手に入れても、貴様じゃ手に負えなかっただろうな、すぐに倒産だ。残念だったね。」
「マクレンジー商会はずっと優遇してきた、助けてくれ。」
王が涙と鼻水を垂らして震えながら懇願する。

「昨日私は、ヒステン王国のマクレンジー商会はなくなる、と言ったよね。
ヒステン王国がなくなるからであって、マクレンジー商会がなくなるわけじゃないんだよ。」
リヒトールが楽しそうに笑った。

だが、王がその笑顔を見ることはかなわなかった。
一刀のもとに、リヒトールが王の首を刎ねたからだ。

ゴロンと首が転がる、ヒステン王国陥落の瞬間だった、側近を含め周りの配下がリヒトールに膝を折る。

マクレンジー帝国初代皇帝リヒトール・マクレンジーが誕生した。


「その女も始末しろ、王の子をはらんでるかもしれん。」
「はっ。」
返す刃でダーレンが側女の首を切り落とした。


「謁見の間に行く、他の王族も連れてこい、首だけでもいいぞ。」
5人の側近以外が散らばって駆けて行く。

王打ち取りたりの報は、宮殿内をかけぬけた。歓声があがり、投降の声が叫ばれる。

後は隠れている王族を集めて始末するだけだ。

喧騒の中に悲鳴はかき消された。
謁見の間は血の海となっていた、王妃も寵妃も王族は全てその場で処刑された。
昨日、リヒトールに抱きつこうとした第2王女もだ。
「うそでしょ。リヒトール様、私は貴方の」言葉をいいきることもなく、側近の刃に倒れた。
妊婦の妃も、幼児の王族も全てである、後宮にいた王族でない女も処分とされた、妊娠の可能性のあるもの全てだ。
ただ、セルジオ王国に留学中の第3王子だけはどうしようもなかった。

リヒトールは玉座に座り全てを見ていた。
「御苦労であった、大変な役をやらせたね。私よりいい腕だから、痛みを感じる間もなくいけたろう。」
痛みを感じなくとも恐怖の対象であったろうに、側近を労うリヒトールはやはり悪魔だった。

「外はどうなっている?」
「各自が収拾作業にはいっています。マクレンジー隊はこれより、国軍となります。」



王宮では後宮が救護棟となり、負傷兵が運び込まれ、マクレンジー商会から医師や救護班が派遣された。
充分な薬と器具が運び込まれることになっている。

ヒステン軍の惨状はひどいものだったが、従来の軍の宿舎が救護棟にあてられ、マクレンジー商会の医師を含め、国の医師や侍女達が看護にあたった。生きて動ける者はそのままマクレンジー帝国に属することとなる。



長い夜が明けてきた、朝日が昇る。
血まみれの王宮に陽があたる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。

yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~) パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。 この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。 しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。 もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。 「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。 「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」 そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。 竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。 後半、シリアス風味のハピエン。 3章からルート分岐します。 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。 表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。 https://waifulabs.com/

大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです

古堂すいう
恋愛
祖父から溺愛され我儘に育った公爵令嬢セレーネは、婚約者である皇子から衆目の中、突如婚約破棄を言い渡される。 皇子の横にはセレーネが嫌う男爵令嬢の姿があった。 他人から冷たい視線を浴びたことなどないセレーネに戸惑うばかり、そんな彼女に所有財産没収の命が下されようとしたその時。 救いの手を差し伸べたのは神官長──エルゲンだった。 セレーネは、エルゲンと婚姻を結んだ当初「穏やかで誰にでも微笑むつまらない人」だという印象をもっていたけれど、共に生活する内に徐々に彼の人柄に惹かれていく。 だけれど彼には想い人が出来てしまったようで──…。 「今度はわたくしが恩を返すべきなんですわ!」 今まで自分のことばかりだったセレーネは、初めて人のために何かしたいと思い立ち、大好きな旦那様のために奮闘するのだが──…。

お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。 私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。 やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。 そう自由……自由になるはずだったのに…… ※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です ※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません ※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります

ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?

望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。 ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。 転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを―― そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。 その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。 ――そして、セイフィーラは見てしまった。 目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を―― ※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。 ※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)

処理中です...