私と黄金竜の国

すみれ

文字の大きさ
上 下
35 / 49

ブドウ畑のある町

しおりを挟む
結局、男達と町のブドウ畑を見に行く事になったアレクセイは、シンシアが心配でならない。
自分がいない間に男達が忍んで来るのではないかと不安にかられる。

家には厳重に魔法で防御をかけた。黄金竜の魔力を破れるものなど、たくさんはいない。しかもアレクセイはその中でも魔力が秀でている。それでもシンシアに関しては不安がつのる。
父が母のことを心配するのがわかる、父はもっと顕著であるが、と思うと我ながら笑えてくる。
父は番である母に会うまで3000年かかった、父の行動は当たり前の結果だと理解できる。


ブドウの立ち枯れは思っていたよりも被害が大きかった。
もっと早く手を打たなかったのか、と思うばかりだ。
「領主様が薬をいてくださったが、ダメだったんだよ。」
「薬?
これは何の病気かわかっているのか?」
「イヤ、それはわからないが薬代も払ったし。」
領民の畑を守るのに金を取ったのか、ブドウが枯れても税金もとるだろうに、アレクセイは呆れてしまった。ここの税金は他地方より高いのだ。
強欲な男ほど女が好きな事が多い、アレクセイはイヤな予感に、絶対にここの領主にシンシアを見せてはならないと思うばかりだ。

「これは根腐れ病だと思うぞ、葉に薬をかけるより根っこだ。
ほっとけばどんどん広がる伝染病だ、すみの灰はあるか?」
「あるが、どうするんだ?」
「炭の灰のアルカリで土のペーハーを変える。」
言ってるアレクセイも農民達が理解できるとは思っていない。これはマリコの記憶から得た知識だ、この世界ではない。
「ともかく、炭の灰を立ち枯れしている木のそばで、まだ生きている木の根の周りに撒くんだ。」
ほら早く用意しろ、と男達を追い払うと、アレクセイは後ろを振り向いた。

「そこにいる奴出て来い。」
「ほお、俺の魔法を破るとは大した奴だな。
お前が町で噂の色男か。」
出て来たのは鬼族の男だろうか、大柄な体で異質な空気を生んでいる。
これが領主の一族か、獣人の農民達が立ちうちできるはずもないな、と納得する。

だが、小物だ、相手の力量も解らないとは。アレクセイは魔力のほとんどを隠している、その気配もわからないらしい。
「悪い事は言わん、連れの女を差し出せ。町を歩く姿を見た、天女かと思うほど美しかった。」
ぬけぬけとシンシアを差し出せという男。

ニヤリとアレクセイが笑う。
「バカか、アレは私の家族だ。」
アレクセイが自分を言うのが僕から私に変わっている、アレクセイも大人になったのだ。

その時になって男はアレクセイがかもし出す気配に気づく。
アレクセイの美貌に潜む影が現れると、男は目を見張った。
「お前は誰だ。」
「鬼風情に名乗る言われはない。」
アレクセイが指を動かすと、鬼が一瞬で縦に斬れ炎も上がらずに燃えた。

先程の3人の男達も炭の灰を持って戻って来た。
「そこにも灰が出来ているから一緒に撒いてくれ。」
アレクセイの指示に抵抗もなく従う男達、そこは鬼がいた場所だったが灰の塊があるだけだ。

アレクセイは立ち枯れした木を魔力で燃やし、領主の館に向かった。
破壊竜の気持ちがわかるな、怒りでどうにかなりそうだ、一瞬で全てを燃やしてしまいたい。
シンシアを差し出せ、だと。

領主の館は火の手があがると、あっという間に館全てを包み、誰も逃げきれなかった。
町の噂になるだろうが、それもいつかは忘れられる。



アレクセイは家が見えてくると、まず魔力でかけた防御のチェックをする、自分のいない間に誰か来てはいないか、無理やり入ろうとした賊はいないか。
家の防御はどこもほころびもなく、リビングのソファで寝ていたシンシアがアレクセイが帰って来た事に気が付いたようだ。
嬉しそうに起き上がり、アレクセイに駆けよって来るのを見ると心の中の怒りが静まっていくのがわかる。
「いい子にしていたようだね。」
「もちろんよ、お腹すいてない?
ローストポークを作ってあるの。」
「それは美味しそうだね。」
ウフフ、と笑うシンシアは美しい。きっとこれからも油断できないだろう。

「いい香りだ。」
「でしょ!席に座って待ってて、すぐにお皿を用意するから。」
シンシアがキッチンに向かうのを見送りながらアレクセイはつぶやく。
シンシア、君以上にいい香りはないよ、甘い香りは繁殖期の証だ。


シンシアは一カ月経っても繁殖期は終わらなかったが、魔力は安定している。
母親のマリコと同じように繁殖期が続くのだろう。
竜と人間のハーフのシンシアは人間の血が濃いのかもしれない、アレクセイは間違いなく竜の血が濃い。

「そろそろ出発しようか。」
アレクセイがシンシアを抱き上げ馬の背に乗せると自分はその後ろに乗り手綱を持った。
次に戻ってくる時はブドウの収穫シーズンになるはずだ。
ジョシュアと関脇を呼んで手伝わそう、きっと喜んで来るだろう。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

人質姫と忘れんぼ王子

雪野 結莉
恋愛
何故か、同じ親から生まれた姉妹のはずなのに、第二王女の私は冷遇され、第一王女のお姉様ばかりが可愛がられる。 やりたいことすらやらせてもらえず、諦めた人生を送っていたが、戦争に負けてお金の為に私は売られることとなった。 お姉様は悠々と今まで通りの生活を送るのに…。 初めて投稿します。 書きたいシーンがあり、そのために書き始めました。 初めての投稿のため、何度も改稿するかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。 小説家になろう様にも掲載しております。 読んでくださった方が、表紙を作ってくださいました。 新○文庫風に作ったそうです。 気に入っています(╹◡╹)

『えっ! 私が貴方の番?! そんなの無理ですっ! 私、動物アレルギーなんですっ!』

伊織愁
恋愛
 人族であるリジィーは、幼い頃、狼獣人の国であるシェラン国へ両親に連れられて来た。 家が没落したため、リジィーを育てられなくなった両親は、泣いてすがるリジィーを修道院へ預ける事にしたのだ。  実は動物アレルギーのあるリジィ―には、シェラン国で暮らす事が日に日に辛くなって来ていた。 子供だった頃とは違い、成人すれば自由に国を出ていける。 15になり成人を迎える年、リジィーはシェラン国から出ていく事を決心する。 しかし、シェラン国から出ていく矢先に事件に巻き込まれ、シェラン国の近衛騎士に助けられる。  二人が出会った瞬間、頭上から光の粒が降り注ぎ、番の刻印が刻まれた。 狼獣人の近衛騎士に『私の番っ』と熱い眼差しを受け、リジィ―は内心で叫んだ。 『私、動物アレルギーなんですけどっ! そんなのありーっ?!』

ただの新米騎士なのに、竜王陛下から妃として所望されています

柳葉うら
恋愛
北の砦で新米騎士をしているウェンディの相棒は美しい雄の黒竜のオブシディアン。 領主のアデルバートから譲り受けたその竜はウェンディを主人として認めておらず、背中に乗せてくれない。 しかしある日、砦に現れた刺客からオブシディアンを守ったウェンディは、武器に使われていた毒で生死を彷徨う。 幸にも目覚めたウェンディの前に現れたのは――竜王を名乗る美丈夫だった。 「命をかけ、勇気を振り絞って助けてくれたあなたを妃として迎える」 「お、畏れ多いので結構です!」 「それではあなたの忠実なしもべとして仕えよう」 「もっと重い提案がきた?!」 果たしてウェンディは竜王の求婚を断れるだろうか(※断れません。溺愛されて押されます)。 さくっとお読みいただけますと嬉しいです。

【完結】神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。 神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。 追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。 居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。 小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

大好きだけど、結婚はできません!〜強面彼氏に強引に溺愛されて、困っています〜

楠結衣
恋愛
冷たい川に落ちてしまったリス獣人のミーナは、薄れゆく意識の中、水中を飛ぶような速さで泳いできた一人の青年に助け出される。 ミーナを助けてくれた鍛冶屋のリュークは、鋭く睨むワイルドな人で。思わず身をすくませたけど、見た目と違って優しいリュークに次第に心惹かれていく。 さらに結婚を前提の告白をされてしまうのだけど、リュークの夢は故郷で鍛冶屋をひらくことだと告げられて。 (リュークのことは好きだけど、彼が住むのは北にある氷の国。寒すぎると冬眠してしまう私には無理!) と断ったのに、なぜか諦めないリュークと期限付きでお試しの恋人に?! 「泊まっていい?」 「今日、泊まってけ」 「俺の故郷で結婚してほしい!」 あまく溺愛してくるリュークに、ミーナの好きの気持ちは加速していく。 やっぱり、氷の国に一緒に行きたい!寒さに慣れると決意したミーナはある行動に出る……。 ミーナの一途な想いの行方は?二人の恋の結末は?! 健気でかわいいリス獣人と、見た目が怖いのに甘々なペンギン獣人の恋物語。 一途で溺愛なハッピーエンドストーリーです。 *小説家になろう様でも掲載しています

処理中です...