私と黄金竜の国

すみれ

文字の大きさ
32 / 49

関脇の対決

しおりを挟む
女性の竜が重職に就くことはほとんどない。
繁殖期には番の雄竜によって、1ヶ月軟禁されることもあり、その間、休める職場となると限られてくる。
番が見つかるまで働くというのがほとんどである。
番に夢見てまじめで清楚な竜も多くいるが、番が見つかると拘束されるから、番が見つかるまで楽しい恋愛というのが雌竜には少なくない。

過去ギルバートに後宮があったように、雄竜も番が見つかるまでの遊びと割りきっているものも多い。


番のいない竜の中で特に見目麗しいのは、アレクセイとジョシュアである。
竜にとっては100歳ぐらいで成体となるが、二人は人間の血が入っているせいで成長が早く、すでに成体となっている。
番のいない雌竜達が狙わないはずがなく、二人は番を探す年齢にはまだ遠いということで人気が高い。

アレクセイはシンシアというガードが張り付いていたが、ジョシュアはフリーである。
アレクセイが影のある美貌に対し、ジョシュアは万人受けする好青年タイプだ。


「ジョシュア様、こちらに届いた書簡を置いておきます。」
侍女が書簡を置いても立ち去ろうとしない。
「何か?」
「他にご用事はありませんか?」
侍女の魂胆はみえみえである、それにひっかかるようなジョシュアでない。

「明日のおやつはババロアがいいと、厨房に伝えてくれ。結果の報告はいらない。
今日はもうこの部屋に来なくていい。
お茶も自分達でするから。」
指示を出したのは関脇だ、侍女を追い出しにかかっている。

関脇はプリプリと機嫌の悪さを全面に出してジョシュアにへばりついた。大柄なジョシュアに大きな艶々テカテカのダンゴムシがくっついているようだ。

侍女が出て行った後にジョシュアが関脇の頭をなでる。
「バカだね、あんなのにひっかからないよ。
一人になると思ったのかい。」
関脇が寂しがり屋なのはわかっているジョシュアは関脇を抱き締めた。長い時間を一人で過ごして手にいれた家族なのだ、関脇が固執するのもわかる。




はるか昔、石の卵から孵化したのは谷の中、周りには誰もいなかった。
親竜は、石の卵を棄てたようだった。竜の卵は親が温めなくとも孵化できる。
関脇にとって、昔の自分は何を食べていたのかも覚えていない。

ガリガリの体は常に飢えていた。
黒い髪は延び放題、今のように艶などなく、川で水浴びをするのが精一杯だった。
近寄らなくても解るほどの尋常でない魔力はさらに人を遠ざけた。名もなく、呼んでくれる人もいなかった。
だから、少し優しくされると直ぐ好きになった、かまって欲しくて望みは何でも魔力で叶えた。

そしていつも裏切られた記憶。



「大丈夫だよ、関脇。
僕はずっと側にいるから、どんな関脇も大好きだよ。」
ジョシュアもシンシアも王家の歴史の中で石の卵から生まれた破壊竜の事は習った。
だが、それだけだ、関脇が話した事以外はわからない。
わかるのは、関脇が何かにおびえていて寂しがりということだけ。

「兄上、大好き。」
「僕もだよ、関脇。」
妹のシンシアは兄のアレクセイにべったりだったので、ジョシュアにとっても関脇は特別に可愛い。
痩せる為の魔法をつかわないトレーニングも不満を言うこともなく頑張っている、褒美をあげようと思っていたところだ。
「ずいぶん痩せたね、そろそろ飛ぶ訓練を始めようか?
魔法の力でなく、自分の力で飛べるようになったら一緒に郊外に出かけよう。
魔法で身体を浮かせるのではなく、自分の翼で風をきるのは気持ちいいぞ。」
関脇の頭をグリグリなでながら、ジョシュアが笑う。
「母上に料理を教えてもらって、俺、ランチボックスを作る!」
「関脇の弁当か、楽しみだな。」



ジョシュアは宰相補佐官として宰相の元で執務を勉強中である、アレクセイの代になれば宰相か大臣として支える為でもある。そのあいまに関脇の訓練を見ているのだ。

執務室に女性の声が響いている、ジョシュア目当ての女官達が集まっているらしい。
「ジョシュア様、後で部屋に来てくださいまし。」
随分堂々と誘う女官もいるもんだ、とジョシュアは思っているが、それに他の女官も負けてはいない。
「あら、貴女ご自分のお顔を見て言いなさいよ。」
そう言った女官はふくよかな胸を押しつけて来る。
アレクセイなら、冷やかにイヤミの一つでも言って追い払うのだろうが、ジョシュアにはそれが出来ない。
穏やかに引き取ってもらおうと思うから、余計に女官達が図々しくなる。

「うわーーん!!」
突然響くのは関脇の鳴き声である、どうやらジョシュアにお昼ご飯を運んで来たらしい。

ドン!と体当たりで関脇が泣きながらジョシュアに抱きつく。
「兄上は僕のだ!」
破壊竜は欲しい者を手に入れる為に、業火ごうかではなく泣き落としを覚えたらしい。
女官達も子供を泣かせて居ずらい、直ぐにいなくなった。

「関脇、ありがとう助かったよ。」
ジョシュアがそう言うと関脇がヒクヒク泣きながら顔をあげた。
どうやらシンシアのように、わかってやっている訳ではないらしい。

「兄上~~~!」
しがみつく関脇は可愛い、ジョシュアは苦笑いをするばかりである。
「お昼を持って来てくれたんだね、一緒に食べよう。」
うんうん、と頭を盾に振って関脇が運んできたワゴンに向かう。まだ、涙が止まらないらしく泣き声で料理の説明をしだした。

「一緒に食べると更に美味しいね。」
ジョシュアの言葉に関脇が自慢したいのだろう。
「俺も作るの手伝ったんだぜ。」
「だから美味しいんだね。」
昔は破壊竜と呼ばれたが、今は泣き虫の末っ子である。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

処理中です...