私と黄金竜の国

すみれ

文字の大きさ
上 下
28 / 49

失恋竜の恋煩い

しおりを挟む
「キティって優しいよな。」
関脇が走りながら言う。
横を走っているジョシュアは、またかと思うしかない。

昨日は侍女のエメルダだった、一昨日は侍女のサリーだ。
こいつは天性の女好きらしいが、それでやる気がでるならと放置している。

女達も関脇のボッテリした幼児の身体が可愛いらしく、オヤツで餌付けしている。
確かに、肉で埋もれた小さな目はクリクリで可愛い。

「キティも番がいるぞ。」
「そっか。」
明らかにガックリした関脇が声を落とす。
どうせ明日になれば、違う女の名前が出てくる。
このバイタリティーには驚くばかりだ。
「ほら、もう少し走れば休憩だ。」
「はい、兄上。」
凄い汗を吹き出しながら関脇が応える。


「ジョシュア様、関脇様、こちらに冷たい物を置いておきます。」
休憩に入ると、侍女が飲み物を用意していた。
「優しい人だ。」
侍女に目を輝かせているのは関脇だ。

「兄上、あの人の名前はなんと言うのですか!」
「まず水分を取ってからだ。彼女はあまりいい噂を聞かないから止めた方がいい。」
「どのような?」
「男性遍歴だな。」
「美しい人ですから、仕方ないです。」
父上は母上限定のフィルターだが、こいつの点のような目には女性全部に美化フィルターがかかるらしい。
見ているとおもしろい、母上は猿山のボスのようなものらしく、シンシアは美しすぎて、父上と兄上は怖いらしい。


「少し痩せたわね、頑張って偉いわ。」
シンシアの言葉に顔が真っ赤だ。
「はい、もっと痩せるように僕頑張ります。」
シンシアには僕と言う、母上には俺だ、こいつの態度は分かり易い。

「今度、竜の姿も見せてね。」
「はい!!」
じゃあね、と去っていくシンシアをいつまでも見ている。
口にださなくとも、美しい姉上、と言葉がでている。

こいつはこの世で唯一の黒銀竜、黒い鱗は光を浴びると銀色に輝く。
石の卵で生まれ、異種と取り扱われたに違いないのだ。
古い竜だという、長い時を卵の中で眠っていたと言っていた。
兄上のように記憶を持って生まれるのではなく、本人が卵に戻るらしい。

父上は2000年以上、ただ一人の黄金竜として過ごしたが、周りには宰相を始め、たくさんの竜がいた。
こいつは一人だ、もっと長い年月を一人だ。

あわれだな、と思ったのは一瞬だ、こいつも規格外だった。


明日は兄上とシンシアが旅に戻るので、家族が集まった。

関脇はまだ飛べないので付いていけない。
僕が関脇を鍛えて兄上とシンシアが戻ってきたら交替に旅立つ事になった。
その時に関脇を連れて行くかはその時に考えようと思っている。

「見て、見て、関脇ずいぶん痩せたでしょ。頑張ったんだから。」
母が皆に関脇を見せびらかしている。

兄上が、最初はモンスター級で今は横綱級だ、関脇までは遠いと言っていた。
分からないでいると、シンシアと僕にイメージで見せてくれた。
身体のサイズの例えらしい。

ピチピチに張りきった服で皆に一回転して見せる幼児は確かに可愛い。
「俺、もういいかな?」

「何言っているの、今度、会うまでにもっと痩せるの見せなくっちゃ。」
こそこそと母上が関脇に身を寄せてささやいている。
「自分でお尻が拭けるように頑張るのよ。」

飲みかけのお茶を吹き出したのは父上と兄上だ、むせている。
関脇の顔はこれ以上ないぐらい真っ赤で、気づいてないのは張本人の母上だけだ。
母上がこっそり言ったつもりでも、竜の耳はいいのだ、全部聞こえている。
関脇の幼児の短い手では、太い身体に手が届かないんだろう、可哀そうに暴露ばくろされてしまった。

「魔法があるから大丈夫よ。」
さらにむち打ったのはシンシアだ、女は怖い。
兄上がシンシアの口を押さえた、正解だな、男はデリケートなんだ、聞こえない振りぐらいしてやれよ。

「ほらほら、おいで。」
呼ぶと泣きながら関脇が走って来た、ドスドス音がしそうだ。
「兄上ーー!」
しがみ付いて泣いている、可哀そうに。


翌朝、旅立つ兄上とシンシアを関脇と見送りに行った。
「関脇、お母様の事は気にしないで頑張ってね。」
シンシアが関脇の手を握って言うと、関脇は真っ赤になってウンウンうなづいている。

昨日はそのシンシアに地獄に落とされただろうが、もう復活したのか、凄いな関脇。
兄上がシンシアを抱き上げて関脇から離した。
まるで、父上と母上を見ているようだ。

「兄上お気をつけて。」
そう言うと、
「ジョシュア、お前だけがこの家族でまともな感性をしている、頼んだぞ。」
兄上自覚していたんですね。

横では二人に一生懸命手を振っている幼児。

類まれな姿と力を持っていても失恋を繰り返しているんじゃ、卵にこもりたくなるよな。
こいつは繁殖の必要のない竜、番はいないのかもしれない。
いつか、番でなくとも恋心がかなうといいな、と思うよ。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ただの新米騎士なのに、竜王陛下から妃として所望されています

柳葉うら
恋愛
北の砦で新米騎士をしているウェンディの相棒は美しい雄の黒竜のオブシディアン。 領主のアデルバートから譲り受けたその竜はウェンディを主人として認めておらず、背中に乗せてくれない。 しかしある日、砦に現れた刺客からオブシディアンを守ったウェンディは、武器に使われていた毒で生死を彷徨う。 幸にも目覚めたウェンディの前に現れたのは――竜王を名乗る美丈夫だった。 「命をかけ、勇気を振り絞って助けてくれたあなたを妃として迎える」 「お、畏れ多いので結構です!」 「それではあなたの忠実なしもべとして仕えよう」 「もっと重い提案がきた?!」 果たしてウェンディは竜王の求婚を断れるだろうか(※断れません。溺愛されて押されます)。 さくっとお読みいただけますと嬉しいです。

おいしいご飯をいただいたので~虐げられて育ったわたしですが魔法使いの番に選ばれ大切にされています~

通木遼平
恋愛
 この国には魔法使いと呼ばれる種族がいる。この世界にある魔力を糧に生きる彼らは魔力と魔法以外には基本的に無関心だが、特別な魔力を持つ人間が傍にいるとより強い力を得ることができるため、特に相性のいい相手を番として迎え共に暮らしていた。  家族から虐げられて育ったシルファはそんな魔法使いの番に選ばれたことで魔法使いルガディアークと穏やかでしあわせな日々を送っていた。ところがある日、二人の元に魔法使いと番の交流を目的とした夜会の招待状が届き……。 ※他のサイトにも掲載しています

『えっ! 私が貴方の番?! そんなの無理ですっ! 私、動物アレルギーなんですっ!』

伊織愁
恋愛
 人族であるリジィーは、幼い頃、狼獣人の国であるシェラン国へ両親に連れられて来た。 家が没落したため、リジィーを育てられなくなった両親は、泣いてすがるリジィーを修道院へ預ける事にしたのだ。  実は動物アレルギーのあるリジィ―には、シェラン国で暮らす事が日に日に辛くなって来ていた。 子供だった頃とは違い、成人すれば自由に国を出ていける。 15になり成人を迎える年、リジィーはシェラン国から出ていく事を決心する。 しかし、シェラン国から出ていく矢先に事件に巻き込まれ、シェラン国の近衛騎士に助けられる。  二人が出会った瞬間、頭上から光の粒が降り注ぎ、番の刻印が刻まれた。 狼獣人の近衛騎士に『私の番っ』と熱い眼差しを受け、リジィ―は内心で叫んだ。 『私、動物アレルギーなんですけどっ! そんなのありーっ?!』

竜人族の婿様は、今日も私を抱いてくれない

西尾六朗
恋愛
褐色の肌に白い角、銀の尻尾を持つ美貌の竜人マクマトは一族の若様だ。彼と結婚した公女フレイアは、新婚だというのに一緒にベッドにすら入ってくれないことに不安を抱いていた。「やっぱり他種族間の結婚は難しいのかしら…」今日も一人悶々とするが、落ち込んでばかりもいられない。ちゃんと夫婦なりたいと訴えると、原因は…「角」? 竜人と人間の文化の違いを楽しむ異種婚姻譚。 (※少量ですが夜の営みの話題を含んでいるます。過激な描写はありません) 【※他小説サイトでも同タイトルで公開中です】

番が見つけられなかったので諦めて婚約したら、番を見つけてしまった。←今ここ。

三谷朱花
恋愛
息が止まる。 フィオーレがその表現を理解したのは、今日が初めてだった。

断罪シーンを自分の夢だと思った悪役令嬢はヒロインに成り代わるべく画策する。

メカ喜楽直人
恋愛
さっきまでやってた18禁乙女ゲームの断罪シーンを夢に見てるっぽい? 「アルテシア・シンクレア公爵令嬢、私はお前との婚約を破棄する。このまま修道院に向かい、これまで自分がやってきた行いを深く考え、その罪を贖う一生を終えるがいい!」 冷たい床に顔を押し付けられた屈辱と、両肩を押さえつけられた痛み。 そして、ちらりと顔を上げれば金髪碧眼のザ王子様なキンキラ衣装を身に着けたイケメンが、聞き覚えのある名前を呼んで、婚約破棄を告げているところだった。 自分が夢の中で悪役令嬢になっていることに気が付いた私は、逆ハーに成功したらしい愛され系ヒロインに対抗して自分がヒロインポジを奪い取るべく行動を開始した。

私のことが大好きな守護竜様は、どうやら私をあきらめたらしい

鷹凪きら
恋愛
不本意だけど、竜族の男を拾った。 家の前に倒れていたので、本当に仕方なく。 そしたらなんと、わたしは前世からその人のつがいとやらで、生まれ変わる度に探されていたらしい。 いきなり連れて帰りたいなんて言われても、無理ですから。 そんなふうに優しくしたってダメですよ? ほんの少しだけ、心が揺らいだりなんて―― ……あれ? 本当に私をおいて、ひとりで帰ったんですか? ※タイトル変更しました。 旧題「家の前で倒れていた竜を拾ったら、わたしのつがいだと言いだしたので、全力で拒否してみた」

忌むべき番

藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」 メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。 彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。 ※ 8/4 誤字修正しました。 ※ なろうにも投稿しています。

処理中です...