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勝者マリコ
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アレクセイ達は予定を早めて旅だった。
アレクセイとシンシアは1年国内外を回った後、戻って来る。
ジョシュアはそのまま旅を続け、期間は未定。
3人は黄金竜だとすぐに身元がばれる為に人間の姿で旅をする。
「なんで、あんなにあっさり旅立っちゃうんだろう。
いっぱい手を振っているのに振り返りもしないのよ、誰一人!」
愚痴っているのはマリコ。
聞いているのは石の卵と鏡だ。
「うるさいわね、毎日同じことで。諦めなさいよ。」
どうしたって旅立つんだから一緒じゃない、と鏡が言う。
もちろん、最初にギルバートにも愚痴ったら、
「竜の習性だからね、寂しかったら私がいくらでも相手してあげるから、今日は執務を休もうかな。」
とまで言い出す始末。
ギルバートに愚痴るのは失敗と身をもって知ったので、相手は鏡と卵しかいなくなった。
鏡はマリコが来ても逃げる方法はない、ひたすら耐えて聞いている。
卵は返事もしないし、逃げもしない、マリコに撫でられ過ぎてピカピカになっている。
化石の卵は大理石の卵のようだ。
相変わらずアルバイトに行っているので、キティにも愚痴っている。
アルバイト先に石の卵を持って行った時は大騒ぎになった。
初めて見る石の卵ということで、何の卵だろう、と見物客も来たが、ギルバートが箝口令をする前に「マリコ様だからね。」で皆が納得した。
破壊竜や魅了の魔法などの伝説は王家の古い話なので、知っている者はほとんどいない。
「卵ずいぶんキレイになったね。」
キティはマリコが持ってきた卵に目を見張る。
「子供達も旅立ってヒマだからねー。磨きました!」
マリコが忙しい時はろくなことがない、常にヒマである。
そうなのだ、磨いたのには訳がある。
ヒマなマリコは卵に落書きをして遊んだのである。
破壊竜の卵にお花や星を描いて遊んだのだ。
ギルバートも気がついたのだが、止めずに笑っていた。
絵を消そうと磨いたのだが、完全には消えずにマーブル模様に残ってしまったのが、キレイな大理石みたいに見えるらしい。
「赤ちゃん、化石の時よりキレイになったって誉めてもらえたよ!」
マリコは返事のない卵に話しかける。
アレクセイもジョシュアもシンシアも話しかけたが、返事をしてきた卵はアレクセイだけだ。
アレクセイも返事はたまにしかなかったので、返事のないのには慣れている。
「ギルバートのお昼ご飯作るから待っていてね。」
と調理台の横の籠に入れる。
ジョシュアもシンシアもここに入れられていた定位置である。
「はい、味見。」
卵にチョンとスープを指でつけ、ついでにナデナデとしている。
カートの下の段に籠に入った卵、上の段に食事を乗せてマリコはギルバートの執務室に行く。
心の狭い雄竜は卵のおいてあるカートは部屋の角に追いやり、マリコと食事を始める。
子供達の時は魔力を与える必要があったが、石の卵には必要ない。
そんな毎日で3ヶ月を過ぎた頃、卵にヒビが入り始めた。
ギルバートの連絡でアレクセイ達が急遽戻って来た。
シンシアは相変わらずアレクセイにべったりだったが、ジョシュアは体格もがっしりしてきて、3ヶ月の旅でもずいぶん成長したようだった。
そしてとうとう卵が割れた。
中からはゴロンとした肥満体の幼児が出てきた。
プクプクのお腹にムチムチの手、ヨロヨロ動いている動作は鈍い。
破壊竜というより芋虫のようである。
マリコはパンパンの頬っぺを指でつついている。
「うわあ、可愛い!!」
真っ青になったのはギルバートである。
破壊竜は予想通り雄竜だったのだ、マリコに近づけたくないし、マリコの愛情は自分だけのものだ。
「おい、女。」
破壊竜がマリコに向かって言った途端、破壊竜の頬っぺをマリコが引っ張った。
「悪い口はこれですか!」
ギルバートもアレクセイ達もあっけにとられて見ているが、破壊竜が反撃してきたらと魔法の準備をしている。
「母親に向かってなんですか!」
「俺には母親なんていないぞ。」
「目の前にいるでしょ。関脇ちゃん。」
マリコによって名前がつけられた、しかも相撲取り。
緊張していたアレクセイが吹き出した。
一瞬のうちに世界を業火で包んだと言われる伝説の破壊竜が、横綱でも大関でもない格下扱い。
アレクセイはマリコから相撲の知識ももらっている、名前の意味がわかるのだ。
マリコは母親のつもりらしい、これは困った、引き離せないとギルバートは思っている。
しかも、関脇は口は悪いが邪心を感じない。
竜があんなに太るなどと信じられない、何を食べても飛ぶのに支障ないよう太らないように出来ているのだ。
「父上、ひとつ想像することがあるのですが。」
「私もだよ、関脇は卵の間、マリコの歌や話を無理やり吸収させられたな。」
洗脳もされているだろう、マリコに。
シンシアを見ても無反応なのは魅了も解けているだろう、と安心していると。
「うるせえな、ババア!」
ゴン!とマリコの拳骨が関脇の頭に落ちた。
キッとマリコが関脇を睨んでいる。
ヨロヨロと関脇が動いたが、マリコに恐れをなしているようだ。
「もう言いません。」
「それから!?」
「ごめんなさい、は、は、母上。」
「言えるじゃない!えらい、えらい!」
マリコが関脇の頭を撫でている。
「拳骨痛かったね、ごめんね。」
マリコが関脇のムチムチの手をとり、ギルバート、アレクセイ、ジョシュア、シンシア、を紹介する。
「えー、俺25000歳だぜ。」
「関脇!」
マリコの声に縮こまった関脇にジョシュアが近寄る。
「僕もよく母上に怒られたよ。」
「ジョシュア、関脇を鍛えて、痩せさせてもらえる?」
「痩せないと空を飛べないだろうね。」
呆れたようにジョシュアが答える。
「えー、俺。」
文句を言おうとした関脇にマリコが威圧的に名前を呼ぶ。
「関脇!」
「母上、ごめんなさい。兄上に教えてもらいます。」
角のない四角のようなムチムチの身体を小さくして、関脇が狼狽えて言う。
化石の卵が大理石の卵になったように、破壊竜は違う何かになったらしい。
「しばらく見ない間に悪い顔になっている。」
マリコに関脇と同じように頬っぺを引っ張られたのはアレクセイだ。
「やーい、兄上、俺と同じ。」
茶化したクセにアレクセイに睨まれるとジョシュアの影に隠れる関脇。
だが、太い身体はジョシュアからはみ出ている、それを見るとアレクセイも怒れないで笑っている。
シンシアも笑いながら魔法で冷やしたハンカチをアレクセイに差し出している。
「マリコ、私も!」
頬を出してくるギルバートは変だ、子供達が羨ましいらしい。
マリコに無視されて縋りついている。
竜王一家に子供が一人増えた。
アレクセイとシンシアは1年国内外を回った後、戻って来る。
ジョシュアはそのまま旅を続け、期間は未定。
3人は黄金竜だとすぐに身元がばれる為に人間の姿で旅をする。
「なんで、あんなにあっさり旅立っちゃうんだろう。
いっぱい手を振っているのに振り返りもしないのよ、誰一人!」
愚痴っているのはマリコ。
聞いているのは石の卵と鏡だ。
「うるさいわね、毎日同じことで。諦めなさいよ。」
どうしたって旅立つんだから一緒じゃない、と鏡が言う。
もちろん、最初にギルバートにも愚痴ったら、
「竜の習性だからね、寂しかったら私がいくらでも相手してあげるから、今日は執務を休もうかな。」
とまで言い出す始末。
ギルバートに愚痴るのは失敗と身をもって知ったので、相手は鏡と卵しかいなくなった。
鏡はマリコが来ても逃げる方法はない、ひたすら耐えて聞いている。
卵は返事もしないし、逃げもしない、マリコに撫でられ過ぎてピカピカになっている。
化石の卵は大理石の卵のようだ。
相変わらずアルバイトに行っているので、キティにも愚痴っている。
アルバイト先に石の卵を持って行った時は大騒ぎになった。
初めて見る石の卵ということで、何の卵だろう、と見物客も来たが、ギルバートが箝口令をする前に「マリコ様だからね。」で皆が納得した。
破壊竜や魅了の魔法などの伝説は王家の古い話なので、知っている者はほとんどいない。
「卵ずいぶんキレイになったね。」
キティはマリコが持ってきた卵に目を見張る。
「子供達も旅立ってヒマだからねー。磨きました!」
マリコが忙しい時はろくなことがない、常にヒマである。
そうなのだ、磨いたのには訳がある。
ヒマなマリコは卵に落書きをして遊んだのである。
破壊竜の卵にお花や星を描いて遊んだのだ。
ギルバートも気がついたのだが、止めずに笑っていた。
絵を消そうと磨いたのだが、完全には消えずにマーブル模様に残ってしまったのが、キレイな大理石みたいに見えるらしい。
「赤ちゃん、化石の時よりキレイになったって誉めてもらえたよ!」
マリコは返事のない卵に話しかける。
アレクセイもジョシュアもシンシアも話しかけたが、返事をしてきた卵はアレクセイだけだ。
アレクセイも返事はたまにしかなかったので、返事のないのには慣れている。
「ギルバートのお昼ご飯作るから待っていてね。」
と調理台の横の籠に入れる。
ジョシュアもシンシアもここに入れられていた定位置である。
「はい、味見。」
卵にチョンとスープを指でつけ、ついでにナデナデとしている。
カートの下の段に籠に入った卵、上の段に食事を乗せてマリコはギルバートの執務室に行く。
心の狭い雄竜は卵のおいてあるカートは部屋の角に追いやり、マリコと食事を始める。
子供達の時は魔力を与える必要があったが、石の卵には必要ない。
そんな毎日で3ヶ月を過ぎた頃、卵にヒビが入り始めた。
ギルバートの連絡でアレクセイ達が急遽戻って来た。
シンシアは相変わらずアレクセイにべったりだったが、ジョシュアは体格もがっしりしてきて、3ヶ月の旅でもずいぶん成長したようだった。
そしてとうとう卵が割れた。
中からはゴロンとした肥満体の幼児が出てきた。
プクプクのお腹にムチムチの手、ヨロヨロ動いている動作は鈍い。
破壊竜というより芋虫のようである。
マリコはパンパンの頬っぺを指でつついている。
「うわあ、可愛い!!」
真っ青になったのはギルバートである。
破壊竜は予想通り雄竜だったのだ、マリコに近づけたくないし、マリコの愛情は自分だけのものだ。
「おい、女。」
破壊竜がマリコに向かって言った途端、破壊竜の頬っぺをマリコが引っ張った。
「悪い口はこれですか!」
ギルバートもアレクセイ達もあっけにとられて見ているが、破壊竜が反撃してきたらと魔法の準備をしている。
「母親に向かってなんですか!」
「俺には母親なんていないぞ。」
「目の前にいるでしょ。関脇ちゃん。」
マリコによって名前がつけられた、しかも相撲取り。
緊張していたアレクセイが吹き出した。
一瞬のうちに世界を業火で包んだと言われる伝説の破壊竜が、横綱でも大関でもない格下扱い。
アレクセイはマリコから相撲の知識ももらっている、名前の意味がわかるのだ。
マリコは母親のつもりらしい、これは困った、引き離せないとギルバートは思っている。
しかも、関脇は口は悪いが邪心を感じない。
竜があんなに太るなどと信じられない、何を食べても飛ぶのに支障ないよう太らないように出来ているのだ。
「父上、ひとつ想像することがあるのですが。」
「私もだよ、関脇は卵の間、マリコの歌や話を無理やり吸収させられたな。」
洗脳もされているだろう、マリコに。
シンシアを見ても無反応なのは魅了も解けているだろう、と安心していると。
「うるせえな、ババア!」
ゴン!とマリコの拳骨が関脇の頭に落ちた。
キッとマリコが関脇を睨んでいる。
ヨロヨロと関脇が動いたが、マリコに恐れをなしているようだ。
「もう言いません。」
「それから!?」
「ごめんなさい、は、は、母上。」
「言えるじゃない!えらい、えらい!」
マリコが関脇の頭を撫でている。
「拳骨痛かったね、ごめんね。」
マリコが関脇のムチムチの手をとり、ギルバート、アレクセイ、ジョシュア、シンシア、を紹介する。
「えー、俺25000歳だぜ。」
「関脇!」
マリコの声に縮こまった関脇にジョシュアが近寄る。
「僕もよく母上に怒られたよ。」
「ジョシュア、関脇を鍛えて、痩せさせてもらえる?」
「痩せないと空を飛べないだろうね。」
呆れたようにジョシュアが答える。
「えー、俺。」
文句を言おうとした関脇にマリコが威圧的に名前を呼ぶ。
「関脇!」
「母上、ごめんなさい。兄上に教えてもらいます。」
角のない四角のようなムチムチの身体を小さくして、関脇が狼狽えて言う。
化石の卵が大理石の卵になったように、破壊竜は違う何かになったらしい。
「しばらく見ない間に悪い顔になっている。」
マリコに関脇と同じように頬っぺを引っ張られたのはアレクセイだ。
「やーい、兄上、俺と同じ。」
茶化したクセにアレクセイに睨まれるとジョシュアの影に隠れる関脇。
だが、太い身体はジョシュアからはみ出ている、それを見るとアレクセイも怒れないで笑っている。
シンシアも笑いながら魔法で冷やしたハンカチをアレクセイに差し出している。
「マリコ、私も!」
頬を出してくるギルバートは変だ、子供達が羨ましいらしい。
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