私と黄金竜の国

すみれ

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旅行は色づいている

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マリコは海辺のお祭りを選んだ。

この世界に来て15年、姿は来た時のままである。竜の逆鱗の威力は凄い。
祭りの中に紛れ込んでしまえば、町娘となんら変わらない。
町娘の祭り服でマリコのはしゃぎようは頂点である、それを見るギルバートも楽しくてしかたない。



「ギルバート、あそこのお菓子すごくいい香り、焼き立てだね。帰りに買ってね。」
浮かれて歩くマリコが、人込みに紛れないように手を繋いで歩くギルバートの機嫌はいい。
「買って持って帰ろう、他にはないのか?」

田舎町では竜王の姿を知らない者ばかりで、ギルバートとマリコが竜王と番だとは気付かれない。
二人で竜王と番とはバレナイように約束した。
「竜王とわかって、他の人が気を使うと楽しく無くなるわ。大きな魔法はあまり使わないでね。」
二人で手を繋ぎ人ごみの中を歩く、ただそれだけなのにギルバートには初めてのことで新鮮だった。
マリコは露店にすぐ向かって行く、ギルバートが引っぱられるばかりだ。
マリコのエネルギーが弾けて眩しい、なんて綺麗なんだ。

どうやら、海辺の町らしくこの辺りは魚人が多く住んでいて、祭りも海への奉納というものだった。
「あの看板、コンテストの受付ってある?何のだろう?」
「海の巫女を3人選ぶらしい、祭りのイベントの一つだな。」
海の巫女3人を海に奉納して海王に豊漁の願いをするというお祭りである。

「出て見ようかな。」
「ダメだ、マリコを他の男に見せるなんて。」
「今さらでしょ、こういうのって参加するとお土産くれるんだよ、きっと。
ね、ね、いいでしょ?」
何とかギルバートを説き伏せて、海の巫女コンテストに出場したマリコは海の巫女の一人に選ばれてしまった。

「やはり、マリコは魅力的だからな。」
マリコを誰にも見せたくないが、マリコの魅力を見せつけたい、矛盾する悩みにギルバートは苦悩していた。
他の緊張した娘より、マリコは表情豊かに笑っていて、ダントツに可愛かった、とギルバートは思い出す。

夜になると祭りはクライマックスになっていた。
マリコ達3人の海の巫女を乗せた小舟が海の渦潮の近くまで他の船にけん引されて行く。
3人が渦潮に向かい海の豊漁のお礼を言って、船が潮に乗ると浜辺まで押し戻される魔法がかけてある、というものである。
マリコも覚えたばかりのみことのりを唱えている、魔法をかけられた小舟は3人の姿を幻想的に映し出している。

ギルバートも岸からその様子をうっとり見つめている。
町着であってもギルバートの美貌は近くにいる娘達の注目を集めているが、本人は全く気付いていない、マリコを見るのに夢中である。
ギルバートが心穏やかにマリコのコンテストを見ていられたのも、男性の接点がなかったからだ。
女性ばかりの巫女候補の中にマリコはいたし、会場の拍手の大きさで巫女を決めるというものであったので、ギルバートは1人で百人分はマリコに拍手した。
女王に決まってからは昨年の女王に花輪の冠を3人がそれぞれ被せてもらい、小舟まで誘導されるという、ギルバートの心乱す事はなく安心して見ていられた。
小舟の中にも海の巫女3人だけで楽しそうに話をしているのを見ると、コンテストに出させてやって良かった、いい思い出になるだろうと思っている。


「ええ、マリコちゃん結婚しているの?」
マリコちゃん、リラちゃん、ラーラちゃんといつの間にか名前呼びの仲になっている。
「結婚してたらダメだった?出場条件に未婚って書いてなかったから。」
「大丈夫よ、ただ若いからそういう風に見えなかっただけ。」
おだてに弱いマリコであった。
「わぁ、うれしいな。夫とお祭りを見に来たの。」
「もしかして、見慣れないイケメンがいると思ったんだけど、その人?」
「うんうん、イケメンで優しいの。とっても大事にしてくれるし。」
堂々とのろけるマリコである。
ギルバート本人には言えないが、いつも思っている。

急に海面が静かになり、波が無くなった、渦潮がなくなったのだ。
「なに!こんな事初めて!!」
マリコには分からないが二人の女王がビックリして抱き合っている。
岸辺でも観客が大騒ぎしている。
「渦潮が消えた!!」
「誰か光をだせ!」
夜の海面が魔法の光で照らしだされる、波はない、静けさに不気味さを感じる。

ギルバートは海の底から何かが猛スピードで近づいてくるのを感じていた。
それは渦潮の中心ではなく・・・小舟を狙っている!
「マリコ!!」
ギルバートが魔法をだすと同時に小舟が宙に浮いた。
「きゃああああ!!」

そこには巨大魚が海面を跳ねていた。

「すごく美味しそうな匂いがする。」
巨大魚が若い男に変化しながらマリコ達が乗っている小舟に向かって言う。

ギルバートがもの凄いスピードで小舟に飛び乗って来た。
「ギルバート。」
ギルバートは男に対峙しながらマリコを背にかくまう。

「これはビックリした。竜王がこんなところにいるとは。
300年以上経つか。」
男の言葉は、300年以上前のギルバートを知っていると言っている。
「たしか深い海の古い一族、魚人属の方と見受けられる。デンファ一族。」
「ヴィットリオ・デンファだ。」

「マ、マリコちゃん、い、いま、竜王って、って聞こえたけど。」
ラーラちゃんが震えながらマリコに聞いてきた。
びっくりする事が多すぎて動揺しているらしい。
「うん、旦那様のギルバート、職業は竜王。」
「ええええええ!!!!」
「しーーーーー!!!今、修羅場!!」
マリコが驚くリラとラーラの口を押さえる。

アハハハハ!!と大きな笑い声が響く。
「修羅場だと、お嬢ちゃん違うよ。
うちの一族の血の匂いがするんだ。この船から。」
リラの顔色が変わる。
「リラちゃん?」
「マリコ、このお嬢さんはデンファ一族の血が混じっているようだ。」
ギルバートが背中のマリコに説明する。
「デンファ一族って?」
「深海に住む海を取り仕切る一族だ、そして彼がデンファ属の長、王だ。」
深海の国ですって、なんてロマンチック、そしてここで求婚よ!

「リラというのか、かわいい名前だ。私の伴侶になってくれないか。」
マリコの想像どおりヴィットリオがリアの手を取る。
「お断りします。」
え、リラちゃん。

ギルバートは出会った頃の自分とマリコを見ているようだった。
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