私と黄金竜の国

すみれ

文字の大きさ
上 下
7 / 49

感動は誰のもの

しおりを挟む
結果を言うと、とても感動した、ギルバートが。

控え室でウェディングドレス姿を見たギルバートが泣き始めたのだ。
「こんなに綺麗になって。」
どこの父親だ!
「皆に見せたくないな、マリコはさらに綺麗になった。」
相変わらず腐った目をしている。

しかも泣きながらすがりついて来るので、ウェディングドレスに涙と鼻水が付きそうだ。
そんなもの付けられたら大迷惑だ、式はこれからだし、このドレスはとても気にっている。
長いトレーンのウェディングドレスは魔法がかっかっている。
レースと宝石でかなりの重量なのに重さを感じない、髪や胸元に飾られた花はさっき摘んだばかりのように瑞々しい。

私だってギルバートを見た時は感動したのだ。
ギルバートはイケメンだから、白い騎士服にマント、とんでもなくカッコイイ。
これが私の旦那様、キャッ、なんて思ったのに、早々に泣かれるとぶち壊しである。
「3000年待ったかいがあった!」
3000年は解っているから何度もシツコイ。



「父上。」
ハンカチを差し出す息子はよくできているが、ギルバートの子供の頃にそっくりだと聞いた。
この冷めた息子が、番にはダメ男になるかと思うと複雑である。
ただし、ギルバートの子供の頃は誰もまだ産まれていない、情報源はどこだろう?

「母上、お綺麗です。」
これで2歳、ありえない。
しかも空中浮遊しながら歩いてくる、魔力のない私への嫌みか。

「アレクセイ、本当に一緒に湖畔地方に行かないの?」
「父上と母上のお邪魔になるような事はしませんよ。」
ちがーう、母から離れて寂しくないのか!
「アレクセイと離れて寂しいのは私だけなの?」
「母上、もう大人なんだから大丈夫でしょ。」
泣き落とし失敗。
ギルバートはやたら張り切って、湖畔地方デートマップを作成してたし、我が身が危ない。

「母上、そろそろ時間です。父上先に行かないといけないのでは。」
「聖堂で待っているよ、気を付けておいで。」
ギルバートはイケメン仕様に戻ると出ていった。

「母上。」
「何?アレクセイ。」
「産んでくださり、ありがとうございます。
母上がいないと、父上の子供の僕は永遠に産まれないところでした。」
ギルバートがいなくなるまで待っていたのだろう、頬染めながら恥ずかしげに言う。
「ほらほら、泣かないで。花嫁姿が台無しになります。
とても綺麗なんですから。」
誰が泣かしてるんだ!
しかもすでにプレイボーイ。

「母上、お手をどうぞ。聖堂までご一緒しましょう。」
なんか変だけど、幼児と母親が手を繋いで歩く幸せな風景だ。




ステンドグラスの日が差し込む聖堂ではギルバートが待っていた。
この国では、二人で誓約を交わすことで婚姻が成立する。
だから、結婚式をしないで誓約だけというのも多いそうだ。
結婚式は皆に御披露目するセレモニーの意味合いらしい。

ギルバートの満面の微笑みが眩しい、イケメンは何しても様になる。
王様の結婚式ということで、たくさんの人が集まっている。
みんな人型だから、誰が獣人で、誰が竜なんてマリコにはわからない。


ギルバートが私の手をとると、ギルバートとアレクセイに挟まれた様になる。
「王妃マリコと王太子アレクセイである。」
ギルバートの声が響いた。
「アレクセイは王家の記憶を持って生まれている。
私自身がそうであったように、それは膨大な魔力の証であり、我が王国の永久の繁栄を約束されたことである。」
何ですって!
王家の記憶、この子が賢いのはそれか!
「長い歴史の中で王家の記憶を持って生まれ出たのはわずかだ。それが、私、息子と続いた。
この奇跡を与えてくれた番マリコに永遠の愛を誓う。」

えー、ここで私も永遠の愛を誓わないといけないの?
小市民の私は運動会の宣誓でさえ、緊張すると思うのに、各国要人が居並ぶ中でできるわけないじゃん。
やだな、ギルバートの期待する視線を感じる。
「誓います。」
我ながら声が小さい。
結婚式で新郎新婦の声って、はい、とか誓います、だけでしょ。
それでもギルバートには聞こえたらしく、竜のくせに犬のように振っている尻尾が見えそうだ。

「父上、母上をお任せします。」
「ああ任せておけ。」
アレクセイは2歳の幼児のくせに外交に行くようだ。

新郎新婦を二人にして、王の代わりに挨拶をこなすという、2歳児が気を使うなどおかしいだろう!
ホントに私が産んだのか、私のDNAは入ってないようにさえ思える。
いや、私の前では駄犬のギルバートにも似てない・・

結婚式はそのまま披露宴となり、ギルバートは私にピッタリくっついている。


「陛下おめでとうございます。
私が生きている間に陛下の番の方にお目にかかれるとは思ってませんでした。」
誰だ?
ギルバートが嫌な顔している。
たくさんの人がお祝いに言葉をかけてくるが、雰囲気が違う。

「竜にとって番が全てだ、それは解っているはずだ。」
「それでも娘は500年の時を陛下に捧げました。陛下にとって500年前のことでも、私には忘れることはできません。娘には陛下だけでしたのに。」
「それが前提の後宮だ。私には番だけだ。後宮は間違いであった。」
「陛下。」
「はっきり言おう、番が現れた今、後宮の女など雑草に過ぎない。
番の花を痛める言葉は許さない。」
ギルバートが私を見せつけるように、頬にキスをする。
「誰の番にも成れない遊びの女を後宮に集めたのだ。時期が終わったら出る、当然のことだ。」
ギルバートの瞳は冷たい、私を見るダメ男の目ではない。
きっとギルバートの言葉が正しいのだ、竜にとって番以外の女はどうでもいいと知った。

誰の番にも成れなかった女性、なんて悲しい言葉だろう。
でも心はあるはずだ。ましてや体の関係があるのだから。
それでも、番が見つかると切り捨てる。
自分のせいじゃないけど、悲しいな。

「陛下、どうぞあちらの部屋でマリコ様をお休めください。」
宰相が目の前に現れると、憲兵達が男を拘束して連れていった。



ギルバートは私を抱き抱え、足早に休憩室に向かった。
部屋の扉が閉まり二人きりになった途端、ギルバートが抱きついてきた。
「マリコ、マリコ、嫌な思いをさせて悪かった。」
ギルバートのキスは止まらない。
「ちょっとドレスがシワになる!」
「ああ、マリコはなんて綺麗なんだ。
私の為のウェディングドレスだと思うと感動するほど綺麗だ。」
そして匂いを嗅いでいる。
雄竜の習性か、変態のなせる業か。
「マリコだけ愛しているんだ。」
後宮の女達はこんなギルバート知らないんだろうな、私だけが知っている。

ガーン!!
ギルバートがマリコに蹴りあげられた。
「ドレスがシワになるって言ったでしょ!
こんなところで盛らないで、後にして。」
それでもマリコにすがりつくギルバート。
「マリコが綺麗すぎる!無理だ、待てない。」
「披露宴が終わるまで、待てたら好きにしていいから。」
マリコにとって、ここで戻らないのは恥ずかし過ぎる。


ギルバートは急いで披露宴会場に戻ると閉会を宣言して戻ってきた。
あの男のせいでマリコが機嫌を損ねたら捨てられる、その思いしかない。
来客の目がなければ、首をはねていたものを。

それにしても、ドレス姿のマリコは天女のようだ、美しすぎる。
「マリコ、美しすぎる、私だけのものだ。」
大好物を目の前にした雄竜は止まらない。

「私に会うためにマリコは異世界から来たのだ、私の為に。」
自分で言いながらギルバートが興奮していくのがわかる。
これ、危ないヤツだ。

「ギルバート落ち着いて。」
「無理だ、マリコが私と結婚式をしたいと言ったんだ。
私とマリコの結婚式だ!」
ウェディングドレスは女の子の憧れでしょ、とはギルバートに通じない。

「もう、マリコが綺麗で奮えていた。凄くドレスが似合っている。
いつも綺麗だけど、私の為のウェディングドレスと思うと感動が止まらない。」
昔の女の父親から守った愛に奮えているのが、手に取るようにわかる。
障害があるほど燃える愛、そんなのいらない、マリコは我が身が大事だ。
ここで抵抗すれば、ギルバートへのスパイスになるのはわかっている。
マリコにすがりつきながら酔いしれるのだ。

マリコは学習した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

人質姫と忘れんぼ王子

雪野 結莉
恋愛
何故か、同じ親から生まれた姉妹のはずなのに、第二王女の私は冷遇され、第一王女のお姉様ばかりが可愛がられる。 やりたいことすらやらせてもらえず、諦めた人生を送っていたが、戦争に負けてお金の為に私は売られることとなった。 お姉様は悠々と今まで通りの生活を送るのに…。 初めて投稿します。 書きたいシーンがあり、そのために書き始めました。 初めての投稿のため、何度も改稿するかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。 小説家になろう様にも掲載しております。 読んでくださった方が、表紙を作ってくださいました。 新○文庫風に作ったそうです。 気に入っています(╹◡╹)

『えっ! 私が貴方の番?! そんなの無理ですっ! 私、動物アレルギーなんですっ!』

伊織愁
恋愛
 人族であるリジィーは、幼い頃、狼獣人の国であるシェラン国へ両親に連れられて来た。 家が没落したため、リジィーを育てられなくなった両親は、泣いてすがるリジィーを修道院へ預ける事にしたのだ。  実は動物アレルギーのあるリジィ―には、シェラン国で暮らす事が日に日に辛くなって来ていた。 子供だった頃とは違い、成人すれば自由に国を出ていける。 15になり成人を迎える年、リジィーはシェラン国から出ていく事を決心する。 しかし、シェラン国から出ていく矢先に事件に巻き込まれ、シェラン国の近衛騎士に助けられる。  二人が出会った瞬間、頭上から光の粒が降り注ぎ、番の刻印が刻まれた。 狼獣人の近衛騎士に『私の番っ』と熱い眼差しを受け、リジィ―は内心で叫んだ。 『私、動物アレルギーなんですけどっ! そんなのありーっ?!』

ただの新米騎士なのに、竜王陛下から妃として所望されています

柳葉うら
恋愛
北の砦で新米騎士をしているウェンディの相棒は美しい雄の黒竜のオブシディアン。 領主のアデルバートから譲り受けたその竜はウェンディを主人として認めておらず、背中に乗せてくれない。 しかしある日、砦に現れた刺客からオブシディアンを守ったウェンディは、武器に使われていた毒で生死を彷徨う。 幸にも目覚めたウェンディの前に現れたのは――竜王を名乗る美丈夫だった。 「命をかけ、勇気を振り絞って助けてくれたあなたを妃として迎える」 「お、畏れ多いので結構です!」 「それではあなたの忠実なしもべとして仕えよう」 「もっと重い提案がきた?!」 果たしてウェンディは竜王の求婚を断れるだろうか(※断れません。溺愛されて押されます)。 さくっとお読みいただけますと嬉しいです。

【完結】神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。 神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。 追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。 居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。 小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

大好きだけど、結婚はできません!〜強面彼氏に強引に溺愛されて、困っています〜

楠結衣
恋愛
冷たい川に落ちてしまったリス獣人のミーナは、薄れゆく意識の中、水中を飛ぶような速さで泳いできた一人の青年に助け出される。 ミーナを助けてくれた鍛冶屋のリュークは、鋭く睨むワイルドな人で。思わず身をすくませたけど、見た目と違って優しいリュークに次第に心惹かれていく。 さらに結婚を前提の告白をされてしまうのだけど、リュークの夢は故郷で鍛冶屋をひらくことだと告げられて。 (リュークのことは好きだけど、彼が住むのは北にある氷の国。寒すぎると冬眠してしまう私には無理!) と断ったのに、なぜか諦めないリュークと期限付きでお試しの恋人に?! 「泊まっていい?」 「今日、泊まってけ」 「俺の故郷で結婚してほしい!」 あまく溺愛してくるリュークに、ミーナの好きの気持ちは加速していく。 やっぱり、氷の国に一緒に行きたい!寒さに慣れると決意したミーナはある行動に出る……。 ミーナの一途な想いの行方は?二人の恋の結末は?! 健気でかわいいリス獣人と、見た目が怖いのに甘々なペンギン獣人の恋物語。 一途で溺愛なハッピーエンドストーリーです。 *小説家になろう様でも掲載しています

処理中です...