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Prologue

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プシュッとプルタブを開け、喉を鳴らしながらビールを半分ほど飲みパソコンに向かい合う。

「よし、やるか!」

仕事で疲れた体をビールとゲームで癒す。
大人気MMORPG「Daydream Survivor」通常デイサバは、半年前にサービス開始したばかりの大型ネットゲームだ。
どこの会社も今はスマホゲームを作っていて、PCMMOに活気がなくなってる中でかなり賑わっている。

【GAME START】にカーソルを当てクリックすると、自分のキャラクター「ハル」が現れた。
ハル、LV52、種族ビオニム、職業セイバー。
大きな耳をピンと立て、少しぶっきらぼうな表情をしている。それがハルだ。
本名である「桜宮陽依」が春っぽくていいねと、昔好きな人に言われたのがずっと心に残っていたからだ。
(誕生日は冬だけどね)なんて思いながらも当時は嬉しかったなぁ。

ハルを選択すると、長身の男性キャラクターが街の中に降り立った。
獣の耳と尻尾がゆらゆらと揺れている。
ビオニムという種族は動物の特徴を持つ、所謂亜人だ。耳や尻尾だけでなく、動物に変身することもできる。ハルは狼になれるのだ。
狼モードは操作が難しく、使いこなせていないんだけど。

「よー、ハル!」
ギルドの一人がチャットで挨拶すると、
「こんばんは!」
「やほっ!」
「ハル~!新しいガチャ見たー!?」
などなどギルドチャットが盛り上がる。
「こんばんは。まだガチャ見てないよw」
と返し、ログインボーナスを受け取った。
ゲームから配布されるログインボーナスは大したことないポーション類が多く、1ヶ月連続ログインするとヘアアクセサリーがもらえる。そのために日々ログインしてる人も多い。
「ねー、誰か"ブラッドフォレスト"行かない?」
ギルドマスターゆきぴがそう発言すると、雑談でワイワイ盛り上がっていたギルドチャットがピタッと止まった。
ブラッドフォレストは比較的難易度が高いダンジョンだ。ハイレベルコンテンツとまではいかないが、このギルドは正直ゆる~いまったりギルドなので、ついていける人がどれだけいるか。
「推奨レベル50のところ?あたしは無理だー」
盗賊マルトの発言を皮切りに、「俺もキツいw」「私戦闘用ジョブじゃないからなー」「さっき装備ぶっ壊しちゃった」などなど、行けない理由がたくさんあがった。
ギルド"ストレイシープ"の中央レベル帯は35前後だ。レベルが上がりづらく、戦闘以外にも遊べる要素が多く、のんびり遊んでいる人たちは比較的このレベル帯が多い。
かと言って50超えが高レベル帯というほどでもないが、廃人極めているガチゲーマーたちもまだレベルカンストはしていないらしいので、一体どこまでやり込み要素があるのか分からないことが多い。

「マスター、私行ってもいい?」
ハルが手を挙げる。
「お!来てくれるの嬉しいよ。行こ行こ」
様々な職業があるデイサバだが、だからこそ派手だったり目新しい職業に惹かれる人が多い。
ハルはセイバー…剣士だ。意外と前衛かつ主戦力になる職業を選ぶ人は少なく、パーティーに加わると重宝される。
「俺も!」
先行して行く人が現れると名乗り出やすくなるのだろう。次に表明したのは鯖缶だった。
レベル57、ソーサラー…魔法使い。火や水、光や闇などの属性魔法を習得する。
どちらかというと派手な広範囲のものが多く、たくさん集まってくる雑魚敵や属性持ちの敵にうってつけな職業だ。
ブラッドフォレストの属性は確か闇だったはず。光魔法を使えるソーサラーはとても頼りになる。
「助かるよ!他に行ける人はーーーー」

雑魚を引きつけながら後退りをする。
盾で防御するスキルを発動しつつ、パーティーメンバー全員が範囲内に来たことを確認して"プロテクト"をかけた。範囲内のメンバーの防御力を上げるバフスキルだ。
引きつけた小物モンスターを鯖缶が光魔法で一掃したことを確認すると、全員の意識がボスに向いた。
すかさず回復担当のRayがハルの体力を回復してくれた。ハルは片手に盾を持つ「タンク」だから、一番ダメージを負っている。
「行きます!」
ハルが先陣を切りボスの前に立つ。ヘイトを集めるスキルを発動すると、ボスはハルに向かって攻撃を仕掛けてきた。
盾で受けたり避けたりしつつ、攻撃は仲間に任せてとにかくボスの気を引くのみ。ハルの役目は少し荷が重い。
「っしゃあ!トドメだー!」
鯖缶の光魔法が、暗い森のステージを明るくした。魔法のエフェクトが消えると今度はボスを倒した演出。
「思ったより長かったなー」
大剣使いのニアが、頭の上の猫耳をピクピク動かしながら笑った。
ダンジョンに入ってからもう1時間半は経っているだろうか。戦力不足もあったものの、単純に長い。複雑なギミックはないけれど、初心者向けダンジョンとは空気がまるで違った。
「ここ暗いし、ちょっと気が滅入る~」
ゆきぴが杖を振り回し、周りを見渡した。
空も大地もどこも真っ暗だ。生い茂る木々の隙間から僅かに月が見えるくらいで、他に明かりらしきものはない。
「そういや聞いたことある?」
鯖缶がその場に"座る"アクションをし、話し始めた。
何となくその場の全員がその場に座る。
「このワールドのどこかにずっと夜のエリアがあるんだってさ」

鯖缶の話はこうだ。
今プレイしている「Daydream Survivor」には、元のゲームがあった。
同じ会社からリリースされて、世界観や雰囲気、種族名も街の名前なんかも丸ごと同じの「Dream Trip」通常ドリトリ。
サービス開始前からユーザーからもメディアからも期待され、開始とともにサーバがダウンするほどの人気っぷりだった。
しかしドリトリの運営陣がやる気なかったのか、ゲームの仕様はコロコロ変わりイベントは全く盛り上がらない内容、おまけに人の多さでダウンしたサーバはそのままなので、人が多くなる夜はしょっちゅう接続できずの繰り返し。
運営のやる気のなさに見限ったユーザーも多く、開始から1年後、サービス終了したのだった。
そしてその数年後にデイサバとして再始動したとき、ドリトリの一部マップをデイサバに移した関係者がいるらしい。
そこが常に夜で真っ暗闇だという。

「都市伝説かよ(笑)」
ニアが伸びをしながら飽きた様子で立ち上がった。
それにつられてRayとゆきぴも腰を上げた。
「本当にあったら面白いな」
そう発言してハルも立ち上がった。みんな小柄な種族だから、ハルは頭2つ以上大きい。
「だろ?本当にあんのかなー」
鯖缶はそういう話が好きなのだろう。
実は私も好きなのだ。
昔プレイしていたゲームで、コマンド入力すると謎のエリアに行けたり、不思議なメッセージが表示されたり、隠しステージに行けたり、そういった裏技やバグ技がすごく好きだった。
でもさすがにMMOにそんなのはないだろう…話の内容も胡散臭すぎる。
だからこそワクワクするのだけど。

長丁場のダンジョンで疲れた頭を噂話でほぐし、街で解散をした。
もうレベリングやクエストをやる元気はないので、放置でできる釣りをしながら別ウィンドウで都市伝説について調べてみた。

「デイサバ 隠しエリア…っと」
ヒットするのは新しいエリア情報や普通のプレイじゃ見つかりづらいだけのちょっとした隠しマップだった。
ないよなぁ、やっぱり。
ふとSNSを開いてみた。

「デイサバのどこかにあるという常に夜の隠しエリア知ってる人いますか? #デイサバ」

投稿ボタンを押した。投稿画面が消えて、タイムラインが表示される。
が、さっきの投稿が表示されない。あれ?
何度か同じ内容で投稿しても全く反映されない。調子悪いのか?

まっ、いいや…とゲーム画面に戻る。
時計を見ればもう23時。そろそろ明日に備えて寝よう。
釣りの成果を確認し、魚を買い取ってくれるマーチャント(商人)に売ってバッグの中身を整理した。
「おやすみなさい」
ギルドチャットにそう打ち込んで、反応を確認する前にゲームを終了した。
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