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第五章 魔剣と魔人

第4話 魔剣の能力はなんだ?

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「座るな! こいつら何をしてくるか分かんねーぞ!」
「は、はい」

 健太郎は立ち上がったが、すでに疲労を感じる。
大型魔獣の存在感はただ対峙しているだけで気力も体力も削られるようだ。

「つーか今のカエル、あの魔剣が呼んだっぽいよな……」 
「……一連の流れからしてそうでしょうね」

 今のが魔剣の力だとすると魔獣を操る能力、もしくは召喚する能力か? 
だとすればまた魔獣が出てくるかもしれない。
健太郎は魔剣を持つ手に力を込める。

 しかしボスはカエルが消滅する様を見て喜んでいた。

「すごい! さすが炎の魔剣、攻撃力は申し分ないな。大型魔獣も一撃か!」
「なんだ?」
「……なんか……笑っていますね」

 ちなみに炎の魔剣のえげつない威力を目の当たりにした盗賊たちはドン引きだった。
ジンメイもバイハド村の人達も眉をひそめている。

 無邪気に喜んでいるのはボスだけだ。
こちらを油断させる作戦なのだろうか?
どうもさっきから向こうのペースだ。
苛立つアアアーシャ。

「てめぇ! 何だ今のは! その魔剣の力か!」

 魔剣が健太郎の右腕を引っ張る。
結果、健太郎がボスに剣を向けるポーズになった。

「……アアアーシャさん、人に刃物を向けるのは危ないですよ」
「知るかよ! 人にデカいカエルをぶつけようとするようなヤツだぞコイツは!」
「それはまぁ……」

 魔剣の切っ先だ。危険度で言えば刃物の比ではない。
相手を刺激することになるかもしれないし、苛立ったアアアーシャが暴発するんじゃないかという心配もある。
だが魔剣を向けられてすらボスは動じなかった。
動揺したのは盗賊たちだけだ。

「おま、あぶねぇ! そんなの向けんなって!」
「ちょっとボス! どうすんすかこれ!」

 セナ達がいて撃てるわけはないと思っているのかもしれないが、
それでもやはりこの魔剣の剣先を向けられるのは恐怖だ。

「あー、これちょっと難しい場面だな」
「ボス?」
「難しいって何がっすか……?」
「セナちゃんだっけ。あの女の子がマホルだと思ったから連れてきたのにさ。もう一人、いるんだもんなぁ」
「……僕?」

 健太郎に視線を送るボス。
口は笑っているが、その目は口以上に笑っていた。

「どんなにパワーのある魔剣でも自分だけではその力を発揮できない」
「魔剣の力を封じたと思ったら剣を使える人間は別だったとはね」
「でもそのおかげで炎の魔剣の力を見ることができたワケで……」
「いや、難しいなぁこれ。喜んでいいのか、予定が崩れて悔しがるべきか」

 ボスが一人でブツブツと喋り出した。
喋るたびにいちいち動いては、顎に手をあてて悩むポーズをしたり腕を組んだりと忙しい。

「てめぇ、要するにアタシ様のマホルだと思ったからセナを連れてったってわけか!?」
「……そんな……!」

 しかしボスは答えない。
まだ一人でブツブツ言っている。

「おいこら! シカトすんな! くそっ、威嚇で一発撃っちまうかな!」
「……やめてください」

 今撃って、威嚇で済むだろうか。済む気がしない。
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