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第四章 バイハド村

第9話 魔人は割とすぐ気に入る

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「……そうだ、アアアーシャさん。"威圧"を使ってはどうですか」
「あー、そうだな。たとえザコだろうと今は出てこられたら面倒だしな」

 アアアーシャは眉間にシワを寄せた。

「ヤンキースキル"威圧"だ! オラァ!」

 発声とともに右こぶしを勢いよく突き出す。
空気が震え、"威圧"の効果が発動した。
どうやらアアアーシャは『獄炎』に続いてヤンキースキルという呼び方も気に入ったようだ。

「ていうか"威圧"を使っているのに出てくる敵がいたら……」
「そいつはザコじゃねぇって事だな」
「……聞かなかった事にします。目が覚めたら僕は暖かいベッドの上という事で」
「聞かなかったどころかこの状況そのものをなかった事にしようとすんな!」

 もしかすると健太郎はわざとボケて自身の緊張や恐怖をほぐそうとしたのか?
そうか……これが社会人のメンタルコントロールってやつか……やるじゃねぇか。
アアアーシャは勝手に感心していたが、もちろんそんなわけはなかった。

 馬車で少し走っただけでも、村のいたるところで破壊された壁や家をみかける。

「……ひでぇな……」
「ですね……」

 健太郎は御者台から顔だけ出して周囲を見渡す。
途中、辺り一面に矢が刺さっている場所があった。

「なぁ、村の入口付近は矢が刺さっていなかったよな」
「ええ、見ていないですね」

 村の外壁は頑丈そうな造りだったし、見張り台や矢倉のような建築物もあった。
外敵への備えはしっかりしていたように思える。
ということは迎撃する間もなく、矢を射つ時間すらなく突然襲われたということだろうか。

「しかし……盗賊も魔獣もいませんね」
「魔力探索が機能すれば話は早いんだけどな」
「ダメなんですか?」
「ああ、村に近づいたあたりからだな。得体のしれない魔力のせいで、他の魔力がはっきり感じられねぇんだ」

 村の入り口からは一本の道がひかれていたが、グネグネとうねっている。
道に沿って進むと、あちらこちらと関係ない方向へ振り回されているような感覚。
道沿いに進むのは危険に思えた。

「くそが! 感じられねぇとか言ってる場合かよ!」

 アアアーシャは両手で自分の両頬を叩いた。
バチンと鈍い音が響く。

「ヤンキースキル!"気合い入れ"だコラ!」
「おお……自ら……!」
「入ったぜ気合いッ!」

 そしてすかさず意識を集中する。
余計な魔力に惑わされず、セナの……セナの魔力だけを探せ……!

「……これだ! セナの魔力だ!」
「さすが獄炎の魔人!」
「へっ! 今は褒めても何も出ねーぜ!」
「…………」
「黙んじゃねーよ!」

 今進んでいるこの道の先にセナはいないことは分かった。
魔力を感じた方向に目をやると、荒れた地面が広がっていた。大きな岩なども転がっている。
これも争いの跡なのか。

「セナはこっちだが……道を逸れちまうな」
「ここからは馬車だと無理そうですね」

 アアアーシャは馬車から飛び降り、健太郎も続く。
セナの魔力だけではない。
村の入り口で感じた得体のしれない魔力もこの先から流れてくる。

「健太郎も丸腰じゃ不安だろ。魔剣の姿でいきたいところだが……」

 魔剣の姿となり健太郎が持っていれば魔獣が襲ってきたとき、素早くビームを放つことができる。 

「でも魔剣の姿だと小回り効かねぇんだよなぁ」

 魔剣の姿でもある程度の移動は可能だが、基本は浮遊だ。飛行ではない。
自由自在に飛び回ったり、人が剣を振るような速度で斬りつけたりといったテクニカルな攻撃ができるわけではないのだ。

「魔剣も魔人も一長一短というわけですね」
「使い分ける余裕があればいいんだけどな」

 魔人の姿で魔剣の攻撃力があれば。
アアアーシャも常々思っていたことではあったが、今日はそれを痛感する。

 警戒しつつ、感じるセナの魔力を頼りに先へ進むと少し開けた場所に辿り着いた。
集会場のような、人が集まる事を目的とした広場なのだろう。
そこに見覚えのある姿があった。
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