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第四章 バイハド村

第8話 マジガチ

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 アアアーシャは魔力を探る。
周囲からは人間の魔力も魔獣の魔力も感じない。
だが村の奥からは得体のしれない魔力が流れてくる。そのせいか、他の魔力がはっきりと感じられない。

「セナーーー!」

 呼ぶ声に反応はなく、虚しく消える。

「くそっ!」
「セナさん……」

 巨大な何かで叩き潰された家。根ごと掘り起こされた木。
村の外壁に使われている丸太も、地面から引き抜かれたとかではない。真っ二つに折られているのだ。
巨大なエネルギーの塊が突っ込んだかのような、パワーによる破壊。
どうする!?
しかし考えたり止まったりしている時間はない。
セナを助けなければ。

「こっからはマジでヤバそうだ! 健太郎、オマエはここにいろ!」
「……そう……ですね、と言いたい所ですが。一緒に行きますよ」
「なに!?」
「盗賊だけじゃない。魔獣もいるかもしれないんでしょう? アアアーシャさん一人でどうやって倒すつもりです」
「オマエ……」
「何のために僕を連れてきたんですか」
「そうだけどよ……!」

 しかし本当に健太郎をここに置いていってもいいのか。
魔剣の力を使うのに健太郎の協力が必要なのもあるが、この場所が危険ではないと言い切れない。
何かの罠の可能性もある。

「……では、魔剣の魔人に願い事です」
「あん? 今かよ!?」
「僕を守ってくださいよ」
「健太郎……」
「……これでもう僕は安全なんでしょう? 魔剣の魔人は願いを叶えてくれるんですから」
「けっっっっ! カッコつけやがってよ!」

 アアアーシャは親指で鼻の下をこすった。

「願いは聞き届けたぜ! オマエはアタシ様が絶対に守ってやるよ!」

 どこからともなくパイプオルガンのような音が鳴り響く。

「……はい。お願いしますよホントに。いやこれカッコつけとかじゃなくてマジでガチ、マジガチですので」

 健太郎は震えていた。表情も強張っている。
御者台に座ってはいるが、隠れるように身をかがめた。

「いや、まぁオマエ普通の人間だもんな。そりゃそうだよなぁ……」

 アアアーシャが守ってくれるとはいえ、気分は複数の猛獣が放たれているサファリパークに馬車で突入するようなものか。
いや、危険度はそれ以上だ。
この村に潜んでいるかもしれない獣は魔獣。明確な害意をもって人間を襲ってくるのだから。

「……そうですよ。これが普通の人間の、当然の反応ですよ」
「おう、すげぇ根性だ! 漢だぜ健太郎ッ!」

 意を決し、壊れた門から村に突入する。
村は気味悪いほどに静まりかえっていた。村人の姿もない。
聞こえるのは馬車が走る音だけだ。
できれば静かに行動したいが、早くセナを見つけたいジレンマを抱え馬車を走らせる。
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