美人でヤンキーな魔剣の魔人が願わない社畜の願いを叶える物語

浅田椎名

文字の大きさ
上 下
37 / 54
第四章 バイハド村

第8話 マジガチ

しおりを挟む
 アアアーシャは魔力を探る。
周囲からは人間の魔力も魔獣の魔力も感じない。
だが村の奥からは得体のしれない魔力が流れてくる。そのせいか、他の魔力がはっきりと感じられない。

「セナーーー!」

 呼ぶ声に反応はなく、虚しく消える。

「くそっ!」
「セナさん……」

 巨大な何かで叩き潰された家。根ごと掘り起こされた木。
村の外壁に使われている丸太も、地面から引き抜かれたとかではない。真っ二つに折られているのだ。
巨大なエネルギーの塊が突っ込んだかのような、パワーによる破壊。
どうする!?
しかし考えたり止まったりしている時間はない。
セナを助けなければ。

「こっからはマジでヤバそうだ! 健太郎、オマエはここにいろ!」
「……そう……ですね、と言いたい所ですが。一緒に行きますよ」
「なに!?」
「盗賊だけじゃない。魔獣もいるかもしれないんでしょう? アアアーシャさん一人でどうやって倒すつもりです」
「オマエ……」
「何のために僕を連れてきたんですか」
「そうだけどよ……!」

 しかし本当に健太郎をここに置いていってもいいのか。
魔剣の力を使うのに健太郎の協力が必要なのもあるが、この場所が危険ではないと言い切れない。
何かの罠の可能性もある。

「……では、魔剣の魔人に願い事です」
「あん? 今かよ!?」
「僕を守ってくださいよ」
「健太郎……」
「……これでもう僕は安全なんでしょう? 魔剣の魔人は願いを叶えてくれるんですから」
「けっっっっ! カッコつけやがってよ!」

 アアアーシャは親指で鼻の下をこすった。

「願いは聞き届けたぜ! オマエはアタシ様が絶対に守ってやるよ!」

 どこからともなくパイプオルガンのような音が鳴り響く。

「……はい。お願いしますよホントに。いやこれカッコつけとかじゃなくてマジでガチ、マジガチですので」

 健太郎は震えていた。表情も強張っている。
御者台に座ってはいるが、隠れるように身をかがめた。

「いや、まぁオマエ普通の人間だもんな。そりゃそうだよなぁ……」

 アアアーシャが守ってくれるとはいえ、気分は複数の猛獣が放たれているサファリパークに馬車で突入するようなものか。
いや、危険度はそれ以上だ。
この村に潜んでいるかもしれない獣は魔獣。明確な害意をもって人間を襲ってくるのだから。

「……そうですよ。これが普通の人間の、当然の反応ですよ」
「おう、すげぇ根性だ! 漢だぜ健太郎ッ!」

 意を決し、壊れた門から村に突入する。
村は気味悪いほどに静まりかえっていた。村人の姿もない。
聞こえるのは馬車が走る音だけだ。
できれば静かに行動したいが、早くセナを見つけたいジレンマを抱え馬車を走らせる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

処理中です...