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第四章 バイハド村

第2話 歓迎、村の人達!

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「お兄ちゃん実はね、この人たちは……」

 セナがアアアーシャと健太郎を紹介すると、ジンメイは初めて二人に気付いた。
こんなに目立つ存在が近くにいて気付かないとは、よほどジンメイはセナしか見えていていなかったのだろう。
特に、「魔人」に対しては警戒を強める。

「魔人様……?」
「そんなお方が、本当に?」

 村の人たちもにわかに信じられないようだ。
しかしアアアーシャが魔剣に姿を変えてみせると驚きと同時に魔人であることを納得したようである。
さらに、魔人がこの村へ来てくれた理由をセナが皆に伝えると一気に歓迎ムードになった。

「来てくれてありがとうございます、魔人様!」
「魔人様! タコを倒してください!」
「お願いします魔人様!」

 村の人々がタコ討伐を口にする。
ツノオオダコを倒すことは村全体の悲願なのだ。

「魔剣の魔人様。健太郎殿。我が妹の、そしてすべての村の人達の願い。聞いてくださり感謝します。本当にありがとう」

 そしてジンメイが村を代表しての言葉を述べる。
歓迎ムードのせいかアアアーシャもかなり上機嫌だ。

「いいってことよ! アタシ様に任せておきな!」

 アアアーシャとジンメイは握手を交わす。
 一方、健太郎はこれから倒しに行くツノオオダコの事を考えていた。
ジンメイは見るからに強そうだ。握手を交わす二人の腕を見比べても、ジンメイの太さはアアアーシャの胴体くらいはある。
こんな体格の人が武器を持っても勝てない。傷を付けるのがやっととは。
大型魔獣とはそれほどの存在なのだ。

 ツノオオダコ、どんなバケモノなのだろうか……。
でもまぁ、どうせ炎ビームで一撃だろう。うん。健太郎は考えるのをやめた。
 
「さてと、それじゃあさっそくタコを倒しに行くか!」

 アアアーシャは指をボキボキ、首をグリグリならした。
やる気に満ちた表情が美しくも凛々しい。

「で、タコはどこにいるんだ?」
「ここから馬で半日ほどの場所です」

 村に水を引いている川の上流に開けた場所があり、そこを住処にしているらしい。
ときおりタコが川に身を沈めると流れが止まってしまうのだ。
タコといえば海の生き物だが川でも生息可能とは。さすが魔獣。

「しかしもうすぐ暗くなる。今日は村で休んで頂いて明日出発されてはいかがでしょうか」
「あー、じゃあ、そうさせてもらおうかな」

 ここは素直にジンメイの提案を受ける。
 夜はささやかな酒宴が設けられた。
アアアーシャ達も馬車で運んできた食料や水を提供。にぎやかな時間が流れる。

「魔人様。そのようなお召し物で寒くはないのですか?」
「気合だよ、気合! あと魔人様はやめてくれ! アーシャでいいよ!」

 ジンメイとアアアーシャは気が合うようだ。
酒を飲み楽しく語り合う二人。
ちなみに格好が寒そうという意味ではジンメイも良い勝負である。
夜になっても上半身はタンクトップ一枚だ。
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