上 下
24 / 54
第三章 馬車で行こう

第4話 強敵、それは乗り物酔い

しおりを挟む
 アアアーシャの愛刀は赤布の男が放った弓で吹き飛ばされてしまった。

「こいつら! よくもアタシ様の『黒炎稲妻猛吹雪』を……!」
「ここはセナが、な、なんとかします!」

 背中の剣に手をかけるセナ。
しかしそれはアアアーシャが制する。

「アーシャさん……?」
「こうなりゃ……仕方ねぇ……!」

 美しさを誇る顔が黒く歪む。
魔剣で殺る気だ。察したセナは頼もしさを感じながら同時に恐怖も感じる。
出会ってまだわずかだが、アアアーシャのこんな表情をセナは初めて見た。

「いくぜ健太郎、準備はいいか!」

 アアアーシャは幌付きの荷車を覗きこんで叫ぶ。
健太郎が魔剣を持てば盗賊など敵ではないのだ。 

「………………」
「健太郎!?」

 しかし健太郎は横たわったままだった。
状況を理解しているのだろうか。

「てんめぇ! 起きろゴラァ!」
「………………」
「くそっ、コイツよくこの状況で寝てられるな! セナ、ゆすれ!」
「え!? お、起きてくださいケンタローさんっ!」
「ちょ……やめ……う"う"う"……」

 セナが肩をゆすると健太郎が反応した。
口に手を当て低くうめいている。
何だか調子が悪そうだ。

「何だ!? どうした健太郎!」
「……酔い……ました……う"っ」
「はぁ!?」
「そんないきなり……スピード出すから……」

 車軸に車輪を付けただけの馬車で舗装もされていない道を猛スピードで走れば、揺れも相当なもの。
寝不足の健太郎にはキツかったようだ。
やはりさっき眠気がきた時に寝ておけばよかった。

「あー、もう! 世話が焼けるな! セナ、ちっと手綱を頼む!」
「えええ!? は、はい!」

 アアアーシャは健太郎の胸倉を掴むと強引に引き寄せた。

「スキル"気合入れ"だ! 歯ぁ食いしばれ!」

 そしてそのまま、健太郎の右頬を引っ叩たく。
スパー―ンと良い音がした。

「……いッ……たぁぁぁ! 何するんですか!」
「気合を入れたんだよ! どうだ! スッキリしただろ!」

 そう言われて、健太郎は少し体が軽くなった気がした。
全快とまではいかないが乗り物酔いの症状も軽くなっている。

「叩いたヤツの生命エネルギーを活性化させて、ちょっと元気にするスキルだ!」
「……確かに、少し楽になりました」
「乗り物酔いを覚ますスキルじゃねぇから完全には回復しねーけどな」
「いえ、起き上がれるだけで充分です……よ……」

 言い終わる前にその場に崩れ落ちる健太郎。

「起き上がれてねーじゃねーか! もう一発いっておくか!?」
「力を入れ過ぎなんですよ!」

 もしHPゲージみたいなものがあれば目に見えて減っていただろう、アアアーシャの平手打ちの威力。
乗り物酔いの症状は緩和されたのは有難いが、これプラマイで言えばマイナスじゃないだろうか?
しおりを挟む

処理中です...