美人でヤンキーな魔剣の魔人が願わない社畜の願いを叶える物語

浅田椎名

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第二章 美少女剣士

第10話 馬車が欲しい

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ーマキの店ー

「マキぃ~~ちょいと相談なんだけどさぁ」
「……なるほど、馬車かぁ。うちは牧場もやってるし馬は譲ってあげてもいいけど。荷車の方は仕事で使うからなぁ」
「他に馬車が手に入りそうな所はないのですか?」

 そう質問してはいるが、この小さな宿場町で馬車の余剰があるとは健太郎も思っていなかった。

「無理じゃないかしら。どこも馬車は仕事に必要だからねぇ」
「……そうですか……」

 乗り合い馬車も今日の最終便が行ってしまった。
今日、この宿場町を出発するのであれば何かしらの移動手段を見つけなければならない。

「……アアアーシャさんが無計画に動くからですよ」
「わりぃ……いい考えだと思ったんだよ」

 ふと、一台の荷車が健太郎の目に止まった。
マキの店の隣、あの小屋は納屋だろうか。その扉の前に荷車が無造作に置かれている。
二輪のリヤカーみたいな簡素な造りのものだ。
車輪が外されていて、車体も所々痛んでいるように見えた。

「あれは使えないんですか」
「ええ、見ての通り。残念ながら壊れてるの。そのうち直すつもりだったんだけどね」

 他にアテもないし、あるかどうか分からないものを探して歩き回るのも時間の無駄だ。
それならば。

「……ではあそこに置いてある荷車と馬を一頭、譲ってもらえませんか」
「えぇ? あの荷車なら別に構わないけど」
「どうすんだよ。まさか修理すんのか?」
「はい。直しましょう」
「オマエ、んなことできんのかよ!?」
「……ええ、前に仕事で似たような事をやってましたから」

 壊れているとはいえ車輪が外れているとか側板が無いとかそんな程度だ。
荷車の構造は想像できるので、おそらく問題はない。

「け、ケンタローさんっ! セナも手伝います!」

 セナが手伝いを名乗り出る。

「……お願いします、セナさん」
「はいっ!」
「工具ならうちのを使ってよ!」
「……ありがとうござます、マキさん」
「しゃーねーな、アタシ様も手伝ってやるぜ!」
「結構です」
「なんでだよ!」

 やる気満々で指をポキポキ鳴らしていたアアアーシャは納得できない。

「あなた破壊と殺戮の魔人でしょう? 直すより壊しそうなんですが」
「破壊と殺戮はやめろっつったろ! つーか偏見だ! 魔人差別だ!」
「……では村に持っていく食料を購入し、運べるように箱詰めする準備をお任せしていいですか」
「おっしゃぁ! やってやるぜ!」

 どうにも言動がいちいち物騒と言うか、やはりアアアーシャは破壊のイメージが強いのだった。

「……ふう」

 しばらくして

「……できました」 
「完成ですっ!」
「早いな! どれどれ……って幌ついてるじゃねーか!」
「これがあの荷車!? 器用なのねぇ健太郎クン」
「もう修理というか改造だろこれ。四輪になってるしよ!」

 二輪の簡素な荷物運び用の荷車だったが、車輪を増やし幌をつけ御者台を設置。
人も物資も運べる馬車に作り変えた。

 アアアーシャが興味深そうに荷車の上やら下やらを覗きこんでいる。

「数日かかる移動なら日差しや雨を防げるようにしたいですから。食料を運ぶのであれば尚更です」
「健太郎……!」
「……まぁ、食料を運ぶという考えそのものは僕も賛成ですので……」
「ありがとな!」

 またアアアーシャが乱暴に肩を組んできた。
笑顔も間近で見ると魅力が増す。

「……では僕は馬車の修理で疲れ果てたので少し休みます。タコを倒したら起こしてください」
「そこは着いたら、だろうが! 全部終わるまで寝てるつもりか!」

 御者台にはセナとアアアーシャが座る。
荷台には食料を積めるだけ積み、スキマに健太郎が収まった。

「よーし、出発だ! 馬と荷車、あんがとなマキ!」
「ああ、気を付けてね。今度は亭主がいる時に遊びに来てよ!」
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