丘を越えたり、下ったり(仮)

ムギオオ

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69 夜の公園2

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「あれっ? ええっと、僕と知り合いでしたか? 」
 俺は一瞬焦ったが、今更でも失礼がないように訊ねた。

 コージと呼ばれた男も女を見て少し困惑した顔になった。
「えっとアオイちゃん、知り合い? 」
「シンヤをやっつけた人」
 アオイと呼ばれた女は小声でコージに話すが、俺にも余裕で聞こえた。
 それからコージは驚いた顔で俺を見た。
(シンヤ? ……シンヤ、シンヤ、シンヤ……誰だ? )

 コージが慌てて掛けていたサングラスを取り
「すんませんでしたっ! 」
 と言い終わると数歩後退った。
 俺のことをいきなり殴る無法者とでも思ったのだろうか。

 俺はこの女の事をやっと思い出した。以前世直し気分でやっつけたボケのシンヤの横にいた、あの時のムカつく女だ。
 俺が柵を越え二人に近づくと、コージはまた数歩、後退った。

 俺は一応、アオイと呼ばれた女に確認した。
「お前、あの時のバカヤローか? 」

「ぐっ! はい、そうです」
 女は答えた。
「あの時と態度が違うから中々判らなかったよ」
「あれから、しっかり反省しました」
「へー、あのバカのシンヤはどうしたの? 別れたの? 」
「彼とはもともと、付き合っていません」
「あいつも反省したの? 」
「私はあれから見ていませんが、一二週間ほど痛みに苦しんでそれからはボランティア活動に勤しんでるとか、いないとか」
「うそをつけっ! ハハハハ」

「じゃ、アオイちゃん俺はこれで」
 コージは俺と女が話し込んだ今がチャンスとばかりに走ってどこかに行ってしまった。

「お前いつも、ロクな男連れていないな。お前もロクでもないけど」
「ぎゅ…………はい」
 何か言いたげだがそれを抑え込むように返事をする彼女の態度は笑えた。
「まあ、いいや、俺には関係ないし」
 俺は言いながらこの場を立ち去ろうとした。

「あの、お願いがあるんです」
 彼女は俺に縋るような視線を向けた。
「お前…………凄いな。この前あんな事があって、今もこんな事になったのによく俺に頼めるなあ。ビックリするよ。いや逆にこれだけ迷惑かけた俺に頼むくらいだからよっぽど困っているって事か? 」
 俺は妙に納得してしまった。
 そして俺の中のお助けマンが壁画との約束の事を思い出させた。
「分かった取り敢えず話を聞かせてくれよ」
 俺は再びブランコに腰掛け、彼女も隣のブランコに座らせた。

「私、田中 葵子《あおいこ》といいます。えーと何から話せばいいのかな」
 彼女はブランコをゆっくり漕ぎながら話し出した。
 考えながらポツリポツリと話す彼女の横顔は少し幼く感じた。

 葵子の母親が再婚を考えている相手がいるのだが、彼女は母親に再婚をして欲しくはなく、以前母親と母親の彼氏と彼女の三人での夕食会があったのだが。
 その時に彼女は母親が再婚を考えている相手に自分の彼氏としてワルそうな男を会わせようとした。

 彼女としては悪くてヤバそうな男と付き合っている娘の父親になどなりたがらないだろうと考えたそうだ。

 そして急遽彼女はワルそうな男として友人に馬鹿のシンヤを紹介してもらったそうだ。
「アイツはワルそうでなくて本当に悪くてクズだったけどな」
 俺が相槌を打つ。

 だけどその父親候補に合わせる前にシンヤは俺に撃破されてしまった。以前、俺と揉めた日がその夕食会の日だったそうだ。

 そして今日もまた夕食会があり、コージを連れて行ったそうなのだが。

「その、お母さんと付き合っている男は、嫌な奴なのかい? 」
「いえ、優しくて楽しい人です。横柄に振舞うコージにも気さくに接してくれて……。最後は母に怒られましたけど」
 彼女は言いにくそうに母親の再婚候補者を褒めた。

「そんな人だったら賛成すればイイじゃん」と言いかけて止めた。
(人それぞれ事情はあるだろう。ただ反発する相手のことを楽しくて優しい人と感じられるのなら、いや父親になり一緒に住むとなると話は別なのかも)

 母親の再婚が嫌という歳でもないだろう、もし一緒に住むのが嫌なら一人暮らしでもすれば良いのではないか。
 俺はそう考えながらも黙って彼女の話を聞いた。

「それで俺はどうすれば良いの? 」

「明日、六時にこの公園に来てもらえますか? 」
「明日は仕事だから無理。頑張っても六時は超えるかな」

 結局六時半から七時までに着くようにすると約束して公園で待ち合わせをすることになった。

 見ず知らずに近い俺に頼みごとをするとは、あの娘も大変だなと思いながらも、明日は一日中面倒な事でいっぱいだなと少し憂鬱になった。
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