審判

咲 カヲル

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バルマニオからの来客、ポル・インディカ

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何も見えない。
何も聞こえない。
誰もいない。
暗い暗い闇の中。
何処にいるかも分からない。
そんな闇の中、遥は、彷徨(サマヨ)っていた。
その足元に、小さな葉が、芽を出した。
促された訳でもないが、遥は、自然と両腕を伸ばした。
手のひらに水が沸き、指の隙間から、雫が零れ落ち、その小さな葉を濡らすと、光が満ち、何も見えなくなる程、辺りが、明るくなり、は、眩しさに目を細めた。
その光の中、伸びてきた手が、遥の腕を掴み、引き上げた。

  『遥』

聞き覚えのある男の声に呼ばれ、遥は、目を閉じたまま、顔を上げた。

  『その目に真実を』

男の指が、遥の左目に近付き、そっと、瞼に触れた。
一瞬の痛みが走り抜け、目を開けると、視界が歪み、また、光と闇が、男の背に近付く中、遥の目には、しっかりと見えた。

“世界を創る”

男の本能が、はっきりと見え、闇と光が混ざり合い、渦巻く中に溶け込むように、男の姿が消え、足元が崩れ、そのまま、遥は、落ちて行った。
目を覚ました遥の視界に、見覚えのある天井が写った。
周りを見渡し、そこが、アルカのバイオレンスの屋敷で、自分の部屋だと分かり、体を起こし、ベットから立ち上がり、窓から、外を見下ろし、小さな花壇に視線を向けると、遥は、部屋か飛び出し、階段を駆け降りた。

  「遥さん!?」

階段の下で、ティーキに出会い、その腕を掴んで、外に飛び出した。

  「どうしたんですか?」

花壇を見下ろす遥の背中にティーキは、声を掛けた。

  「何の騒ぎだ。遥!!」

騒がしさに顔を出したバイオレンスが、遥の背中を見て、駆け寄った。

  「何してんだ」

  「芽が出た」

そう言って、花壇の前に屈んだ遥を挟んで、ティーキとバイオレンスも、同じように屈んで、花壇の中に、小さな芽を見つめた。

  「芽が出ましたね」

  「良かったな」

  「本当。良かったわ。どんな花が咲くのかしらね?」

  「確か、紫?白?の小さな花だったと思います」

  「ずいぶん、曖昧だな」

  「すみません。かなり、前にフィナがポケットに突っ込んだヤツなので」

  「大丈夫。咲けば分かるわよ」

楽しそうに芽を見つめる遥の瞳は、少女のように輝いていた。

  「ところで、遥。もう、起き上がって大丈夫なのか?」

  「うん。大丈夫よ?」

  「そうか」

  「ちょっと!!そうか。じゃないです!!倒れてから丸一日ですよ!?そんなに目を覚まさなかったのに、大丈夫じゃないですよ!!大体ですね。バイオレンスさんは、遥さんに甘過ぎます。もっと、ちゃんと言う時は、言わないと。遥も!!」

花壇の発芽に和んでいると、バイオレンスの小さな疑問に、遥が、何の問題もなく答え、普段と変わりない二人に、ティーキは、お説教を始めた。

  「別にいいじゃない。もう、平気なんだから」

  「遥さん!!」

久々のやり取りに、三人は、久々に笑った。

  「夕飯は、どうする?」

  「食べるわよ?」

  「一緒ですか?」

  「一緒よ?悪い?」

  「いえ。また、ご一緒出来るんだなぁと思いまして」

  「遥がいないと、静かでいいがな」

  「あらそう。なら、起きなきゃ良かったかしら?」

  「そうは、言ってないだろ」

  「僕は、遥さんと話せて、楽しいですよ?」

  「媚びるな」

  「痛っ」

バイオレンスに頭を軽く殴られ、ティーキは、わざとらしく痛がった。
三人で、ケタケタ笑いながら、家の中に入り、お互いの部屋に戻ると、夕飯になるまで、それぞれの時間を過ごした。
バイオレンスは、剣の手入れをしながら、アンテラ情勢や学者たちの近情をメモし、ティーキは、ライフルの手入れをし、遥は、ダガーナイフにピストルの手入れをし、さっき、見ていた夢を思い出していた。
それぞれの部屋のドアがノックされ、三人は、揃って大広間に行き、食事を始めた。

  「今日は、よく食べるな」

  「そうかしら?」

  「丸一日、何も食べてないからじゃ、ないですか?」

  「そうかもしれないわ」

  「食べ過ぎると、太るぞ」

  「女性に対して、それは、失礼かと思いますよ?」

  「別に構わないわ。太らないし」

  「そうなんですか?」

  「確かに、太らないな」

  「アナタは、すぐに太るけどね」

  「ほっとけ」

三人は、笑いながら、食べ進め、楽しく食事を終えた。
ワインを飲みながら、アルカに帰り、バイオレンスは、ティーキに遥を任せ、そのまま、研究所に向かった時の事を話した。
バイオレンスが姿を見せると、学者たちは、思惑と真逆の結果になり、驚きと困惑が立ち込め、アンテラの学者が、消えていた事を説明すると、どうでも良いと言う雰囲気が、部屋を満たし、また、スケルトンのサンプル採取の任務を言い渡された。
そして、今朝。
まだ、目を覚まさない遥を置いて、ティーキと二人で、任務を遂行し、屋敷に戻ると、目を覚ました遥が、ティーキと共に、花壇の前にいた。

  「二人だけで、大変だったでしょ?」

  「いえ。僕は、遠くから狙うだけなので。それよりも、バイオレンスさんが、強くて驚きです」

  「あら。そうなの?」

  「ティーキもかなり、腕を上げているぞ。今のティーキなら、背を任せられる」

  「そんな事ないですよ。僕なんか、お二人に比べたら、まだまだです」

  「また~。そこは、素直に喜ぶの」

  「そう言われても。今日だって、危なくバイオレンスさんに当たる所だったんです。幸いにも、バイオレンスさんが、上手く避けてくれたので、大事には、ならかったのですが」

  「動く敵を狙うのは、至難の技だ。まだ、ライフルを使い始めて、そんなに経っていないティーキが、出来るようになりつつあるのは、凄い事だぞ」

  「そうよ。だから、喜びなさい?」

遥とバイオレンスに褒められ、嬉しくなり、ティーキの頬が緩んだ。

  「学者たちは、何故、お二人を始末しようとしたのでしょうか?」

  「それは、まだ分からん」

  「どうして聞かないの?」

  「聞いたところで、答える連中じゃない。ならば、もう少し様子を見て、探った方が得策だ」

それには、ティーキも納得したように、頷いた。

  「ところで、遥さん。体調は、どうですか?」

  「全然平気よ?って言うか、前より調子良い感じ」

  「一体、何があったんだ?」

  「変な声が聞こえたの。そしたら、急に目の前が、真っ暗になったのよ」

  「変な声ですか」

  「そうなのよ。“ 光に選ばれし、闇に住まう者。使命を果たされよ”って。 あと、変な夢を見たわ」

  「夢?」

遥が、夢の話をすると、ティーキは、遥の眼帯を見つめ、バイオレンスは、何かを考えるように、顎に指を添えた。

  「“ 光に選ばれし、闇に住まう者”とは、なんだ? 」

  「そんなの知らないわよ」

  「もしかして、マンゼウの樹が関係あるのでしょうか?」

  「分からん。今、それを確認する術がない」

  「もう一度、護り人形に触ってみる?」

  「どうしますか?」

  「やってみるか」

ティーキが、護り人形を取り出して、遥の前に置くと、遥は、何の躊躇もなく、人形に触った。

  「あれ?」

  遥が倒れないように、身構えていた二人の予想とは、裏腹で、普通に人形を持つ遥に、拍子抜けしたようだった。

  「何もなりませんね?」

  「そうね」

  「なんでだ?」

  「分からないわ。本当に可愛いわね。この人形。ティーキに似てるわ」

  「そんな事言ってる場合か」

  「そうですよ。もう少し、真剣に考えて下さい」

  「分からないモノは、分からないし、知らないモノは、知らないもの。それを悩んだところで、何もならないじゃない?」

  「それは、そうかもしれんが…」

  「今、分からなくても、その内、分かる時が来るわ。それなら、今、目の前の事を私は、見ていたいわ」

人形を見つめる遥の言葉には、妙な説得力があり、何故か、二人は、納得してしまった。
それから、また三人で、スケルトンのサンプル採取の任務をこなす毎日を送っていた。
ライフルの腕が、みるみる上達するティーキに負けじと、二人も戦闘力を上げていく。
持ちつ持たれつの関係で、三人は、順調に絆を深めた。
ティーキが、正式に、バイオレンスの部下となり、屋敷に住み始めると、屋敷内の雰囲気も安定し、使用人たちの心情も安定する。
それらが、更なる安心感を生み、未だに、遥を見る人々の視線は、冷たいままだったが、アルカの大地が、落ち着き始め、三人が、アンテラより、帰還して、一ヶ月が過ぎた。

  「船の様子も見に行くか」

アンテラの一件で、バイオレンスは、学者たちに掛け合い、渋々だが、学者たちから、船を譲り受けた。
一応、化け物たちに襲撃されないように、自然に出来た岩壁の横穴に隠しているが、何かと物騒な世の中、こうして、たまに、点検を兼ねて、様子を見に行くようにしていた。
この日も、普段と変わらず、早々にサンプル採取を終わらせ、無駄話をしながら、船を隠している海辺に向かって、バギーを走らせ、海が見え始め、岩影にバギーを隠し、それぞれの武器を持ち、歩き始めた。
岩壁に近くなった所で、前方に影が、二つ、並ぶようにして、揺れているのを発見した。

  「マーメディアンです。どうしますか?」

近場の岩影に身を潜め、ティーキが、ライフルのスコープで、マーメディアンを確認した。
気付かれなければ、襲われないが、二体のマーメディアンの進行方向には、船を隠している横穴へと、降りる道がある。

  「仕方ない。始末する」

  「了解」

  「ついでに、サンプルも採取しましょうか?」

  「そうだな。遥。先に行くぞ」

  「はいはい」

気付かれないように、素早く、二体の進行方向にある岩影に隠れたバイオレンスを確認し、遥も、ティーキを残し、バイオレンスの反対側の岩影に身を潜めた。
マーメディアンは、二体で一つ。
その為、二体同時に倒さなければならない。
二人が、武器を持つのを確認したティーキは、二体の足元に向けて、発砲し、砂煙が上がった。
突然の発砲に、マーメディアンが、後ろを向いた。
発砲音と共に、岩影から飛び出した二人は、そんなマーメディアンに斬り掛かったが、遥の方が少し速かった。
一体の腕から血を流したものの、バイオレンスの剣は、避けられ、二体は、戦闘体勢になった。
ティーキに、背を向ける形で、遥とバイオレンスも並び、構えると、二体のマーメディアンは、同時に、バイオレンスに飛び掛かった。
剣で一体の攻撃を防ぐも、もう一体の攻撃は、どうする事も出来ない。
そこに、遥も応戦するが、バイオレンスの方にいたマーメディアンが、遥に向かう。
二体同時。
その理由が、よく分かった。
一体を倒す前に、二体は、連携し、相手を翻弄する。
素早い動きと、その連携に、二人も苦戦した。
お互いの動きを気にしながら、一体を相手にするのが、二人には、難しかった。

「ティーキ!!傷のある方を狙え!!」

戦闘でのバイオレンスの強みは、この判断力。
そして、その判断は、必ず、良い結果を出す。
だから、ティーキも遥もバイオレンスの判断に従うのだ。
了解の合図に、ティーキは、空に向かって、ライフルを構え、発砲した。
その銃声を聞き、二人は、一旦、マーメディアンから距離を取った。

  「遥。もう一体は、任せるぞ」

  「了解」

二人同時に走り出し、傷のないマーメディアンの前で、バイオレンスの剣が、振り下ろされ、砂煙が上がる。
少し怯んだマーメディアンの目の前に、バイオレンスの後ろから、遥が飛び出した。
遥が、目の前のマーメディアンを切り裂くのと、同時に、遥に襲い掛かろうとしていた、もう一体のマーメディアンの頭が、ティーキのライフルで、撃ち抜かれた。
二体のマーメディアンが、完全に動かなくなり、二人が、武器を仕舞うと、ライフルを背負ったティーキが、駆けて来た。

  「遅いわ。アナタ、太ったんじゃない?」

  「遥が、早すぎたんだ」

  「どっちでも、いいんじゃないですか?倒せたんですから」

  「良くないわ。少し、ダイエットしなさいよ」

  「遥が、もう少し、周りを見れるようになったらな。さっさと、終わらすぞ」

  「私、点検してくるわ」

バイオレンスとティーキが、マーメディアンのサンプルを採取してる間、遥は、船の点検をし、戻ってきた。

  「変わりなかったわよ」

  「よし。戻るぞ」

バギーに向かって、歩き出そうとした時、影が三人を包んだ。
空に視線を向けると、何か、小さな黒い影が見えた。

  「あら。何かしらね?」

  「さぁな」

ボーッと、上を向いてる中、それは、段々と、近付いてくる。

  「木箱かしら?」

  「みたいだな」

  「って!!そんな呑気な!!うわ!!」

バイオレンスが、ティーキの襟を掴み、遥が、ティーキの腕を掴むと、ギリギリのところで、後ろに飛び退き、木箱の衝突から免れた。

  「ずいぶん、頑丈ね」

木箱は、砂煙を上げ、大地に落ちた。
その前で、ティーキは、尻餅を着き、バイオレンスと遥は、並んで木箱を見つめた。

  「なんで、お二人は、そんな余裕なんですか」

今の状況に混乱するティーキの疑問に、返ってきた遥の言葉は、驚愕な答えだった。

  「だって、そんなに速くなかったもの。ね?」

  「あぁ。弾丸よりは、遅かったな」

  「お二人は、弾丸が見えるんですか?」

  「まぁな。俺は、ギリギリだが、遥は、ハッキリと見えるらしいぞ」

木箱を調べ始めたバイオレンスの背中から、視線を外したティーキは、大地にお尻を着いたまま、隣に立った遥を見上げた。

  「それって、ほぼ全ての攻撃が、見えてるんですよね?」

  「そうでもないわよ?マシンガンやガドリングの弾は、見えないもの」

  「それを浴びる状況が、浮かばないんですけど」

差し出された遥の手を掴んで、立ち上がったティーキは、服に付いた埃を払った。

  「大体、お二人は、何故、そんなに身体能力が高いんですか?」

  「俺は、父親の訓練で、見えるようになった」

  「過激なお父様で」

  「私は、気付いたら見えてたわ」

  「聞いた自分が、バカでした」

  「そう落ち込まないの」

  「おい。ちょっと来い」

項垂れたティーキを遥が励ましているとバイオレンスが、手招きし、二人が近付くと、木箱の蓋を押し上げて、中身を見せた。

  「女の子?ですかね?」

  「そうみたい。ずいぶん、小さい娘ね?いくつかしら?」

  「見た目だと、十代に見えるがな」

  「遥さんも見た目は、十代ですよね?いだ!!痛い!!痛いです!!すみません!!ごめんなさい!!素敵な女性です!!ホントごめんなさい!!すみませんでした!!」

ちょっとふざけたつもりが、ティーキは、遥に、無言のまま、踵で足を踏まれた。
そんなティーキが、必死に謝る姿にバイオレンスは、苦笑した。

  「それくらいにしておけ」

バイオレンスを睨み、踏んでいた足を退けると、ティーキは、足を抱えて屈んだ。

  「手加減して下さいよぉ~」

  「ふん」

鼻を鳴らして、遥は、そっぽを向いてしまった。

  「このまま、ここにいても、仕方ない。連れて帰るぞ」

遥とティーキが、木箱に入り、少女を持ち上げて、バイオレンスに渡す。
バイオレンスが、少女を抱え、バギーに戻ると、サイドカーに少女を寝かせ、遥がバギーに跨がり、バイオレンスが、ティーキの後ろに跨がって、遺跡へと向かい、砂煙を巻き上げながら、バギーを走らせた。
地下に戻り、バイオレンスを神殿前で降ろして、二人は、一足先に、屋敷に戻った。
空いてる部屋がなく、遥の部屋に少女を運び、ベットに寝かせた。

  「何か、こんな事が、前にもあったような気がするわ」

  「その時から、大変、お世話になっております」

  「どうだ」

遥にティーキが、頭を下げると、帰ってきたバイオレンスが、部屋に入ってきた。

  「全然。って、こんなやり取りもあったわね」

  「ん?あぁ。ティーキの時か。そうだな」

  「その人みたいに、また、面倒にならなきゃいいけど」

  「何か、遥さんが冷たいです」

  「地雷を踏んだんだ。仕方ない」

項垂れるティーキの肩を軽く叩き、励ましたバイオレンスは、眠っている少女を見下ろした。

  「この娘は、何人?」

  「さぁ。分からん」

  「あら。アナタが、知らないなんて事あるのね?」

  「バカにしてるのか」

  「多分、バルマニオだと思います」

眠る少女を見下ろすティーキに、視線を向け、二人は、首を傾げた。

  「なんで?」

  「ピアスです」

少女の耳に小さな赤い鉱石に、蝶のような羽根が付いているピアスがしてあった。

  「確か、訓練生の時に勉強したような気がします」

  「へぇ。アンテラでは、そんな事も勉強するのね」

  「はい。アンテラとバルマニオは、位置的に近いので、見分け方として勉強したんです」

  「アルカは、勉強しないの?」

  「アルカの場合、どの大陸も同じ位に離れてる。だから、あまり、他の大陸から、人が来る事がない」

  「でも、現に来てるよ?」

  「僕は、来たんじゃなくて、流されたんです」

  「どの大陸が何処にあるのか位は、それぞれの大陸で勉強してるはずだ。それに、アルカは、荒野の大地。そんな大地が、欲しい大陸は、そう滅多にない」

  「それもそうね。どの大陸からも離れてて、荒野の広がる大地じゃ、誰も欲しがらないわ」

  「遥さんって、毒舌ですよね?」

  「そうだな。特に俺には、毒しか吐かない」

  「あら。ティーキにも、言うわよ?ね?」

  「僕の場合は、実力行使です」

  「んっ…」

三人で騒いでいると、小さな声が聞こえ、少女が目を覚ました。

  「あら。お目覚め?」

  「こ…こは?」

  「アルカですよ?」

  「アルカ?私は、どうやってここに?」

  「空から、木箱に入って落ちて来た」

  「木箱?そうだ!!私!!っつ!!」

急に起き上がり、少女は、自分の体を抱えて痛がった。

  「無理ですよ。いくら、木箱って言っても、上空から地面に叩き付けられたんですから」

そんな彼女を寝かそうと、ティーキが、腕を伸ばすと、少女は、その腕を掴んだ。

  「お願いです!!助けて下さい!!バルマニオが!!人々が!!殺される!!」

  「落ち着いて?そんな、一気に話されても、分からないわ」

ティーキに向かって、叫ぶように、訴えた少女の肩に、手を置いた遥を見て、後ろに立つバイオレンスが、視界に入った少女は、今にも泣き出しそうに顔を歪めた。

  「名は?」

  「ポル・インディカです」

  「ポル。ゆっくりでいいわ。落ち着いて話して?」

小さく頷いたポルは、今度は、落ち着いて、ゆっくりとバルマニオでの事を話し始めた。
他の大陸に比べ、山の多いバルマニオにバージマンが、現れると、人々は、山の中に姿を隠し、また、バルマニオの学者たちも、バージマンの生態を調べ、研究していた。

  「何処の学者も同じね」

  「ですね」

  「それで、アルカにも同じ学者が、いるから行って来いとでも、言われたか?」

  「違います。私は、助けてくれる人を探しに来ました」

  「どうゆう事?」

バルマニオの学者たちは、研究の為と言っては、人々を一人ずつ、山から追い出し、バージマンに襲わせ、その遺体から、バージマンの生態を調べている。

  「何だか、アルカの学者が、可愛く思えるわ」

  「アンテラもです」

  「それは、良いとして。それで、人々が全員、死んでしまう前に助けを求めているのは、分かった。だが、何故、木箱に入っていたんだ?」

  「学者たちを欺く為です」

  「木箱に入って欺く?それで、なんで空?」

残っていた人々が、話し合い、人が入った木箱を気球で、飛ばす事にした。
そして、本来であれば、ポルの父が入る事になっていたが、その前日、ポルの父は、バージマンの犠牲になり、その騒動に紛れ、ポルは、一人で気球を膨らまし、木箱に乗り込んだ。

  「本当だったら、蓋を開けて、自分で、気球を操作して、アンテラに向かうはずが、何の手違いか、蓋が開かなかったんです」

  「だろうな」

  「なんでよ」

  「気付きませんでしたか?蓋に釘が刺さってたんだすよ?」

  「全然、気付かなかった。アナタが、どけたりするからよ」

  「どけないで、どうやって出すんだ。」

  「それに、バイオレンスさんが、持ち上げてる時に、目の前に見えましたよ?」

  「遥の目線じゃ、そこまで視界に入らん」

   「それもそうですね」

  「悪かったわね。チビで」

好き勝手に話を始めた三人を尻目に、ポルは、拳を握り締めた。

  「お願いです!!バルマニオの人々を助けて下さい!!」

真剣に頭を下げるポルを見下ろしてから、遥とティーキが、バイオレンスを見上げた。
何かを考え、悩んでから、バイオレンスは、遥を見て、ポルを顎で差した。

  「また?今のは、裏付けなんて、必要ないわよ」

  「そうですよ。少女に策略なんてありませんよ」

  「あの。私、成人してますよ?」

その言葉に、三人が、驚いているのをポルは、キョトンと見つめた。

  「いくつ?」

  「今、二十二ですけど」

  「ティーキと同い年!?嘘でしょ?」

  「本当ですよ?」

  「ティーキが、老けて見えるな」

  「言わないで下さい。自分で思っても、かなり、悲しいのに、バイオレンスさんに言われると、更に、悲しくなります」

  「ティーキ。これからは、外で寝ろな。」

  「えぇ~」

  「ご愁傷さま。骨だけは、拾っとくわ」

  「そんなぁ~」

そんなやり取りに、ポルは、笑い始め、三人は、安心したように、笑い始めた時、ノックの音が響き、夕飯の時間になった。
三人は、ポルを連れ、大広間に向かい、食事を始めた。
三人のやり取りに、時折、明るい笑い声が、大広間に響いた。

  「ねぇ。バルマニオって、山の多い大陸なんでしょ?」

  「はい。緑が多く、とても、涼しい大陸なんです」

食事を終え、四人で、ワインを飲みながら、遥が、バルマニオの事を聞くと、ポルは、快く答えた。

  「お母様は、どうしてるんですか?いっ!!」

楽しそうに笑っていたポルの表情が、曇ってしまい、隣に座ってたバイオレンスが、ティーキの足を蹴った。

  「母は、一番最初の犠牲者に、なってしまいました」

  「学者たちのか」

密かに顔を歪め、足を擦るティーキの存在を遥も、バイオレンスも、無視して、ポルを見つめると、ポルは、小さく頷いた。

  「そうだったのね。どうする?」

  「助けてやりたいが、その前に裏付けだ」

  「だから、必要ないって言ってるじゃない。大体、アナタは、考えすぎよ」

  「可能性があるならば、それを考慮したいだけだ。遥は、考えなさすぎなんだ」

  「失礼な人ね」

  「あの。大丈夫ですか?」

遥とバイオレンスが、変な言い合いを始めた隙に、ティーキに、ポルが声を掛けた。

  「大丈夫ですよ。いつも、こんな感じですから。その内、どちらかが、根負けしますから」

  「それもですけど、足の方は?」

  「大丈夫です。慣れてますから」

苦笑いして、ポリポリと、頬を掻くティーキを見つめ、ポルは、優しく微笑んだ。

  「そんなに長く、ご一緒なんですか?」

  「いえ。僕は、元々、アンテラの人間なんです」

ポルの表情が、驚きに変わり、ティーキが、困った顔をしてると、遥とバイオレンスの言い合いが止まった。

  「そう言えば、アンテラでは、私たち、侵略者にされたわね」

  「そうだな。あれは、酷かったな」

  「もう。それは、言わない約束ですよ」

  「そんな約束してないわよ」

項垂れたティーキを見て、二人が、笑ってる。
そんな光景に、ポルには、安らぎが芽生えた。

  「私、みなさんに助けて頂けて、本当に良かったと思います。ありがとうございます」

ニッコリ笑ったポルを見て、三人は、視線を合わせ、ティーキとバイオレンスが頷くと、遥は、諦めたように溜め息をついた。

  「分かったわよ。ねぇ。ポル。私を見て?」

首を傾げる目の前で、眼帯をずらしてた遥の深い青色の左目に、ポルは、言葉を失った。

  「なんで、ティーキもポルも同じ事を思うの?」

  「それは、本当に“綺麗”からですよ」

ティーキの言葉にポルは、驚き、目を瞬かせた。

  「ねぇ。ポルは、さっき、私たちに言ったのって、本当?」

  「さっき?」

  「本当に、バルマニオの人々を助けたい?」

  「助けたいです」

バイオレンスの言葉に、真剣な表情で、答えたポルを遥が、じっと見つめた。

  「彼女も本能から、そう思ってるわ。“ペル”って人の為にね?」

その名前にポルは、飛び上がるように、椅子から立ち上がり、眼帯を直した遥の肩を掴んだ。

  「なんで!!どうして!!ペルを知ってるの!?」

  「落ち着け!!」

バイオレンスの怒鳴り声に、周りの使用人が、忘れていた恐怖を思い出し、肩を震わせた。
そして、そのバイオレンスの表情に、ポルも落ち着いた。

  「遥が、知ってるのは、名前だけだ」

  「名前だけ?どうして?」

  「遥さんは、生き物の“本能”が、見えるんです」

ティーキの説明に、ポルは、首を傾げた。

  「 生き物の全てが、無意識の内に、その脳や心が、欲している事がある。欲望や願望、本心。その無意識の内に、欲している事が“本能”。その本能を遥は、その左目で見る事が出来る」

バイオレンスの説明に、納得したポルは、何度も頷いた。

  「面倒な説明をありがとう」

  「本来は、ティーキの役割だがな」

  「僕は、お二人程、長い付き合いじゃないので無理ですよ」

  「でも、ティーキが説明出来たら、私は、助かるわよ?」

  「頑張って覚えます」

  「俺と遥に対して、この態度の違いは、なんなんだ」

  「恐ろしさの違いです。うっ!!つ!!」

  「よく分かった。すまんかったな」

遥の蹴りが、太ももの裏側に綺麗に決まり、ティーキが痛がると、バイオレンスは、その肩を擦った。

  「いい加減にしないと、全身、痣だらけになるわよ?」

蹴られた所を擦り、何度も、頷いたティーキに満足したように、遥は、ニッコリ笑うと、ポルに向き直った。

  「ねぇ。ペルって誰?」

呆然としていたポルは、遥の問いに少し、頬を赤らめて、小さく笑った。

  「恋人です」

  「あらそう」

納得した遥とは、逆に、バイオレンスとティーキは、首を傾げた。

  「それなら、恋人の為に男性が動くのでは?」

  「それもそうだな。なんで、ポルが来たんだ?」

  「ペルは、心臓が弱いんです。だから、動きたくても、こんな事、出来ないんです」

ポルの表情は、悲しくて、辛そうだった。
ポルの話を聞き、三人は、何も言えなくなった。

  「バルマニオは、化け物の対策を考えないのか?」

ポルは、首を振った。

  「戦う人は?」

  「みんな、戦い方を知らないんです」

  「どうしてですか?」

  「バルマニオは、山が多い大陸だ。山に隠れてしまえば、それで済むからだろ?」

恵まれた大地が、人々から戦い方を失わせ、対抗する術を知らない。
それは、人として、良い事かもしれないが、何かを守る為には、必要な事なのかもしれない。

  「でも、中には、武器を手に取り、戦おうとする人もいるんです。私も出来るなら、戦いたいです」

  「戦い方を知らないのに、どう戦うの?」

  「教えてもらいます」

  「でも、今の話だと、それを教える人が、いるように思えません」

  「それは、そうですが…」

  「戦い方も知らない。教えられる人もいない。それじゃ、どうにもならないわよ?」

黙って、下を向いてしまったポルを見て、ティーキと遥は、バイオレンスに振り返った。

  「どうしますか?」

  「どうにもならんな」

  「なんかないの?」

バイオレンスは、少しだけ、考えてからポルに視線を向けた。

  「耐える自信は?」

  「あります」

  「どんなに辛くても?」

  「頑張ります」

  「それじゃ、話にならないわ」

遥の言葉に、ポルの顔が曇った。

   「やるか。やらないか。お二人が、言いたいのは、そうゆう事です」

ティーキの言葉で、ポルは、固まってしまい、部屋の中に沈黙が流れた。

  「明日の任務に同行させるか」

バイオレンスの判断にティーキと遥が、小さく頷くと、ポルは、驚いたように、顔を上げた。

  「遥。今日は、俺の部屋で寝ろ」

  「アナタは?」

  「俺は、ティーキの部屋で寝る」

  「もしかして、外で寝ろって言いますか?」

  「さっき、言ったろ」

  「イヤですよ!!アルカの夜は、寒いんですから、死んじゃいますよ!!」

  「大丈夫よ?骨は、拾ってあげるから」

  「そんなぁ~~~」

ポルは、三人が騒ぎながら、ドアに向かうのをじっと見つめていた。

  「何してんの?早く来なさい」

  「はっはい!!」

嬉しそうに微笑みながら、三人の後を追って、ポルも大広間を出た。
遥の部屋に入り、ベットに横になると、初めての戦いに、淡い期待を抱きながら、静かに目を閉じた。
バイオレンスのベットに入った遥は、溜め息を吐いて、目を閉じて、無理矢理、寝付こうとした。
そして、その頃、ティーキの部屋では、バイオレンスとティーキが、ベットの取り合いをしていた。

  「お願いですから、ベットで寝かせて下さい」

  「上官に床で寝ろって言うのか?」

  「可愛い、有能な部下を床で寝かせて、明日の任務に支障が出たら、どうするんですか?」

  「俺の思考が、回らなくなったら、どうするんだ?」

  「遥さんに、間違って発砲したら、どうするんですか?」

  「遥を野放しにするのか?」

そんな醜い言い合いは、果てしなく続いたが、最後には、ティーキが根負けして、毛布にくるまると、床に寝転び、バイオレンスは、悠々自適に、ベットに寝転ぶと、お互いの寝息が部屋を満たしていった。
次の日の朝。
バイオレンスとポルは、スッキリした顔をしていたが、遥とティーキは、眠そうに瞼を擦った。
バイオレンスとティーキが、それぞれのバギーに跨がり、サイドカーにポルを乗せ、遥は、ティーキの後ろに跨がると、サンプル採取に向かった。
初めて見る荒野に、ポルは、流れる景色をただ、黙って見つめた。

  「おい。座ってろ」

  「あ。すみません」

時折、身を乗り出そうとするポルをバイオレンスが、注意していた。

  「元気ね」

  「そうですね」

そんな二人を見て、ティーキと遥は、苦笑いした。
いつもように、バギーを隠し、小高い所に登り、スケルトンの群れを見付け、それぞれ、位置に着いたり、武器の準備を始めた。
ポルは、バイオレンスと一緒に、岩影にいた。

  「一応、これを持ってろ」 

ポルに槍を渡し、岩影から、バイオレンスも、スケルトンたちに視線を向けた。
スケルトンの群れは、ドンドン進んでいく。
その時、銃声と共に、中央のスケルトンから、血飛沫が上がった。
その光景に、ポルが驚いていると、向かい側の岩影から、遥が飛び出し、スケルトンたちを次々に、切り裂いていく。
大地を汚す血溜まり。
風に溶ける鉄の臭い。
何度も聞こえる銃声。
そのどれもが、ポルにとって、壮絶だった。
口を手で覆い、ポルは、長い髪を揺らし、汚れたマントをなびかせ、不気味に笑う遥を見つめた。
そんなポルを横目で、バイオレンスは、横目で見下ろしていた。
動かなくなるスケルトンが、遥の足元に増えていき、全てのスケルトンが、完全に動かなくなると、乾いた風が、辺りに吹き抜けた。
遥の所に、ティーキが走り寄ると、バイオレンスも岩影から歩き出し、ポルも慌てて、その後を追った。
遥に近付くにつれ、鉄の臭いが濃くなる。

  「今日もハデにやったな」

  「そうかしら?最近は、ティーキの方が数が多いと思うわよ?」

  「そんなでもないですよ?」

  「まぁいい。サンプル採取するぞ」

  「じゃ、バギー取ってくるわ」

  「ティーキも行け」

  「はい」

ティーキと遥が、バギーの方に走り出すと、バイオレンスは、サンプル採取を始め、ポルは、ただ、槍を抱えて、その光景を見つめていた。

  「これが戦いだ」

呆然としていポルに、目もくれず、バイオレンスは、サンプル採取を続けた。

  「戦うと言う事は、“命”を奪う。“自然”を汚す。戦いを知らず、“自然”を守り、“命”を育んできたバルマニオの人間に、それが出来るか?」

バイオレンスの問いに、ポルは、何も答えられなかった。

  「戦わなければ、救われない命もあり、戦えば、失われる命もある。その二つを突き付けられたら、君は、どちらを選ぶ?」

サンプルをポーチに仕舞い、立ち上がったバイオレンスは、ただ、乾いた風に吹かれ、大地に立ち尽くすポルに、向き直った。

  「“頑張る”だけじゃ、何も守れやしないぞ」

ポルは、その時、自分の考えの甘さを知った。

  『それじゃ、話にならないわ』

今になって、遥の言葉が、深く突き刺さる。
ポルは、自分の浅はかな考えと、無力さに、どうしようもない程、自己嫌悪に陥っていた。
初めて目の当たりした戦闘。
それの過酷さ、残酷さを知り、ポルの中に迷いが生まれた。
自分も大切なモノを守りたい。
でも、戦えば、自然や命が失われる。
それが、イヤだった。
それから、数回、任務に同行しても、ポルの迷いは、消えなかった。
そして、何も決断できないまま、三日が過ぎた。
その日も、ポルは、任務に、同行しようと、屋敷を出た。

  「何してるんですか?」

ティーキと遥が、大量の荷物をバギーに、乗せていた。

  「あら。聞いてないの?」

  「何をですか?」

  「今から、バルマニオに向かうんです」

突然のバルマニオへの帰還に、ポルは、驚きで、言葉も出なかった。

  「おい。邪魔だぞ」

いつの間にか、ポルの後ろに、大きな荷物を抱えたバイオレンスが、立っていた。

  「すみません」

ポルが横にずれると、バイオレンスは、自分のバギーに、その荷物を乗せ、縄でしっかりと固定していく。

  「あの!!」

  「バルマニオから連絡が来た」

ポルを見ず、バイオレンスは、準備を進めた。

  「そんなんじゃ、分からないでしょ?ちゃんと、説明してあげなさいよ」

  「ティーキ」

  「え~僕ですか?」

  「イヤなら置いてくぞ」

  「分かりましたよ。えー。ポルさんに頼まれてから、バイオレンスさんは、密かに、バルマニオに通達を送り、昨日、その返事がありまして、バイオレンスさんが、学者たちに話すと、ポルさんを連れ、僕らも、バルマニオに同行する事が、今朝になり、学者たちから、言い渡されました」

ティーキの説明に、ポルは、バイオレンスを見たが、バイオレンスは、表情一つ変えずに、黙々と準備していた。

  「また、前回のような事は、ないでしょうね?」

  「今回は、俺が書いて、俺が送った。だから大丈夫だ」

  「でも、なんで、僕らが同行するんですか?」

  「仕方ないわよ。そう言われちゃったんだもの。どうせ、また、サンプル採取して来いとか、言われたんでしょ?」

  「いや。今回は、俺から提案した」

  「どうしてですか?」

  「戦えない女一人、海に放り出す程、俺は、落ちぶれちゃいない」

  「アナタって、バカに優しいわよね?
女にだけ」

  「紳士と言え」

  「紳士なら、僕にも優しくして下さい」

  「男は、論外だ」

  「それって、ティーキだけに言える事よね?」

  「本当ですね」

無駄話をしながら、荷物の固定を終わらせ、三人は、バギーに跨がった。

  「何してんの?早く、乗りなさい?」

そのやり取りをただ、見ているだけだったポルが、遥の声に慌てて、サイドカーに乗り込むと、バギーを走らせ、船に向かった。
途中、マーメディアンに出会い、戦闘になったが、一度、倒した事もあり、三人は、難なく、マーメディアンを倒し、船に乗り込むと、バルマニオに向けて出航した。
潮風を受けながら、進む船の甲板。
潮風に髪をなびかせながら、ポルは、ただ、海を見つめた。

  「どうしたのよ。帰れるのに、嬉しくないの?」

そんなポルに、遥が声を掛けた。

  「嬉しいです」

  「なら、なんで、そんなに落ち込んでるの?」

  「自分が情けないんです」

  「何故、そう思うの?」

  「私は、何も出来ません」

  「そんな事ないわよ。ポルは、お料理も、お裁縫も上手じゃない」

  「そんな事、誰にだって出来ますよ。遥さんだって、出来るじゃないですか」

  「私なんて、ポルの足元にも及ばないわ」

  「そんな事ないですよ。それに、遥さんは、戦えますから」

ポルの表情が、悲しそうに歪み、曇っていく。

  「戦いたいなんて、言ったけど、実際は、戦えない。そんな、私が、情けないです」

遥は、悲し気に目を細めるポルの横顔を見つめた。
そんな二人の背中をティーキとバイオレンスは、黙って見つめていた。
ティーキの時と違い、船の上には、重苦しい雰囲気が漂っていた。
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