8 / 14
七
しおりを挟む
真面目な顔をしているアスベルトを見て、モーガンが苦笑いを浮かべ始めると、騎士団長の手が、その頭に乗せられた。
「昔、サイフィスに行った事があるが、その頃のサイフィス騎士団は、強さを求める者を同士だと呼び、他国の人間も受け入れる程、貴族でありながらも、とても気さくな人達だった。だが、いつしか、貴族という身分に、自らを磨く事をやめ、騎士である誇りが失われた。あの国で、唯一、タラス公爵だけが、真の騎士と呼べよう」
モーガンが、真っ直ぐ見つめると、騎士団長は、困ったように、目尻を下げながら、瞳を細めた。
「彼に教えを願えないのかい?」
「確かに、僕が願えば、タラス公は、喜んで、その胸を貸してくれるでしょう。でも、今のサイフィスの騎士達をまとめる為、タラス公自身、とても忙しい上、その子息が、それを許さない。彼は、王子である僕を求めてる。僕自身が強くなれば、彼の思い描いている姿になることが難しくなる。彼は、弱い王を守る強い騎士の自分でいたいのです。だから、必ず、彼は、一緒に強くあろうとすることを拒む」
モーガンが顔を向けると、アスベルトは、寂しそうに瞳を細めた。
「僕は、そんなデュラベルよりも、共に強くなろうと、手を引いてくれるアスベルトを選びたい。たとえ、それが、父上の意志に背き、母上を失望させたとしても、僕は、アスが、指差してくれる方に向かう。だから、タラス公ではなく、皆さんに教えてほしい。アスが、誇っているウィルセンの指導者達から、たくさんのことを学ばせてほしい。だから、よろしくお願いします」
モーガンが頭を下げると、騎士達の瞳が、キラキラと輝いた。
「頭を上げて。そこまで言われたら、我々は、断れないよ」
モーガンが頭を上げると、騎士団長は、ニカッと歯を見せるように笑った。
「それに、坊っちゃんが、そんな風に言ってるなら、ウィルセンの誇りに懸けてやらねばな」
「やったな。ガン」
アスベルトが、肩を組むと、モーガンは、嬉しそうに、ほんのり頬を赤くしながら、ニコッと微笑んだ。
「それじゃ、充分に体を動かしたから、次は、ゆっくり、体を柔らかくしよう」
「はい」
騎士達と一緒に、柔軟運動を始めると、アスベルトよりも、柔らかいモーガンを見て、騎士団長は、顎を擦りながら、首を傾げた。
「では、次。体を解したら、剣を持って、予行練習。二人は、こちらへ」
〈キン!カン!カキィン!〉
騎士達が剣を抜いて、それぞれから、鉄のぶつかり合う音が響く中、騎士団長は、モーガンとアスベルトを手招きした。
「まず、今使ってる剣は、刃を潰しただけで、本物と全く同じ重さにしてある。真剣だと思って、扱うように」
モーガンが鞘から抜いた剣を見つめ、キラキラと瞳を輝かせた。
「これが真剣の重さなんだ」
「へ?ガンって、真剣触ったことないの?」
「ないよ」
「ウソだ~。いつも腰に下げてるでしょ」
「あれは飾り。形だけでもって、お祖母様がくれたんだよ」
「それは難儀で」
「僕が真剣を持っても、意味がないですから」
「それって、王室として、どうなのって話なんだけど」
「サイフィスでは、子供に剣を贈ると、後継者として認めたってことになるんだよ。デュラベルの剣も、勝手に自分で買ったやつで、タラス公からは贈られてないんだ」
「それ、ダメなんじゃないの?」
「本当はね?でも、デュラベルは、誰の言うことも聞かないし、決めたら反発してでも、突き通すから」
「我儘放題な愚息ってところか。それでよく、騎士になろうとしてるもんだ」
「彼は、ただタラス公の後を継ぐのは、自分だと思ってるからでしょう」
「なんとも単純」
「アスなら分かるでしょ?周りが言うから、そうなんだって」
「そうなんだよなぁ。ほんと、何も考えてない感じ」
「そういえば、一つ、お聞きしたいですが」
「何か?」
「前に、タラス公が、騎士の後継者は、必ずしも、血族である必要性はないと言ってたんですが」
「うむ。確かに、一昔前までは、騎士とは、家系や血筋にこだわらず、その素質で選ばれていたが、門家を持ち、貴族として扱われるようになってからは、一応、子息令嬢から選ぶようになったのだよ」
「では、もし、騎士団の中で、素質を持った者が現れたとしたら?」
「その時は、養子として迎え入れ、後継者として据えるのみだ」
「なるほど。そうすれば、一応、門家の人間になるから、後継者として認められるんですね?」
「その通り。騎士とは、元々貴族ではなく、実力と素質を持った個人の事で、それらが集まったのが騎士団と呼ばれるのだ」
モーガンが、何度も頷くと、騎士団長は、困ったように、眉尻を下げた。
「サイフィスでは、そんな初歩的な歴史さえ語らないのかい?」
「全く。僕を教えていた人は、これをやれ。あれをしてみろ。これをやってみろ。って感じで、歴史や剣のことも教えてくれませんでした」
「そいつ、ほんとにクズだな」
アスベルトが怒ったように、眉尻を上げると、モーガンは、苦笑いを浮かべ、騎士団長は、大きなため息をついた。
「だから、あんな体に負担が掛かっていたのか。どうしようもないなぁ」
「それでも、ガンは、やろうとしてたんだから、凄いよ」
「そんなことは」
「いや。大いにある。まず、何の説明もせずに、物事を動かそうとすれば、必ず失敗する。今の王子の状態を戦争で例えれば、事前になんの説明もせず、お前はここでこれを、お前はあっちでこう、お前はそこでこれをしろ。と言うだけで、それ以外、何も指示が出されていない事になる。そんな状態で、状況を把握し、どんな作戦なのか分からなければ、統制が取れず、必ず綻びが生まれる。多少、持ち堪えたとしても、長くは続かない。疲弊した騎士に、隙が生まれた瞬間、敵に攻められ敗北する。だが、きちんと内容を知れば、どんな時に、その行動をするのか明確になり、統制を取ることが出来る。そして、騎士は、正確に動けるようになり、勝利に導けるようになるのだよ」
「そうか。言われたからって、知らないことをやって、失敗したら、甚大な被害が出てしまうんですね?」
「そう。ガンは、分からないのをやろうとして、上手くならないからって、無理をしてたから、体の負担になってたんだよ。それを体力がないと思ってただけだった」
「つまり、やり方や扱い方を覚えてしまえば、今まで出来なかった事も、出来るようになる可能性がある」
「これは、ガンが悪いんじゃなくて、指示を出すほう、つまり、教えるほうが悪いんだよ」
「教えるのが下手なヤツ程、その実力は、底辺に近いものだ」
「何故ですか?」
「教えるのが上手いってことは、それを熟知してるからだよ」
「そっか。完全に理解してるから、自分でもできるし、相手に伝えることもできるんだね?」
「そうゆうこと。つまり、ガンに教えてたのは、ウィルセンでいえば、騎士団に入ったばかりの見習い騎士って感じ」
「まぁ、ウィルセンの見習いでも、そんな教え方はせんがね。さて、そろそろ、説明の続きをしても?」
「あ。すみません。お願いします」
苦笑いしながら、モーガンが頭を掻くと、騎士団長は、ニコッと笑った。
「それでは、まず、この重さを振れるようになるところからにしよう。これは、知ってるかい?」
「打ち込み人形ですよね?」
「そう。では、剣技は気にせず、打ち込んでみよう。まずは、坊っちゃんがお手本を」
「は~い」
〈トン…ドン!ドン!ドン!〉
剣を構えて、アスベルトが打ち込み始めると、モーガンは、首を傾げた。
「アスって、いつも、片手じゃなかったっけ?」
「無理」
更に、首を傾げたモーガンを見下ろし、騎士団長は、クスッと笑った、
「ちょっと触ってみよう」
騎士団長が指差した人形に近付き、そっと触れたモーガンは、瞳を大きく開いた。
「…柔らかい」
「そう。ウィルセンの打ち込み人形は、異国から取り入れたバブラという、とても柔軟性のある植物を使っている。本体を柔らかくする事で、植物に与える衝撃を小さくしてあるが、反動で、人形が戻って来るようになっているのだよ」
モーガンが人形を押すと、すぐに、元の位置まで、静かに戻った。
「大きな力を加えれば加える程、大きく撓り、その分、反動も大きくなり、速さも増す。片手でやろうもんなら、人形に叩かれてしまう」
「なるほど。力と振る速さを一定にして、戻った人形に打ち込まないと、自分に当たるってことですね?」
「その通り、だから、坊っちゃんでも、打ち込みは両手なんだ」
ひたすら打ち込んでるアスベルトを見て、モーガンは、剣を握る手に力を入れた。
「最初は、軽く打ち込んで、戻って来た人形を打ち返す程度でいい。やってみるかい?」
「はい」
〈トン…トン、トン、ドン!〉
モーガンが剣を構え、打ち込みを始めると、騎士団長は、徐々に、瞳を大きく開いた。
「…うそだろ」
一心不乱に剣を振るモーガンは、アスベルトと変わりない速さで、騎士達も、手を止めて、その様子に見入った。
「あの子、本当は、凄く強いんじゃないか?」
ただ夢中になって、打ち込む二人の背中を見つめ、騎士団長は、頬をヒクヒクと引き攣らせながら、苦笑いを浮かべた。
〈ゴン!〉
「ったぁ~…だぁーーー!疲れた~。腕、しんどい」
アスベルトが剣で人形を受け止めて、手を振る横で、モーガンは、ただ真っ直ぐ前を見つめて、剣を振るい続けた。
「ガン?おーい。ガン」
「坊っちゃん、彼は、今、自分の世界に入ってるようなので、呼んでも無駄ですよ」
「でも、そろそろ止めないとでしょ」
「あれを止めれるなら、もう止めてますよ」
取り付く暇もない程、モーガンが、剣を振るのを見て、アスベルトは、困ったように目尻を下げて笑った。
「坊っちゃん、その子、どこで拾って来たんだよ」
「ガンは、サイフィスの王子だからな」
「そこって、坊っちゃんが、今行ってる国だっけか?」
「そうだよ」
「こんな王子いるなんて、聞いた事ないぞ」
「僕だって、初めて知ったよ」
「友達なのにか?」
「だって、普段のガンって、ちょっとオドオドしてる感じだから」
「坊っちゃん、それは、彼の育った環境の問題で、彼自身ではありませんよ」
「あ~なるほどね?」
〈ドンドンドンドン〉
打ち込み人形が、大きく傾き、湾曲するように戻ると、モーガンは、片手で打ち返した。
「…ねぇ、グレームス卿、国王は、ガンの実力を知ってると思う?」
「さぁ?ただ話を聞く限りでは、何も知らないでしょうね」
「やっぱり?王妃は、どうなのかな?」
「知っていても、見ないようにしてるのかもしれませんね。もしかしたら、彼の実力を隠したのは、王妃かもしれません」
「内情の問題ってやつ?」
「えぇ。多分、王妃は、国の為、自分の為に、王子を守りたいのでしょう」
「王子さえ生きてれば、たとえ、内情が崩壊しても、大丈夫って感じ?」
「そうかもしれませんね。ただ、私達は、こうして、憶測や想像をするしか出来ませんから、真実は、当事者しか分かりませんよ」
「つくづく、ガンは、かわいそうだね」
「しかし、坊っちゃんと出会った事で、彼は、大きく変われると思いますよ?」
「もし、ガンが、王になったら、あの国は、きっと安泰だよね?」
「そうですね。ですが、彼が、王になるには、多くの敵を倒さなればなりません。果たして、あの子に、それが出来ますかね?」
「大丈夫。ガンならできるよ。僕が、保証する」
「そうですか。では、私も、あの子が、大空を羽ばたける翼を得られるよう、尽力致しましょう」
「よろしくね。グレームス卿」
〈バキン!〉
剣を振り抜くと、人形が、根本から傾いてしまい、モーガンは、肩で息をしながら、それを見下ろした。
「あ~あ。やっちゃった」
「っ!ごめんなさい!」
「大丈夫だよ」
慌てて振り返ったモーガンに向かって、アスベルトが、ニカッと歯を見せて笑った。
「僕も、何回かやったことあるから」
「でも、僕、壊しちゃ」
「こんなのしょっちゅうだから、気にすんなよ」
騎士が、地面に刺さってた部分を引き抜き、取り出した杭を割って、モーガンに、中身を見せた。
「こんな風に、杭の中に、人形の先端を入れ込んで、地面に刺してるだけなんだよ。だから、この接合部ってのは壊れやすいんだ」
「しかも、壊れるのは、大体、杭の方で、人形自体は無事なのさ」
「だから、杭さえ直せば、人形は、また使えるから大丈夫」
「でも、僕」
「しかし、初めてで、ここまでやれるなんてなぁ?」
「凄い事だよな?」
「坊っちゃんでさえ、出来なかったのにな?」
騎士達が、ニカッと笑うのを見つめて、モーガンは、瞳を大きく開いた。
「だから、年が違うって」
「そういや、あの時の坊っちゃんは、何回も人形がぶつかってたなぁ」
「そうそう。それで、ぶつかる度、転げ回ってたよな?」
「頭に命中した時なんか、ギャーって大泣」
「そこまで言うな!」
「まだ幼かったのですから、そんなもんでしょう」
「だからって、そんな言わな」
「年齢の違いを出したのは、坊っちゃんでしょうに」
「それは、お前らが」
「つい、この前でしょう?やっと、折れるようになったの」
「それを言うなって」
「やり続けてれば、いつかは出来ますよ」
「そりゃ」
「それを初めてなのに、出来ちゃったんですよ?」
「だから、それは」
「坊っちゃん」
「…ガンは、凄いよ」
頬を赤くするアスベルトを見つめ、モーガンの肩から力が抜けると、騎士達は、ニコニコと笑った。
「でも!それとこれと話が別だからな!」
「事実を言っただけでしょうが」
「今言うなよ!せめて、僕がいないときに」
「坊っちゃんが居なかったら、この子も居ないでしょうが」
「もう!なんなんだよ!みんなして!」
ガハハハと、豪快な笑い声が響くと、モーガンも、クスッと笑った。
「ガン、あんまり笑うと連れて来ないぞ」
「そしたら、ロムさん達を頼るよ」
「裏切るのか」
「裏切らないよ?アスに、ダメって言われたから、なんとか、連れて来てってもらえるようにしてほしいって、相談するだけ」
「お前さ~、また僕が言われるだろ?」
「じゃ、これからも、たまに連れて来てよ。ね?」
「断れねぇじゃん!」
プクッと頬を膨らませるアスベルトに、モーガンが、アハハと大声で笑うと、騎士達は、ニコニコと、嬉しそうに微笑んだ。
「それじゃ、次に移ろう。皆は、各自、通常訓練を行うように。さて、君は、魔法を使えるのかい?」
「あ。グレームス卿、実は、サイフィスとウィルセンだと、魔力の扱い方が、かなり違うんだ」
「サイフィスだと、どのように使うんだい?」
「制御して使う感じだよな?」
「そう。必要な時に、必要な分だけを使う感じで」
「制御して使うとなると、相当、神経を使うな。それに、まだ未熟な体で、そのやり方は、かなりの負担になる」
「どうしてですか?」
「まず、魔法の原理は分かるかな?」
「魔法とは、自分の魔力で、術式を展開させることで、想像物を具現化させる方法」
「その通り」
アスベルトの答えに、モーガンが、何度も頷くと、騎士団長は、優しく微笑んだ。
「更に、術式というのは、法則に添った形になっている為、基礎的初級魔法でも、魔力の強さによっては、最大魔法を超える程の効力を発揮する事もある。階級が上がれば、それだけ、術式は複雑になり、発動させる為の魔力も増える。だから、難しいと思われているが、例えば、火炎系の最大魔法を発動するには、術式の展開と魔力伝導させるのに、時間を要するが、簡単な防御魔法を大きく展開し、多くの魔力を伝導させれば、それを防ぐ事もでき、更に、基礎的攻撃魔力を複数展開し、魔力伝導させれば、相手が、次の魔法を発動させるよりも、先に、攻撃に転ずる事も出来る」
「そっか。だから、アスは、ローデンよりも、早く攻撃できたんだ」
「そう。結界は、防御としては、とても強いけど、維持するのに、結構魔力を使うんだ。僕は、騎士がするように、彼らからの攻撃を避ければいいだけだから、攻撃系の術式を複数展開させただけなんだよ」
「その上、簡単な防御魔法ならば、熟練度が上がれば、片手でも発動させられるようになる。賢者や熟練度の高い魔法使いは、杖を振らなくても、指を動かしただけで、防御魔法や初級攻撃魔法を発動させるだろ?何故だと思う?」
「…術式、伝導、熟練…そっか。別に杖を使わなくても、術式を展開することも、魔力伝導させることも出来るから、初級魔法で、杖を使う必要がないんだ」
モーガンの瞳が、キラキラと輝くと、騎士団長とアスベルトは、ニコッと笑った。
「そう。つまり、彼らにとって、初級魔法や中級魔法で、杖を振るというのは、無駄な行動なのだよ」
「指を鳴らしたり、ちょっと動かすだけで、術式を展開するには、魔力伝導率をあげなきゃいけない。制御していたら、魔力の伝導率が悪くなる」
「だから、ウィルセンでは、魔力が覚醒すると、外に流すんだね?魔力伝導が、自然に出来るように」
「その通り。更に、体内から生まれる魔力を内に留めていたら、自分の限界を見誤る可能性もある。そうなれば、人は、自分の命さえ、削ってでも、限界以上の魔法を発動させようとしてしまう」
「アスと喧嘩した時のローデンだね?」
「そう。あの時のアイツは、魔力が底を突いたから、ぶっ倒れたけど、あのまま、使い続けてたら、確実に死んでたね」
「自分の限界を知り、一定量を放出させ、体内の魔力を細部まで巡回させる事で、保有量を増やす事も可能になる。そして、常に巡回させてる事によって、常に新しい魔力が生まれる事で、すんなり使う事も出来るようになる」
「例えば、ずっと同じ容れ物に入れた水は、時間が経つと、濁って汚くなって、容れ物から出しにくくなるでしょ?それを出すのに、容れ物を振ったり、叩いたり、壊したり、新しい水を入れたりするよね?魔力も同じなんだ。出にくくなった魔力は、汚れた水と同じで、それを使うとなると、自分の体に負担を掛けて、押し出す形になるんだよ」
首を傾げたモーガンが、何度も頷くと、二人は、苦笑いを浮かべた。
「そんな魔力だと、伝導させるのにも、時間が掛かっちゃうんだね?」
「そう。ガンが、魔法が上手く使えないのは、濁った魔力を使おうとしてるからで、決して、出来ないんじゃないんだよ」
「そっか…そうだったんだ」
何度も頷いて、指で顎を撫でるモーガンを見て、アスベルトは、ニカッと笑った。
「さっき、魔力交換したから、今なら、初級魔法くらいなら、すんなり使えると思うよ?」
アスベルトが、空を指差すと、モーガンは、自分の手のひらを見つめてから、空に視線を向けた。
手のひらを空に向け、モーガンが、真っ直ぐ伸ばした先から、人一人分の光の壁が浮かび上がった。
瞳を大きく開いて、浮かぶ光の壁を見つめたモーガンは、キラキラと瞳を輝かせた。
「…坊っちゃん、本当に、なんて化け物連れて来たんですか」
「ガンが、こんなに出来るなんて、知らなかったんだから、仕方ないでしょ」
訓練所の上に、ハッキリと、青白い光を放ちながら、大きな防御魔法を広げたモーガンは、それをボーっと見つめていた。
「…まずいな。また、自分の世界に入ってしまったな」
「ガン!やめろ!ガン!ガン!!」
騎士団長に腕を掴まれ、驚いた顔をして、モーガンが、視線を下げると、スーッと青白い光が消えた。
「僕、いま…」
フラッと体が傾いたモーガンを支えながら、騎士団長は、困ったように、目尻を下げた。
「ガン!」
「だい、じょうぶだよ。ちょっと、目が回っただけ、だから」
弱々しく、眉尻を下げて、苦笑いを浮かべたモーガンの顔は、血の気が引いたように、青白くなっていた。
「アホか!一気に使うなよ!まだ体が慣れてないんだから!」
「とりあえず、少し補給した方がいいな」
「そうだね。ガン、いいか?どこでもいいから、周りにある魔力を拾うんだ」
「…拾う?」
「なんでもいいよ。落ちた林檎とか、風に漂う布とか、何でもいいから、それを手にする想像して」
モーガンが、静かに瞳を閉じると、少しずつ、頬に赤みが戻り始めた。
「よし。もういいぞ」
スッと瞳を開き、アスベルトに視線を向けたモーガンは、瞳を大きく開いた。
「…ねぇ、アス」
「今度は、どうしたの?」
「今、アスの周りが、凄く、キラキラ輝いて、見えるんだけど」
「…は?」
一瞬、シーンと静まり返り、モーガンが、首を傾げると、騎士団長や騎士達は、アハハと大きな声で笑い、アスベルトは、顔を真っ赤にして頭を掻いた。
「ガン、僕だけじゃなくて、ゆっくり、視線を動かしてみな」
モーガンが、視線を動かすと、零れ落ちそうな程、瞳を大きく開き、空に顔を向けた。
「そのキラキラしてんのが魔力。人の周りには、いっぱい見えるでしょ?」
「アスと団長さんの周りが、一番、キラキラしてる」
「それは、魔力の放出量の違いだ。保有量が多ければ、放出量も増やす」
「前に、リリに、説明したこと覚えてる?人の魔力は、強大になりやすいっての」
「…魔力、強大…実り、魚、家畜…あ。そっか、常に放出してれば、自然に、魔力が馴染んで、それらに、少しずつ、魔力を与えることが出来るんだね?」
「そう。だから、保有量が多い人は、少し多めに放出してるんだよ」
モーガンは、キョロキョロと、周りを見渡して、首を傾げた。
「この周りに見えるのは?」
「…ガン、周りにも見えんの?」
モーガンが、不思議そうな顔をして、コクンと頷くと、アスベルトは、大きなため息をついた。
「アスは見えないの?」
「見えるよ?ガン、周りにあるキラキラは、どんな感じ?」
「えっと…地面の近くとか、木の近くとか、風が吹くほうに流れて行くのとか、空に浮いてるのとか、小さいキラキラが、周りにいっぱいある感じ」
「ガンってさ、本当は、僕と同じくらい強いんじゃないの?」
モーガンが、ブンブンと首を振ると、騎士団長が、大きなため息をついた。
「指導者、もしくは、国が違っていたら、君は、坊っちゃんよりも、優れた人になっていたかもしれない」
モーガンが、更に、コテンと首を傾げると、アスベルトは、困ったように、目尻を下げて苦笑いした。
「前に、リリに話してたでしょ?生きていれば、誰もが、魔力を持ってるんだよって」
「…もしかして、このキラキラが、自然の魔力?」
「そうだよ。さっき、目が回ってたのは、一気に魔力を放出したせいで、ガンの保有する魔力が減ったからなんだよ。それを周りにある魔力を吸収、拾ったことで、補充したから、少し楽になったでしょ?」
「そういえば…さっきより、体が軽く感じる」
「自分の魔力を放出して、自然の魔力を補充したから、ガンの体の中が、綺麗になったんだよ」
「自然の魔力には、浄化の力があるのだよ。それを体内で回す事で、浄化されて綺麗になるんだ。そのおかげで、細部にまで、魔力を巡らせる事が出来たから、軽くなったように感じるのだ」
「そっか。リリアンナが、あったかくて、体が軽くなったら、元気になったって言ってたよね?凄いな。こんなに違うんだね。今なら、なんでもできそうな気がする」
「さっきまで、フラフラしてたんだから、調子に乗るなよ」
「でも、これ、凄く楽しい」
モーガンが、キラキラと瞳を輝かせて、嬉しそうに笑うと、アスベルトは、鼻で、小さなため息をついた。
「楽しいのは、分かったから無理するなよ。それに、自分の世界に入らないでくれるかな?結構、肝が冷えるんだけど」
「ごめん。気を付けるよ」
モーガンが、シュンと肩を落とすと、アスベルトは、困ったように、目尻を下げて、優しく微笑んだ。
「んで?どうする?続きする?」
「やる!やりたい!」
ほんのりと頬を赤くしながら、モーガンが、嬉しそうに、明るい笑顔を浮かべると、アスベルトは、騎士団長に視線を向けた。
「一つ確認だが、君は、どこまで習ってたんだい?」
「一応、この前、中級の風系攻撃魔法を習いました」
「なら、あの的に向かって、放ってみてくれるかい?」
「はい」
モーガンは、手のひらを向けようとしたが、ジーッと的を見つめて、顔の横で、指を小さく振った。
〈ビュン…パキ…ゴトン!〉
風の音だけが響くと、的にヒビが入り、大きな音を発てながら、地面に落ちた。
「…あのさ、指だけで出来るなんて、聞いてないんだけど」
「僕も、今、初めてやってみたんだけど、ちょっとビックリ」
驚いた顔をしてるモーガンを見て、アスベルトは、パチパチと何度も瞬きをしてから、アハハと大きな声で、騎士達と一緒に笑った。
「自分でやっててビックリすんなよ」
「だって、出来ると思ってなかったから」
「なら、なんでやったんだよ」
「なんとなく、やってみようかなって」
「天才か」
「なのかな?」
大きな声で笑う二人を見つめ、騎士達も、ニコニコと微笑んでいた。
「これ程の事が出来るなら、主剣魔法をやってみてもいいかもな」
「主剣魔法って、アスがやってたやつだよね?」
「あぁ、んとね。正確には、剣を杖の変わりにするんだ。主に、魔剣士が使う魔法なんだよ」
また、モーガンの瞳が、キラキラと輝き始めると、騎士団長の手が頭に乗せられた。
「その前に、さっきみたいにならないように、周囲と魔力巡回をしようか」
モーガンは、唇に指を当て、アスベルトの足元に視線を止め、ジーッと見つめると、腕を下ろし、静かに瞳を閉じた。
「…坊っちゃん」
「僕は、何も悪くない」
木々の葉が擦れ合って、サワサワと、心地良い音が鳴り、モーガンの周りで、風が優しく舞い上がり、サラサラと髪が揺れた。
「…気持ちいい…」
頬の赤みが増し、空に顔を向けて、優しく微笑みながら、薄く瞳を開けたモーガンを包むように、優しく風が吹き抜けた。
風が落ち着き、モーガンが、アスベルトに視線を向けると、困ったような、嬉しそうな、複雑な笑みを浮かべた。
「ガンって、ほんと、周りの人に恵まれなかったんだね」
「そうだね」
モーガンが、寂しそうに瞳を細めると、騎士達は、悲しそうに目尻を下げた。
「でも、僕、それに感謝してるよ」
「なんでよ。こんなに出来るのに、今まで」
「今までは、凄く苦しくて、辛くて、何もかも諦めてた。やめてしまいたいともって思ってたけど、アスに出会えた。人の温かさも、自然の優しさも、ウィルセンの凄さも。全部、アスと出会えたから、友達になれたから、知ることができた」
ニコッと笑ったモーガンを見て、アスベルトは、眉尻を下げて、唇に力を入れた。
「もし、サイフィスが普通の国で、僕も、普通の王子だったら、アスと出会えなかったと思う。サイフィスが、神殿や神託を頼るような国だから、傲慢な貴族が多くいたから、国王が何も見ない人だから、僕は、アスやみんなに出会えて、たくさんのことを学んで、色んなことを感じれた。今の僕は人形じゃない。一人の人なんだって、改めて思えるよ」
悲しそうな顔をするアスベルトを見つめて、モーガンは、パーっと明るい笑顔を浮かべて、両手を広げた。
「だから、僕は、みんなに出会わせてくれた人達に、僕を導いてくれた人達に、感謝してるんだ。今までありがとう。お疲れ様。これからは、僕が、サイフィスをウィルセンのような国にする為に導く。そう決めたんだ」
「…ガンが治めたら、サイフィスは、きっといい国になるよ」
二人が、ニコッと笑い合うのを見つめ、騎士団は、優しい微笑みを浮かべた。
「そうかな?」
「できるできる。だって、ガンは、僕の友達だから」
「ありがとう…隣に、キアナ皇女がいてくれたら、もっと、嬉しいんだけど」
頬をポリポリと掻き、モーガンが、恥ずかしそうに、へニャっと笑うと、アスベルトは、ニカッと笑った。
「まぁ、それは、これからのガン次第って感じじゃない?」
「そうだね。アスもだもんね」
「そうだよね~。でも、僕は、あきらめないよ」
「坊っちゃんより、王子の方が、早いかもしれませんけどね」
「それ言わないでよ」
困ったように、頭を掻くアスベルトとケタケタと大きな声で笑うモーガンを囲んで、騎士達も、ゲラゲラと笑っているのを城の二階から、皇女と皇后が見下ろしていた。
「…どう?キア」
「私は、いいと思うよ?素直で、努力家で。何より、凄く優しそう」
騎士達に混ざって、アスベルトと剣を持って、夢中になってるモーガンを見つめて、皇女が、嬉しそうに微笑むと、皇后も、嬉しそうに、瞳を細めた。
「彼なら、キアの全部を大事にしてくれそうよね」
「分かる。私が大切にしてるの全部、大事にして、ぜぇ~んぶ、まるっと、守ってくれそう」
「気に入った?」
皇女が、皇后に顔を向けて、ニコッと笑った。
「凄く」
「そう。なら、キアは、逃さないようにしなきゃ。ね?」
「分かってるよ」
窓辺に頬杖を着いて、皇女が、モーガンを見下ろすと、皇后も、同じように頬杖を着いて、訓練所を見下ろした。
「…彼、クッキーとか好きかな?」
「キアからなら、なんでも好きになってくれるわよ」
「そっか。いっぱい作ろ」
「ドルには、バレないようにね?」
「分かってるよ。パパって、本当に過保護だよね」
「仕方ないのよ。父親にとっては、娘って特別なのよ?」
「でもさ?私は、パパとママの実子じゃないのよ?」
「赤ちゃんの時から一緒だったんだから、実子じゃなくても、キアは、ドルにとって、大事な娘なのよ」
「そんなもんなの?」
「そうよ?それにね、アスは、男の子だから、多少、手荒に扱っても大丈夫だと思ってたみたいだけど、キアの時は、抱っこするだけでも、オドオドしてたのよ」
「そんな?」
「もう、こっちが呆れるくらいよ。アスには、ベタベタ触ってた人が、キアに触る時は、オドオドしながら、そっとそっとって感じで。キアが、ドルの指を掴んだ時なんか、膝から崩れて、プルプルしながら、ニヤニヤしちゃって」
「凄く怖いんだけど」
「ね?キアが、お嫁に行く時、この人、崩壊するんじゃない?って思ったくらいよ」
「その時は、ママに任せるからね?」
「まぁ、頑張ってはみるけど」
「そうだ。もう一人、娘ができれば大丈夫じゃない?」
「そうねぇ」
「ママ、もう一人作ろ」
「でも、こればっかりは、授かりものだからねぇ」
「大丈夫。ママならできる」
両手に拳を握りながら、皇女が、キラキラと、期待の眼差しを向けると、皇后は、フッと鼻で小さなため息をついて、小さく微笑んだ。
「仕方ないわね。キアの為に、ちょっと頑張ってみるけど、あまり、期待しないでいてよ?」
「は~い。それじゃ、私、ちょっと、お菓子作ってくるねぇ」
ニコニコと微笑みながら、手を振って、皇女が出て行くと、皇后は、小さく微笑んで、腹を擦った。
「…もう少し、黙ってた方が良さそうね」
肩越しに、チラッと訓練所に視線を向けてから、皇后は、机に向かい、子守唄を歌いながら、書類を確認し始めた。
皇后が、静かに歌う子守唄を聞きながら、皇女は、調理場に向かって、小さく、嬉しそうな微笑みを浮かべた。
「…早く会いたいなぁ」
ニコニコと微笑み、調理場の扉を開けて、皇女も、子守唄を口ずさみながら準備した。
〈カシャカシャカシャ〉
扉の隙間から、子守唄を歌いながら、楽しそうに料理する皇女を見て、メイド達は、静かにクスッと笑い合い、そっと扉を閉めた。
それぞれが、それぞれの時間を過ごし、夕暮れが近付き始めると、モーガンは、アスベルトと一緒に部屋に向かった。
「…ねぇ、アス、明日の予定は?」
「とりあえず、今日と変わらないかな」
「じゃ、明日は、朝食も一緒していい?」
「いいよ?ロム達にも伝えておくから」
〈ガチャ〉
「お帰りなさいませ。坊っちゃん、モーガン様、こちらへ、どうぞ」
ニコニコと微笑む執事と侍女に、二人は、視線を合わせて、首を傾げながらも、引かれた椅子に座った。
「お嬢様より、モーガン様に、差し入れでございます」
ケーキやクッキーなどが、テーブルに置かれると、その甘い香りに、モーガンは、瞳を大きく開きながらも、キラキラと輝かせた。
「坊っちゃんにも、ついでに、どうぞ。との事でした」
「ついでって、僕の扱い雑じゃない?」
「お嬢様は、頑張ってるモーガン様にと、お作りになってましたからね」
「本当なら、坊っちゃんではなく、モーガン様にお渡ししたかったでしょうね」
「しかし、ドルト様の事もございますから、仕方なかったのでしょう」
湯気の上がるカップが、それぞれの手元に置かれると、モーガンは、ボーっと視線を上げて、執事を見上げた。
「皇女が、僕に?」
「はい。張り切って作っておりましたよ」
「そう、なんだ」
頬を赤くしながら、嬉しそうに微笑んだモーガンを見つめて、アスベルトは、唇を尖らせた。
「いいなぁ。ガンばっか」
「今度、お茶会でもする?」
「僕も、リリアンナの手料理食べたい」
「そこは、僕にも」
「ガンとリリが、兄妹だったら良かったのに」
「頼んでみようか?」
「それはそれで、虚しいんだけど」
「…なら、アスから贈り物してみたら?」
アスベルトが、カップを持ったまま、首を傾げると、モーガンは、ニコッと笑った。
「リリアンナなら、贈り物したら、必ず、お返しを考えるはずだから」
ニコニコと微笑みながら、一口大のタルトを摘んだモーガンを見つめて、アスベルトは、カップに口を付けた。
「ただ、リリアンナは、料理ってしたことないと思うから、最初は、期待しないほうがいいかな。ん~。ベリーの酸っぱさにクリームが最高。凄く美味しい」
モーガンが、フニャと笑いながら、タルトを頬張り、スッとカップを傾けると、ニコッと微笑んだ。
「この紅茶は、タルトの香りとも、良く合うね。なんか、疲れてた体に染み渡る」
クッキーやショコラを口に運ぶモーガンを見つめて、侍女と執事が、驚いたように、瞳を大きく開いてから、嬉しそうに微笑んだ。
「お気に召されましたか?」
「凄く。クッキーとも、ショコラとも合うし、どれも凄く美味しいです」
「それ程、喜んで頂けましたら、私共も、とても嬉しゅうございます」
フフフっと笑って、ニコニコと、クッキーを頬張るモーガンを見つめて、アスベルトは、頬杖を着いた。
「そんなに美味しい?」
「美味しいよ?毎日でも食べれる」
「いつか、お会いした際には、直接、お伝え下さい。お嬢様も、きっと、お喜びになりますので」
「もちろん。でも、会えるようになるまでは、伝えてもらえますか?美味しいお菓子をありがとうございます。また作って下さい。って」
明るい笑顔を向けると、侍女は、ほんのり頬を赤くしながら、嬉しそうに瞳を細めた。
「もちろん、お伝えさせて頂きます」
「ところで、キアナ皇女は、お菓子とか何かを作る以外に、何か好きなことありますか?」
「そうですねぇ…綺麗なアクセサリーやお洋服も、お好きではありますが」
「…茶器とかは?」
「そういえば、最近は、ボルトラ産の銀食器を良くお使いになりますね」
「ボルトラか…なら…あそこの陶器がいいかな…」
「なに?何か贈るの?」
「当たり前でしょ?こんな美味しい、しかも、こんなに、いっぱい、お菓子を貰ったのに、お返しもしないなんて、皇女に失礼でしょ」
「そんなもん?」
「…もしかして、貰っても返さないの?」
「モーガン様、坊っちゃんは、ドルト様を見て育ちましたので、お返しの概念がございません」
モーガンが、納得したように頷くと、アスベルトは、視線を泳がせた。
「だから、皇后も、皇女も、あんなに怒ってたんだね。アス、女性から何かを受け取ったなら、ちゃんと返さないとダメなんだよ?」
「でも、父上は、母上に物を贈ってたのは、ルアンダにいる頃だけで」
「そうじゃなくて、どんなときも、気持ちが大事なんだよ。与えるだけ、贈るだけなら、誰でもできるけど、ちゃんと、気持ちを贈り合うのは、大切な人同士だからできるんだよ?」
執事と侍女が、パチパチと拍手をすると、アスベルトは、プクッと頬を膨らませた。
「昔、サイフィスに行った事があるが、その頃のサイフィス騎士団は、強さを求める者を同士だと呼び、他国の人間も受け入れる程、貴族でありながらも、とても気さくな人達だった。だが、いつしか、貴族という身分に、自らを磨く事をやめ、騎士である誇りが失われた。あの国で、唯一、タラス公爵だけが、真の騎士と呼べよう」
モーガンが、真っ直ぐ見つめると、騎士団長は、困ったように、目尻を下げながら、瞳を細めた。
「彼に教えを願えないのかい?」
「確かに、僕が願えば、タラス公は、喜んで、その胸を貸してくれるでしょう。でも、今のサイフィスの騎士達をまとめる為、タラス公自身、とても忙しい上、その子息が、それを許さない。彼は、王子である僕を求めてる。僕自身が強くなれば、彼の思い描いている姿になることが難しくなる。彼は、弱い王を守る強い騎士の自分でいたいのです。だから、必ず、彼は、一緒に強くあろうとすることを拒む」
モーガンが顔を向けると、アスベルトは、寂しそうに瞳を細めた。
「僕は、そんなデュラベルよりも、共に強くなろうと、手を引いてくれるアスベルトを選びたい。たとえ、それが、父上の意志に背き、母上を失望させたとしても、僕は、アスが、指差してくれる方に向かう。だから、タラス公ではなく、皆さんに教えてほしい。アスが、誇っているウィルセンの指導者達から、たくさんのことを学ばせてほしい。だから、よろしくお願いします」
モーガンが頭を下げると、騎士達の瞳が、キラキラと輝いた。
「頭を上げて。そこまで言われたら、我々は、断れないよ」
モーガンが頭を上げると、騎士団長は、ニカッと歯を見せるように笑った。
「それに、坊っちゃんが、そんな風に言ってるなら、ウィルセンの誇りに懸けてやらねばな」
「やったな。ガン」
アスベルトが、肩を組むと、モーガンは、嬉しそうに、ほんのり頬を赤くしながら、ニコッと微笑んだ。
「それじゃ、充分に体を動かしたから、次は、ゆっくり、体を柔らかくしよう」
「はい」
騎士達と一緒に、柔軟運動を始めると、アスベルトよりも、柔らかいモーガンを見て、騎士団長は、顎を擦りながら、首を傾げた。
「では、次。体を解したら、剣を持って、予行練習。二人は、こちらへ」
〈キン!カン!カキィン!〉
騎士達が剣を抜いて、それぞれから、鉄のぶつかり合う音が響く中、騎士団長は、モーガンとアスベルトを手招きした。
「まず、今使ってる剣は、刃を潰しただけで、本物と全く同じ重さにしてある。真剣だと思って、扱うように」
モーガンが鞘から抜いた剣を見つめ、キラキラと瞳を輝かせた。
「これが真剣の重さなんだ」
「へ?ガンって、真剣触ったことないの?」
「ないよ」
「ウソだ~。いつも腰に下げてるでしょ」
「あれは飾り。形だけでもって、お祖母様がくれたんだよ」
「それは難儀で」
「僕が真剣を持っても、意味がないですから」
「それって、王室として、どうなのって話なんだけど」
「サイフィスでは、子供に剣を贈ると、後継者として認めたってことになるんだよ。デュラベルの剣も、勝手に自分で買ったやつで、タラス公からは贈られてないんだ」
「それ、ダメなんじゃないの?」
「本当はね?でも、デュラベルは、誰の言うことも聞かないし、決めたら反発してでも、突き通すから」
「我儘放題な愚息ってところか。それでよく、騎士になろうとしてるもんだ」
「彼は、ただタラス公の後を継ぐのは、自分だと思ってるからでしょう」
「なんとも単純」
「アスなら分かるでしょ?周りが言うから、そうなんだって」
「そうなんだよなぁ。ほんと、何も考えてない感じ」
「そういえば、一つ、お聞きしたいですが」
「何か?」
「前に、タラス公が、騎士の後継者は、必ずしも、血族である必要性はないと言ってたんですが」
「うむ。確かに、一昔前までは、騎士とは、家系や血筋にこだわらず、その素質で選ばれていたが、門家を持ち、貴族として扱われるようになってからは、一応、子息令嬢から選ぶようになったのだよ」
「では、もし、騎士団の中で、素質を持った者が現れたとしたら?」
「その時は、養子として迎え入れ、後継者として据えるのみだ」
「なるほど。そうすれば、一応、門家の人間になるから、後継者として認められるんですね?」
「その通り。騎士とは、元々貴族ではなく、実力と素質を持った個人の事で、それらが集まったのが騎士団と呼ばれるのだ」
モーガンが、何度も頷くと、騎士団長は、困ったように、眉尻を下げた。
「サイフィスでは、そんな初歩的な歴史さえ語らないのかい?」
「全く。僕を教えていた人は、これをやれ。あれをしてみろ。これをやってみろ。って感じで、歴史や剣のことも教えてくれませんでした」
「そいつ、ほんとにクズだな」
アスベルトが怒ったように、眉尻を上げると、モーガンは、苦笑いを浮かべ、騎士団長は、大きなため息をついた。
「だから、あんな体に負担が掛かっていたのか。どうしようもないなぁ」
「それでも、ガンは、やろうとしてたんだから、凄いよ」
「そんなことは」
「いや。大いにある。まず、何の説明もせずに、物事を動かそうとすれば、必ず失敗する。今の王子の状態を戦争で例えれば、事前になんの説明もせず、お前はここでこれを、お前はあっちでこう、お前はそこでこれをしろ。と言うだけで、それ以外、何も指示が出されていない事になる。そんな状態で、状況を把握し、どんな作戦なのか分からなければ、統制が取れず、必ず綻びが生まれる。多少、持ち堪えたとしても、長くは続かない。疲弊した騎士に、隙が生まれた瞬間、敵に攻められ敗北する。だが、きちんと内容を知れば、どんな時に、その行動をするのか明確になり、統制を取ることが出来る。そして、騎士は、正確に動けるようになり、勝利に導けるようになるのだよ」
「そうか。言われたからって、知らないことをやって、失敗したら、甚大な被害が出てしまうんですね?」
「そう。ガンは、分からないのをやろうとして、上手くならないからって、無理をしてたから、体の負担になってたんだよ。それを体力がないと思ってただけだった」
「つまり、やり方や扱い方を覚えてしまえば、今まで出来なかった事も、出来るようになる可能性がある」
「これは、ガンが悪いんじゃなくて、指示を出すほう、つまり、教えるほうが悪いんだよ」
「教えるのが下手なヤツ程、その実力は、底辺に近いものだ」
「何故ですか?」
「教えるのが上手いってことは、それを熟知してるからだよ」
「そっか。完全に理解してるから、自分でもできるし、相手に伝えることもできるんだね?」
「そうゆうこと。つまり、ガンに教えてたのは、ウィルセンでいえば、騎士団に入ったばかりの見習い騎士って感じ」
「まぁ、ウィルセンの見習いでも、そんな教え方はせんがね。さて、そろそろ、説明の続きをしても?」
「あ。すみません。お願いします」
苦笑いしながら、モーガンが頭を掻くと、騎士団長は、ニコッと笑った。
「それでは、まず、この重さを振れるようになるところからにしよう。これは、知ってるかい?」
「打ち込み人形ですよね?」
「そう。では、剣技は気にせず、打ち込んでみよう。まずは、坊っちゃんがお手本を」
「は~い」
〈トン…ドン!ドン!ドン!〉
剣を構えて、アスベルトが打ち込み始めると、モーガンは、首を傾げた。
「アスって、いつも、片手じゃなかったっけ?」
「無理」
更に、首を傾げたモーガンを見下ろし、騎士団長は、クスッと笑った、
「ちょっと触ってみよう」
騎士団長が指差した人形に近付き、そっと触れたモーガンは、瞳を大きく開いた。
「…柔らかい」
「そう。ウィルセンの打ち込み人形は、異国から取り入れたバブラという、とても柔軟性のある植物を使っている。本体を柔らかくする事で、植物に与える衝撃を小さくしてあるが、反動で、人形が戻って来るようになっているのだよ」
モーガンが人形を押すと、すぐに、元の位置まで、静かに戻った。
「大きな力を加えれば加える程、大きく撓り、その分、反動も大きくなり、速さも増す。片手でやろうもんなら、人形に叩かれてしまう」
「なるほど。力と振る速さを一定にして、戻った人形に打ち込まないと、自分に当たるってことですね?」
「その通り、だから、坊っちゃんでも、打ち込みは両手なんだ」
ひたすら打ち込んでるアスベルトを見て、モーガンは、剣を握る手に力を入れた。
「最初は、軽く打ち込んで、戻って来た人形を打ち返す程度でいい。やってみるかい?」
「はい」
〈トン…トン、トン、ドン!〉
モーガンが剣を構え、打ち込みを始めると、騎士団長は、徐々に、瞳を大きく開いた。
「…うそだろ」
一心不乱に剣を振るモーガンは、アスベルトと変わりない速さで、騎士達も、手を止めて、その様子に見入った。
「あの子、本当は、凄く強いんじゃないか?」
ただ夢中になって、打ち込む二人の背中を見つめ、騎士団長は、頬をヒクヒクと引き攣らせながら、苦笑いを浮かべた。
〈ゴン!〉
「ったぁ~…だぁーーー!疲れた~。腕、しんどい」
アスベルトが剣で人形を受け止めて、手を振る横で、モーガンは、ただ真っ直ぐ前を見つめて、剣を振るい続けた。
「ガン?おーい。ガン」
「坊っちゃん、彼は、今、自分の世界に入ってるようなので、呼んでも無駄ですよ」
「でも、そろそろ止めないとでしょ」
「あれを止めれるなら、もう止めてますよ」
取り付く暇もない程、モーガンが、剣を振るのを見て、アスベルトは、困ったように目尻を下げて笑った。
「坊っちゃん、その子、どこで拾って来たんだよ」
「ガンは、サイフィスの王子だからな」
「そこって、坊っちゃんが、今行ってる国だっけか?」
「そうだよ」
「こんな王子いるなんて、聞いた事ないぞ」
「僕だって、初めて知ったよ」
「友達なのにか?」
「だって、普段のガンって、ちょっとオドオドしてる感じだから」
「坊っちゃん、それは、彼の育った環境の問題で、彼自身ではありませんよ」
「あ~なるほどね?」
〈ドンドンドンドン〉
打ち込み人形が、大きく傾き、湾曲するように戻ると、モーガンは、片手で打ち返した。
「…ねぇ、グレームス卿、国王は、ガンの実力を知ってると思う?」
「さぁ?ただ話を聞く限りでは、何も知らないでしょうね」
「やっぱり?王妃は、どうなのかな?」
「知っていても、見ないようにしてるのかもしれませんね。もしかしたら、彼の実力を隠したのは、王妃かもしれません」
「内情の問題ってやつ?」
「えぇ。多分、王妃は、国の為、自分の為に、王子を守りたいのでしょう」
「王子さえ生きてれば、たとえ、内情が崩壊しても、大丈夫って感じ?」
「そうかもしれませんね。ただ、私達は、こうして、憶測や想像をするしか出来ませんから、真実は、当事者しか分かりませんよ」
「つくづく、ガンは、かわいそうだね」
「しかし、坊っちゃんと出会った事で、彼は、大きく変われると思いますよ?」
「もし、ガンが、王になったら、あの国は、きっと安泰だよね?」
「そうですね。ですが、彼が、王になるには、多くの敵を倒さなればなりません。果たして、あの子に、それが出来ますかね?」
「大丈夫。ガンならできるよ。僕が、保証する」
「そうですか。では、私も、あの子が、大空を羽ばたける翼を得られるよう、尽力致しましょう」
「よろしくね。グレームス卿」
〈バキン!〉
剣を振り抜くと、人形が、根本から傾いてしまい、モーガンは、肩で息をしながら、それを見下ろした。
「あ~あ。やっちゃった」
「っ!ごめんなさい!」
「大丈夫だよ」
慌てて振り返ったモーガンに向かって、アスベルトが、ニカッと歯を見せて笑った。
「僕も、何回かやったことあるから」
「でも、僕、壊しちゃ」
「こんなのしょっちゅうだから、気にすんなよ」
騎士が、地面に刺さってた部分を引き抜き、取り出した杭を割って、モーガンに、中身を見せた。
「こんな風に、杭の中に、人形の先端を入れ込んで、地面に刺してるだけなんだよ。だから、この接合部ってのは壊れやすいんだ」
「しかも、壊れるのは、大体、杭の方で、人形自体は無事なのさ」
「だから、杭さえ直せば、人形は、また使えるから大丈夫」
「でも、僕」
「しかし、初めてで、ここまでやれるなんてなぁ?」
「凄い事だよな?」
「坊っちゃんでさえ、出来なかったのにな?」
騎士達が、ニカッと笑うのを見つめて、モーガンは、瞳を大きく開いた。
「だから、年が違うって」
「そういや、あの時の坊っちゃんは、何回も人形がぶつかってたなぁ」
「そうそう。それで、ぶつかる度、転げ回ってたよな?」
「頭に命中した時なんか、ギャーって大泣」
「そこまで言うな!」
「まだ幼かったのですから、そんなもんでしょう」
「だからって、そんな言わな」
「年齢の違いを出したのは、坊っちゃんでしょうに」
「それは、お前らが」
「つい、この前でしょう?やっと、折れるようになったの」
「それを言うなって」
「やり続けてれば、いつかは出来ますよ」
「そりゃ」
「それを初めてなのに、出来ちゃったんですよ?」
「だから、それは」
「坊っちゃん」
「…ガンは、凄いよ」
頬を赤くするアスベルトを見つめ、モーガンの肩から力が抜けると、騎士達は、ニコニコと笑った。
「でも!それとこれと話が別だからな!」
「事実を言っただけでしょうが」
「今言うなよ!せめて、僕がいないときに」
「坊っちゃんが居なかったら、この子も居ないでしょうが」
「もう!なんなんだよ!みんなして!」
ガハハハと、豪快な笑い声が響くと、モーガンも、クスッと笑った。
「ガン、あんまり笑うと連れて来ないぞ」
「そしたら、ロムさん達を頼るよ」
「裏切るのか」
「裏切らないよ?アスに、ダメって言われたから、なんとか、連れて来てってもらえるようにしてほしいって、相談するだけ」
「お前さ~、また僕が言われるだろ?」
「じゃ、これからも、たまに連れて来てよ。ね?」
「断れねぇじゃん!」
プクッと頬を膨らませるアスベルトに、モーガンが、アハハと大声で笑うと、騎士達は、ニコニコと、嬉しそうに微笑んだ。
「それじゃ、次に移ろう。皆は、各自、通常訓練を行うように。さて、君は、魔法を使えるのかい?」
「あ。グレームス卿、実は、サイフィスとウィルセンだと、魔力の扱い方が、かなり違うんだ」
「サイフィスだと、どのように使うんだい?」
「制御して使う感じだよな?」
「そう。必要な時に、必要な分だけを使う感じで」
「制御して使うとなると、相当、神経を使うな。それに、まだ未熟な体で、そのやり方は、かなりの負担になる」
「どうしてですか?」
「まず、魔法の原理は分かるかな?」
「魔法とは、自分の魔力で、術式を展開させることで、想像物を具現化させる方法」
「その通り」
アスベルトの答えに、モーガンが、何度も頷くと、騎士団長は、優しく微笑んだ。
「更に、術式というのは、法則に添った形になっている為、基礎的初級魔法でも、魔力の強さによっては、最大魔法を超える程の効力を発揮する事もある。階級が上がれば、それだけ、術式は複雑になり、発動させる為の魔力も増える。だから、難しいと思われているが、例えば、火炎系の最大魔法を発動するには、術式の展開と魔力伝導させるのに、時間を要するが、簡単な防御魔法を大きく展開し、多くの魔力を伝導させれば、それを防ぐ事もでき、更に、基礎的攻撃魔力を複数展開し、魔力伝導させれば、相手が、次の魔法を発動させるよりも、先に、攻撃に転ずる事も出来る」
「そっか。だから、アスは、ローデンよりも、早く攻撃できたんだ」
「そう。結界は、防御としては、とても強いけど、維持するのに、結構魔力を使うんだ。僕は、騎士がするように、彼らからの攻撃を避ければいいだけだから、攻撃系の術式を複数展開させただけなんだよ」
「その上、簡単な防御魔法ならば、熟練度が上がれば、片手でも発動させられるようになる。賢者や熟練度の高い魔法使いは、杖を振らなくても、指を動かしただけで、防御魔法や初級攻撃魔法を発動させるだろ?何故だと思う?」
「…術式、伝導、熟練…そっか。別に杖を使わなくても、術式を展開することも、魔力伝導させることも出来るから、初級魔法で、杖を使う必要がないんだ」
モーガンの瞳が、キラキラと輝くと、騎士団長とアスベルトは、ニコッと笑った。
「そう。つまり、彼らにとって、初級魔法や中級魔法で、杖を振るというのは、無駄な行動なのだよ」
「指を鳴らしたり、ちょっと動かすだけで、術式を展開するには、魔力伝導率をあげなきゃいけない。制御していたら、魔力の伝導率が悪くなる」
「だから、ウィルセンでは、魔力が覚醒すると、外に流すんだね?魔力伝導が、自然に出来るように」
「その通り。更に、体内から生まれる魔力を内に留めていたら、自分の限界を見誤る可能性もある。そうなれば、人は、自分の命さえ、削ってでも、限界以上の魔法を発動させようとしてしまう」
「アスと喧嘩した時のローデンだね?」
「そう。あの時のアイツは、魔力が底を突いたから、ぶっ倒れたけど、あのまま、使い続けてたら、確実に死んでたね」
「自分の限界を知り、一定量を放出させ、体内の魔力を細部まで巡回させる事で、保有量を増やす事も可能になる。そして、常に巡回させてる事によって、常に新しい魔力が生まれる事で、すんなり使う事も出来るようになる」
「例えば、ずっと同じ容れ物に入れた水は、時間が経つと、濁って汚くなって、容れ物から出しにくくなるでしょ?それを出すのに、容れ物を振ったり、叩いたり、壊したり、新しい水を入れたりするよね?魔力も同じなんだ。出にくくなった魔力は、汚れた水と同じで、それを使うとなると、自分の体に負担を掛けて、押し出す形になるんだよ」
首を傾げたモーガンが、何度も頷くと、二人は、苦笑いを浮かべた。
「そんな魔力だと、伝導させるのにも、時間が掛かっちゃうんだね?」
「そう。ガンが、魔法が上手く使えないのは、濁った魔力を使おうとしてるからで、決して、出来ないんじゃないんだよ」
「そっか…そうだったんだ」
何度も頷いて、指で顎を撫でるモーガンを見て、アスベルトは、ニカッと笑った。
「さっき、魔力交換したから、今なら、初級魔法くらいなら、すんなり使えると思うよ?」
アスベルトが、空を指差すと、モーガンは、自分の手のひらを見つめてから、空に視線を向けた。
手のひらを空に向け、モーガンが、真っ直ぐ伸ばした先から、人一人分の光の壁が浮かび上がった。
瞳を大きく開いて、浮かぶ光の壁を見つめたモーガンは、キラキラと瞳を輝かせた。
「…坊っちゃん、本当に、なんて化け物連れて来たんですか」
「ガンが、こんなに出来るなんて、知らなかったんだから、仕方ないでしょ」
訓練所の上に、ハッキリと、青白い光を放ちながら、大きな防御魔法を広げたモーガンは、それをボーっと見つめていた。
「…まずいな。また、自分の世界に入ってしまったな」
「ガン!やめろ!ガン!ガン!!」
騎士団長に腕を掴まれ、驚いた顔をして、モーガンが、視線を下げると、スーッと青白い光が消えた。
「僕、いま…」
フラッと体が傾いたモーガンを支えながら、騎士団長は、困ったように、目尻を下げた。
「ガン!」
「だい、じょうぶだよ。ちょっと、目が回っただけ、だから」
弱々しく、眉尻を下げて、苦笑いを浮かべたモーガンの顔は、血の気が引いたように、青白くなっていた。
「アホか!一気に使うなよ!まだ体が慣れてないんだから!」
「とりあえず、少し補給した方がいいな」
「そうだね。ガン、いいか?どこでもいいから、周りにある魔力を拾うんだ」
「…拾う?」
「なんでもいいよ。落ちた林檎とか、風に漂う布とか、何でもいいから、それを手にする想像して」
モーガンが、静かに瞳を閉じると、少しずつ、頬に赤みが戻り始めた。
「よし。もういいぞ」
スッと瞳を開き、アスベルトに視線を向けたモーガンは、瞳を大きく開いた。
「…ねぇ、アス」
「今度は、どうしたの?」
「今、アスの周りが、凄く、キラキラ輝いて、見えるんだけど」
「…は?」
一瞬、シーンと静まり返り、モーガンが、首を傾げると、騎士団長や騎士達は、アハハと大きな声で笑い、アスベルトは、顔を真っ赤にして頭を掻いた。
「ガン、僕だけじゃなくて、ゆっくり、視線を動かしてみな」
モーガンが、視線を動かすと、零れ落ちそうな程、瞳を大きく開き、空に顔を向けた。
「そのキラキラしてんのが魔力。人の周りには、いっぱい見えるでしょ?」
「アスと団長さんの周りが、一番、キラキラしてる」
「それは、魔力の放出量の違いだ。保有量が多ければ、放出量も増やす」
「前に、リリに、説明したこと覚えてる?人の魔力は、強大になりやすいっての」
「…魔力、強大…実り、魚、家畜…あ。そっか、常に放出してれば、自然に、魔力が馴染んで、それらに、少しずつ、魔力を与えることが出来るんだね?」
「そう。だから、保有量が多い人は、少し多めに放出してるんだよ」
モーガンは、キョロキョロと、周りを見渡して、首を傾げた。
「この周りに見えるのは?」
「…ガン、周りにも見えんの?」
モーガンが、不思議そうな顔をして、コクンと頷くと、アスベルトは、大きなため息をついた。
「アスは見えないの?」
「見えるよ?ガン、周りにあるキラキラは、どんな感じ?」
「えっと…地面の近くとか、木の近くとか、風が吹くほうに流れて行くのとか、空に浮いてるのとか、小さいキラキラが、周りにいっぱいある感じ」
「ガンってさ、本当は、僕と同じくらい強いんじゃないの?」
モーガンが、ブンブンと首を振ると、騎士団長が、大きなため息をついた。
「指導者、もしくは、国が違っていたら、君は、坊っちゃんよりも、優れた人になっていたかもしれない」
モーガンが、更に、コテンと首を傾げると、アスベルトは、困ったように、目尻を下げて苦笑いした。
「前に、リリに話してたでしょ?生きていれば、誰もが、魔力を持ってるんだよって」
「…もしかして、このキラキラが、自然の魔力?」
「そうだよ。さっき、目が回ってたのは、一気に魔力を放出したせいで、ガンの保有する魔力が減ったからなんだよ。それを周りにある魔力を吸収、拾ったことで、補充したから、少し楽になったでしょ?」
「そういえば…さっきより、体が軽く感じる」
「自分の魔力を放出して、自然の魔力を補充したから、ガンの体の中が、綺麗になったんだよ」
「自然の魔力には、浄化の力があるのだよ。それを体内で回す事で、浄化されて綺麗になるんだ。そのおかげで、細部にまで、魔力を巡らせる事が出来たから、軽くなったように感じるのだ」
「そっか。リリアンナが、あったかくて、体が軽くなったら、元気になったって言ってたよね?凄いな。こんなに違うんだね。今なら、なんでもできそうな気がする」
「さっきまで、フラフラしてたんだから、調子に乗るなよ」
「でも、これ、凄く楽しい」
モーガンが、キラキラと瞳を輝かせて、嬉しそうに笑うと、アスベルトは、鼻で、小さなため息をついた。
「楽しいのは、分かったから無理するなよ。それに、自分の世界に入らないでくれるかな?結構、肝が冷えるんだけど」
「ごめん。気を付けるよ」
モーガンが、シュンと肩を落とすと、アスベルトは、困ったように、目尻を下げて、優しく微笑んだ。
「んで?どうする?続きする?」
「やる!やりたい!」
ほんのりと頬を赤くしながら、モーガンが、嬉しそうに、明るい笑顔を浮かべると、アスベルトは、騎士団長に視線を向けた。
「一つ確認だが、君は、どこまで習ってたんだい?」
「一応、この前、中級の風系攻撃魔法を習いました」
「なら、あの的に向かって、放ってみてくれるかい?」
「はい」
モーガンは、手のひらを向けようとしたが、ジーッと的を見つめて、顔の横で、指を小さく振った。
〈ビュン…パキ…ゴトン!〉
風の音だけが響くと、的にヒビが入り、大きな音を発てながら、地面に落ちた。
「…あのさ、指だけで出来るなんて、聞いてないんだけど」
「僕も、今、初めてやってみたんだけど、ちょっとビックリ」
驚いた顔をしてるモーガンを見て、アスベルトは、パチパチと何度も瞬きをしてから、アハハと大きな声で、騎士達と一緒に笑った。
「自分でやっててビックリすんなよ」
「だって、出来ると思ってなかったから」
「なら、なんでやったんだよ」
「なんとなく、やってみようかなって」
「天才か」
「なのかな?」
大きな声で笑う二人を見つめ、騎士達も、ニコニコと微笑んでいた。
「これ程の事が出来るなら、主剣魔法をやってみてもいいかもな」
「主剣魔法って、アスがやってたやつだよね?」
「あぁ、んとね。正確には、剣を杖の変わりにするんだ。主に、魔剣士が使う魔法なんだよ」
また、モーガンの瞳が、キラキラと輝き始めると、騎士団長の手が頭に乗せられた。
「その前に、さっきみたいにならないように、周囲と魔力巡回をしようか」
モーガンは、唇に指を当て、アスベルトの足元に視線を止め、ジーッと見つめると、腕を下ろし、静かに瞳を閉じた。
「…坊っちゃん」
「僕は、何も悪くない」
木々の葉が擦れ合って、サワサワと、心地良い音が鳴り、モーガンの周りで、風が優しく舞い上がり、サラサラと髪が揺れた。
「…気持ちいい…」
頬の赤みが増し、空に顔を向けて、優しく微笑みながら、薄く瞳を開けたモーガンを包むように、優しく風が吹き抜けた。
風が落ち着き、モーガンが、アスベルトに視線を向けると、困ったような、嬉しそうな、複雑な笑みを浮かべた。
「ガンって、ほんと、周りの人に恵まれなかったんだね」
「そうだね」
モーガンが、寂しそうに瞳を細めると、騎士達は、悲しそうに目尻を下げた。
「でも、僕、それに感謝してるよ」
「なんでよ。こんなに出来るのに、今まで」
「今までは、凄く苦しくて、辛くて、何もかも諦めてた。やめてしまいたいともって思ってたけど、アスに出会えた。人の温かさも、自然の優しさも、ウィルセンの凄さも。全部、アスと出会えたから、友達になれたから、知ることができた」
ニコッと笑ったモーガンを見て、アスベルトは、眉尻を下げて、唇に力を入れた。
「もし、サイフィスが普通の国で、僕も、普通の王子だったら、アスと出会えなかったと思う。サイフィスが、神殿や神託を頼るような国だから、傲慢な貴族が多くいたから、国王が何も見ない人だから、僕は、アスやみんなに出会えて、たくさんのことを学んで、色んなことを感じれた。今の僕は人形じゃない。一人の人なんだって、改めて思えるよ」
悲しそうな顔をするアスベルトを見つめて、モーガンは、パーっと明るい笑顔を浮かべて、両手を広げた。
「だから、僕は、みんなに出会わせてくれた人達に、僕を導いてくれた人達に、感謝してるんだ。今までありがとう。お疲れ様。これからは、僕が、サイフィスをウィルセンのような国にする為に導く。そう決めたんだ」
「…ガンが治めたら、サイフィスは、きっといい国になるよ」
二人が、ニコッと笑い合うのを見つめ、騎士団は、優しい微笑みを浮かべた。
「そうかな?」
「できるできる。だって、ガンは、僕の友達だから」
「ありがとう…隣に、キアナ皇女がいてくれたら、もっと、嬉しいんだけど」
頬をポリポリと掻き、モーガンが、恥ずかしそうに、へニャっと笑うと、アスベルトは、ニカッと笑った。
「まぁ、それは、これからのガン次第って感じじゃない?」
「そうだね。アスもだもんね」
「そうだよね~。でも、僕は、あきらめないよ」
「坊っちゃんより、王子の方が、早いかもしれませんけどね」
「それ言わないでよ」
困ったように、頭を掻くアスベルトとケタケタと大きな声で笑うモーガンを囲んで、騎士達も、ゲラゲラと笑っているのを城の二階から、皇女と皇后が見下ろしていた。
「…どう?キア」
「私は、いいと思うよ?素直で、努力家で。何より、凄く優しそう」
騎士達に混ざって、アスベルトと剣を持って、夢中になってるモーガンを見つめて、皇女が、嬉しそうに微笑むと、皇后も、嬉しそうに、瞳を細めた。
「彼なら、キアの全部を大事にしてくれそうよね」
「分かる。私が大切にしてるの全部、大事にして、ぜぇ~んぶ、まるっと、守ってくれそう」
「気に入った?」
皇女が、皇后に顔を向けて、ニコッと笑った。
「凄く」
「そう。なら、キアは、逃さないようにしなきゃ。ね?」
「分かってるよ」
窓辺に頬杖を着いて、皇女が、モーガンを見下ろすと、皇后も、同じように頬杖を着いて、訓練所を見下ろした。
「…彼、クッキーとか好きかな?」
「キアからなら、なんでも好きになってくれるわよ」
「そっか。いっぱい作ろ」
「ドルには、バレないようにね?」
「分かってるよ。パパって、本当に過保護だよね」
「仕方ないのよ。父親にとっては、娘って特別なのよ?」
「でもさ?私は、パパとママの実子じゃないのよ?」
「赤ちゃんの時から一緒だったんだから、実子じゃなくても、キアは、ドルにとって、大事な娘なのよ」
「そんなもんなの?」
「そうよ?それにね、アスは、男の子だから、多少、手荒に扱っても大丈夫だと思ってたみたいだけど、キアの時は、抱っこするだけでも、オドオドしてたのよ」
「そんな?」
「もう、こっちが呆れるくらいよ。アスには、ベタベタ触ってた人が、キアに触る時は、オドオドしながら、そっとそっとって感じで。キアが、ドルの指を掴んだ時なんか、膝から崩れて、プルプルしながら、ニヤニヤしちゃって」
「凄く怖いんだけど」
「ね?キアが、お嫁に行く時、この人、崩壊するんじゃない?って思ったくらいよ」
「その時は、ママに任せるからね?」
「まぁ、頑張ってはみるけど」
「そうだ。もう一人、娘ができれば大丈夫じゃない?」
「そうねぇ」
「ママ、もう一人作ろ」
「でも、こればっかりは、授かりものだからねぇ」
「大丈夫。ママならできる」
両手に拳を握りながら、皇女が、キラキラと、期待の眼差しを向けると、皇后は、フッと鼻で小さなため息をついて、小さく微笑んだ。
「仕方ないわね。キアの為に、ちょっと頑張ってみるけど、あまり、期待しないでいてよ?」
「は~い。それじゃ、私、ちょっと、お菓子作ってくるねぇ」
ニコニコと微笑みながら、手を振って、皇女が出て行くと、皇后は、小さく微笑んで、腹を擦った。
「…もう少し、黙ってた方が良さそうね」
肩越しに、チラッと訓練所に視線を向けてから、皇后は、机に向かい、子守唄を歌いながら、書類を確認し始めた。
皇后が、静かに歌う子守唄を聞きながら、皇女は、調理場に向かって、小さく、嬉しそうな微笑みを浮かべた。
「…早く会いたいなぁ」
ニコニコと微笑み、調理場の扉を開けて、皇女も、子守唄を口ずさみながら準備した。
〈カシャカシャカシャ〉
扉の隙間から、子守唄を歌いながら、楽しそうに料理する皇女を見て、メイド達は、静かにクスッと笑い合い、そっと扉を閉めた。
それぞれが、それぞれの時間を過ごし、夕暮れが近付き始めると、モーガンは、アスベルトと一緒に部屋に向かった。
「…ねぇ、アス、明日の予定は?」
「とりあえず、今日と変わらないかな」
「じゃ、明日は、朝食も一緒していい?」
「いいよ?ロム達にも伝えておくから」
〈ガチャ〉
「お帰りなさいませ。坊っちゃん、モーガン様、こちらへ、どうぞ」
ニコニコと微笑む執事と侍女に、二人は、視線を合わせて、首を傾げながらも、引かれた椅子に座った。
「お嬢様より、モーガン様に、差し入れでございます」
ケーキやクッキーなどが、テーブルに置かれると、その甘い香りに、モーガンは、瞳を大きく開きながらも、キラキラと輝かせた。
「坊っちゃんにも、ついでに、どうぞ。との事でした」
「ついでって、僕の扱い雑じゃない?」
「お嬢様は、頑張ってるモーガン様にと、お作りになってましたからね」
「本当なら、坊っちゃんではなく、モーガン様にお渡ししたかったでしょうね」
「しかし、ドルト様の事もございますから、仕方なかったのでしょう」
湯気の上がるカップが、それぞれの手元に置かれると、モーガンは、ボーっと視線を上げて、執事を見上げた。
「皇女が、僕に?」
「はい。張り切って作っておりましたよ」
「そう、なんだ」
頬を赤くしながら、嬉しそうに微笑んだモーガンを見つめて、アスベルトは、唇を尖らせた。
「いいなぁ。ガンばっか」
「今度、お茶会でもする?」
「僕も、リリアンナの手料理食べたい」
「そこは、僕にも」
「ガンとリリが、兄妹だったら良かったのに」
「頼んでみようか?」
「それはそれで、虚しいんだけど」
「…なら、アスから贈り物してみたら?」
アスベルトが、カップを持ったまま、首を傾げると、モーガンは、ニコッと笑った。
「リリアンナなら、贈り物したら、必ず、お返しを考えるはずだから」
ニコニコと微笑みながら、一口大のタルトを摘んだモーガンを見つめて、アスベルトは、カップに口を付けた。
「ただ、リリアンナは、料理ってしたことないと思うから、最初は、期待しないほうがいいかな。ん~。ベリーの酸っぱさにクリームが最高。凄く美味しい」
モーガンが、フニャと笑いながら、タルトを頬張り、スッとカップを傾けると、ニコッと微笑んだ。
「この紅茶は、タルトの香りとも、良く合うね。なんか、疲れてた体に染み渡る」
クッキーやショコラを口に運ぶモーガンを見つめて、侍女と執事が、驚いたように、瞳を大きく開いてから、嬉しそうに微笑んだ。
「お気に召されましたか?」
「凄く。クッキーとも、ショコラとも合うし、どれも凄く美味しいです」
「それ程、喜んで頂けましたら、私共も、とても嬉しゅうございます」
フフフっと笑って、ニコニコと、クッキーを頬張るモーガンを見つめて、アスベルトは、頬杖を着いた。
「そんなに美味しい?」
「美味しいよ?毎日でも食べれる」
「いつか、お会いした際には、直接、お伝え下さい。お嬢様も、きっと、お喜びになりますので」
「もちろん。でも、会えるようになるまでは、伝えてもらえますか?美味しいお菓子をありがとうございます。また作って下さい。って」
明るい笑顔を向けると、侍女は、ほんのり頬を赤くしながら、嬉しそうに瞳を細めた。
「もちろん、お伝えさせて頂きます」
「ところで、キアナ皇女は、お菓子とか何かを作る以外に、何か好きなことありますか?」
「そうですねぇ…綺麗なアクセサリーやお洋服も、お好きではありますが」
「…茶器とかは?」
「そういえば、最近は、ボルトラ産の銀食器を良くお使いになりますね」
「ボルトラか…なら…あそこの陶器がいいかな…」
「なに?何か贈るの?」
「当たり前でしょ?こんな美味しい、しかも、こんなに、いっぱい、お菓子を貰ったのに、お返しもしないなんて、皇女に失礼でしょ」
「そんなもん?」
「…もしかして、貰っても返さないの?」
「モーガン様、坊っちゃんは、ドルト様を見て育ちましたので、お返しの概念がございません」
モーガンが、納得したように頷くと、アスベルトは、視線を泳がせた。
「だから、皇后も、皇女も、あんなに怒ってたんだね。アス、女性から何かを受け取ったなら、ちゃんと返さないとダメなんだよ?」
「でも、父上は、母上に物を贈ってたのは、ルアンダにいる頃だけで」
「そうじゃなくて、どんなときも、気持ちが大事なんだよ。与えるだけ、贈るだけなら、誰でもできるけど、ちゃんと、気持ちを贈り合うのは、大切な人同士だからできるんだよ?」
執事と侍女が、パチパチと拍手をすると、アスベルトは、プクッと頬を膨らませた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
婚約者の浮気相手が子を授かったので
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。
ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。
アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。
ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。
自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。
しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。
彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。
ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。
まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。
※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。
※完結しました
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
ある辺境伯の後悔
だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。
父親似だが目元が妻によく似た長女と
目元は自分譲りだが母親似の長男。
愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。
愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。
裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……
希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。
幼馴染に婚約者を奪われたのだ。
レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。
「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」
「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」
誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。
けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。
レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。
心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。
強く気高く冷酷に。
裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。
☆完結しました。ありがとうございました!☆
(ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在))
(ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9))
(ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在))
(ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる