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10話
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次の日から、文化祭に向けて、準備が本格的に始まった。
まずは、映画に出来るように、話を元に台本にする為、撮影に関わる人たち全員で集まり、話し合いをする。
内容的には、そのままで、記憶を失う所を車のライトで、目が眩み、玄関先の段差に頭をぶつけて失うとし、その後に出てくる夫婦は、その家の夫婦とした。
内容が完全に固まると、そこから、行動と台詞に書き分ける。
その作業を数名の生徒が担当し、残りの生徒は、小道具や衣装のデザイン、製作に取り掛かった。
1週間後、台本が出来上がり、丸1日を掛けて、主演する人たちは、台詞を覚えた。
次の日には、全員で読み合わせをし、更に、次の日から放送部の顧問に頼んで、カメラや機材などを借りて、撮影が始まった。
幼少期は、カメラが主人公の視点になり、話を進め、後ろ姿だけを撮りたいと、自分の妹を連れて、要所要所の後ろ姿を撮らせてもらい、高校生になってからを演じた。
皆、バイトや用事に合わせて、撮影を進めていく。
学校での撮影は、休み時間や朝早くに来たり、それ以外の撮影は、大体が、舞子の家を使わせてもらった。
もちろん、隆也や稲荷、他の先生や事務員さんにも手伝ってもらい、順調に進み、撮影の全てが終わったのは、本格的に始動してから、3週間後だった。
それから、編集をする為に、数名の生徒は、コンピューター室に籠り、その間、他の撮影に関わった人たちは、喫茶店の準備に加わった。
文化祭の2日前に、編集が終わり、その日の放課後、機材のテストも兼ねて、上映会が設けられた。
『私は、忘れない。皆と過ごした美しい日々。優しい家族。愛すべき、沢山の人々を。絶対に忘れたりしない。ありがとう。本当にありがとう。また、会いましょう。その時が来るまで…さようなら』
エンドロールが流れると、教室内に拍手が沸き起こった。
涙を拭い、鼻を啜り、互いに称え合い、混雑する中、舞子が抱きついてきた。
「ヤバい。号泣しそう」
「大袈裟だよ」
舞子の背中を優しく撫でる。
「凜華さん!!」
そこに香奈が、人を縫うようにして、友姫と紗英も一緒にやって来た。
「凄くよかった」
「感動したよ」
「やっぱり、はまり役だったね」
「よかった。そこまで、喜んでもらえて、嬉しいよ」
ニッコリと笑ってから、周りを見てから、少し考えて、抱き付く舞子の肩を押した。
「まだ、終わりじゃない」
騒がしかった教室内が、静かになった。
「私たちがやりたいのは、ここで終わりじゃない。これを上映する場所。見てもらう人。この両方が揃ってからが本番。今は、まだ準備の途中。だから、まだ泣いちゃダメ。泣くなら、本当に全部終わってから、皆で泣こうよ」
「…だよな」
幸彦の声に、舞子も頷いた。
「そうだよね。これからだよね。もっと、もっと頑張らなきゃね」
それから、機材を一旦、後ろに移動して、喫茶店の準備の続きを再開した。
当初のデザインよりに、看板やウェイター、ウェイトレスの衣装も、更に、手が加えられ、それに合わせて、メニュー表のデザインも変わった。
話し声も、全てが喫茶店の事で、それ以外は、黙って手を動かす。
そして、文化祭の前日の放課後。
忙しく動き回り、最後の仕上げをしていた時、実行委員会に行っていた舞子と幸彦が、慌てて戻って来ると、叫ぶように大声を出した。
「皆聞いて!!」
それぞれ、作業の手を止め、舞子と幸彦を見た。
「今年、初めて来場者の意識調査をする事になりました」
「意識調査って?具体的になに?」
「来場者した人に投票してもらい、どのクラスの出し物が、1番、よかったかを調査したいって事になったんだ」
「なにそれ。今更じゃん」
「そうなんだけど、隣のクラスの実行委員が、ずっと言ってたんだよ。それで、今さっき、可決されたんだよね」
舞子の説明に、生徒が、ざわつき始めた。
「隣のクラスの実行委員って誰?」
「えっと、それは…ねぇ?」
「んと~…何て言ったけ?」
目を泳がせる2人に、嫌な予感がした。
「…滝田さんよ」
久々に聞いた名前に驚き、その声がした方を見ると、滝田と仲良くしていたあの3人が、真剣な顔で、舞子を見つめていた。
「滝田さんなんでしょ?」
舞子は、小さく頷いた。
「やっぱり…あの人は、そうゆう人なのね」
「そうゆう人?」
3人は、悔しそうに顔を歪めた。
「私たち、2年の時に滝田さんとクラスが、一緒になったんだけど、その時から、自分に甘くて、自分が1番で、ワガママで、お姫様みたいな性格なの」
「確かに、キレイで、スタイルもいいけど、そんな性格だから、友だちなんて、ほとんどいなかったのよ」
「それで、可哀想だなって、話したら、自慢話とか、自分の話ばっかで、クラスが離れたから、離れるかと思ったら、メールで早く来ないと普通の学校生活、出来なくしてやるって言われて。どんな事されるか、分からなかったから、怖くて…」
彼女たちが、滝田の言いなりになっていた理由に可哀想になった。
親切心から生まれた支配は、目に見えないからこそ怖い。
だが、彼女らは、それを克服し、深く反省したから、今ここにいる。
未だに、滝田との関係が続いてたら、ここにいれない。
「でも…でも、もう耐えられない」
「あの人と一緒にいる方が、ろくな学校生活出来ないし」
「だから、私たち、携帯の番号もアドレスも変えて、なるべく、会わないように、教室にいるようになって、寺西さんを見てる事が多くて…キレイなのに、滝田さんとは、全然、違くて…謝りたくて、一条さんにきっかけをもらったの」
ギュッと口を固く閉じて、拳を握る舞子の手が震えていた。
「あれは、私たちの本心だよ?」
「もういいよ」
それまで、黙って3人の話を聞いていたが、舞子の拳を両手で包む。
「そんなに力入れたら、血出るよ」
目を閉じて、小さく頷いた舞子から、3人に視線を向けた。
「そんなに自分を責めたら、自分が可哀想だよ?」
驚く3人に優しく微笑んで、幸彦を見上げた。
「もう大丈夫だよ」
視線を反らして、何度も頷いた。
「どのクラスの出し物が、1番かなんて、そんなの1人じゃ決まらないよ?」
顔を上げる舞子や幸彦に、ニッコリと笑った。
「クラスは、1人じゃないんだから」
教室を見渡すと、クラスメート全員の顔が見える。
「ここにいる、皆で、1つのクラスでしょ?なら、皆で頑張らなきゃ1番にならないよ。今、ここで、誰か手を抜いてる人いる?今、ここで、何もしてない人いる?」
皆も隣同士で、顔を見つめて頷いた。
「皆、手なんか抜いてない。皆、何かをやっている。皆、頑張ってる。なら、今更、決まった事でも、関係ないよね?」
皆に向かって、ニッコリと笑う。
「私たちがやりたい事。それは、1番になるんじゃない。それは…」
「最高の文化祭にする」
舞子の言葉に、幸彦が微笑みを浮かべた。
「絶対に心に残る文化祭にする」
それから、次々に自分の中で、どんな文化祭にしたいかを口に出し、皆の顔が明るくなった。
「凜華は?」
皆の声を聞いていると、舞子に視線を向けられ、また教室が静かになった。
「私はねぇ…終わってから、皆と一緒に嬉し泣きしたいな」
一気に騒がしくなり、作業が再開され、皆の意識は、一気に高まり、明日の文化祭に向かった。
文化祭当日。
朝早くから、仕込みや機材の点検など、作業に追われて、慌ただしく動き回り、最後の準備をしていた。
開始1時間前。
「皆、ご飯、食べてきた?」
クラスメートのほとんどが、朝食を食べる時間がなかったみたいだった。
「よかったら、食べて」
机をくっ付けたテーブルに1つずつラップに包んだおにぎりを出した。
「わぁーーい!いただきまぁす。んま」
1番に飛んできた舞子が、おにぎりを頬張ると、幸彦や香奈が、おにぎりを配り始め、いつの間にか、クラス全体で朝食の時間になった。
おにぎりを頬張る皆の顔は、とても明るい。
おにぎりを食べながら、次の事を考えていた。
不意に、時計を見ると、開会式が始まる10分前だった。
「ん!!舞子!!」
「へ?うっわ!!ヤバ!!全員、体育館!!急げぇーーー!!」
時計を見て、次々に教室から走り出し、体育館に向かった。
全員、無事に体育館に着くと、ちょうど、開会式が始まり、実行員長が開会の宣言をして、自分たちの持ち場に戻ると、文化祭が始まった。
予想以上にお客さんが入り、混雑し始めたが、皆、落ち着いていて、大きなトラブルも起きずに、1回目の上映がスタートした。
話が進んでいくと、あちこちのテーブルから、鼻を啜る音が聞こえ、時折、ハンカチで目尻を押さえる人もいた。
エンドロールが流れ、拍手が響くと、あちらこちらで、感想が聞こえてきた。
「最近の高校生って、スゴいね」
「あのヒロイン役の娘。モデルかな?」
「また、観たいね」
「続きとか、気になるよね?」
「文化祭の為に作ったから、続編とかはないんじゃない?」
「だよね。あ~。なんか、勿体ないなぁ」
その感想を聞いて、皆と視線を合わせて、ニッコリと笑った。
噂が人を呼び、教室の前には、列が長蛇の列が出来始めた。
このままでは、他のクラスや通行人の邪魔になると判断し、機材担当の子と話し合い、上映時間の変更を掛け、それに合わせた整理券を作った。
手の空いていた子たちも、整理券を作るのを手伝ってくれる。
列に並んでる人たちに、事情を説明し、手分けして整理券を配り、ポスターの時間を書き直す為、走り出そうとしていると、何人かのクラスメートが戻ってきた。
「変更時間は?」
「これ」
「マーカーどこ?」
「これ使って」
「この整理券配っていいの?」
「お願い」
「エプロンの予備ある?」
「何枚必要?」
「この紙、使っていい?」
変更した上映時間をメモしてた子が、メモ紙を渡し、渡された子たちが、マーカーを持って走り出す。
更に、戻ってきたクラスメートが、整理券を作り、それを別の子が配る。
自分の担当する時間じゃないけど、エプロンを着けて手伝ってくれる。
そんな皆と一緒に、慌ただしく、動き回る。
あとから、聞いた話だけど、機材担当の子が、同じ機材担当の子に連絡をすると、その子から次々に連絡が回り、手の空いていた子たちが、戻ってきてくれたらしい。
誰から言われたわけでなく、皆、自ら考え、行動している。
1人ではない。
皆で問題を打破し、次の事を考え、行動する。
こんなにいい人たちに囲まれ、こんなに優しいクラスにいれて、さっきよりも幸福感が溢れ出る。
舞子や幸彦も合流し、1人だった機材担当も、2人に増え、整理券の効果もあり、その後、忙しさは、変わらないが、特に、迷惑を掛けるでもなく、映画喫茶は、順調のまま、終わる事が出来た。
閉会の時間となり、スピーカーから意識調査の結果と共に、来場者から寄せられた感想が流れ始めた。
その声をBGMに片付けをしていたが、次の瞬間、告げられる感想に、誰もが動きを止め、スピーカーを見上げた。
『とても感動的で、最高の映画でした』
『今日しか観れない事が残念。もっともっと、観たいと思える映画でした』
『生徒の皆さんが、とても優しく、丁寧で、何回も足を運んでしまいました』
『頑張ってる姿、素敵でした。映画も最高です』
『皆が団結して、一生懸命働く姿に感動』
『映画も喫茶店もサイコー。また来たい』
『映画と頑張る姿、2つの感動をありがとう』
『優しくて暖かな映画は、このクラスだからだと思いました』
読み上げられる感想の多さに驚いていると、周りにクラスメートが集まった。
『更に、多くの感想を頂きましたが、時間の関係上、一部だけ、読ませて頂きました。それでは、第一回、意識調査、最優秀クラスの発表をします』
自分の心音しか聞こえない。
そこにいる全員が、同じだった。
ドキドキと激しく脈打つ心臓と、静まり返る教室に、皆、身動き1つしなかった。
『最優秀クラスは…3年2組の映画喫茶でした』
自分たちのクラスが呼ばれ、皆、歓喜の声を上げた。
肩を叩き合い、抱き合い、喜びを分かち合い、今この瞬間、頑張りが認められた。
皆と喜びを噛み締め合っていると、舞子と幸彦が戻ってきた。
「凜華。やったね」
「うん。皆のおかげだよ。ありがと」
「それは違う」
幸彦に首を傾げると、優しく微笑んだ。
「お前が、皆を支えたんだよ」
「そうだよ。凜華が頑張ってたから、私も頑張れたんだよ」
「凜華さんが、落ち着いてたから」
「寺西が色々、考えてくれたから」
「凜華が、励ましてくれたから」
「寺西さんに負けたくなかったから」
周りに集まったクラスメートから、色んな言葉を掛けてくれるだけで、涙が出そうになる。
「凜華」
舞子と幸彦が並ぶと、その後ろにクラス全員が集まった。
「今までありがとう。これからもよろしくね?」
舞子の言葉が合図だったように、皆が一斉に、ありがとうよろしくと声を上げた。
抑えていた涙が溢れた。
「私もありがとう。これからも仲良くしてね?」
泣きそうになりながら、皆に向かって、ニッコリと笑うと、舞子の目にも涙が溢れ、2人で抱き合い、大泣きした。
幸彦が鼻を啜ると、友だちと肩を組んだ。
皆の目にも、薄らと涙が浮かび、皆で嬉し泣きした。
この時、掲げていた目標を達成した。
喜びに浸っていると、隆也と稲荷が教室に入ってきた。
「おぉ。やってんな」
近付く隆也の手には、スーパーの袋が握られていた。
「皆さん。最優秀おめでとう」
優しく微笑む稲荷の手にも、同じスーパーの袋があった。
「それなに?」
その袋に淡い期待をしていると、隆也と稲荷は、近くの机に袋を置いた。
「なんだ?なんか、期待してんのか?残念だな」
「佐藤先生。あまり意地悪してたら、嫌われますよ?」
「分かってるって。仕方ねぇな」
隆也は、皆を見渡してから、ニヤリと笑った。
「祝賀会すんぞ」
その言葉に、更に、教室内が賑やかになった。
「但し、片付けが終わってからだ」
ブーイングをしながらも、皆、素直に片付けを再開した。
隆也と稲荷も手伝い、片付けは、予想よりも早く終える事が出来た。
机をいくつか、くっ付けて、テーブルを作ると、2人が持ってきた袋から、お菓子やプチケーキ、オードブルなど多くの食べ物が並べられた。
舞子や香奈と手分けして、紙コップを配り、ジュースを注いだ。
皆で紙コップを持つと、舞子に背中を触れられた。
「皆、持った?では、乾杯の音頭を凜華にやってもらいます」
「私!?ここは、舞子がするもんでしょ?」
「いいから。いいから。では、凜華。お願いします」
舞子に背中を軽く押され、周りを見渡した。
周りの優しい顔付きに、安心した。
「え~と…大きなトラブルもなく、映画喫茶を大成功に導けたのは、皆のおかげです。ありがとうございました。皆の頑張りと最優秀に選ばれた事を祝いまして。乾杯」
「カンパ~イ!!」
紙コップをぶつけ合い、祝賀会が始まった。
食べ物をつまみながら、今日の話で盛り上がった。
「なぁ!!最後に観ようぜ!!」
「いいねぇ~。観よう」
男子生徒の1人の提案に、それに賛同した生徒が、明日、返す機材を準備して、また映画が上映された。
しかし、それは、あの映画ではなくて、撮影の裏側や喫茶店の準備、更には、今日のお客さんや教室内の様子が映されていた。
どれもが、多くの笑顔や笑い声が溢れていた。
そして、あのノートにあった1人1人からのメッセージが、映し出され、舞子のメッセージが映ると、舞子の声で、そのメッセージが読み上げられる。
『 凜華が転校してきて、仲良くなって、ずっと友だちでいれて、私を親友だと言ってもらえて、本当、嬉しくて、幸せで。いつもは、恥ずかしくて言えないけど、私は、凜華にずっと、ずっと支えられてたんだよ。毎日、毎日、学校が楽しく感じるのは、凜華がいるおかげ。今回の文化祭で、全部、返せるとは、思ってないけど、今まで支えられた分、少しでも返すから。私の最高の友だちと、最高の文化祭にしてみせる。高校最後の文化祭。最高の思い出、作ろうね?舞子』
もうダメだった。
涙で前が見えくなり、屈んで、顔を隠して、泣いていると、最後の最後、1つの文章を繋がるように、全員で読み上げられた。
『皆。友だち。最高の。仲間。誰にも。負けない。最高の。時間。高校。最後の。文化祭。最高の。思い出。だから。どんなに。遠く。離れても。バラバラに。なっても。大丈夫。皆の。思い出と。過ごした。時間が。あれば。どんな。辛くて。苦しい事が。あっても。越えられる。皆。心は。いつも。一緒。だから。これからも。よろしくね』
周りが明るくなり、皆が拍手をしていた。
終わっているのに、涙が止まらない。
あと数ヶ月で卒業すると、皆、バラバラになる。
居心地が良すぎて、すっかり、忘れていた。
急に、現実が目の前に現れ、喜びよりも悲しみが沸き上がった。
こんなに、いい人たちばかりのクラスだから、余計に苦しい。
それでも、越えなければならない。
だが、顔が上げられず、下を向いたまま、静かに泣いていると、誰かに、優しく髪を撫でられた。
「ズルい…皆ズルいよ…こんな事…考えてたなら…教えてくれたって…いいじゃん」
「え~。教えたら、サプライズにならないじゃん?」
「こんなサプライズ…ナシだよ」
「そんな事言わないの」
「そうだよ。私たちだけで、考えたんだからね?」
「あのノートで…十分…なのに…」
「あれはあれ。これはこれ」
「意味…わかんない…」
「嬉しくない?」
静かに首を振り、顔を上げて、涙でグチャグチャになった顔で、力なく笑った。
「凄く…嬉しい」
その汚い顔を見て、皆、一瞬、動きを止めると、ガタガタと動き出した。
「カメラ!!カメラ!!」
「ないよ!!」
「誰か早く!!携帯準備して!!」
「なんで皆して!!こんな時に携帯持ってないのよ!!」
「仕方ねぇだろ!!邪魔だったんだから!!」
「早く!!」
「寺西さん!!そのまま!!」
暴れるように、騒がしくなる皆を見て、いつの間にか、涙は、引っ込んで、笑い始めると、落胆の声が響いた。
「貴重な瞬間だったのに。逃した」
「貴重って…」
香奈の呟きに、苦笑いすると、隣に立った舞子が、ジュースを飲んだ。
「まぁ。確かに、凜華のあんな汚い顔、滅多に見られないからね」
「汚いって言わないでくれる?自分でも、分かってんだから」
「因みに、わたっしゃ、2回目じゃ」
「それ小学生の時でしょ。もう無効だよ」
「ナニ言ってんの?私が覚えてたら、有効なの」
「じゃ、あの時、私が泣いた理由覚えてる?」
「えーと~…なんだっけ?」
「無効」
「汚い顔は、覚えてるから有効」
「小学生なんだから、汚くないから」
「えー汚かったよ~。グチャグチャで」
「小学生だったんだから、仕方ないでしょ?」
「いや~。小学生でも、あれは汚いよ。今も汚いけど」
「もう!!そんな汚い汚い言うな!!」
舞子のやりとりを見ていた子たちが、大笑いし始め、恥ずかしくて、顔が真っ赤になった。
「やぁ~い。茹でダコ」
「舞子!!」
強い口調になると、舞子は、勢い良く逃げて振り返った。
そんな舞子を無視して、ジュースを飲みながら、友姫や香奈とお菓子を食べた。
「放置かい!!」
舞子の声に皆で笑う。
とても楽しい時間は、長く続かない。
「おっし。そろそろ、片付けっぞ」
「え~~~!!」
「おめぇらなぁ。これ以上は、怒られるんだっつの」
「隆也は、怒られても平気だろ」
「五月女。今度の小テスト覚悟しろよ」
「横暴だ!!」
「さて。2人は、ほっといて。このままでは、私も怒られてしまいますから。お願いします」
「はぁ~い」
「おめぇら、サイテーだぞ」
笑いながら片付けをして、一斉に学校を出て、それぞれ、我が家へ帰宅した。
楽しかった時間、これから来る別れが、肩に重くのし掛かり、悲しみが生まれる。
友だちが増える程、皆と仲良くなる程、別れが来るのは辛い。
だから、あまり深入りしなかった。
もう会いえないなら、最初から関わらなければいい。
そうやって、泣く意味を作らないようにして、泣けないようにしてた。
だが、それは、自分が傷付くのを恐れ、周りを拒絶してただけの哀しい人がすることだった。
今になり、浅い付き合いばかりしていたのに、溜め息が出る。
それが、帰る気力を奪い、自転車を押しながら、トボトボと歩いていた。
「リンカ!!」
後ろから呼ばれ、振り返ると、手を振りながら、稲荷が走って来るのが見えた。
早く学校を出たのに、稲荷が追い付く程、ゆっくりだったのに、情けなり、また溜め息が出る。
「お疲れ」
「うん。イナリもお疲れ様」
自転車を挟んで、並んで歩き出す。
「楽しかったか?」
「うん。ほとんど、教室から出られなかったけどね。あ。差し入れありがと」
稲荷は、ククっと、喉を鳴らすように笑った。
「ナニ?変な笑い方して」
「いや。実はね?あの、祝賀会を企画したのは、一条さんと五月女君なんだよ?」
驚いて立ち止まると、稲荷も立ち止まり、優しく微笑んだ。
「最後にお祝いがしたい。だから、学校から離れられない自分たちの代わりに、買い物をしてきて欲しいって。それで、私が買い物をして、佐藤さんに運んでもらったんだよ」
「そっか」
また歩き出すと、稲荷も、一緒に歩き出した。
「その理由は、さっき、分かったんだけどね?」
「え…じゃ、何も知らないで、手伝ったの?」
「まぁね」
「よく、手伝う気になったね」
「そりゃ、リンカの為って言われたら、手伝うさ」
その状況を想像してしまい、笑えてきた。
クスクスと笑うと、稲荷は、優しく微笑んで、安心したように鼻で溜め息をついた。
「よかった。少しは、元気が出たみたいで」
その時、いつの間にか、悲しみが薄れていることに気付いた。
「一気に、色々考えないで。今は、目の前にあるモノを大切にすればいい。大丈夫。リンカなら、それが、ちゃんと、分かるはずだから」
頭に稲荷の手が、優しく乗せられ、その暖かさに目を閉じると、浮かぶのは、皆の笑顔だった。
稲荷の手が離れ、頬を撫でられた。
優しく微笑む稲荷に、微笑みを返した。
「さ。早く帰ろう」
「はぁ~い」
「今日の夕飯は、どうしようか」
「私、もうお腹イッパイ」
「私は、どうなるんだ?」
「買えば?いなり寿司」
「そうやって、淋しいことを言うな」
笑いながら、稲荷と歩く帰り道は、足取りも軽くなり、意気揚々と部屋に入り、冷蔵庫の中を漁った。
お茶漬けを稲荷に出してから、お風呂に行こうと準備をしていた時、急にメール音が鳴り、携帯を開いた。
「げ!!」
食べ終わった茶碗を片付けていた稲荷が、台所から顔を出した。
「どうした?」
何も言わず、稲荷に画面を見せる。
稲荷は、メールを読むと、眉間にシワが寄った。
「何を勝手な」
「そうゆう人。あの人は、女の幸せは、結婚だって考えだから。でも、まだ未成年だから、色々と、決められない。一応、仕送り受けてるし、学費だって、支払って貰ってるし。仕方ないよ」
苦笑いすると、稲荷は、真剣な顔付きになり、何かを考えていた。
メールを削除しようとしたが、稲荷に携帯を持つ手を掴まれ、それをやめた。
「行ってこい」
「え?でも…」
「今すぐじゃなくていい。冬休みにでも行ってこい。会って、ちゃんと話して来い」
「…分かった」
会ってちゃんと話す。
確かに、ずっと会ってないから、ずっと、すれ違い続けている。
自分と向き合うと決めたから、ちゃんと、話して、自分の事を分かってもらわければならない。
冬休みになってから、会ってみると、メールに打ち、送信した。
すぐに返信が来て、冬休みに入ってすぐ、会うことになった。
「これでいいの?」
「あぁ。そんな顔するな。会って話をするだけだから、大丈夫」
頭に乗せられた手が暖かい。
だが、胸の中には、モヤモヤした気持ちが蠢いた。
このままでは、稲荷に心配させてしまう。
着替えを持って、洗面所に向かい、熱いシャワーを浴びて、さっさと、ベットに入った。
まずは、映画に出来るように、話を元に台本にする為、撮影に関わる人たち全員で集まり、話し合いをする。
内容的には、そのままで、記憶を失う所を車のライトで、目が眩み、玄関先の段差に頭をぶつけて失うとし、その後に出てくる夫婦は、その家の夫婦とした。
内容が完全に固まると、そこから、行動と台詞に書き分ける。
その作業を数名の生徒が担当し、残りの生徒は、小道具や衣装のデザイン、製作に取り掛かった。
1週間後、台本が出来上がり、丸1日を掛けて、主演する人たちは、台詞を覚えた。
次の日には、全員で読み合わせをし、更に、次の日から放送部の顧問に頼んで、カメラや機材などを借りて、撮影が始まった。
幼少期は、カメラが主人公の視点になり、話を進め、後ろ姿だけを撮りたいと、自分の妹を連れて、要所要所の後ろ姿を撮らせてもらい、高校生になってからを演じた。
皆、バイトや用事に合わせて、撮影を進めていく。
学校での撮影は、休み時間や朝早くに来たり、それ以外の撮影は、大体が、舞子の家を使わせてもらった。
もちろん、隆也や稲荷、他の先生や事務員さんにも手伝ってもらい、順調に進み、撮影の全てが終わったのは、本格的に始動してから、3週間後だった。
それから、編集をする為に、数名の生徒は、コンピューター室に籠り、その間、他の撮影に関わった人たちは、喫茶店の準備に加わった。
文化祭の2日前に、編集が終わり、その日の放課後、機材のテストも兼ねて、上映会が設けられた。
『私は、忘れない。皆と過ごした美しい日々。優しい家族。愛すべき、沢山の人々を。絶対に忘れたりしない。ありがとう。本当にありがとう。また、会いましょう。その時が来るまで…さようなら』
エンドロールが流れると、教室内に拍手が沸き起こった。
涙を拭い、鼻を啜り、互いに称え合い、混雑する中、舞子が抱きついてきた。
「ヤバい。号泣しそう」
「大袈裟だよ」
舞子の背中を優しく撫でる。
「凜華さん!!」
そこに香奈が、人を縫うようにして、友姫と紗英も一緒にやって来た。
「凄くよかった」
「感動したよ」
「やっぱり、はまり役だったね」
「よかった。そこまで、喜んでもらえて、嬉しいよ」
ニッコリと笑ってから、周りを見てから、少し考えて、抱き付く舞子の肩を押した。
「まだ、終わりじゃない」
騒がしかった教室内が、静かになった。
「私たちがやりたいのは、ここで終わりじゃない。これを上映する場所。見てもらう人。この両方が揃ってからが本番。今は、まだ準備の途中。だから、まだ泣いちゃダメ。泣くなら、本当に全部終わってから、皆で泣こうよ」
「…だよな」
幸彦の声に、舞子も頷いた。
「そうだよね。これからだよね。もっと、もっと頑張らなきゃね」
それから、機材を一旦、後ろに移動して、喫茶店の準備の続きを再開した。
当初のデザインよりに、看板やウェイター、ウェイトレスの衣装も、更に、手が加えられ、それに合わせて、メニュー表のデザインも変わった。
話し声も、全てが喫茶店の事で、それ以外は、黙って手を動かす。
そして、文化祭の前日の放課後。
忙しく動き回り、最後の仕上げをしていた時、実行委員会に行っていた舞子と幸彦が、慌てて戻って来ると、叫ぶように大声を出した。
「皆聞いて!!」
それぞれ、作業の手を止め、舞子と幸彦を見た。
「今年、初めて来場者の意識調査をする事になりました」
「意識調査って?具体的になに?」
「来場者した人に投票してもらい、どのクラスの出し物が、1番、よかったかを調査したいって事になったんだ」
「なにそれ。今更じゃん」
「そうなんだけど、隣のクラスの実行委員が、ずっと言ってたんだよ。それで、今さっき、可決されたんだよね」
舞子の説明に、生徒が、ざわつき始めた。
「隣のクラスの実行委員って誰?」
「えっと、それは…ねぇ?」
「んと~…何て言ったけ?」
目を泳がせる2人に、嫌な予感がした。
「…滝田さんよ」
久々に聞いた名前に驚き、その声がした方を見ると、滝田と仲良くしていたあの3人が、真剣な顔で、舞子を見つめていた。
「滝田さんなんでしょ?」
舞子は、小さく頷いた。
「やっぱり…あの人は、そうゆう人なのね」
「そうゆう人?」
3人は、悔しそうに顔を歪めた。
「私たち、2年の時に滝田さんとクラスが、一緒になったんだけど、その時から、自分に甘くて、自分が1番で、ワガママで、お姫様みたいな性格なの」
「確かに、キレイで、スタイルもいいけど、そんな性格だから、友だちなんて、ほとんどいなかったのよ」
「それで、可哀想だなって、話したら、自慢話とか、自分の話ばっかで、クラスが離れたから、離れるかと思ったら、メールで早く来ないと普通の学校生活、出来なくしてやるって言われて。どんな事されるか、分からなかったから、怖くて…」
彼女たちが、滝田の言いなりになっていた理由に可哀想になった。
親切心から生まれた支配は、目に見えないからこそ怖い。
だが、彼女らは、それを克服し、深く反省したから、今ここにいる。
未だに、滝田との関係が続いてたら、ここにいれない。
「でも…でも、もう耐えられない」
「あの人と一緒にいる方が、ろくな学校生活出来ないし」
「だから、私たち、携帯の番号もアドレスも変えて、なるべく、会わないように、教室にいるようになって、寺西さんを見てる事が多くて…キレイなのに、滝田さんとは、全然、違くて…謝りたくて、一条さんにきっかけをもらったの」
ギュッと口を固く閉じて、拳を握る舞子の手が震えていた。
「あれは、私たちの本心だよ?」
「もういいよ」
それまで、黙って3人の話を聞いていたが、舞子の拳を両手で包む。
「そんなに力入れたら、血出るよ」
目を閉じて、小さく頷いた舞子から、3人に視線を向けた。
「そんなに自分を責めたら、自分が可哀想だよ?」
驚く3人に優しく微笑んで、幸彦を見上げた。
「もう大丈夫だよ」
視線を反らして、何度も頷いた。
「どのクラスの出し物が、1番かなんて、そんなの1人じゃ決まらないよ?」
顔を上げる舞子や幸彦に、ニッコリと笑った。
「クラスは、1人じゃないんだから」
教室を見渡すと、クラスメート全員の顔が見える。
「ここにいる、皆で、1つのクラスでしょ?なら、皆で頑張らなきゃ1番にならないよ。今、ここで、誰か手を抜いてる人いる?今、ここで、何もしてない人いる?」
皆も隣同士で、顔を見つめて頷いた。
「皆、手なんか抜いてない。皆、何かをやっている。皆、頑張ってる。なら、今更、決まった事でも、関係ないよね?」
皆に向かって、ニッコリと笑う。
「私たちがやりたい事。それは、1番になるんじゃない。それは…」
「最高の文化祭にする」
舞子の言葉に、幸彦が微笑みを浮かべた。
「絶対に心に残る文化祭にする」
それから、次々に自分の中で、どんな文化祭にしたいかを口に出し、皆の顔が明るくなった。
「凜華は?」
皆の声を聞いていると、舞子に視線を向けられ、また教室が静かになった。
「私はねぇ…終わってから、皆と一緒に嬉し泣きしたいな」
一気に騒がしくなり、作業が再開され、皆の意識は、一気に高まり、明日の文化祭に向かった。
文化祭当日。
朝早くから、仕込みや機材の点検など、作業に追われて、慌ただしく動き回り、最後の準備をしていた。
開始1時間前。
「皆、ご飯、食べてきた?」
クラスメートのほとんどが、朝食を食べる時間がなかったみたいだった。
「よかったら、食べて」
机をくっ付けたテーブルに1つずつラップに包んだおにぎりを出した。
「わぁーーい!いただきまぁす。んま」
1番に飛んできた舞子が、おにぎりを頬張ると、幸彦や香奈が、おにぎりを配り始め、いつの間にか、クラス全体で朝食の時間になった。
おにぎりを頬張る皆の顔は、とても明るい。
おにぎりを食べながら、次の事を考えていた。
不意に、時計を見ると、開会式が始まる10分前だった。
「ん!!舞子!!」
「へ?うっわ!!ヤバ!!全員、体育館!!急げぇーーー!!」
時計を見て、次々に教室から走り出し、体育館に向かった。
全員、無事に体育館に着くと、ちょうど、開会式が始まり、実行員長が開会の宣言をして、自分たちの持ち場に戻ると、文化祭が始まった。
予想以上にお客さんが入り、混雑し始めたが、皆、落ち着いていて、大きなトラブルも起きずに、1回目の上映がスタートした。
話が進んでいくと、あちこちのテーブルから、鼻を啜る音が聞こえ、時折、ハンカチで目尻を押さえる人もいた。
エンドロールが流れ、拍手が響くと、あちらこちらで、感想が聞こえてきた。
「最近の高校生って、スゴいね」
「あのヒロイン役の娘。モデルかな?」
「また、観たいね」
「続きとか、気になるよね?」
「文化祭の為に作ったから、続編とかはないんじゃない?」
「だよね。あ~。なんか、勿体ないなぁ」
その感想を聞いて、皆と視線を合わせて、ニッコリと笑った。
噂が人を呼び、教室の前には、列が長蛇の列が出来始めた。
このままでは、他のクラスや通行人の邪魔になると判断し、機材担当の子と話し合い、上映時間の変更を掛け、それに合わせた整理券を作った。
手の空いていた子たちも、整理券を作るのを手伝ってくれる。
列に並んでる人たちに、事情を説明し、手分けして整理券を配り、ポスターの時間を書き直す為、走り出そうとしていると、何人かのクラスメートが戻ってきた。
「変更時間は?」
「これ」
「マーカーどこ?」
「これ使って」
「この整理券配っていいの?」
「お願い」
「エプロンの予備ある?」
「何枚必要?」
「この紙、使っていい?」
変更した上映時間をメモしてた子が、メモ紙を渡し、渡された子たちが、マーカーを持って走り出す。
更に、戻ってきたクラスメートが、整理券を作り、それを別の子が配る。
自分の担当する時間じゃないけど、エプロンを着けて手伝ってくれる。
そんな皆と一緒に、慌ただしく、動き回る。
あとから、聞いた話だけど、機材担当の子が、同じ機材担当の子に連絡をすると、その子から次々に連絡が回り、手の空いていた子たちが、戻ってきてくれたらしい。
誰から言われたわけでなく、皆、自ら考え、行動している。
1人ではない。
皆で問題を打破し、次の事を考え、行動する。
こんなにいい人たちに囲まれ、こんなに優しいクラスにいれて、さっきよりも幸福感が溢れ出る。
舞子や幸彦も合流し、1人だった機材担当も、2人に増え、整理券の効果もあり、その後、忙しさは、変わらないが、特に、迷惑を掛けるでもなく、映画喫茶は、順調のまま、終わる事が出来た。
閉会の時間となり、スピーカーから意識調査の結果と共に、来場者から寄せられた感想が流れ始めた。
その声をBGMに片付けをしていたが、次の瞬間、告げられる感想に、誰もが動きを止め、スピーカーを見上げた。
『とても感動的で、最高の映画でした』
『今日しか観れない事が残念。もっともっと、観たいと思える映画でした』
『生徒の皆さんが、とても優しく、丁寧で、何回も足を運んでしまいました』
『頑張ってる姿、素敵でした。映画も最高です』
『皆が団結して、一生懸命働く姿に感動』
『映画も喫茶店もサイコー。また来たい』
『映画と頑張る姿、2つの感動をありがとう』
『優しくて暖かな映画は、このクラスだからだと思いました』
読み上げられる感想の多さに驚いていると、周りにクラスメートが集まった。
『更に、多くの感想を頂きましたが、時間の関係上、一部だけ、読ませて頂きました。それでは、第一回、意識調査、最優秀クラスの発表をします』
自分の心音しか聞こえない。
そこにいる全員が、同じだった。
ドキドキと激しく脈打つ心臓と、静まり返る教室に、皆、身動き1つしなかった。
『最優秀クラスは…3年2組の映画喫茶でした』
自分たちのクラスが呼ばれ、皆、歓喜の声を上げた。
肩を叩き合い、抱き合い、喜びを分かち合い、今この瞬間、頑張りが認められた。
皆と喜びを噛み締め合っていると、舞子と幸彦が戻ってきた。
「凜華。やったね」
「うん。皆のおかげだよ。ありがと」
「それは違う」
幸彦に首を傾げると、優しく微笑んだ。
「お前が、皆を支えたんだよ」
「そうだよ。凜華が頑張ってたから、私も頑張れたんだよ」
「凜華さんが、落ち着いてたから」
「寺西が色々、考えてくれたから」
「凜華が、励ましてくれたから」
「寺西さんに負けたくなかったから」
周りに集まったクラスメートから、色んな言葉を掛けてくれるだけで、涙が出そうになる。
「凜華」
舞子と幸彦が並ぶと、その後ろにクラス全員が集まった。
「今までありがとう。これからもよろしくね?」
舞子の言葉が合図だったように、皆が一斉に、ありがとうよろしくと声を上げた。
抑えていた涙が溢れた。
「私もありがとう。これからも仲良くしてね?」
泣きそうになりながら、皆に向かって、ニッコリと笑うと、舞子の目にも涙が溢れ、2人で抱き合い、大泣きした。
幸彦が鼻を啜ると、友だちと肩を組んだ。
皆の目にも、薄らと涙が浮かび、皆で嬉し泣きした。
この時、掲げていた目標を達成した。
喜びに浸っていると、隆也と稲荷が教室に入ってきた。
「おぉ。やってんな」
近付く隆也の手には、スーパーの袋が握られていた。
「皆さん。最優秀おめでとう」
優しく微笑む稲荷の手にも、同じスーパーの袋があった。
「それなに?」
その袋に淡い期待をしていると、隆也と稲荷は、近くの机に袋を置いた。
「なんだ?なんか、期待してんのか?残念だな」
「佐藤先生。あまり意地悪してたら、嫌われますよ?」
「分かってるって。仕方ねぇな」
隆也は、皆を見渡してから、ニヤリと笑った。
「祝賀会すんぞ」
その言葉に、更に、教室内が賑やかになった。
「但し、片付けが終わってからだ」
ブーイングをしながらも、皆、素直に片付けを再開した。
隆也と稲荷も手伝い、片付けは、予想よりも早く終える事が出来た。
机をいくつか、くっ付けて、テーブルを作ると、2人が持ってきた袋から、お菓子やプチケーキ、オードブルなど多くの食べ物が並べられた。
舞子や香奈と手分けして、紙コップを配り、ジュースを注いだ。
皆で紙コップを持つと、舞子に背中を触れられた。
「皆、持った?では、乾杯の音頭を凜華にやってもらいます」
「私!?ここは、舞子がするもんでしょ?」
「いいから。いいから。では、凜華。お願いします」
舞子に背中を軽く押され、周りを見渡した。
周りの優しい顔付きに、安心した。
「え~と…大きなトラブルもなく、映画喫茶を大成功に導けたのは、皆のおかげです。ありがとうございました。皆の頑張りと最優秀に選ばれた事を祝いまして。乾杯」
「カンパ~イ!!」
紙コップをぶつけ合い、祝賀会が始まった。
食べ物をつまみながら、今日の話で盛り上がった。
「なぁ!!最後に観ようぜ!!」
「いいねぇ~。観よう」
男子生徒の1人の提案に、それに賛同した生徒が、明日、返す機材を準備して、また映画が上映された。
しかし、それは、あの映画ではなくて、撮影の裏側や喫茶店の準備、更には、今日のお客さんや教室内の様子が映されていた。
どれもが、多くの笑顔や笑い声が溢れていた。
そして、あのノートにあった1人1人からのメッセージが、映し出され、舞子のメッセージが映ると、舞子の声で、そのメッセージが読み上げられる。
『 凜華が転校してきて、仲良くなって、ずっと友だちでいれて、私を親友だと言ってもらえて、本当、嬉しくて、幸せで。いつもは、恥ずかしくて言えないけど、私は、凜華にずっと、ずっと支えられてたんだよ。毎日、毎日、学校が楽しく感じるのは、凜華がいるおかげ。今回の文化祭で、全部、返せるとは、思ってないけど、今まで支えられた分、少しでも返すから。私の最高の友だちと、最高の文化祭にしてみせる。高校最後の文化祭。最高の思い出、作ろうね?舞子』
もうダメだった。
涙で前が見えくなり、屈んで、顔を隠して、泣いていると、最後の最後、1つの文章を繋がるように、全員で読み上げられた。
『皆。友だち。最高の。仲間。誰にも。負けない。最高の。時間。高校。最後の。文化祭。最高の。思い出。だから。どんなに。遠く。離れても。バラバラに。なっても。大丈夫。皆の。思い出と。過ごした。時間が。あれば。どんな。辛くて。苦しい事が。あっても。越えられる。皆。心は。いつも。一緒。だから。これからも。よろしくね』
周りが明るくなり、皆が拍手をしていた。
終わっているのに、涙が止まらない。
あと数ヶ月で卒業すると、皆、バラバラになる。
居心地が良すぎて、すっかり、忘れていた。
急に、現実が目の前に現れ、喜びよりも悲しみが沸き上がった。
こんなに、いい人たちばかりのクラスだから、余計に苦しい。
それでも、越えなければならない。
だが、顔が上げられず、下を向いたまま、静かに泣いていると、誰かに、優しく髪を撫でられた。
「ズルい…皆ズルいよ…こんな事…考えてたなら…教えてくれたって…いいじゃん」
「え~。教えたら、サプライズにならないじゃん?」
「こんなサプライズ…ナシだよ」
「そんな事言わないの」
「そうだよ。私たちだけで、考えたんだからね?」
「あのノートで…十分…なのに…」
「あれはあれ。これはこれ」
「意味…わかんない…」
「嬉しくない?」
静かに首を振り、顔を上げて、涙でグチャグチャになった顔で、力なく笑った。
「凄く…嬉しい」
その汚い顔を見て、皆、一瞬、動きを止めると、ガタガタと動き出した。
「カメラ!!カメラ!!」
「ないよ!!」
「誰か早く!!携帯準備して!!」
「なんで皆して!!こんな時に携帯持ってないのよ!!」
「仕方ねぇだろ!!邪魔だったんだから!!」
「早く!!」
「寺西さん!!そのまま!!」
暴れるように、騒がしくなる皆を見て、いつの間にか、涙は、引っ込んで、笑い始めると、落胆の声が響いた。
「貴重な瞬間だったのに。逃した」
「貴重って…」
香奈の呟きに、苦笑いすると、隣に立った舞子が、ジュースを飲んだ。
「まぁ。確かに、凜華のあんな汚い顔、滅多に見られないからね」
「汚いって言わないでくれる?自分でも、分かってんだから」
「因みに、わたっしゃ、2回目じゃ」
「それ小学生の時でしょ。もう無効だよ」
「ナニ言ってんの?私が覚えてたら、有効なの」
「じゃ、あの時、私が泣いた理由覚えてる?」
「えーと~…なんだっけ?」
「無効」
「汚い顔は、覚えてるから有効」
「小学生なんだから、汚くないから」
「えー汚かったよ~。グチャグチャで」
「小学生だったんだから、仕方ないでしょ?」
「いや~。小学生でも、あれは汚いよ。今も汚いけど」
「もう!!そんな汚い汚い言うな!!」
舞子のやりとりを見ていた子たちが、大笑いし始め、恥ずかしくて、顔が真っ赤になった。
「やぁ~い。茹でダコ」
「舞子!!」
強い口調になると、舞子は、勢い良く逃げて振り返った。
そんな舞子を無視して、ジュースを飲みながら、友姫や香奈とお菓子を食べた。
「放置かい!!」
舞子の声に皆で笑う。
とても楽しい時間は、長く続かない。
「おっし。そろそろ、片付けっぞ」
「え~~~!!」
「おめぇらなぁ。これ以上は、怒られるんだっつの」
「隆也は、怒られても平気だろ」
「五月女。今度の小テスト覚悟しろよ」
「横暴だ!!」
「さて。2人は、ほっといて。このままでは、私も怒られてしまいますから。お願いします」
「はぁ~い」
「おめぇら、サイテーだぞ」
笑いながら片付けをして、一斉に学校を出て、それぞれ、我が家へ帰宅した。
楽しかった時間、これから来る別れが、肩に重くのし掛かり、悲しみが生まれる。
友だちが増える程、皆と仲良くなる程、別れが来るのは辛い。
だから、あまり深入りしなかった。
もう会いえないなら、最初から関わらなければいい。
そうやって、泣く意味を作らないようにして、泣けないようにしてた。
だが、それは、自分が傷付くのを恐れ、周りを拒絶してただけの哀しい人がすることだった。
今になり、浅い付き合いばかりしていたのに、溜め息が出る。
それが、帰る気力を奪い、自転車を押しながら、トボトボと歩いていた。
「リンカ!!」
後ろから呼ばれ、振り返ると、手を振りながら、稲荷が走って来るのが見えた。
早く学校を出たのに、稲荷が追い付く程、ゆっくりだったのに、情けなり、また溜め息が出る。
「お疲れ」
「うん。イナリもお疲れ様」
自転車を挟んで、並んで歩き出す。
「楽しかったか?」
「うん。ほとんど、教室から出られなかったけどね。あ。差し入れありがと」
稲荷は、ククっと、喉を鳴らすように笑った。
「ナニ?変な笑い方して」
「いや。実はね?あの、祝賀会を企画したのは、一条さんと五月女君なんだよ?」
驚いて立ち止まると、稲荷も立ち止まり、優しく微笑んだ。
「最後にお祝いがしたい。だから、学校から離れられない自分たちの代わりに、買い物をしてきて欲しいって。それで、私が買い物をして、佐藤さんに運んでもらったんだよ」
「そっか」
また歩き出すと、稲荷も、一緒に歩き出した。
「その理由は、さっき、分かったんだけどね?」
「え…じゃ、何も知らないで、手伝ったの?」
「まぁね」
「よく、手伝う気になったね」
「そりゃ、リンカの為って言われたら、手伝うさ」
その状況を想像してしまい、笑えてきた。
クスクスと笑うと、稲荷は、優しく微笑んで、安心したように鼻で溜め息をついた。
「よかった。少しは、元気が出たみたいで」
その時、いつの間にか、悲しみが薄れていることに気付いた。
「一気に、色々考えないで。今は、目の前にあるモノを大切にすればいい。大丈夫。リンカなら、それが、ちゃんと、分かるはずだから」
頭に稲荷の手が、優しく乗せられ、その暖かさに目を閉じると、浮かぶのは、皆の笑顔だった。
稲荷の手が離れ、頬を撫でられた。
優しく微笑む稲荷に、微笑みを返した。
「さ。早く帰ろう」
「はぁ~い」
「今日の夕飯は、どうしようか」
「私、もうお腹イッパイ」
「私は、どうなるんだ?」
「買えば?いなり寿司」
「そうやって、淋しいことを言うな」
笑いながら、稲荷と歩く帰り道は、足取りも軽くなり、意気揚々と部屋に入り、冷蔵庫の中を漁った。
お茶漬けを稲荷に出してから、お風呂に行こうと準備をしていた時、急にメール音が鳴り、携帯を開いた。
「げ!!」
食べ終わった茶碗を片付けていた稲荷が、台所から顔を出した。
「どうした?」
何も言わず、稲荷に画面を見せる。
稲荷は、メールを読むと、眉間にシワが寄った。
「何を勝手な」
「そうゆう人。あの人は、女の幸せは、結婚だって考えだから。でも、まだ未成年だから、色々と、決められない。一応、仕送り受けてるし、学費だって、支払って貰ってるし。仕方ないよ」
苦笑いすると、稲荷は、真剣な顔付きになり、何かを考えていた。
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「行ってこい」
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「これでいいの?」
「あぁ。そんな顔するな。会って話をするだけだから、大丈夫」
頭に乗せられた手が暖かい。
だが、胸の中には、モヤモヤした気持ちが蠢いた。
このままでは、稲荷に心配させてしまう。
着替えを持って、洗面所に向かい、熱いシャワーを浴びて、さっさと、ベットに入った。
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