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4話

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思ったよりも、道が悪く坂が厳しかった。
息を切らしながらも、遺跡まで来ることは出来たが、コアトルに、話をされても、それに返すことが出来なかった。
ずっと無言だったのが、気に入らなかったのか、コアトルは、肩から離れて、ずっと飛んでいる。

「ここに、アモスがいるの?」

横目で見ただけで、コアトルは、先に遺跡に近付いた。

「もしかして、まだ怒ってる?」

コアトルの後を追うように、遺跡に近付く。

「ごめんって。坂が思ったより、厳しかったからさ」

壁面から、少し迫り出ている岩に、コアトルが止まった。

「本当にごめんってば。許してくれよ」

謝りながら近付き、コアトルの側で立ち止まると、足元が崩れ落ちた。
砂や岩と一緒に、大きな穴に吸い込まれるように落ちた。

「アックス!!」

コアトルは、追って来ようとしたが、二人の軍兵の姿が見え、森の中に隠れた。
一番近くにある木の枝に止まり、様子を見ていた。
大きな穴が空いているのを発見した軍兵は、何か話をしている。
だが、コアトルのところからは、その声までは、聞こえなかった。
二人が、その場に留まってしまい、コアトルは、動く事が出来なかった。
意識を取り戻した時は、完全に、遺跡の中にいた。
頭上の遥か遠く、落ちてきた穴が小さく見えた。
そこに、二つの人影が動くのが、小さく見え、声を出すのをやめて、仕方なく、暗い遺跡の中を進んだ。
自分の足音だけが鳴り響く中、壁に手を着いて進んで行く。
途中で、やっと暗闇に慣れ、行く先が見え始めた。
角を曲がると、石造りの壁が現れ、行き止まりになっていた。
その石と石の隙間から、微かに光が漏れている。
背中のソードアックスを掴んで、そのまま、壁に向かって振り下ろした。
光に目が眩みながらも、崩れ落ちた壁を越えると、目の前に、光を放つ水晶が現れた。
コアトルの時と同じ、人影が見える。
ソードアックスを仕舞って、小型ナイフで、軽く指先を切り、染み出てきた血を左手の指輪に着ける。
その水晶に触れると、光が強くなり、それを手で、遮るようにして見つめた。
直ぐに、光が消えて、周りが暗くなると、後ろから声が聞こえた。

「アックス!!」

コアトルが飛んで来て、肩に乗ると、目の前にある水晶が砕け散り、中にいた人影がハッキリと分かった。
全身を赤い毛皮が包み、胸元はVの字に毛がない。
赤く乱暴に伸ばされた髪と尖った耳、口元には、小さく牙が見えた。

「我名はアモス。創成の魔物なり」

コアトルとは違い、大地が揺れる程、低い声で、アモスはそう告げた。

「久しいな。アモス」

肩に乗るコアトルが、アモスの目の前まで飛んで行った。

「コアトルか。何年ぶりだろうな」

差し出したアモスの手に止まり、コアトルは、懐かしむように目を細めた。

「ミリアが亡くなってから…かれこれ十年ぶりくらいだろうか?」

「そんなに経ったのか。早いものだな」

「あぁ。そうだ。紹介しよう」

コアトルが視線を向けると、アモスの視線も向けられた。

「アックスだ」

「ミリアの子か?」

二人に見つめられ、頷くと、アモスは、納得したように頷いた。

「そうか。あの小さかったアックスか。確かにその優しい目付きは、ミリアにそっくりだ」

嬉しくて微笑むと、アモスとコアトルが、俺の目の前に降りてきた。

「これからは、我も力を貸そう」

「ありがとう」

アモスと握手をすると、コアトルが、肩に乗った。

「では、ここから出よう」

頷いて歩き出そうとした時、自分でも、うつ伏せに倒れるのが分かった。

「「アックス!!」」

二人が、同時に呼んだのが聞こえて、苦笑いしながら呟く。

「…ご…めん…」

二人が、慌てたようにしているのを最後に意識が途切れ、気が付いた時は、もう森の中にいた。

「大丈夫か?」

起き上がり、アモスの声が聞こえて、周りを見たが、その姿が見えない。

「こっちだ」

キョロキョロと、アモスを探していると、下の方から声が聞こえた。
視線を移すと、そこには、赤狐が可愛らしく座っていた。

「アモス?」

「そうだ」

「俺のせい?」

「気にするな」

「ごめん」

「謝るな」

「ありがとう」

「礼を言われる程ではない」

「よろしくね?」

「我こそ、世話になる」

アモスを抱えて立ち上がると、コアトルが、何処からか戻って来た。

「コアトル。何処に行ってたんだ?」

「あの遺跡が崩れる前に、その周辺にいたモノを避難させてきたのだ」

「そっか。ご苦労様」

「礼を言うぞ」

コアトルは、抱えてるアモスを見下ろした。

「それにしても、随分、我とアモスの扱いが、違うのではないか?」

「そうかな?」

コアトルは、ムッとしながらも、肩に乗り、アモスに向かって首を傾げた。

「アモス。もう、例の術は使ったのか?」

「いや。まだだが」

「大丈夫だよ」

アモスは、一瞬、驚いたように、目を見開いた。
腕から降り立ち、少し離れたところで、アモスが、炎に包まれると、人の姿になり、両手を広げた。

「ハート・オブ・コール」

周りに熱風が吹き乱れ、その熱さに、コアトルを懐に抱いて目を閉じた。
熱風が、すぐに収まり、また、あの声が聞こえてきた。

―人間…憎イ―

目を開けて、周りを見ると、動物はいない。

「聞いていい?」

「なんだ?」

「最初に聞こえる声は、誰のモノなの?」

アモスは、狐の姿に戻っていた。

「この地の声だ」

周りに動物がいないのに、人間が、憎いや人間を喰うと聞こえる声は、この地に生きる全てのモノの声だったのだ。
少し淋しくなって、アモスを抱き上げて、すぐに歩き出した。

「どうした?」

コアトルに聞かれて迷ったが、素直に答えた。

「人は、哀しい生き物だなって思ってさ」

それからは、コアトルも、アモスも、黙ってしまい、その場を離れた。
森からカラフに降りる間、辺りは、すっかり暗くなっていたが、迷う事なく、彼女の家に向かった。
家の戸を叩くと、少しして、彼女が出て来るなり、驚いたように、目を見開いた。
だが、あの優しい微笑みを浮かべ、家の中に招き入れてくれた。
すぐに食事をする事になり、彼女の手伝いをした。
テーブルに料理を並べる間、アモスは、ずっと俺の横について歩いた。

「また、お供が増えたのかい?」

彼女は、皿を持ったまま、アモスを見下ろした。

「名は?」

アモスは、黙って彼女を見上げているだけだった。
警戒してるのだろう。

「アモス。コアトルと同じ創成の魔物」

「そう。コアトルのお友達?」

「友達ではない。仲間だ」

彼女は、警戒心が緩んだアモスに、あの優しい微笑みを向けた。

「そう。お仲間なの。それじゃ、食事にしましょう」

アモスを抱き上げて、椅子に乗せたが、少しテーブルの方が高かった。

「困ったな。どうしよう」

「なんとかならないのか?」

コアトルと、首を傾げながら、悩んでいる中、彼女は、何処かに行ってしまった。
アモスも、首を傾げた。

「別に床でも構わん」

「床はダメだよ」

「何故だ?」

「床は冷えるから、温かいご飯が冷めちゃう」

「別に、味は変わらないだろ?」

「そんな事ないよ。温かい方が美味しいよ」

「そうなのか?」

「そうなの。にしても困ったな」

「あったよ」

何処からか、足が長く、座る部分は、小さい椅子を持って来た。

「随分、小さいですね」

「子供用の椅子だよ。息子や孫が使っていたから、かなり古いが、まだ使えるよ」

アモスの乗っていた椅子を避け、受け取った椅子を置く。
アモスが、身軽に乗った椅子をテーブルに近付けてあげると、丁度の高さになった。

「よかったな。アモス」

背もたれに手を着いて、アモスを見下ろした。

「これでいいのか?」

「うん」

皆で、席に着いて、手を合わせる。

「いただきます」

その声を合図に、食事が始まった。
香ばしく焼かれた厚切り肉。
バスケット一杯のパン。
優しい味わいのスープ。
大切に育てられた野菜のサラダ。
他にも、濃厚そうなチーズやバターが、テーブルいっぱいに並んでいた。
そのどれもが、本当に美味しかった。
無言のまま、肉にかぶり付くアモスの姿は、なんとも微笑ましい。

「なんだ」

その姿を微笑んでいると、アモスが聞いた。

「美味しい?」

首を傾げながら聞くと、アモスは、何かを考えるように、目の前にある料理を見つめた。

「…今までに感じた事のない味だ」

「お主は、何故、そんな言い方しか出来ないのだ」

「まぁ、いいじゃない?」

「夢中になってしまう程、美味しいのだとこっちが思えばいいのだからね」

この日の食事の風景は、なんとも愉快で、可愛らしい光景だった。

「これから、何処に行くんだい?」

何も聞かなかった彼女が、初めて行き先を聞いてきたことに驚いた。
それと同時に、寂しさが込み上げてきた。
食事の手を止めて、彼女から視線を外し、目の前にあるスープの皿を見下ろした。

「…パセナに向かいます」

彼女も驚きで、食事の手を止め、テーブルの上に視線を下ろした。

「そう…パセナに向かうの」

しばらく無言になると、アモスが聞いてきた。

「何故、そんなに暗い顔をするのだ?」

彼女は、静かに目を閉じた。

「失われた村…」

そんな彼女の変わりに答えた。

「時代が移り変わる中、あの村だけは、変わる事がなかった」

「パセナは、何故、滅んだのだ?」

コアトルの問い掛けに、目を開けて、彼女が静かに答えた。

「魔封石さ」

彼女の答えに、アモスとコアトルが、首を傾げた。

「パセナ付近では、多くの魔封石が、埋まっているとされていた為、パセナを巡り、大規模な戦争が起きたんだ。その戦争に、多くの村人が巻き込まれ、多くの人の命が、犠牲になってしまった」

「それで、パセナは滅んだのか」

「それは、ただのきっかけ。パセナの悲劇は、それからなんだ」

その歴史を知ってる者は、悲しまずにはいられない。

「悲劇とは何なのだ?」

冷め始めたスープを見下ろしたまま、ゆっくり瞬きをした。

「その戦争で、勝利した国の王が、心ないことを言ったんだ。それが原因で、パセナは、失われたんだ」

「言った事とはなんだ?」

「…全てを手に入れろ」

コアトルの問い掛けに、彼女は、背中を丸めながら、悲しそうに目を細めた。

「パセナの村も、その周辺にある山や森、そこに眠る魔封石も、全てをカンタルティアの王は、手に入れる事を望んだ。その為に、パセナは、生きる事の出来ない死の大陸と化し、その大地にいた、全ての生き物たちが死んだ。だが、人間だけは、その地から離れ、別の地で生きる事を決意した…嫁の父親もパセナの出身だった」

彼女は、視線を落とし、持っていたスプーンを置き、テーブルの上に、小さく手を組んだ。

「パセナに暮らしていた両親に連れられ、彼女の父親は、幼い時に故郷を離れ、このカラフで、暮らしていた。そして、当時、旅をしていたと彼女の母親と出会い、一緒になって、このカラフで彼女は産まれた」

彼女が、アモスやコアトルに視線を向けた。

「そして、今度は、息子と彼女が出会い、孫が産まれた。両親から、パセナの事を聞かされた父親、彼女も同じように、父親から聞かされ、彼女も、また、孫に、それを聞かせた」

何となく、その先の言葉が、予測する事が出来た。

「両親が亡くなって、すぐ、孫は、パセナに行ってしまった」

親から子へ。
子から孫へ。
孫からひ孫へ。
そうして、パセナの悲劇は、語り継がれるだけなら、まだよかった。

「時に、ご老人」

アモスが、突然、彼女を見つめて真剣な顔をした。

「これは、まだあるのだろか?」

厚切り肉を加えて、見せたアモスに、彼女は、一瞬、きょとんとしてから、声を出して笑った。

「いつの間に!そんな食べていたのだ!」

見れば、厚切り肉は、アモスの加えている一枚しかなくなっていた。

「それをよこせ!」

コアトルが、翼で、肉を差すと、アモスは、一気に、口の中に入れて飲み込んだ。
それを見て、コアトルは、体を震わせた。

「アモス!!今日という今日は許さん!!覚悟しろ!!」

暴れようとするコアトルを無視して、パンを加えて、そっぽを向くアモス。
彼女は、笑いながら、肉を持ってきた。
それからは、楽しい食卓になった。
騒がしい食事を終え、後片付けを手伝い、昨日と同じ部屋でくつろぐ。

「あぁ」

「く…苦しい」

昨日と同じベットの上で、アモスとコアトルは、並んで仰向けになっていた。

「二人とも食べ過ぎだよ」

膨れた腹を擦りながら、コアトルがアモスに翼を向けた。

「コイツが悪いのだ」

アモスも同じように、腹を擦っていた。

「お主が勝手にしたことだ」

「お主が、バカみたいに食うから、こうなったのだ」

「我は、ただ、あの味の虜になっただけだ。何も悪い事はしていない」

「少しは、遠慮しろと言っているのだ。おかげで、あまり食えんかったぞ」

「そんな腹をして、何を言っているのだ」

「お主こそ。凄い腹をしているではないか」

「何を言う。お主こそ、凄いぞ」

「二人とも凄いから。お互い様でしょ」

言い合いが始まりそうになり、苦笑いしながら、間に入ると、二人は黙った。

「ねぇ」

コアトルの隣に寝転んで聞いた。

「母さんは、何人の創成の魔物と縁を結んでたの?」

横向きになったアモスが、コアトルを挟んで答えた。

「我らとゼン、シエラの四体だ」

「アモスは、何の力が使えるの?」

「我は炎と光だ」

「母さんは、何の為に皆と縁を結んだの?」

「それは分からん。ゼンなら分かるかもしれんが…」

「ゼンは、何処にいるの?」

その問い掛けには、いつの間にか、横向きになっていたコアトルが答えた。

「クリフ荒野にいるはずだ」

昔、見た地図を思い出しながら、経路を考えた。

「なら、今度は、クリフ荒野に行こう?」

コアトルとアモスが、頷いてくれたのが、嬉しくて、二人に手を伸ばして触れた。
コアトルの羽根は、見た目よりも柔らかく、アモスの毛も柔らかいが、更に、フカフカしていて、触り心地がよかった。

「どうした?」

そう聞きながら、コアトルは、触る首を少し伸ばしてくれた。

「ん~?なんとなく」

アモスは、尻尾を振り回してた。

「なんとなくで、触れるのは、少々、居心地が悪い」

二人が、嬉しそうにしているのが、更に、嬉しくなる。

「なんか嬉しいなって思って」

アモスを引き寄せて、コアトルも、そのまま巻き込むようにして抱えた。

「ありがとう」

そのまま二人を抱えて、寝てしまった。
二人の暖かさに安心して、この日は、いつもより深い眠りに落ちていた。
また、あの夢を見たが、前回とは違い、村が襲われる前だった。
母の手伝いをしたり、父と剣術の稽古をしたり、母と何かを話していたり、父の剣の手入れを手伝ったりと、忙しく動き回っていた。
次々に、浮かんでは、消える映像の中には、一緒に走っている動物の姿もあった。
最後に見たのは、父さんと母さんが、迫り来る闇から、守ってくれたところだった。

「…ス…アッ…アックス!!」

静かに目を開けると、コアトルとアモスが、心配そうに見ていた。

「ん~っ…おはよう」

「大丈夫か?」

「何が?」

アモスに聞かれ、首を傾げると、コアトルが、心配そうな顔で首を傾げた。

「苦しそうに唸っていたぞ」

「あぁ。ごめんね?うるさかった?」

しばらく見ていたアモスが、腕に前足を掛けて、体を伸ばして頬を舐めた。

「なに?急に」

コアトルが、肩に乗って、翼で頬に触れた。

「泣いておる」

自分の顔に触れて、目元が、濡れているのに気付き、袖で、乱暴に顔を拭いた。

「何でもない」

それから、微笑むのを見上げてから、二人は、互いに顔を見合わせた。

「何か辛い事でもあるのか?」

その言葉に、夢の話をしようかと思ったが、やめて、ベットから立ち上がった。

「本当に何でもないから」

二人を置いて、部屋から出ると、キッチンで、彼女が朝食を作っているのに声を掛け、昨日と同じように、瓶を持って、水汲み場に行き、水を汲むついでに、顔を洗ってから戻った。
戻るとすぐに朝食になり、その時の二人は、大人しくて、少し変な感じがした。
後片付けを手伝い、身支度をして、コアトルとアモスを抱え、家の前で、彼女と向き合った。

「大変、お世話になりました。また、カラフに来たら寄らせて下さい」

「是非。それと一つ…お願いなんだけど…」

彼女の両手に、右手を包まれた。 

「もし、孫に会ったら伝えておくれ。オルマは待ってるよっと」

その時、初めて彼女の名が、オルマだと知った。

「分かりました。お孫さんの特徴とお名前は?」

「アナタよりも、十くらい年上で、名は、バイセです」

それを聞き、一瞬、隊長を思い浮かべた。
だが、彼とオルマは、何一つ似ていない。
きっと同姓同名なのだろう。

「分かりました。きっと、お伝えします」

「ありがとう」

オルマに見送られながら歩き出し、露店に寄って、二、三日分の食料を買い、出入口に向かう。
最後に、もう一度だけ振り返り、その景色を目に焼き付け、カラフの村を出た。
森の中に入ると、すぐにウォールウルフの群れが現れた。

―オ前、コノ前、邪魔シタ奴―

「あの時はごめん。もう大丈夫?」

―モウ邪魔スルナ―

ウォールウルフたちは、行ってしまった。

「完全に嫌われちゃったな」

頬をポリポリと掻いてると、足元で、アモスが哀しそうな顔をした。

「すまぬ。アイツらは、言っても聞かんところがあるのだ。だが、根は悪い奴ではない。許してやってくれ」

屈んでアモスの頭を撫でた。

「謝らなくていいんだよ?彼らの邪魔をしたのは事実だから。大丈夫」

微笑んで見せると、アモスは、嬉しそうに尻尾を振りながら、手に頬を擦り寄せた。

「可愛いな」

「何が可愛いだ」

肩に乗っていたコアトルが、拗ねたように、膨れていた。

「何を拗ねておるのだ」

「拗ねてなどおらん」

「拗ねておるではないか」

「拗ねてなどおらん!!」

大声を出して、コアトルが飛んで、先に行こうとしたのを捕まえた。

「何をする!!」

「こんな所ではぐれたら嫌だからね。それに…」

コアトルとアモスを抱えて、茂みの中に、身を潜めると、軍兵が、前から走って来た。
隠れている茂みの前で、軍兵が立ち止まり、こっちを見た。
息を殺して、じっとしていると、遠くから、その軍兵を呼ぶ声が聞こえ、軍兵は、走って行った。
茂みのから、顔を出して、周りを確認すると、軍兵の姿は、もう何処にもなかった。
二人を抱えたまま、茂みから飛び出し、一気に森の中を駆け抜けた。

「とにかく。今は、次に行こう」

二人を抱えたまま、丸半日、走り続けたが、軍兵が配備されている範囲の一番、外側に来るのがやっとだった。
二人を下ろして、膝に手を置き、ゼェゼェと、肩を激しく動かした。
それを見て、コアトルは、休めそうな場所を探す為に飛んで行った。
呼吸が落ち着いた頃、コアトルも戻って来て、案内してもらい、その場所に向かった。

「大丈夫か?」

足元を歩くアモスに聞かれていることに、適当に首を動かしていると、目の前に、小さな洞穴があった。
その洞穴の中で、地べたに座り込むと、アモスが、取り出してくれた水入れを受け取り、水を少し飲んだ。

「ありがとう。あぁ。一気に疲れた」

いつもより、少し早いが、食事をすることにした。
二人に、パンと干し肉を食べさせ、自分も、口にパンと干し肉を押し込んで、立ち上がり、出発しようとした。

「そんなに焦らんでもいいだろ?」

「そうだ。焦りは禁物だ」

無理矢理、口の中の物を飲み込んだ。

「ここは、まだ軍兵の配備範囲内なんだ」

「だからと言って、焦って行動して、もしもの事が起これば、元も子もなかろう」

苦笑いして、二人を抱えて、洞穴の周りを確認し、また走り出した。

「今は、誰にも見付かりたくないんだ」

また、丸半日を走り続け、辺りが薄暗いのが、更に、薄暗くなり始めた時には、隣村のサクスに着いた。
サクスに着いて、すぐ、宿屋に向かった。
部屋は空いていたが、ほとんどの部屋には、軍兵が泊まっている。
自分の予想が当たっているか、確かめる為に酒場に向かった。
酒場の中も、軍兵が多くの席を占領していた。
唯一、一つだけ空いていたテーブル席の椅子に座って、料理と酒を注文した。
酒を運んで来た女の子が、戻ろうとしたのに声を掛ける。

「俺ら、何処かで会った事ありませんか?」

振り返った彼女は、微笑んだ。

「もしかして、口説いてます?」

彼女に調子を合わせる。

「だとしたら、どうします?」

「冗談でしょ?年上よ?」

「年上がいいんですよ」

「あら。物好きな人」

去ろうとした彼女が、戻って来て、背もたれに手を置いて立った。

「旅人さんかしら?」

「えぇ」

「何処、行くの?」

「クリフ荒野の方に、行こうかと思ってます」

「あんな所に何しに行くの?」

「それは秘密です」

「意地悪ね」

「よく言われます。ところで、兵士さんが多いみたいですね?」

「アルスメティア国の軍兵よ」

「この話題は、あまり好きじゃないみたいですね?」

「そんな事ないわよ?でも、口説かれるのに、そんな話題は、雰囲気出ないわよね」

「仕事の邪魔はしたくありませんから」

「真面目ね。でも、そうゆう人、嫌いじゃないわよ?」

「ありがとうございます。なら教えて欲しいな?」

言葉を崩して話したら、好意を持ってくれたらしく、顔を近付けて、耳元で囁かれた。

「カラフやウィニア程じゃないけど、ここにも軍兵が配備されてるわ」

同じように、彼女の耳元に顔を近付け、呟くように聞く。

「じゃ、ウィンクリ村にも?」

「えぇ。でも、クリフ荒野の方には、かなりの軍兵が配備されてるわ」

「何故?」

「隣国と国領争いが、近い内に始まるみたい。気を付けてね?」

「隣国って何処?」

「サラマス国」

「ありがとう」

「今度は、もっと雰囲気のあるお話しましょうね?」

「分かった。その時は、色々、教えてね?」

「もちろんよ。じゃね」

頬に、そっと口付けしてから、彼女は、ウィンクして去って行った。

「お主…やり手だな」

懐から、アモスが、少し顔を出した。

「親友がやってたのを真似ただけ」

「なるほど。お前が、そんなに器用じゃないと思っていたぞ」

コアトルは、顔を覗かせて、変に目を細めていた。
溜め息をついて酒を飲む。
仕事中の女性から、情報を貰った時は、たまに、その人に視線を向けてやれ。
彼女に視線を送ると、彼女も、こちらに視線を向けた。
その時、彼女は、口に軽く手を当てて、離す動作をして見せた。
所謂、投げキッスだ。
その後、すぐに小さく手を振ったのを見て、小さく手を振り返した。

「やはり、お主は、やり手だ…」

「我は、お前が、分からなくなってきたぞ」

「いいから」

その時、彼女が料理を持って来た。
艶やかに微笑んで、テーブルに料理を置いて、また、背もたれに手を置いて、耳元に顔を近付けた。

「テリオルの方から迂回すれば、軍兵を避けて、クリフ荒野に行けるわ」

「ありがとう。そうするね」

彼女の耳元に、顔を近付けて、同じように囁くと、また、艶やかに微笑んで、ウィンクしながら去って行った。
アモスとコアトルに、パンや肉を食べさせながら、自分の口にも放り込んだ。
合間には、彼女に視線をちゃんと送った。
そんな事をしていたら、食事に、かなりの時間を費やしていた。
出入口で振り返って、彼女を見ると、彼女も、やはり、こちらを見ていた。
最後に、ウィンクをしてから、酒場を出て、宿屋に戻った。
懐から二人をベットの上に出してから、背伸びをした。

「んーーーっ。あ~。肩凝りそう」

「あのオナゴは、かなり、お主を気に入ったみたいだぞ?」

「勘弁して。俺、あまり、女性って得意じゃないんだ」

コアトルとアモスは、驚いたように、顔を見合わせて笑い出した。

「フハハハ…アハハハ…」

「ククク…これアモス…フフ…しっ失礼だぞ…クク…」

不機嫌な顔をして、ベットに転げ回る二人を避けて座った。

「何が、そんなおかしいのさ」

「いやぁ~。まさかとは思っていたが、お主が、セオと、そんな所まで同じとは思わなかった」

「父さんも?」

「そうだ」

コアトルが、肩に乗って、翼を広げた。

「セオも、あの手の女子は苦手だった。ミリアと一緒になるのも、かなりの苦労をしたからな」

「へぇ」

「だが、お主は、セオよりは、大丈夫そうだな」

「そうだな。セオは、ミリア以外の女子とは、話す事が出来なかったからな」

そんな話をしていた時、部屋に、ノックの音が響いた。
慌てて、コアトルとアモスが、ベットの下に隠れるのを確認してから、ドアを開けると、誰もいなかった。
その代わり、部屋の前の廊下に、四つ折りになった紙が置いてあった。
それを拾って、ドアを閉め、ベットの上に座ると、二人も下から出て来た。

「なんだ?」

アモスが、ベットの上に乗って座り、コアトルは、肩に乗った。

「手紙…か?」

四つ折りになった紙を開くと、そこには、酒場で情報を貰った彼女からだった。

「何と書いてあるのだ?」

アモスは、腕に前足を掛けて、体を伸ばし、手紙を覗き込んだ。
その手紙をベットに置いた。

「ちょっと出掛けてくる。早めに帰るから」

部屋から出て行くのを見送ってから、コアトルとアモスは、急いで、ベットに置かれた手紙を読んだ。

『酒場の裏口で待ってる。早めに来てね』

短い文章の最後には、キスマークが着けてあった。
急いで酒場の裏口に行き、少し離れた所から、裏口を確認すると、彼女が壁に寄り掛かって、待っているのが見えた。
溜め息をついてから、裏口の方に向かって歩き出すと、気付いた彼女が、小走りに駆け寄って来て、抱き付いた。

「仕事は?」

「もう終わり」

上半身を離してはいるが、腕は、肩に置かれていた。

「ねぇ。家で飲まない?」

「あ~、明日早いからなぁ」

苦笑いしていると、胸に、頬を擦り寄せてきた。

「意地悪」

「ごめんね?」

彼女が、そのまま顔を上げたので、かなりの至近距離に、互いの顔があった。
ゆっくり、彼女の顔が近付いて来るのが分かり、咄嗟に、横に顔を向けた。

「そういえばさ。どうして、テリオルから行けって言ったの?」

「店にいた軍兵に聞いたの」

「よく教えてくれたね」

「頑張ったのよ?」

「そうだったんだ。ありがとう」

「だ・か・ら。ご褒美。欲しいなぁ。ね?」

また、顔が近付いて来るのを更に、違う方を向いて聞いた。

「軍兵は、なんて言ってたの?」

彼女は、頬を膨らましてから、離れて、こちらに背を向けた。

「教えなぁ~い」

「どうして?」

そう聞くと、彼女は、こちらに向き直り、近付いてきた。

「そんな話したくないもん。もっと楽しい話がしたいな」

シリスは、こんな時、どうやって切り抜けてたのだろうか。
困った顔をしていると、急に、腕を掴まれ、強引に、引き寄せられた。
思ったよりも、力が強かった。
一気に、距離が縮まり、驚いていると、唇に彼女の唇が重なった。
勢いで、ガチンと、歯と歯がぶつかる音が、頭に響いた。
気付いた時には、力いっぱいに突き飛ばし、彼女は、裏口の横のゴミ箱が置いてあった所に、後ろ向きに転んでいた。
彼女を置いて走り出し、宿屋に戻ると、アモスとコアトルが寝てるベットに潜り込んだ。
布団を頭から被ると、二人は、ベットから転げ落ちていた。

「なんだ!?」

「何が起きた!?」

寝ぼけながらも、ベットの上で、布団にくるまっているのを見て、二人は、ベットに乗って来た。

「どうしたのだ?」

「何かあったのか?」

少しだけ、頭の方に隙間を作り、顔が見えないまま、ボソボソと呟いた。

「…キスされた…」

その言葉に、二人は、暫く黙っていたが、コアトルが聞いてきた。

「…それだけか?」

首を縦に動かすと、布団も一緒になって微妙に動いた。

「そんな事で…」

「そんな事って…そんな風に言わないでよ」

アモスが首を傾げた。

「キスくらいで、何をそんなに慌てているのだ」

「…だって…」

コアトルとアモスが、溜め息をついた。
体と一緒に、布団が、小刻みに震えても、二人の小言は、止まらなかった。

「女子みたいな事を言うでない」

「お主は、男であろう?」

「キスの一つや二つ、別にどうって事ないだろ」

「キスしたからと言って、何かが変わる訳でもあるまいし」

「大体、初めてではないのだろ?」

勢いよく起き上がり、涙目になりながら叫んだ。

「そんな事言うなよ!!キスの一つや二つって言うけどな!!怖かったんだぞ!!本当に取って食われるんじゃないかって思うくらいの勢いだったんだからな!!悪かったな!!初めてだよ!!俺の…俺のファーストキスがぁ…」

一気に言って、泣き崩れると、二人は、しばらく固まっていた。

「なんとも女々しい…」

それに答えずに、しばらく泣いていたら落ち着いた。

「俺にとっては、大切な事なんだよ」

「しかし、奪われてしまったのは、どうする事も出来んぞ」

「気を付けてたはずなのに…」

「そんなにも、嫌だったのなら、行かなければよかったのではないか?」

「だって…あんな所にいたら危ないし…本当に待ってたら、待ちぼうけになるじゃん」

「お前は、優しすぎるのだ」

「向こうが、勝手にした事をそこまで思わなくてもいいだろ?」

「でも…可哀想じゃん」

「それはそうだが…」

「まぁ、それがお前の良い所なのだが。それにしても…我らにまで被害が及ぶのは、考えものだぞ」

「やはり、お主は、もう少し男らしくなった方がよい」

また布団を頭から被って叫んだ。

「もういい!!寝る!!」

コアトルとアモスは、顔を見合わせてから、溜め息をついた。

「今度は、子供みたいに拗ねてしまった」

「仕方ない。暫しほっといてやろう」

布団にくるまって、泣いているのを挟んで、二人は、また眠りに落ちた。
泣き疲れて、いつの間に眠りに落ちていた。
ファーストキスは、生涯を共に歩む人としたかった。
悔しいというよりも、この時程、女性の怖さを思い知った。
朝、起きると、目が腫れぼったく感じた。
起きたのを感じ取った二人も、起き上がり、背伸びをした。

「おはよう…って!何だその顔は!?」

驚いたコアトルに釣られて、アモスも、顔を見て笑い出した。

「アハハハハハ…なんて顔をしているのだ…クハハハハ…」

急いで、壁際にあるドレッサーの鏡で、確認すると、目の周りが、赤く腫れて、鼻の頭や頬も赤くなっていた。

「アハハ…それでは、まるっきり乙女ではないか…ククク…クハハハハ…」

未だに腹を抱えて笑っているアモスとは、真逆に、肩に乗って、コアトルは、心配そうに翼で頬を撫でた。

「大丈夫か?なんなら、もう一晩は、ここに泊まるか?」

「それはイヤだ」

「しかし…」

「フード被ってれば、あまり見えないから、大丈夫。それよりも、早く、この村から出たい」

そんなコアトルとのやり取りが、気に入らなかったのか、笑うのをやめたアモスが、ベットから降りて、急に俺の足を軽く引っ掻いた。

「痛っ!!」

「アモス!!」

ドアの前に座って、こちらに背を向けて、横目で視線を向けた。

「早く出たいなら、早くすればいいのだ」

その後ろ姿が、微笑ましくて、コアトルを懐に抱いて、いつもより、深めにフードを被った。
アモスを抱き上げて、テリオルに向かって出発した。
宿屋から出て、すぐに露店に行き、水入れと食料を買い、近くの水汲み場で、水入れに、いっぱいの水を汲んだ。
急いで、村を出たが、テリオルまでは、三、四日掛かる。
森の中に入って、アモスを下ろし、コアトルを肩に乗せた。
それから、急ぎ足で進むと、見た事がある光景が目の前に広がった。
鉛色の空を見上げて、しばらく、その場に佇んでいた。

「どうしたのだ?」

足元で聞くアモスに、コアトルが答えた。

「お前に会う前、エビルホークに遭遇したのだ。その時の風景と似ているのだ」

アモスは、黙って下を向いてしまった。

「大丈夫だよ」

屈んでアモスの頭を撫でた。

「あの時は、あれしか方法がなかったけど、これからは、アモスがいるから平気だよ」

嬉しそうに尻尾を振るアモスを見て、安心して、立ち上がって、また歩き出そうとした。
その時、俺たちの前に、エビルホークが現れた。
彼を見上げてから、視線を足元に移した。

―ありがとう―

「え?」

驚いて見上げると、エビルホークは、体を低くして、顔を近付けてきた。

―彼を解放してくれて、ありがとう―

「でも…殺しちゃった…」

―彼は、それを望んでいたのです―

エビルホークは、空を見上げた。

―この世界に絶望し、哀しみに身を落とし、憎しみに包まれ、望まぬ自分になってしまった。そんな彼の最後の望みを貴方は叶えてくれた―

エビルホークが微笑んだように見えた。

―ありがとう―

あんな方法でしか、救えなかった。
それが悔しかった。
それでも、感謝してくれるモノがいる。
あんな残酷な方法しか出来なくても、感謝されたことに喜びを感じた。

―これから、どちらに向かうのですか?―

「テリオルに行こうと思ってるんだ」

―ならば、近くまで送りましょう―

「いいの?」

―せめてものお礼です―

エビルホークは、大きな体を出来るだけ、小さくして、頭を下げてくれた。

―背にお乗りください―

「ありがとう」

コアトルとアモスを抱えて、エビルホークの背中に乗った。

―しっかり捕まっていて下さい―

エビルホークが、大きく、翼を羽ばたかせると、風と共に、砂が巻き上げられた。
舞い上がった砂煙に、目を細めていると、エビルホークが飛び立った。
今までいたサクス村が、小さく見え、これから進もうとしていた森が、眼下に広がる壮大な景色を見入っていた。

「凄いか?」

懐からアモスとコアトルが、聞いてきたのに、流れる景色を見つめた。

「あぁ」

「この自然の中で、我らは、本当にちっぽけな存在だと思わんか?」

「そうだね」

「お主も、我らも、この自然には勝てない」

「うん」

―生けるモノは、全てが、そうなのです―

「君も?」

―生きるモノに、代わりはないです。だから、生きる為、必死になり、彼らのようなモノが、生まれてしまうのです―

エビルホークは、森のすぐ、上まで高度を下げた。
森の中を走り抜けるウォールウルフの群れを見付けた。

―彼らのような生き方をしてしまう。そんな哀しいモノたちが―

また高度を上げたエビルホークの背中で、コアトルとアモスを見た。

「自然を壊した人間は、きっと、皆の敵になるんだね」

「人は、慈しむ事が出来る」

「だから、我らは人に頼るのだ」

「そっか…ありがとう」

二人に微笑んでから、また、周りの景色を見て、次の村には、何が待っているのか楽しみになった。
昨夜の事なんて、すっかり忘れて、エビルホークとの空の旅を楽しんだ。
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