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第十九章

第十話 初戦の夜

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「本日はみんなよく頑張ってくれた。皆の衆の活躍のお陰で、女王メイの軍団を撤退させることに成功した。初戦の勝利を祝して、今日は英気を養ってくれ。乾杯!」

 ブリタニア王が乾杯の音頭をとり、俺たちは初戦の勝利を祝して酒を飲んだ。

「師匠! ワタシの戦い見てくれましたか!」

 コップの中に入っている酒を飲もうとすると、背後からアッテラの声が聞こえ、背中に抱きつかれる。

 彼女の胸が背中に当たり、一瞬ドキッとしてしまう。

「アッテラ、すまない。別のチームだったから見ていない」

「そんなー、ワタシ頑張って敵の兵士を何人も倒したんですよ」

 アッテラの勇姿を見てやれなかったことに不満に感じたのか、アッテラは俺を見ながら頬を膨らませる。

 こんなに可愛らしい娘が、封印されていた魔王とは全然思えないよな。

 そんなことを思いながら、コップに入った酒を飲む。

「遠くから見ていましたが、アッテラさんは凄く活躍されていましたわ。ねぇ、スカーヤ」

「そうですわね。アッテラさんは剣を振っただけで、何百人もの敵兵を吹き飛ばしていました。シロウさん、お酒のおかわりを注ぎますわね」

 コヤンさんの言葉にスカーヤさんが答えると、彼女は俺のコップにお酒を注ぐ。

「ケモノ族の巫女もなかなかのものだったよ。双子という利点を生かして、敵兵を錯乱させていた。あれは君たちにしかできないことだった」

「あら、アッテラさんに見られているとは思いませんでしたわ。スカーヤは気づいていましたか?」

「いえ、ワタクシも気付きませんでした」

 アッテラと双子の巫女から、各部隊の報告を聞いていると、俺に影が差した。顔を上げると、キャプテンモネが果物の入った皿を持って立っていた。

「キャプテンモネ」

「魔王を打ち倒した英雄様は本当にモテモテだな」

 彼女の言葉に、俺は苦笑いを浮かべる。別にモテていると言う実感はないのだけどなぁ。どちらかと言うと、俺の人徳に人が集まっていると言うのが、適切な言葉だと思う。

「はい、これ。甲板員が君に持って行けと言ったから持って来た」

 甲板員に言われたから来たと、キャプテンモネが言う。俺は甲板員たちが集まっている場所を見た。すると、元空賊の頭と目が合う。彼は親指を上にしてグッドのサインを送った。

 なるほどなぁ、あいつなりに彼女を気遣ったと言うわけか。

「それじゃ、ボクは戻るから」

「待ってくれよ。せっかくだから、ここに座って話しを聞かせてくれないか? 俺たちと別れたあと、どんなことがあったのかを」

「ふーん。君は物好きだね。船長の話しに興味があるなんて。まぁ、君がそんなに話しを聞きたいのなら、特別に話しを聞かせて上げるよ」

 踵を返して離れようとしていたキャプテンモネは、身体を反転させて、その場に座り込む。

 甲板員たちの方を見ると、元空賊の頭が涙を流して他の甲板員たちと抱き合っていた。

 気持ち悪い奴らだな。もしかしてホモだったりするのか。

 キャプテンモネの話しを聞いて一時間ほど経った頃、俺は尿意を感じて一度彼女たちから離れた。

 用意されてある簡易トイレで用を足し、みんなのところに戻ろうとすると、金髪の長い髪の女性が、クリーム色の髪の少女と話している光景が見えた。

「あれはクロエとミーリアか。それにしても、どうして二人はあんなに離れたところで話しているんだ?」

 疑問に思っていると、クロエが立ち上がってこちらに歩いて来る。

「あ、シロウさん!」

「クロエ、ミーリアの相手をしてくれていたんだな」

「うん、一人で離れたところにいたから、なんだかほっておけなくって。でも、中々心を開いてくれないんだ」

「まぁ、ミーリアは元々敵軍だったわけだし、唯一の肉親であるバーサーカーまで失った。子供でもある以上、簡単には割り切れないはずだからな」

「それでも私は、ミーリアちゃんと仲良くなりたい。血は繋がっていなくても、本当のお姉ちゃんと思ってもらえるように」

「クロエなら大丈夫だよ。時間はかかるかもしれないけれど、あの子は本当にいい子だ。時間を掛ければ、いずれ打ち解けてくれる」

「うん。それまで私は頑張るよ。それじゃあ、私はおトイレに行って来るね」

 俺の横を通り過ぎ、クロエは簡易トイレに向かう。

「俺も少しミーリアと話しておくか」

 アッテラたちがいるところに戻るのを止め、ミーリアがいるところに向かう。

「ミーリア、どうしてこんなところにいるんだ?」

「シロウ……お兄ちゃん。わたし……本当にここにいてもいいのかな?」

 どこか不安気な雰囲気を醸しながら、ミーリアは訊ねてくる。

「ここに居ていいに決まっているだろう! ちゃんと王様の許可はもらってある。ミーリアは捕虜にはしないし、普通の子どもとして扱ってもらえるようにしてもらっている」

「シロウお兄ちゃん。手を繋いでもいい?」

「別に構わないけど」

 まだ小さい手を握ってあげると、彼女の手は震えていた。

 それはそうだよな。いくら俺がいるからと言っても、ここには彼女の知っている人はほとんどいない。

 心細く、怖くて不安なのは当たり前なのだ。ヘラとクレースにも頼まれている以上、彼女の精神面も守ってあげなくては。

「やっぱりシロウお兄ちゃんは凄いや」

「いきなりどうした?」

 突然褒めだした理由が分からず、俺は首を傾げる。

「シロウお兄ちゃんの手を握っていると、全然怖くない。それよりも安心感のほうが強くなっているの」

 そう言えば、いつの間にかミーリアの手の震えが収まっているな。

「ふあぁ~」

 安心して気が緩んでしまったのかもしれないな。ミーリアは子どもぽく大きなあくびをすると、眠たそうに瞼を擦った。

「ミーリア、眠いのならベッドに行くか」

「うん……シロウお兄ちゃん……一つお願いがあるの」

「なんだい?」

「わたしと一緒に寝て。わたしが眠るまでの間だけでいいから」

 彼女の言葉に、一瞬驚いてしまう。

「わかった。今からベッドに行こうか」

 彼女の心の拠り所が俺だけとなっている以上、ここで彼女のお願いを断る訳にはいかない。

 ミーリアと手を繋ぎながら、俺専用に用意してもらったテントの中に入る。

 ミーリアと一緒にベッドに潜り込むと、俺は彼女が眠りにつくまで手を握ってあげた。

 彼女が眠るまで付き添うつもりであったが、戦闘の疲れと酒による睡眠の誘発のせいで、俺まで眠くなってしまった。

 気が付くと、俺はミーリアと一緒に同じベッドで朝を迎えていた。
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