Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳

文字の大きさ
上 下
181 / 191
第十九章

第七話 強敵が立ち塞がるけど、二十回も倒さないといけないのかよ!

しおりを挟む
「怒りますよ?」

「怒ってる! もう怒ってますって! これ以上つねると、私の頬がもっちもちみたいにびろんびろ~んと伸びちゃいますよ、綾乃あやのさん!」

 今度こそ懲りたようで、木村きむらさんは重い息と共に手を離した。
 立場上、病人に対してはこういうことをしてはいけないとなっているが、何故か彼と話をすると調子が狂ってしまう。

――ダメダメ、これでも一応担当なんだからしっかりしないと。
 頭の中で自分に言い聞かせたが、納得がいかず、代わりに小さく息を吐き出す。

「まあ、でも」

 思わず顔を向けたその瞬間、すぐに後悔した。
 亮が頬を紅潮させ、もじもじし始めたのだ。人差し指をちょんちょんしたり、時にくるくる回したり。
 恥じらう乙女の姿を体現している彼を目の当たりにされると、木村きむらさんが生理的嫌悪感を露わにしたのは仕方のないこと。

「そこまで嫌というか、やぶさかではないというか……。だから……もっとしてくると、私は魂のシャウトを放ち、歓喜のあまりに感涙するヨ! 鶴喜つるきだけに!」

 一女性にドン引きされているにも関わらず、彼は眩しいくらいに爽やかな笑顔を浮かべた。まるでそう反応されるのが満更でもなかったかのように、彼は更に両手を広げる。

「さあ、どこからでもかかって――。はいたたた、はいたたたたっ」

――本当、病人ガチャ外れたな……アタシ。
 そう思っていても決して本人の前で言うはずもなく。かと言って、『新人』という烙印を押された以上、変えるように部長と掛け合うのは論外。だから、彼が退院するまで我慢するしかない。
 どれだけ自問自答をしても結局その結論に辿り着いてしまうことにため息一つ。手を離してあげると、彼は「ご褒美、ありがとうございますブヒ!」と調子を乗るから困ったものだ。

「全くもう……」

 こめかみを押さえて頭を振って、またため息をつく。
 彼と知り合ってまだ二ヶ月も経っていないが、二人の会話はいつもこの調子だ。むしろ、会話が成立している今の方がよっぽど不思議なくらいだ。

「それじゃあ、部屋に戻りますよー」

 気持ちを切り替えて、車椅子のハンドルを握って押し始める。
 初日がこれでは、これからも大変になるだろう。そうなる自分の姿を想像できるのが簡単な分、げんなりして重い息を落とす。
 ため息一つで何を思ったのか、亮は突然ハッとなった。

「もしや、これは今流行りの拉致監禁プレイなのカ!」

「ええー、まだ続くの……」

「フフフ、ハァーハハハ! 上等! 相手が白衣の天使ホワイト・エンジェルなら、むしろ本望!」

 彼女が「うわー」と流しても亮の勢いを止めることはできなかった。むしろ、それは彼を刺激するためのスパイスであることを、彼女は自覚していない。

「さあ、何でも受け入れる準備ができてるからネ! いつでもどこからでもウェルカムヨ!」

「はあ……。もう、ツッコむのも面倒くさ……」

「そんなぁ! ツッコミがなくなったら、私たちのコンビはどうなっちゃうノ!?」

「勝手に入れないでください」

木村きむらさーん、ちょっといいですかー」

 車椅子を押している最中に背後から声をかけられて、木村きむらさんが「は、はい!」と慌てて手を離して身体ごと振り向いた。ピンと背筋を伸ばす彼女を見て、先輩看護師はふふっと小さく笑う。

「部長がお探しですよ」

 簡潔な伝言を残して、そのまま二人の横を通り過ぎる。
 相手が廊下を曲がってから、木村きむらさんは一気に緊張の糸が切れたように長い息を吐き出した。


 彼女がこの仕事に就いてからまだ半年すら経っていない。
 おまけに、院内で一番頭おかしな病人の担当になったのだ。他の同僚の前で未だに緊張が解けていないのは、無理もないだろう。

 せっかく彼を見つけたというのに、なんという間の悪いタイミングで呼び出されたのか。いや、逆に看護師部長の呼び出しを喰らう節なんて、幾らでも思い付いてしまうから、困ったものだ。
 1時間前に亮を探すために病院中を駆け回ったことや、30分前に亮が勝手に他人の病室に入ったことだって、もしかして20分前に亮が子供の患者の前を通りかかっただけで泣かされたこととか。
 分単位で必ず何かをやらかすのが亮だから、本当に洒落にならない。

 その都度、木村きむらさんが彼を発見したが、隙とあらば行方をくらますから、毎回毎回彼を探す羽目になる。それだけならまだしも、彼がすぐに居なくなるから後始末をさせられるの、いつも彼女の方だ。
 思い出すだけで頭が痛くなる話ばかりだが、今はそれどころではない。

――仕方ない。一旦鶴喜つるきクンを部屋に……。

 彼女がそう判断するも、振り返ったら彼が既に居なくなったようでは、今まで長い時間を掛けて懊悩したのがバカバカしくなる。

「って、もういないし! ああもう!」

 ヤケクソ気味に叫び、怒った顔で走り出す木村きむらさん。そんな彼女が去り、辺りが静まり返ってから数分後。
 物陰からひょっこりと顔を出すのは、亮の勝ち誇った表情だった。

「へへ、何やらそう言われた気がしたから、先に逃げただとサ! 危険の前に察知するとは。さすが私! イェイ☆」

 誰もいない空間に向かってキメ顔で言った直後、表情が沈んだ。

「せっかく都会に来たんだ。アレを実行するか」

 一度深呼吸して、瞼を閉じる。まるで一世一代の大勝負に挑む前の選手かのような、シリアスな空気を纏って。
 ついに決意を固めたかのように、目をカッと見開いた――!

「んもおぉう我慢できんぅ! ここまで散々待たせているのだ。今こそ、ナンパをする時が来たァ! 
 待っていてくれ、まだ見ぬ乙女たち! 貴女たちだけのエンターテイナー、鶴喜亮つるきりょうが今行きまぁーす!」
しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。 森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。 その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。 これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語 今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ! 競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。 まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

無能扱いされた実は万能な武器職人、Sランクパーティーに招かれる~理不尽な理由でパーティーから追い出されましたが、恵まれた新天地で頑張ります~

詩葉 豊庸(旧名:堅茹でパスタ)
ファンタジー
鍛冶職人が武器を作り、提供する……なんてことはもう古い時代。 現代のパーティーには武具生成を役目とするクリエイターという存在があった。 アレンはそんなクリエイターの一人であり、彼もまたとある零細パーティーに属していた。 しかしアレンはパーティーリーダーのテリーに理不尽なまでの要望を突きつけられる日常を送っていた。 本当は彼の適性に合った武器を提供していたというのに…… そんな中、アレンの元に二人の少女が歩み寄ってくる。アレンは少女たちにパーティーへのスカウトを受けることになるが、後にその二人がとんでもない存在だったということを知る。 後日、アレンはテリーの裁量でパーティーから追い出されてしまう。 だが彼はクビを宣告されても何とも思わなかった。 むしろ、彼にとってはこの上なく嬉しいことだった。 これは万能クリエイター(本人は自覚無し)が最高の仲間たちと紡ぐ冒険の物語である。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

処理中です...