Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳

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第十九章

第七話 強敵が立ち塞がるけど、二十回も倒さないといけないのかよ!

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 ~シロウ視点~



「撤退だ! 撤退! 急いで後退しろ!」

 敵の数がかなり減った頃、女王メイの軍団が撤退を始めた。

「やりましたわ! シロウ! 敵軍が引いて行きます」

 逃げていく敵兵を見て、マリーが喜ぶ。

 確かに喜ばしいことだ。だけど、本当に逃げ帰っているだけなのだろうか? 撤退と見せかけて追撃を許し、追いついたところで伏兵が奇襲を仕掛ける。そんな戦術も十分に考えられる。

「へっへー、ザマァねぇな。このレオを相手にしたのだ。当然の結果だぜ。このままあいつらを追いかけて、背後から攻撃してくれる」

 考えていると、レオが走り出す。

「待て! 敵の作戦の可能性だって十分考えられる! 深追いはするな!」

「誰がシロウの言うことなんか聞くかよ! 同じチームではあるが、お前はリーダーではない! 俺は俺の判断で行かせてもらう」

 俺の忠告を無視して、レオは一人で敵を追いかける。

 勝手な行動をしやがって。後で酷い目に遭っても知らないからな。

 レオが単独行動を取って五分が経過した。だが、彼が戻ってくる様子はない。

「マリー、俺はレオの様子を見てくる。別働隊が合流してきたら、俺はレオを連れ戻しに向かったと言ってくれ」

「わかりましたわ。お気を付けて」

「ああ、スピードスター」

 彼女に頷くと、俺は俊足の魔法を唱えてレオを追いかける。

 しばらく走っていると、地面から足が二本生えているのが見えた。

 もしかして。

 二本の足に駆け寄り、地面から出ている足を引っ張る。すると、地面の中からレオが出て来た。

「おーい、こんなところで野菜ごっこかよ。遊んでいる場合じゃないぞ」

「ふ……ざ……ける……な……おべが……あぞんで……いる……ように……みべる……か」

 どうやら酷くコテンパンにされたようだな。顔面青痣ができて、せっかくのイケメン顔が台無しになっている。

 まぁ、これで彼も単独行動の危険性を学んだだろう。脳の記憶を司る海馬に刻まれたことだろうし、回復をさせてやるとするか。

「ネイチャーヒーリング」

 回復魔法をかけて、彼の細胞に働きかける。損傷した肉体は修復され、ボコボコにされる前の状態に戻った。

「それで、何があったのか教えてくれないか」

「どうして俺が、お前に恥を晒さないといけない」

 レオは、何があったのかを話す気がないみたいだ。そっぽを向かれてしまった。

「いや、地面に埋まっている姿を見られただけでも、十分に恥をかいているぞ。今更恥の上乗せをしても、あんまり変わらないからな」

 事実を告げると、彼は屈辱を覚えているようで、俺を睨む。

「化け物だよ! 少女を肩に乗せた大男が、俺を投げ飛ばしたんだ! そしたら地面に埋まってしまった」

 少女を乗せた大男! もしかして。

 ある人物が頭に浮かんだとき、何者かがこちらに歩いて来る。

 全長二メートルは超えていそうな長身に、鍛え抜かれた肉体の大男。そして彼の肩にはクリーム色の長髪の女の子が乗っていた。

 やっぱりミーリアとバーサーカーだったか。でも、あのバーサーカーは以前会ったあの二人よりも大きい。

「ミーリア!」

 少女の名を呼ぶ。

 俺の声に気付き、彼女は顔を上げた。しかし、すぐに顔を俯かせる。

「シロウお兄ちゃんごめんなさい。わたしはあなたを倒します」

 宣戦布告を告げると、ミーリアはバーサーカーから降りる。

「レオ!」

「ご主人様!」

 これから戦闘が始まると言う段階で、エリナとキャッツが俺たちのところにやって来た。

 エリナは追いかけて来るかもしれないと思ったけど、まさかキャッツまで来るとは思わなかったな。

「やっちゃってバーサーカー!」

『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォ!』

 屈強な大男が、巨大な斧を振り上げながら一気に距離を詰めて来る。

「エリナ! レオを連れて一旦下がってくれ」

「分かったわ」

「シロウ! 何勝手なことを言っていやがる! あいつにリベンジマッチをさせろ!」

「レオいい加減にしてよ! リベンジマッチってことは、一回負けているんでしょう。だったら大人しく一旦引くわよ。でないと」

「あだだだだ! わ、分かった。大人しく引くから、耳を引っ張らないでくれ」

 エリナとレオの会話が耳に入る中、敵の進行を止めるために魔法を放つ。

「ファイヤーボール!」

 火球を放つと、やつは一旦足を止める。そして斧を左右に動かした。

 その瞬間、俺の放った火球は中心が裂けて二つに別れ、バーサーカーを避ける。

 斧を振るった際に発生する気圧の変化を利用して、風を生み出したか。

 あのバーサーカー、思った以上に賢いじゃないか。

『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォ!』

「ご主人様、ここはキャッツが通訳をするワン! あいつの言っていることは、ご主人様にも知って欲しいワン」

 俺には雄叫びを上げているようにしか聞こえないけど、何かを語っているのか。

「分かった。キャッツは通訳を頼む!」

「はいワン!」

『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォ!』

「シロウ! お前を試させてもらう。お前がミーリアの救世主となるのか、この俺たちが見極めよう……と言っているワン!」

 俺がミーリアの救世主? どう言うことだ?

「クレース! ヘラ! やっぱりムリだよ! シロウお兄ちゃんとわたしは敵同士、どう考えてもいい方向には転ばない!」

『グオ、グオオ、グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォ!』

「ミーリア、もう、お前を守ってやれるのはシロウしかいない。ヘラとクレースは融合して一体のバーサーカーとして生まれ変わった。どっちにしろ、俺たちの肉体は最終的には限界に達して滅びる。だからその前に、大切な妹を預けるのに相応しい男なのか、この目で見極めさせてもらう! ワン」

「妹だって!」

 バーサーカーの言葉を通訳したキャッツのセリフを聞き、俺は驚く。

 あの二体のバーサーカーがミーリアの兄で、しかも融合して一体になっているだと!

『グオオオオ。グオ、グオ、グオ。グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!』

「ああ、俺たちは元々下級の奴隷だった。しかし、妹のミーリアはバーサーカーを操るスキルを持っていた。その才能を見込まれ、上級奴隷にミーリアは昇格した。だが、俺たちは妹と離れ離れになる。まだ小さい妹を一人にさせることができなかった俺たちは、バーサーカーになることで、一緒にいられる道を選んだ! ワン」

 バーサーカーは元々ミーリアの血縁関係にあった。

 と言うことは、俺に殺気を放っていたのって、兄心から来る嫉妬心だったんじゃないのか?

『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォ!』

「俺たちは融合して二人分のスキルを得た! その効果により、二十回倒さないと俺は死なない! ワン」

 バーサーカーは斧を振り上げながら、俺との距離を縮めて来た。

 こいつを二十回も倒さないといけないのかよ。
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