上 下
177 / 191
第十九章

第三話 どうして目的地に着いた途端に、いきなりバトルすることになる!

しおりを挟む
 俺たちは現在、女王メイのいる大陸に来ていた。

 船着場から一時間程歩くと、戦場となるセイランの地に近づく。

 そろそろセイランか。思っていたよりも早く着いたな。

「伝令! セイランで多くの集団を発見! ローブで姿は分かりませんが、数万はいるかと」

「なんだと! それは本当か!」

 斥候の言葉を聞き、王様が驚く。

 まさかこんなに早く、女王メイの軍隊がセイランで構えているとは思わなかった。もしかして、俺たちの中に内通者でもいたのか?

 とにかく、この目で確かめないとな。斥候の話しだけでは、情報が少なすぎる。もっと詳細な情報が欲しい。

「王様、俺たちが様子を見てきます。ここで待機をしていてください」

「うむ。頼んだ。シロウなら上手くやってくれるだろう」

 王様からの許可を貰い、俺たちエグザイルドは女王メイの配下がいる場所に向かう。

 十分ほど走ると、敵の集団が見えた。

 あの斥候が言ったみたいに、数万の規模だな。女王メイの第一陣と言ったところか。

「なるべく気配を消しながら近づく。もし何かあったら、援護を頼む。最悪の場合はみんなだけでも逃げて王様たちと合流してくれ」

「分かりましたわ」

「うん」

「シロウさん、サポートは任せてください。ポーターとして、あなたを援護しますわ」

「ご主人様はキャッツがお守りするワン」

 みんなが了承をする中、ミラーカだけは何も言わなかった。

「ミラーカ? 俺の言っていることが聞こえたか?」

「あ、ああ。聞こえていたよ。ごめん、なんかあの集団を見たら、いやな予感がして」

 いやな予感?

「シロウさん! どうしてかわからないけど、敵が私たちに気付いたみたい! 二人ほどこっちに走って来ている!」

 敵が接近していることをクロエが言うと、俺は敵陣を見る。彼女の言うとおり、二名がこちらに走って来ていた。

 気配は完全に消していた。それなのに、どうして俺たちが近づいていることが分かった?

 不思議ではあるが仕方がない。後続の仲間を呼ばれる前に、あいつらを倒さないと。

「作戦どおりに頼む」

 作戦を開始することを告げると、隠れるのを止めて姿を見せる。

 ローブで姿は見えないが、体格からして男と女だな。

 近づかれる前に遠距離から攻撃だ。

「ファイヤーボール!」

 火球を生み出し、男に向けて放つ。すると、男はギリギリまで引き寄せると、左に跳躍して躱した。

 あの男、なかなかやるな。咄嗟に躱す瞬発力に、火球に立ち向かうガッツも持っている。

 動きからして武闘家だろうな。

 遠距離攻撃をしても躱されそうだ。なら、あの男に立ち向かうのであれば、俺も肉弾戦に切り替えるしかない。

「エンハンスドボディー」

 肉体強化の呪文を唱え、一時的に脳のリミッターを解除する。

 俺は構えて敵の攻撃に備えると、男は俺から一定の距離を開け、構えた。

 あの構えはウルフの構えか。

「久しぶりだなシロウ」

 この声はまさか!

 男はローブを脱ぐ。

「やっぱりベオだったか。ありがとう俺の頼みを聞いてくれて」

 ローブの男は、邪神を崇める蛮族の襲撃から、町を守る依頼をした町長の息子であり、自警団団長のベオだった。

「お前、何か勘違いしていないか?」

「え?」

「俺はお前と再び喧嘩ができると聞いたから来たんだ。お前らの国の事情なんかどうでもいい。俺はお前にリベンジをするために来た」

 マジかよ。こいつ、そんなくだらないことのためにわざわざこの大陸まで来たと言うのか。

「何ボケっとしている! 来ないのなら、こっちから行かせてもらうぜ! オーラオラオラ!」

 ベオが一気に間合いを詰めると、彼が俺の腹部に何度も拳を叩きつける。

 まるでサンドバックだな。まぁ、全然痛くはないから別にいいのだけど。

 肉体強化の魔法、エンハンスドボディーを防御として使うと、体内の水分を利用し、攻撃を受けた際に生じる慣性力と粘性力によって、元の位置に留まろうとする力が働く。これにより、一時的に体内の水分が硬化することで、肉体に強度を与えることができる。

「クッソー! いてーじゃないか! 防御魔法を使いやがって!」

 俺の腹を殴っていたベオの手からは血が流れており、赤く腫れ上がっていた。

 まぁ、コンクリート並みの硬さのはずだからな。強化していない腕で殴れば、そうなってしまうだろう。

「喧嘩のルールでは、攻撃魔法だけが禁止されていたはずだろう?」

「そうだったな、攻撃魔法だけが禁止だったな!」

 ベオが地面を蹴ると砂が舞い上がる。その砂が目に入ってしまい、一時的に視界を奪われてしまった。

「殴って倒せれないのなら、からめ手で行かせてもらう」

 ベオが体勢を低くすると、両手を地面につけて足払いをしてきた。

 目に砂が入っているせいで目が開けられない状態の中、彼の一撃を受けて転倒してしまう。

「これで俺の勝ちだ! 首を狙えば、いくらお前でもダメージを受けるだろう!」

 勝利を確信したようで、ベオが声高らかに宣言する。

 うん、確かに首を殴られでもしたら、いくら俺でも平然としていられない。まぁ、当たればの話しだけどな。

 しばらく待ってみても、首が痛くなることはなかった。

 どうにか間に合ったみたいだな。まぁ、腕と足ではリーチに差がある。

 目に入った砂がようやく取れ、俺の視界は良好となった。

 視界には、俺の右足がベオを蹴り上げている光景が映った。

 俺は彼に攻撃を当てるために、わざと足払いを受けた。地面に倒れる俺に攻撃をするとしたら、覆い被さるようにしてマウントを取りつつ、殴ってくるだろうと考えた。

 彼のケンカのスタイルは基本拳だからな。あそこで蹴りは入れないと思っていた。

 蹴りを受けたベオは地面に倒れる。

「それじゃあ、ケンカのルールに則ってテンカウントするからな」

 直ぐに起き上がらないベオを見て、カウントを始める。

「ワン、ツー、スリー、フォー、ファイブ、シックス、セブン、エイト、ナイン、テン……はい、この勝負俺の勝ちだな」

「ああ、お前はやっぱ強いな」

 ベオ、意識はあったのか。なら、立ち上がってくればよかったのに。

「ベオ、お前はわざと起き上がらなかっただろう」

「当たり前だろう。これから戦争と言う名の大喧嘩をしようとしているのに、こんなことで体力を消耗していられるかよ。今のは、ウォームアップだ」

「え、でも戦争には興味がないって言っていただろう?」

「お前に負けたんだ。敗者は勝者に従う義務がある」

「全く、ベオは素直じゃないね! 男のツンデレほど需要がないものはないよ」

「うるせー! マーカラは黙っていろ!」

 え、マーカラって。

 女性の声がした方を見る。

 もう一人のローブの女性がミラーカに抱きつき、彼女の身体をいやらしい手付きで弄っていた。

「シロウ君久しぶり! ミラーカちゃんのお姉ちゃんのマーカラだよ! ああ、久しぶりのミラーカちゃんの匂い! ぐへへ、ぐへへ」

 そういえば、マーカラさんは一定の範囲内であれば、ミラーカの居場所が特定できるのだったよな。どおりで俺たちは隠れていたのに、居場所がバレたわけだ。

「姉さん……いい加減に……あん! 離してくれ、あっ! そこ、らめええええええええええぇぇぇぇぇぇ!」

 マーカラさんに身体を弄られ、ミラーカは息を切らしながらも叫ぶ。

 ミラーカ、マーカラさんは別に胸や尻などは触っていないぞ。頼むから色っぽい感じの声を出さないでくれ。思わず声だけでムスコが反応しそうになる。
しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

処理中です...