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第十八章

第九話 おやおや?まさかこんなところに裏切り者がいるとは

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 炎に呑み込まれた店が視界に移り、俺は一瞬だけ硬直してしまう。

 いったい何が起きたんだ。とにかく、おっちゃんの安否を確認しないと。

「ミーリアはここにいろ」

 一緒に行動していた少女をその場に残し、引き返して火災の現場に向かう。

「おっちゃん、大丈夫か!」

「シロウ。ああ、爆発に巻き込まれたが、吹き飛ばされてケガをした程度で済んだ」

「ヒール」

 魚屋の店主に回復魔法をかけて治療すると、燃え上がる炎を見る。

 建物全体が炎に呑み込まれている。すぐに消火しないと、隣の店も燃えてしまう。

「ウォーターポンプ!」

 水の魔法を唱え、勢いの強い水を放つ。

 爆発によって起きた火災だ。それなら、すぐに消火できるはず。

 燃え上がる炎を次々と消し、一分ほどで消火作業を終える。

「ふぅ、どうにか隣の店に被害が出ずに済んだな」

 でも、どうしていきなり店が爆発したんだ?

「なぁ、おっちゃん。店の中で何か爆発につながるようなことをしていたか?」

「いや、何もしてはいなかったはずだが」

 となると、これは自然現象による爆発ではない可能性が高いな。つまり、この店が存在しては困る人物による犯行……それか。

 俺は魚屋のおっちゃんを見る。

 おっちゃん本人を狙った可能性もあるな。そしてタイミング的に考えるとすれば。

「出て来い。メッフィー!」

「アーハハハハ! さすがシロウです。まさかちょっとしたヒントだけで、この私の仕業だと見抜くとは」

 笑い声を上げながら、顔に星マークのある道化の男が現れる。

「どうしておっちゃんの店を爆発させた!」

「いやいや、まさか私自身もこんなことをすることになるとは、思ってもいなかったのですよ。その男が女王メイ様の国から逃げ出した裏切り者だと知ったので、余計な情報を流させないために、口封じをしようとしましたが、失敗してしまいました」

 店を爆破させたのは、おっちゃんを倒すための手段として使われたのか。

 なら、狙いはおっちゃんだ。彼を逃す必要がある。

「俺が時間を稼ぐから、おっちゃんは逃げろ! ギルドにいるオルテガに事情を話せば、匿ってくれるはずだ」

「分かった。あとは頼む」

 おっちゃんがこの場から去ると、俺はメッフィーを見る。

「さぁ、かかって来いよ。俺が相手をしてやる」

 右手を前に出し、指をクイックイッと曲げて挑発する。

「これは困りましたねぇ、まさか魔王を倒した英雄シロウと戦うことになるとは」

 こいつ、俺がアッテラを倒したことを知っているのか。

 見た目はふざけているが、あの男はそれなりに頭がキレそうだ。挑発をしたところで、簡単には乗ってくれないだろうな。

 どっちにしろ、もし戦争になってしまった場合は、こいつとも戦うことになる。だったらここで倒した方がいい。

「ではでは、メッフィーイリュージョンをお楽しみください」

 男は指をパチンと鳴らす。すると、周辺にいた虫が巨大化して魔物となった。

 この男、虫を魔物に変えることができるのか。

 現れたのは巨大なカマキリのギガマンティス。蛾の魔物、ポイズンモス。

「魔物が現れた!」

「慌てるな! ここには英雄シロウがいる! こんな奴ら瞬殺だ!」

「むしろ英雄シロウの戦いが見られるチャンスじゃないか」

「やっちまえ!」

「何秒で倒すか賭けないか?」

 魔物が現れたが、俺がいることに安心しているみたいだ。町民たちは逃げる素振りを見せずに、野次馬化している。

 いや、見物していないで逃げろよ! 見せ物じゃないんだぞ!

 心の中で叫ぶも、正直に言うと本気でそんなことは思っていない。

 彼らは俺のことを信頼している。なら、それに応えてあげようじゃないか。

「メッフィー、本当にそんなザコで俺が倒せれると思っているのか?」

「おやおや、さすが魔王を倒した英雄シロウ。Aクラスの魔物をザコと言いますか」

 ギガマンティスはそんなに警戒する必要はない。やつの鎌は、鉄をも切り裂くことができるが、間合いから離れていれば当たることはない。厄介なのはポイズンモスだ。

 あの魔物が空を飛ぶと、鱗粉が撒き散らされて様々な状態異常を引き起こす。俺だけなら魔法で対処することができるが、周辺には町民がいる。

 ここにいる町民たちをカバーしながら戦うのは正直面倒だ。

「鱗粉を飛ばされる前に、先にポイズンモスを倒す。ライトウォール」

 光の防御壁の魔法を使い、球体がポイズンモスを覆う。

 これで鱗粉を飛ばしても、周囲に飛び散ることはない。

 魔物は光の壁に体当たりをするも、球体にはヒビ一つ入らない。

 ポイズンモスはしばらく暴れていたが、次第に動きが弱まり、最後は力尽きて球体の中で倒れる。

 球体の中の酸素がなくなり、酸欠で倒れたようだ。

 酷いやり方ではあるが、これが一番安全な戦い方だ。

「これでポイズンモスは倒した、次はギガマンティス」
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