Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳

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第十六章

第十話 魔王と言っても、異世界の知識には敵わない

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「さぁ、この業火に焼かれ、骨すら残さず存在を消してくれる!」

 アッテラの生み出した巨大な火球を見て、俺は口角を上げた。

 よし、うまく誘導することができた。それじゃあ、いつものやつを始めるとしますか。

「ライトウォール!」

 光の防御壁を生み出す魔法を唱える。しかし、今回は身を守るものではなく、閉じ込めるものとしてだ。

 魔法が発動して、彼女の生み出した巨大な火球を光の壁が覆い尽くす。

「ワタシの魔法が封じられた!」

 あれだけ巨大な火球だ。周辺の酸素を取り込む量も半端ないはず。

 予想どおり、彼女のデスボールは球体内に残された酸素を使い果たした。その証拠としてどんどん小さくなっていく。

 これで準備は整った。あとはタイミングを見計らうだけだ。

 空中浮遊するために使っているファイヤージェットにも、意識しておく必要がある。だけどまぁ、どうにかなるだろう。

 俺が密かに尊敬している勇者様なら、こんなことできて当たり前だからな。

 さて、光の壁に気を取られないように、上手く誘導させてもらうとしますか。

「全く、魔王がこの程度かよ。本当に期待外れだ」

「何だと!」

「だってさっきから、俺に殆どダメージを与えていないじゃないか。ブリザードで受けたダメージも、回復魔法ですぐに痛みが引いたからな。ほら、俺を捕まえてみろよ。できるものならな」

 捨て台詞を吐くと、その場を離れる。

 まずは時間稼ぎだ。あの現象が起きるまで、まだ時間がある。球体に残された炎が完全に消えたタイミングで仕掛けさせてもらう。

「よくもこのワタシをバカにしたな! 人間如きが! 絶対に後悔させてやる! ファイヤーアロー」

 後方から、アッテラが呪文を唱えた声が聞こえてくる。

 ファイヤーアローは矢を模した炎、矢のように一直線で飛んでくる。

 なら、空気の流れを感じ取るんだ。

 空中を飛びながら、空気の流れが変わったことを肌で感じる。

 攻撃が来る!

 横向きに体勢を変えると、炎の矢が通過した。

「何だと! 振り向かないで躱すとは!」

「残念だったな! 物質が移動する際、空気抵抗が生まれて気圧に変化が起きる。その際に生じる僅かな風の動きを察知できれば、攻撃が飛んで来るタイミングは振り向かずとも分かるんだ。さぁ、さぁ、俺に攻撃を当てられるものなら、当ててみろ!」

 うーん。我ながら、少し幼稚な挑発をしてしまったな。これまでいくつもの魔法を使ったからな。少し疲れて思考が鈍くなっているかもしれない。

「くそう、くそう、くそう!」

 後方からアッテラの悔しがる声が聞こえてくる。

 お、安い挑発だったけど、乗ってくれたな。きっと攻撃を躱され続けて、魔王も理性を失いかけているのかもしれないな。

 これならきっと上手くいく。そろそろタイミングとしてはベストだろう。

 逃げるのを一旦止め、下に炎を噴射させてその場に止まる。

 うん。念のために確認してみたが、球体の中の炎は完全に消えている。時間からして消えてから一分も経っていないはずだ。

 両腕を後方に持って行くと、俺は先ほど来た方角に戻る。

「今度はこっちだ。捕まえてみろ!」

 すれ違い様にアッテラに声をかける。

「おのれ、さっきからちょこまかと逃げやがって!」

 炎の噴射の威力を上げ、可能な限り彼女との距離を開ける。

 よし、これだけ距離を開ければ多分大丈夫だろう。だけど念のために、解除と同時に俺は防御に入るとするか。

「今度こそ捕まえてやる!」

 アッテラが光の球体の真下を通過しようとした。

 今だ!

「ライトウォール!」

 呪文を唱え、俺の身体は光の球体に包まれる。それと同時に、デスボールをかき消した光の球体を消した。

 ドカーン!

「きゃあああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 光の球体が消えた瞬間、空中で大爆発が起きる。

 爆発に巻き込まれたアッテラは、悲鳴を上げながら吹き飛ばされた。

 爆煙で周囲が見えない。だけど、あの爆発を受けてただでは済まないはず。おそらく、人間であれば即死レベルだ。

 爆煙が消えるのを待ってから、アッテラを探す。彼女は地面に倒れていた。

 自身を包んでいる光の球体を消すと、身体は重力に引っ張られる。

「ウインド!」

 地上が近くなったところで風の魔法を唱え、浮力を利用してゆっくりと地面に着地した。

「いったい……何が起きた?」

 さすが魔王だな。あの爆発に巻き込まれても、まだ話す元気が残っている。

「どうして爆発が起きたのかと言うと、密閉された空間の中で、炎が酸素を消費し切れば炎は消える。だけど、完全には燃焼し切れていないんだ。球体の中は、一酸化炭素ガスが溜まっている状態になる。そんな中、空気に触れてしまうと熱せられた一酸化炭素に、酸素が急速に取り込まれて結びつく。それにより、二酸化炭素への化学反応が急激に進んで爆発を引き起こした。これがバッグドラフトだ」

「言っている意味が……分からない。だけど、そんな魔法……聞いたこと……ない」

 いや、これは魔法じゃなくて、自然現象なんだけどなぁ。だけど魔法かぁ。キャビテーションのときみたいに、合成魔法としてやってみる価値はあるな。機会があれば今度試してみるとするか。
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