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第十六章

第二話 闇堕ちの理由

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 町に入るなり、俺たちは魔族に取り囲まれる。

 おい、おい、これはどういうことだ? ミラーカの言ったこととは全然違うじゃないか。こいつら、飢えた獣のように目をギラギラさせている。友好的に接する気がなさそうだ。

 最悪、こいつらを倒してこの町から脱出することになるだろうな。

 取り囲んでいる魔族たちに警戒していると、奴らは一斉に俺たちとの距離を詰めてきた。

 こうなったら、正面突破だ。

「ストロング――」

「久しぶりの人間の客人じゃないか!」

「いやー、遠いところからよくお越しくださった」

「ようこそ! 魔大陸へ!」

 俺たちを囲んでいた魔族は、笑顔を見せる。そして俺たちを歓迎してくれた。

 あれ?

「ほら、ほら、久しぶりの人族と出会えて嬉しい気持ちはわかるけど、その辺にしないと困ってしまうよ! 人族にとっての魔族は、まだ凶悪な存在なんだから」

 囲まれる俺たちを見て、先に町に入ったマーカラさんが引き返して彼らに声をかける。

「おっと、これは大変失礼なことをした」

「それもそうだ。俺たちも逆の立場なら困惑するものな」

「解散、解散! お兄さんたち、よかったら後で私のお店に来てくれない? サービスするから」

 マーカラさんの鶴の一声により、魔族たちは散らばっていく。

「ごめんね。久しぶりの人族のお客さんだから、みんな興奮していたみたい」

「いえ、いきなりで戸惑ってしまいましたが、大丈夫です」

「それじゃ、今から私とミラーカちゃんの愛の巣に案内するね!」

「姉さん! 誤解を招くような言い方は止めてくれ!」

 二人の会話のやり取りに、俺は苦笑いを浮かべる。

 しばらく歩くと、俺たちはミラーカの実家に案内された。

「今、紅茶を用意するから待ってね!」

 テーブルの周りに置かれているイスに座り、町の人々のことを思い出す。

 最初は驚いてしまったけれど、本当に人の良さそうな魔族たちだったな。

 でも、どうしてこの町で育ったミラーカが、魔王復活を企む組織のメンバーになっていたのだろう?

「ミラーカさんは、どうして悪い魔族になってしまったの?」

 疑問に思っていたことを、クロエが単刀直入に訊ねる。

 普通は心の中で思っても、口には出さないものだ。それを簡単に口に出してしまうところは、彼女の長所だよなぁ。まぁ、考え方によっては短所にもなるけど。

「やっぱりそう思うよね。まぁ、ちょっとした黒歴史だ。今では恥ずかしく思う」

 ミラーカは苦笑いを浮かべると、窓を見た。

「この町の魔族は、人と友好的な関係を築こうとしている。だけど、普通の魔族は人間を下等な生物として見下している。特に姉さんは人一倍、いや、魔族一倍人族が好きだ。小さい頃から人族の素晴らしさを何度も聞かされてきた」

 ミラーカは次にマーカラさんを見る。

「でも、姉は変態的なシスコンであり、私が嫌がっても平気で絡みつこうとする。そんな姉に嫌気がさして、私はグレた。私は姉に反発するようになり、真逆の考えを己に植え付けたんだ。その結果が、シロウと出会う前の私だ」

 彼女の過去話を聞き、複雑な思いに駆られる。

 昔のミラーカを作り上げた原因が、姉の異常なスキンシップによるもの。

 ミラーカにとってはとても深刻な問題だったのだろうけど、闇堕ちした理由が少しだけしょうもない。

「そんなしょうもない理由で、悪に染まりましたの?」

 マリー、そこは心の中で思っても、口に出さないのが優しさだぞ。

「はは、だからちょっとした黒歴史だって言ったんだよ。今思えば、本当になんであんなことをしてしまったのだろうね。だけど、シロウのお陰で小さい頃の私に戻ることができた。ありがとう」

 彼女は笑顔を向けながら礼を言ってきた。

「はい、はーい! お待たせ! とてもおいしい紅茶だよ!」

 マーカラさんが戻って来ると、俺たちの前に紅茶が置かれる。

「ありがとうございます。いただきます」

 紅茶を用意してくれた彼女に礼を言い、紅茶を一口飲む。

「シロウ君って言ったかな? ありがとうね」

 急に礼を言われ、俺は首を傾げた。

 何か礼を言われることをしたか?

「何か礼を言われることってしましたか?」

「ミラーカちゃんを昔の顔に戻してくれてありがとう。この町を離れたときは、吊り目だったんだよ。こんな感じで」

 マーカラさんはミラーカの目尻に指を置くと、斜め上に引っ張る。

「姉さん、本当に怒るよ」

「うん、うん。本当に小さい頃のミラーカちゃんだ。当時はこんなことをすれば暴力を振るっていたのに。でも――」

 話しの途中で、マーカラさんはミラーカを抱きしめた。そして俺を見る。

「ミラーカちゃんは私のだから、絶対に君には上げないよ! 結婚したいのなら、私を倒して力尽くで認めさせることだね」

「シロウ、今すぐ姉さんをぶっ飛ばしてくれ。そうすれば、私はこの変態から解放される」

「それはダメですわ!」

「それはダメだよ!」

「お二人の言うとおりですわ!」

 ミラーカが姉を倒すように言うと、マリーとクロエとエリーザが拒否する。

 自分が自由になりたいからと言って、俺を利用するのは良くないと訴えているのだろうな。

 どちらかと言うと、俺もマーカラさんを倒したくない。性癖はともかく、いい魔族だからな。

 バン!

 苦笑いを浮かべいると、突然勢いよく扉が開かれた。

「やっぱりここにいたか!」

「どうしたの? そんなに血相を変えて?」

「マーカラ、今はお前に用はない」

 突然入って来た魔族の男性はコヤンさんを見た。

「先程君のそっくりさんが倒れているのを見つけて、俺のところで介抱しているのだが、知り合いだったりするか?」

「スカーヤ!」

 男の言葉を聞いた瞬間、コヤンさんが立ち上がる。

「やっぱり知り合いだったのか。案内するから、来てくれるか?」

「分かりました」

「俺たちも行こう」

 立ち上がると、俺は男性魔族に付いて行く。
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