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第十六章
第一話 ミラーカの故郷
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私があの町に行きたくない理由。それはあの町が、私の生まれ故郷だからだ」
「ミラーカの生まれ故郷」
「ああ」
ミラーカは小さく頷く。
そうか。あの町はミラーカの生まれ故郷だったのか。だからあの町について詳しかったんだな。
でも、どうして故郷に戻りたくはないのだろう? 普通なら、懐かしくなって様子を見てみたいと思うはずなのに。
でも、キャッツを顔面に貼り付けてまで顔を隠そうとしたと言うことは、相当帰りたくない理由があるのだろうな。
「ムリに訊くつもりはないが、よかったら話してくれないか? 相談に乗ってやるからよ」
「ありがとう。でも、本当にしょうもない理由なんだ。聞いて呆れないでくれ。あの町にはね――」
「シロウ! 町の方から物凄い勢いで、土煙が上がっていますわ!」
ミラーカが語りかけたタイミングで、先を歩いていたマリーが、異変が起きたことを告げる。
こんなタイミングでいったい何だよ。空気を読んで欲しい。
町のほうを見ると、確かに土煙が上がっていた。目を凝らして見てみると、一人の魔族がこちらに向かって走っている。
マジかよ。とんでもない勢いじゃないか。
「あの人、ミラーカさんの名前を言っているよ。知り合いなの?」
遠い声を聞き取ることができるクロエが、ミラーカの知り合いなのか聞いてくる。
「ウソ! まだ範囲外のはずなのに! シロウ! 私に俊足魔法か、あいつに認識阻害の魔法をかけてくれ」
え、ミラーカどうした? 急に慌て出して? らしくないじゃないか。だけどまぁ、困っているみたいだから助けないといけないよな。
「インピード・レコグニション」
走って来る魔族の女性に向けて認識阻害の魔法をかけてみた。しかし、彼女は止まらない。
おかしい。認識阻害の魔法は確実に効果を発揮している。それなのに、立ち止まらないということは、もしかして。
「ごめん、ミラーカ。俺、選択肢を間違えたようだ」
「ミラーカちゃーん!」
ミラーカに謝った瞬間、走っていた女性が俺の横を通り過ぎる。そして勢いよくミラーカに抱きつくと、彼女を押し倒す。
「ああ、この匂い、やっぱりミラーカちゃんだ。姿はゴリラだけど、私には匂いでちゃんとわかるよ」
やっぱり、俺の魔法は成功していたのか。彼女が立ち止まらなかった理由は、匂いでミラーカだと認識していた。だから別のものに見えたとしても、正確にミラーカに抱きつくことができたのだ。
それにしても、ミラーカがゴリラに見えているなんて。
脳内でミラーカのゴリラバージョンを想像してみるも、全然想像がつかない。
「はぁ、これが町に行きたくない理由だよ」
ミラーカは小さく息を吐く。
「なぁ、この魔族は?」
「私の姉さ」
「姉!」
「そうでーす! 私がミラーカちゃんの姉でーす! マーカラと言いまーす!」
あれだけ全速疾走していたのに元気だなぁ。でも、どうしてお姉さんが原因で町に行きたくないのだろう。
「はぁ、はぁ、久しぶりのミラーカちゃんの匂いだぁ」
「この女はとんでもないシスコン何だよ。しかも変態よりだ。昔から私に引っ付いて、離れていても匂いで私の位置を特定するんだ。町に入らなければ、見つかる心配はないと思っていたが、誤算だった」
なるほど、確かに第三者からみても、姉妹のスキンシップの枠を超えている。
今は認識阻害魔法の効果があるから、匂いを嗅ぐ程度に止まっている。だけど、効果がなくなったらどんなふうになってしまうのだろう?
ミラーカには申し訳ないが、好奇心が抑えられない。認識阻害の魔法を解くか。
マーカラさんにかかっている魔法の効果を消す。
「ミラーカちゃん! ゴリラではなくなった! 私の愛が、ミラーカちゃんを救ったのだね!」
魔法の効果を解いた瞬間、マーカラさんはスキンシップを激しくする。
ミラーカの頬に自信の頬を擦り付けたり、手で彼女の身体を弄ったりする。
なるほど、こんな感じになるのか。
「姉さん、止めてよ。変なところを触らないで、あ、ああん」
「変なところってどこ? お姉ちゃんに分かるように教えて。今、どこを触られているのかな?」
ミラーカ、マーカラさんは別に変なところは触っていないぞ。もしかしてあの辺が彼女の弱点なのか?
傍から見れば、仲睦まじい女の子が戯れあっているように見える。だけど、ミラーカが変な声を出すせいで、いかがわしい行為をしているように聞こえてしまう。
「シ、シロウ。助けて」
涙目になりながら、ミラーカは俺に助けを求める。
うん、そろそろ助けてあげないと色々とヤバいことになりそうだよな。でも、どうやって助けようか。普通に引き剥がそうとしたら、逆効果になりそうだよな。
そうだ。あの魔法を試してみよう。
「スタビライティースピリット」
この魔法は、精神を安定させる効果がある。
交感神経が集中している腹部の横隔膜を大きく動かすことで、副交感神経を刺激し、セロトニンと呼ばれる物質を分泌させる。分泌されたセロトニンが作用することで、心拍数や呼吸数が下がり、落ち着いた状態にさせるのだ。
魔法の効果が発揮されたようで、マーカラさんは落ち着きを取り戻したようだ。
抱擁を止めると、顔を綻ばせる。
「久しぶりにミラーカちゃんエネルギーをチャージできて嬉しい。お肌がツヤツヤしているような気がする」
「本当にドレインを使っていないのだよね。私はメチャクチャ疲れたのだけど」
マーカラさんとは逆に、ミラーカは疲れているようだな。まぁ、あれだけ騒げば、体力も削られるか。
「あのう。再会が済んだところで、良ければ町を案内してもらってもいいですか?」
「いいよ! それじゃあレッツゴー!」
ミラーカの手を握りながら、マーカラさんは魔族の町に戻って行く。
「ミラーカ、大丈夫でしょうか?」
「ちょっと心配だよね。私の兄さんも変な兄弟愛を持っていたけど、あれとはまた少し違うね。性別の問題?」
マリーとクロエが俺のところに来ると、話しかけてくる。
「まぁ、種族によっても、愛情表現は違うだろうし、何とも言えないよな。とにかく俺たちも町に行こう。今日はあの町で一泊することになるだろうから」
俺たちはマーカラさんの後を追い、町に入る。
すると、俺たちを見た魔族がこちらに集まり、取り囲まれた。
え? これはどういうことだ? この町は人族と友好関係を築く魔族ばかりじゃないのか?
「ミラーカの生まれ故郷」
「ああ」
ミラーカは小さく頷く。
そうか。あの町はミラーカの生まれ故郷だったのか。だからあの町について詳しかったんだな。
でも、どうして故郷に戻りたくはないのだろう? 普通なら、懐かしくなって様子を見てみたいと思うはずなのに。
でも、キャッツを顔面に貼り付けてまで顔を隠そうとしたと言うことは、相当帰りたくない理由があるのだろうな。
「ムリに訊くつもりはないが、よかったら話してくれないか? 相談に乗ってやるからよ」
「ありがとう。でも、本当にしょうもない理由なんだ。聞いて呆れないでくれ。あの町にはね――」
「シロウ! 町の方から物凄い勢いで、土煙が上がっていますわ!」
ミラーカが語りかけたタイミングで、先を歩いていたマリーが、異変が起きたことを告げる。
こんなタイミングでいったい何だよ。空気を読んで欲しい。
町のほうを見ると、確かに土煙が上がっていた。目を凝らして見てみると、一人の魔族がこちらに向かって走っている。
マジかよ。とんでもない勢いじゃないか。
「あの人、ミラーカさんの名前を言っているよ。知り合いなの?」
遠い声を聞き取ることができるクロエが、ミラーカの知り合いなのか聞いてくる。
「ウソ! まだ範囲外のはずなのに! シロウ! 私に俊足魔法か、あいつに認識阻害の魔法をかけてくれ」
え、ミラーカどうした? 急に慌て出して? らしくないじゃないか。だけどまぁ、困っているみたいだから助けないといけないよな。
「インピード・レコグニション」
走って来る魔族の女性に向けて認識阻害の魔法をかけてみた。しかし、彼女は止まらない。
おかしい。認識阻害の魔法は確実に効果を発揮している。それなのに、立ち止まらないということは、もしかして。
「ごめん、ミラーカ。俺、選択肢を間違えたようだ」
「ミラーカちゃーん!」
ミラーカに謝った瞬間、走っていた女性が俺の横を通り過ぎる。そして勢いよくミラーカに抱きつくと、彼女を押し倒す。
「ああ、この匂い、やっぱりミラーカちゃんだ。姿はゴリラだけど、私には匂いでちゃんとわかるよ」
やっぱり、俺の魔法は成功していたのか。彼女が立ち止まらなかった理由は、匂いでミラーカだと認識していた。だから別のものに見えたとしても、正確にミラーカに抱きつくことができたのだ。
それにしても、ミラーカがゴリラに見えているなんて。
脳内でミラーカのゴリラバージョンを想像してみるも、全然想像がつかない。
「はぁ、これが町に行きたくない理由だよ」
ミラーカは小さく息を吐く。
「なぁ、この魔族は?」
「私の姉さ」
「姉!」
「そうでーす! 私がミラーカちゃんの姉でーす! マーカラと言いまーす!」
あれだけ全速疾走していたのに元気だなぁ。でも、どうしてお姉さんが原因で町に行きたくないのだろう。
「はぁ、はぁ、久しぶりのミラーカちゃんの匂いだぁ」
「この女はとんでもないシスコン何だよ。しかも変態よりだ。昔から私に引っ付いて、離れていても匂いで私の位置を特定するんだ。町に入らなければ、見つかる心配はないと思っていたが、誤算だった」
なるほど、確かに第三者からみても、姉妹のスキンシップの枠を超えている。
今は認識阻害魔法の効果があるから、匂いを嗅ぐ程度に止まっている。だけど、効果がなくなったらどんなふうになってしまうのだろう?
ミラーカには申し訳ないが、好奇心が抑えられない。認識阻害の魔法を解くか。
マーカラさんにかかっている魔法の効果を消す。
「ミラーカちゃん! ゴリラではなくなった! 私の愛が、ミラーカちゃんを救ったのだね!」
魔法の効果を解いた瞬間、マーカラさんはスキンシップを激しくする。
ミラーカの頬に自信の頬を擦り付けたり、手で彼女の身体を弄ったりする。
なるほど、こんな感じになるのか。
「姉さん、止めてよ。変なところを触らないで、あ、ああん」
「変なところってどこ? お姉ちゃんに分かるように教えて。今、どこを触られているのかな?」
ミラーカ、マーカラさんは別に変なところは触っていないぞ。もしかしてあの辺が彼女の弱点なのか?
傍から見れば、仲睦まじい女の子が戯れあっているように見える。だけど、ミラーカが変な声を出すせいで、いかがわしい行為をしているように聞こえてしまう。
「シ、シロウ。助けて」
涙目になりながら、ミラーカは俺に助けを求める。
うん、そろそろ助けてあげないと色々とヤバいことになりそうだよな。でも、どうやって助けようか。普通に引き剥がそうとしたら、逆効果になりそうだよな。
そうだ。あの魔法を試してみよう。
「スタビライティースピリット」
この魔法は、精神を安定させる効果がある。
交感神経が集中している腹部の横隔膜を大きく動かすことで、副交感神経を刺激し、セロトニンと呼ばれる物質を分泌させる。分泌されたセロトニンが作用することで、心拍数や呼吸数が下がり、落ち着いた状態にさせるのだ。
魔法の効果が発揮されたようで、マーカラさんは落ち着きを取り戻したようだ。
抱擁を止めると、顔を綻ばせる。
「久しぶりにミラーカちゃんエネルギーをチャージできて嬉しい。お肌がツヤツヤしているような気がする」
「本当にドレインを使っていないのだよね。私はメチャクチャ疲れたのだけど」
マーカラさんとは逆に、ミラーカは疲れているようだな。まぁ、あれだけ騒げば、体力も削られるか。
「あのう。再会が済んだところで、良ければ町を案内してもらってもいいですか?」
「いいよ! それじゃあレッツゴー!」
ミラーカの手を握りながら、マーカラさんは魔族の町に戻って行く。
「ミラーカ、大丈夫でしょうか?」
「ちょっと心配だよね。私の兄さんも変な兄弟愛を持っていたけど、あれとはまた少し違うね。性別の問題?」
マリーとクロエが俺のところに来ると、話しかけてくる。
「まぁ、種族によっても、愛情表現は違うだろうし、何とも言えないよな。とにかく俺たちも町に行こう。今日はあの町で一泊することになるだろうから」
俺たちはマーカラさんの後を追い、町に入る。
すると、俺たちを見た魔族がこちらに集まり、取り囲まれた。
え? これはどういうことだ? この町は人族と友好関係を築く魔族ばかりじゃないのか?
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