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第十四章

第八話 残された巫女の決断

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 全力で走り、俺は時空の渦に身を投じようとする。

 少しずつ閉じ始めているが、まだギリギリ間に合うはずだ。

 そう考えていると、俺の思考を嘲笑うかのように、時空の渦は小さくなるスピードを上げた。

 くそう。こうなったらヤケだ!

 前に飛び、中に入ろうとする。

「シロウ! 間に合わない! このままでは渦が消滅したと同時に、身体が捩じ切れてしまう」

 後方からミラーカの声が聞こえてくる。だけど今更体勢を変えることはできない。

「スライム頼んだ!」

 ミラーカが叫んだと同時に、足を何かに掴まれ、引き寄せられる。

 きっと、ミラーカのスライムが、俺を時空の渦から遠ざけたのだろう。

 ジルドーレの生み出した時空の渦は消え、追いかける手段を失った。

「まったく、むちゃをしないでくれ。あのまま飛び込んでいたら、中途半端に時空間に入ることになる。入りきれなかった部分は切断されていたよ。もし、間に合ったとしても、時空の中に閉じ込められて彷徨うことになっていた」

 もし、あの中に入っていたらどうなっていたのか、それをミラーカが説明する。

 そうだったのか。異世界の知識では、時空間のことについては何も記録されてない。だから後先のことを考えないで飛び込もうとしていたけれど、まさかそんなふうになるとは思わなかった。

「そうだったのか。ありがとう」

「シロウを失うわけにはいかないからね」

「シロウが助かってひとまずは安心しましたわ。ですが、最後の宝玉を奪われた以上は、一刻を争う事態になりましたわね」

 マリーの言うとおりだ。全ての宝玉が魔族の手に渡ってしまった以上は、一秒たりとも時間を無駄にするわけにはいかない。

「トーマンたちが向かった場所なら見当がつく。私たち魔族が住む大陸、魔大陸にあるアジトだ」

 魔大陸は断崖絶壁に囲まれた大陸だったよな。上陸するには空中からではないと難しい。

「魔大陸って、崖に覆われた変わった大陸でしょう? どうやって向かうの? 船に乗ってそこから崖のぼりをするのかな?」

 クロエよ。それはさすがに体力を削りすぎて現実的ではないぞ。

「流石にそれはムリがある。敵の意表を突くことはできるかもしれないけれど、現実的ではない」

「なら、やっぱり空からになりますの?」

 同じ答えに辿り着いたエリーザが、俺に訊ねる。

「まぁ、そうなるだろうな。空から侵入しつつ、敵に見つからない方法を模索しないといけない」

 胸の前で腕を組み、思案する。

 空からの侵入となると、方法が限られているよな。飛行船を使うとしても怪しまれないようにしないといけないし、ミラーカにワイバーンの操縦の仕方を教えてもらったとしても、すぐにマスターすることはできないだろう。何か方法はないものだろうか。

「とにかく皆様、一度戻られて今後のことは明日話し合いませんか? 疲れた状態で考えても、いいアイディアが思い付くとは限りませんので」

 何かいい方法がないか考えていると、コヤンさんが明日にしないかと提案してくる。

 双子のスカーヤさんに裏切られたと言うのに、彼女は気丈に振る舞っている。コヤンさんが一番傷付いているはずなのに。

「そうだな。今日のところは一度帰って明日考えるとしよう。さすがに奪った直ぐに魔王を復活させるなんてことはしないだろう」

「それに関しては問題ありませんわ。絶対に今すぐ魔王が復活することはありませんもの」

 どうしてそう言い切れるんだ?

「どうしてそう言い切れるの?」

 俺の代わりにクロエがコヤンさんに訊ねる。

「これはスカーヤも知らないことなのですが、魔王の魂を封じ込めた宝玉は、三つ揃った段階ではまだ復活することができません。まだ隠された条件があるのです」

「隠された条件? それは何ですの?」

 今度はエリーザが訊ねる。

「それは三つ揃った段階で、満月の日に月の光を当て続けることです。それをしない限り、魔王は復活できない。それを、知っていなければいいのですが」

「今日は新月だね。それから満月までと言うと、早くてあと二十七日間、遅くて二十九日間の猶予がある」

 夜空を眺めながら、ミラーカが魔王復活までの日数を答える。

「それまでに魔大陸に向かう方法を見つけて、宝玉を取り戻さないといけないな」

 まだ猶予はある。だけど時間なんてものはあっという間に過ぎていくものだ。まだ時間があるとは思わないほうがいいだろうな。

 そんなことを考えながら、俺たちは町に帰って行く。





 翌日、俺たちはコヤンさんを含めて今後のことについて話し合っていた。

「皆様、昨日はありがとうございました。お陰で町に被害が出ることはありませんでした」

「町には被害は出なかったけれど……でも……」

 クロエが言いづらそうに言葉を詰まらせる。

 きっと、スカーヤさんのことを考えているのだろうな。

「クロエさん。心配してくださり、ありがとうございます。ですがご心配なく、わたくしは大丈夫です。そもそも、スカーヤの忍耐力がないのがいけないのです。あの子はいつもそうでした。姉でありながら心が弱く、いつもわたくしが支えてあげないといけない。本当に妹として恥ずかしく思います」

 コヤンさんがブツブツとスカーヤさんの文句を言う。

「とにかく、スカーヤには会って言いたいことがたくさんあります。そのためにも、魔大陸に渡る方法を考えましょう」

「ちょっと待ってください! もしかしてワタクシたちの旅に同行するおつもりですの!」

 コヤンさんの言葉に、マリーは驚く。

 やっぱりマリーにも、そんなふうに聞こえたんだ。俺の聞き間違いではないみたいだな。

「ええ、そうです。宝玉がこの場にない以上は、わたくしを縛るものはありません。なので、スカーヤを連れ戻すためにも、皆様の旅に同行させてもらいますわ」

「町の人たちはどうするの! 社の仕事をする巫女さんがいないと、きっと困るよ」

 確かにクロエの言うとおりだよな。コヤンさんの気持ちは分かるけれど、職務放棄をするのは良くない。

 仮に彼女が着いて来るとしても、代わりの人が必要だろう。

「それならご心配なく、明日には出張に出ているお母様が戻って来ます。なので、書き置きを残していれば問題ありませんわ」

「私は別に拒むようなことは言わない。最終的にはリーダーであるシロウが決めることだ」

 ミラーカが俺に委ねると言い、俺はマリーたちを見る。

 彼女たちは俺の決めたことに従うと、目で訴えていた。

「分かった。それなら、一時的ではあるけれど、コヤンさんをチームエグザイルドのメンバーとして迎え入れる」

「ありがとうございます。同行中は仲間の一人として頑張ります」

「さてと、そうと決まったのなら。早速出発するとしよう」

 俺は立ち上がると、部屋を出て外に出ようとした。

 すると、扉が何度も叩かれる。

 訪問者か? いったい誰だろう?
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