Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳

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第十四章

第五話 トーマン! お前捕まっていたんじゃないのかよ

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 ~シロウ視点~



 ジルドーレの襲撃から一夜が開けた。俺はケモノ族の双子の巫女と協力して、現在警備のために町を巡回している。

「巡回ご苦労様です」

 町中を歩いていると、宝玉を管理している巫女が声をかけてきた。

 えーと、確か白銀の髪のほうがスカーヤさんだったよな。双子だけ合って、髪色以外で判別するのは難しい。

「スカーヤさんもお疲れ様です」

 労いの言葉をかけると、彼女はニコリと笑みを浮かべる。

 どうやら名前を間違えてはいないようだな。

「こちらワタクシが作った飲み物です。疲労回復の効果がある薬草を使って作りました。飲めば元気になりますので、飲んでください」

「ありがとうございます。ちょうど喉が渇いていたところだったのですよ」

 液体の入ったコップを受け取り、一気に飲み干す。

 なんとも言えない独特な味がするな。最初は苦いと思ったら今度は甘く感じる。

「ありがとうございました。美味しかったです」

「いえいえ、ワタクシにできることはこれくらいですので。喜んでもらえて何よりです」

 礼を言いながら空になったコップを彼女に渡すと、スカーヤさんは軽く頭を下げて俺から離れていく。

「さてと、見張りの続きをするかな」

 巡回を再開させて数時間が経つが、夕方までは何も起きずに平和な時間を過ごした。





 その日の夜、俺たちはスカーヤさんが作ってくれた料理を食べていた。

「うーん。スカーヤさんが作ってくれた料理は美味しい!」

 料理を食べながら、クロエが舌鼓を打つ。

 本当に美味しいよな。俺たちの世話をよくしてくれるし、きっと将来はいいお嫁さんになるんじゃないかな。

 食事を終えると、他の皆んなが食べ終わってから話しを切り出す。

「そろそろ情報交換を始めようか。俺が担当していた場所では、何も不穏な動きは感じられなかった。みんなのほうはどうだ?」

「ワタクシのほうはとくに何もありませんでしたわね。一応町民たちの様子も窺っていたのですが」

「私も一緒だよ。あ、そう言えば、みんなのところにもスカーヤさんって来た? みんなに飲み物を配っていて凄いよね」

「あ、あれですわね。わたしも飲みましたけれど、正直苦手な味でしたわ。美味しいのか不味いのか、なんとも表現しにくい味でしたもの」

 クロエが急に飲み物の話をすると、エリーザが話しに乗ってくる。

 今は飲み物の話をしている場合じゃないんだけどなぁ。

「あの飲み物……」

「ミラーカ、どうかしたか?」

 報告会の途中でミラーカが怪訝な表情をしたので、声をかけてみる。

「いや、どうやったらあんな不思議な味を作り出せるのかと思ってね。学者として興味があるので、ちょっと考えていた」

 ミラーカまであの飲み物に興味を持っているのかよ。

「みんな、今は巡回の報告をする時間だ。関係のないことは、今はしないでくれ」

「分かっているさ。そろそろ私の代わりに巡回をさせていたスライムたちが戻ってくる頃……ほら、噂をすれば」

 物音が聞こえ、音のしたほうに顔を向ける。すると小さいスライムが、立てかけてあった農具を倒しながら俺たちのところにやってくる。

 あのスライム、以外とドジだな。

 床を這いつくばりながら、スライムはミラーカの前に来た。

「そうか……分かった……どうやらまたジルドーレが、この町に近づいて来ているみたいだ。今度は仲間を引き連れているらしい」

「分かった。なら今から向かって待ち伏せをしよう」

 俺たちは家を出ると、急いで町の入り口に向かう。

 町の入り口にたどり着いたタイミングで、二人組がこちらに向かって歩いているのが見えた。

 雲が月を隠しているせいで何者なのかよく分からない。だけどおそらく、ジルドーレとその仲間で間違いないだろう。

「みんな、戦闘準備だ」

 仲間に声をかけ、魔法を発動する。

「ファイヤーボール!」

 火球を二人組の手前に落とす。万が一、人違いだった場合を考え、素顔を確認するのに留めた。

 炎の灯りに照らされ、二人組の容姿を視認することができた。

「やっぱり、ジルドーレ。それに隣にいるのはトーマン!」

「どうしてトーマンが、ジルドーレと一緒にいますの? あの男は衛兵に捕まったはずでは?」

「マリー、ジルドーレと一緒にいるんだ。なら、答えは簡単さ。私も人間になりきっていたので気付かなかったが、あの男は魔族であり、魔王復活させる側だった。だからジルドーレが助けたと言うことなのだろう。今更思い出したけれど、ほとんどアジトに顔を出さないメンバーがいると言う話を聞いたことがある」

「それがトーマンだったんだね」

「皆さん、トーマンがジルドーレの仲間だったことはこの際置いておきましょう。わたしたちがすることは、あの二人を倒して宝玉を守ることですわ」

 エリーザの言うとおりだ。今、俺たちがすることはあの二人を倒すこと。

「んんん~ん。お久しぶりですね。皆さん。キャスコを返してもらいますよ」

「勝負に負けたら諦めると言ったじゃないか!」

「ええ、僕個人としては諦めましたよ。ですので、魔王復活を邪魔するあなたたちを倒すついでに、キャスコを引き取りに来ました」

 まるで子どもの屁理屈のようなことをトーマンは言う。

 やっぱりそこは魔族か。最初から約束を守るつもりはなかったと言うわけか。

「んんん~その顔を見る限り、どうやら理解したようですね。話しが拗れずに済んで、助かりました」

「それでは、時が来るまで私たちが相手をしましょう」

「んんん~ん! そーれ!」

 トーマンが複数の召喚石を投げると、石が割れて中から魔物たちが現れる。

「見たことのない魔物たちですわね。シロウ、油断されませんように」

 現れた魔物を見て、マリーが注意を促す。

 今まで戦ったことのない魔物だが、知識としては知っている。

 顔が三つ、腕が六本ある魔物はヘカトンケイル、翼の生えた獅子は、カオスレオ、ドラゴンの石像はガーゴイルだ。

「んんん~ん。さぁ、シロウを倒すのです」

「私が強化させましょう」

 ジルドーレが指を鳴らした瞬間、三種類の魔物は巨大化して行く。

「んんん~ん! カーニバルといきましょう」

 三種類の魔物が一斉に襲いかかる。

 確かに巨大化には驚かされるが、前回見ているから面白味がないな。

 なら、今度はこっちが驚かせてやるよ。

 接近してくる魔物を見ながら、俺は魔法を唱えた。
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