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第十四章
第三話 本物の私はジルドーレ?
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宝玉を狙う賊が現れたと聞き、俺は急いで町の出入り口に向かう。
しばらく走っていると、数人のケモノ族の男が吹き飛ばされている姿が見えた。
苦戦しているようだな。早く駆けつけないと。
走る速度を速め、賊と思われるローブ姿の男を目で捉える。
勘付かれる前に先制攻撃だ。
「ファイヤーボール」
魔法を唱えて火球を出現させると、賊に向けて放つ。
「うわっと!」
直前で気付かれてしまい、俺の攻撃はギリギリで避けられる。いや、正確には避けようとしてローブの裾を踏んでしまい、転倒したのだ。その結果、火球は当たることがなかった。
「あいたたた。はぁー、いったい誰なんですか……人が地道にケモノ族と戦っている最中に……横槍を入れないでくださいよ。やる気がなくなるじゃないですか」
賊の男は、立ち上がるとローブに付いた土埃を払う。
「お前がここの宝玉を狙う賊か」
最前線に来ると、男に問いながら構える。
「どうやら……一夜の襲撃をきっかけに……傭兵を雇ったようですね。はぁー、面倒臭いことになりました」
「お前はジルドーレ!」
マリーたちが追いつき、ミラーカが賊の男の名を口にする。
「ミラーカ知っているのか?」
「ああ。私が前に所属していたチームで、参謀を務めていた男だ」
「おや? ミラーカではないですか……久しぶりですね……と言うことは……隣にいる男はシロウですか。はぁー、まさかまたしても……私たちの邪魔をすると言うのですか」
ジルドーレと呼ばれた男は何だかテンションが低いな。宝玉を奪いに来たのだろうけど、やる気が感じられない。
ミラーカは参謀と言っていた。そんなやつが宝玉を狙いに来たと言うことは、相手は追い詰められているはず。ここでこいつを倒せば、敵の戦力を大幅に減らすことができる。
「みんな、相手がテンションが低いからと言って油断するな」
仲間たちに気を引き締めるように言うと、ジルドーレは小瓶を取り出す。
あれは何だ? 巨大な魔物になる薬とも違うようだ。
警戒をしていると、彼は小瓶の中に入った液体を飲み干す。
「キター!」
液体を飲み終えたジルドーレは、いきなり叫び出した。
いったい何がきた?
「それでは、改めて自己紹介をしましょう! 私の名はジルドーレ、ソロモンのチームで参謀を務めさせてもらっております。此度は、魔王の魂が封印されている宝玉を奪いに来ました!」
こいつ、液体を飲んだ瞬間に性格が変わったみたいに元気になりやがった!
「ジルドーレはあの液体を飲むと、陰キャから陽キャに変わる変人なんだ」
「ミラーカ! 変人とは失礼な! 私は無駄な体力を使わないように、普段はテンションが低いだけですよ! これが本当の私なのですから! とにかく、本気を出した以上はあなたたちを倒させてもらいます」
ジルドーレの上空にある空間が歪み、渦を巻く。すると中から触手が現れた。
あの触手は、俺から宝玉を奪ったのと同じだ。
「お前があの触手を操作していやがったのか」
「ええ、そうですとも。あのときは一時的にあなたに奪われて焦ってしまいましたが、どうにか奪い返すことに成功しました。今思い出してもヒヤヒヤして心臓がバクバクです」
彼が喋り終わると、同時に触手が襲い掛かる。
あのときは油断してしまったが、今回はそうはいかない。
「シャクルアイス」
氷の拘束魔法を発動し、触手を氷で覆う。すると重みに耐えられなくなった触手は、地面に倒れて動かなくなる。
「なるほど、氷の拘束魔法とはなかなかユニークなことをしてくださる。だけど、そんなものは溶かしてしまえばいいのですよ。ファイヤー」
ジルドーレが氷に覆われた触手に向けて炎の魔法を発動する。
炎の熱で触手の動きを封じていた氷は溶かされてしまった。
「まったく、嘗められたものですね。こんなもので、私の攻撃を止めようだな――」
『キエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエェェェェェェェェェェェェェェェェェ!』
ジルドーレの言葉を遮るように、空間の中から人間のものとは思えない叫び声が響く。
「な、何ですと! どうしたと言うのです! いったい何いが起きた!」
突然のことにやつは理解が追いついていないようだ。まぁ、おそらく何が起きているのか把握しているのは、仕掛け人である俺ぐらいだろうな。
「教えてやるよ。あの触手は氷で覆われたことで体温が低下して凍傷になったんだ。氷を溶かして凍傷の部位を暖めて復温させると、それまで虚血の状態だった部分に急速に血液が流れることで、更に組織が損傷する再灌流傷害が起きる。つまり血流がよくなったことが原因で、身体の細胞が死んで痛みを感じているんだよ」
「拘束を解こうとして、自分の手で痛めつけるなんてバカですわね」
俺の説明を聞いたマリーがジルドーレを嘲笑う。
「何ですかそれは! そんなの、聞いたことがありませんよ! 私が知らないことがまだこの世にあるとはああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ジルドーレは頭を抱えて絶叫する。
ああ、今になって思い出した。ジルドーレって、確かトーマンが言っていたやつか。てことは、あのトーマンも魔王復活に与する派だったのか。
やっぱり参謀と言っても大したことがないな。何だか相手にするのがバカらしくなってきたし、そろそろ終わらせるか。
「こうなったら奥の手です。刮目してみよ!」
やつが叫ぶと、言われたとおりに彼を見た。するとジルドーレが六人に増える。
「さて、本物の私はジルドーレ?」
六人のジルドーレがニタニタと笑みを浮かべながら問うてくる
「本物の私が分かるかな?」
「そんなもの、全員纏めて攻撃すればいいだけですわ! 喰らいなさい!」
「弓の達人の末裔の実力を思い知らせて上げる」
マリーが鞭で薙ぎ払い、クロエが矢を連射して放つ。
「なるほど、確かに纏めてかかれば同じですね。しかし、当たらないと意味がないですよ」
ジルドーレはものすごい跳躍力で二人の攻撃を躱す。
「ウォーターポンプ」
空中なら身動きが取れない。攻撃を当てるなら今だ。
右端にいるジルドーレを狙い、水の塊を放つ。
「なんとおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
俺の攻撃は男にヒットし、やつは背中から落下した。
「ど、どうしてわかった」
「直感……と言いたいところだけど、本当は理由がある。本物には影があるが、偽物には影がなかった。だから影のあるやつを攻撃すればいい」
「まさか、こんなにも早く見破られるとは」
「あの人に続け! ケモノ族の意地を見せるんだ!」
ジルドーレがよろよろと立ち上がると、今度はケモノ族が前に出て、やつに向けて石を投げ出す。
「痛い、痛い! 人に石を投げてはいけないと習わなかったのですか!」
「確かに習ったが、魔族に石を投げてはいけないとは教えてもらってはいないぞ!」
「なるほど、これ一本取られた……って言っている場合ではない。早く止めないと酷い目に……あう!」
投擲を止めるように言った途端、ジルドーレは倒れる。そして涙を流しながら股間を押さえていた。
は、はは。これはかなりエグいな。
「アハハハハ! あの男、股間に石が当たって苦しんでいますわ!」
「プッ、ちょっと誰なの……コントロール良すぎでしょう」
「アハハハハ! これは傑作だね。笑いが止まらないよ」
「皆さん、はしたないですわよ。でも、これはダメです。我慢ができません」
女性たちはお腹を抱えて笑っているが、俺は笑よりも同情のほうが強かった。
お前の痛み、俺には十分わかる。酷いときは呼吸がまともにできないものな。
「お、お前……たち……よくも」
地面に倒れながら、ジルドーレは涙を流して言葉を言おうとする。しかし、痛みが強いようで、まともに話すことができていない。
「絶対に……この借りは……返す……からな」
言葉を途切れさせながらも、最後まで言い切ると、彼の身体は宙に浮き、触手が現れた次元の渦の中に消えて行く。
しばらく走っていると、数人のケモノ族の男が吹き飛ばされている姿が見えた。
苦戦しているようだな。早く駆けつけないと。
走る速度を速め、賊と思われるローブ姿の男を目で捉える。
勘付かれる前に先制攻撃だ。
「ファイヤーボール」
魔法を唱えて火球を出現させると、賊に向けて放つ。
「うわっと!」
直前で気付かれてしまい、俺の攻撃はギリギリで避けられる。いや、正確には避けようとしてローブの裾を踏んでしまい、転倒したのだ。その結果、火球は当たることがなかった。
「あいたたた。はぁー、いったい誰なんですか……人が地道にケモノ族と戦っている最中に……横槍を入れないでくださいよ。やる気がなくなるじゃないですか」
賊の男は、立ち上がるとローブに付いた土埃を払う。
「お前がここの宝玉を狙う賊か」
最前線に来ると、男に問いながら構える。
「どうやら……一夜の襲撃をきっかけに……傭兵を雇ったようですね。はぁー、面倒臭いことになりました」
「お前はジルドーレ!」
マリーたちが追いつき、ミラーカが賊の男の名を口にする。
「ミラーカ知っているのか?」
「ああ。私が前に所属していたチームで、参謀を務めていた男だ」
「おや? ミラーカではないですか……久しぶりですね……と言うことは……隣にいる男はシロウですか。はぁー、まさかまたしても……私たちの邪魔をすると言うのですか」
ジルドーレと呼ばれた男は何だかテンションが低いな。宝玉を奪いに来たのだろうけど、やる気が感じられない。
ミラーカは参謀と言っていた。そんなやつが宝玉を狙いに来たと言うことは、相手は追い詰められているはず。ここでこいつを倒せば、敵の戦力を大幅に減らすことができる。
「みんな、相手がテンションが低いからと言って油断するな」
仲間たちに気を引き締めるように言うと、ジルドーレは小瓶を取り出す。
あれは何だ? 巨大な魔物になる薬とも違うようだ。
警戒をしていると、彼は小瓶の中に入った液体を飲み干す。
「キター!」
液体を飲み終えたジルドーレは、いきなり叫び出した。
いったい何がきた?
「それでは、改めて自己紹介をしましょう! 私の名はジルドーレ、ソロモンのチームで参謀を務めさせてもらっております。此度は、魔王の魂が封印されている宝玉を奪いに来ました!」
こいつ、液体を飲んだ瞬間に性格が変わったみたいに元気になりやがった!
「ジルドーレはあの液体を飲むと、陰キャから陽キャに変わる変人なんだ」
「ミラーカ! 変人とは失礼な! 私は無駄な体力を使わないように、普段はテンションが低いだけですよ! これが本当の私なのですから! とにかく、本気を出した以上はあなたたちを倒させてもらいます」
ジルドーレの上空にある空間が歪み、渦を巻く。すると中から触手が現れた。
あの触手は、俺から宝玉を奪ったのと同じだ。
「お前があの触手を操作していやがったのか」
「ええ、そうですとも。あのときは一時的にあなたに奪われて焦ってしまいましたが、どうにか奪い返すことに成功しました。今思い出してもヒヤヒヤして心臓がバクバクです」
彼が喋り終わると、同時に触手が襲い掛かる。
あのときは油断してしまったが、今回はそうはいかない。
「シャクルアイス」
氷の拘束魔法を発動し、触手を氷で覆う。すると重みに耐えられなくなった触手は、地面に倒れて動かなくなる。
「なるほど、氷の拘束魔法とはなかなかユニークなことをしてくださる。だけど、そんなものは溶かしてしまえばいいのですよ。ファイヤー」
ジルドーレが氷に覆われた触手に向けて炎の魔法を発動する。
炎の熱で触手の動きを封じていた氷は溶かされてしまった。
「まったく、嘗められたものですね。こんなもので、私の攻撃を止めようだな――」
『キエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエェェェェェェェェェェェェェェェェェ!』
ジルドーレの言葉を遮るように、空間の中から人間のものとは思えない叫び声が響く。
「な、何ですと! どうしたと言うのです! いったい何いが起きた!」
突然のことにやつは理解が追いついていないようだ。まぁ、おそらく何が起きているのか把握しているのは、仕掛け人である俺ぐらいだろうな。
「教えてやるよ。あの触手は氷で覆われたことで体温が低下して凍傷になったんだ。氷を溶かして凍傷の部位を暖めて復温させると、それまで虚血の状態だった部分に急速に血液が流れることで、更に組織が損傷する再灌流傷害が起きる。つまり血流がよくなったことが原因で、身体の細胞が死んで痛みを感じているんだよ」
「拘束を解こうとして、自分の手で痛めつけるなんてバカですわね」
俺の説明を聞いたマリーがジルドーレを嘲笑う。
「何ですかそれは! そんなの、聞いたことがありませんよ! 私が知らないことがまだこの世にあるとはああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ジルドーレは頭を抱えて絶叫する。
ああ、今になって思い出した。ジルドーレって、確かトーマンが言っていたやつか。てことは、あのトーマンも魔王復活に与する派だったのか。
やっぱり参謀と言っても大したことがないな。何だか相手にするのがバカらしくなってきたし、そろそろ終わらせるか。
「こうなったら奥の手です。刮目してみよ!」
やつが叫ぶと、言われたとおりに彼を見た。するとジルドーレが六人に増える。
「さて、本物の私はジルドーレ?」
六人のジルドーレがニタニタと笑みを浮かべながら問うてくる
「本物の私が分かるかな?」
「そんなもの、全員纏めて攻撃すればいいだけですわ! 喰らいなさい!」
「弓の達人の末裔の実力を思い知らせて上げる」
マリーが鞭で薙ぎ払い、クロエが矢を連射して放つ。
「なるほど、確かに纏めてかかれば同じですね。しかし、当たらないと意味がないですよ」
ジルドーレはものすごい跳躍力で二人の攻撃を躱す。
「ウォーターポンプ」
空中なら身動きが取れない。攻撃を当てるなら今だ。
右端にいるジルドーレを狙い、水の塊を放つ。
「なんとおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
俺の攻撃は男にヒットし、やつは背中から落下した。
「ど、どうしてわかった」
「直感……と言いたいところだけど、本当は理由がある。本物には影があるが、偽物には影がなかった。だから影のあるやつを攻撃すればいい」
「まさか、こんなにも早く見破られるとは」
「あの人に続け! ケモノ族の意地を見せるんだ!」
ジルドーレがよろよろと立ち上がると、今度はケモノ族が前に出て、やつに向けて石を投げ出す。
「痛い、痛い! 人に石を投げてはいけないと習わなかったのですか!」
「確かに習ったが、魔族に石を投げてはいけないとは教えてもらってはいないぞ!」
「なるほど、これ一本取られた……って言っている場合ではない。早く止めないと酷い目に……あう!」
投擲を止めるように言った途端、ジルドーレは倒れる。そして涙を流しながら股間を押さえていた。
は、はは。これはかなりエグいな。
「アハハハハ! あの男、股間に石が当たって苦しんでいますわ!」
「プッ、ちょっと誰なの……コントロール良すぎでしょう」
「アハハハハ! これは傑作だね。笑いが止まらないよ」
「皆さん、はしたないですわよ。でも、これはダメです。我慢ができません」
女性たちはお腹を抱えて笑っているが、俺は笑よりも同情のほうが強かった。
お前の痛み、俺には十分わかる。酷いときは呼吸がまともにできないものな。
「お、お前……たち……よくも」
地面に倒れながら、ジルドーレは涙を流して言葉を言おうとする。しかし、痛みが強いようで、まともに話すことができていない。
「絶対に……この借りは……返す……からな」
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