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第十四章

第一話 ケモノ族の町

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 トーマンとの決着が付いた俺たちは、ようやくケモノ族の町に向かうことができた。

「ようやくこの町から離れることができるな」

「あの男のせいで、かなりの時間を費やされましたわ」

「でも、これでケモノ族の町に向かうことができるね!」

「何も起きない内に先に進もう。ガーベラが倒されたことは、既に知らされているかもしれない」

「ミラーカさんの言うとおりですわ。その可能性は十分にあります」

『ワン、ワン』

 トーマンと出会った町を離れ、森の中を歩く。





 森を出るまで数日かかってしまったが、俺たちはようやく目的地に辿り着くことができた。

「あそこがケモノ族の町か」

「何だか変わっていますわね。外壁の代わりに柵で囲っているなんて」

「建物も違うね。家の屋根に使われているのって藁かな?」

 マリーとクロエが感想を口にする中、俺たちは入り口に向かう。

「そこのお前たち止まれ!」

「まさかあの男の仲間たちか!」

 入り口に近づくと、耳と尻尾が生えた門番が槍の先端を向けてくる。

 まさか、近づいただけで警戒されるとはな。この感じからすると、俺たちが来る前に何かがあったのだろう。

 町に着いた途端に、トラブルに巻き込まれるのは嫌だなぁ。ここはちゃんと説明をして、俺たちはケモノ族に危害を与えるような人物ではないことを理解してもらうか。

「待ってくれ。俺たちはここの街に伝わる水晶について――」

「水晶だと!」

「やっぱりあの男の手先か! ピー!」

 ケモノ族の男が口笛を吹いた瞬間、町の中から武装したケモノ族たちが走ってくる。

 おい、おい、どうしてこうなってしまうんだよ。俺は話しを聞こうとしただけじゃないか。

 彼らは殺気立っている。確実に俺たちを倒そうとしているから、まともに話しを聞いてくれないだろうな。

 仕方がない。ここは彼らを無力化するか。変に攻撃をして関係を悪化させるわけにはいかないからな。

「マリーたちは何もするな。ここは俺に任せてくれ。スリープ」

 武装しているケモノ族たちに睡眠魔法を唱える。脳に睡眠物質を溜められた彼らは、自分の意思とは関係なく眠りに陥る。

「一瞬で仲間たちがやられた!」

 一応半分ほどの人数を眠らせるだけに留める。

 さすがに全員を眠らせてしまったら、冷静に話し合うことができないからな。

「これでわかっただろう。俺たちを捕らえることはできない」

「くそう。ここまでか」

「巫女様、申し訳ありません」

 巫女様?

「この騒ぎはいったい何なのですか?」

「急に警戒の口笛が聞こえて、心配になって駆けつけてきましたが」

 町の奥から、着物姿のケモノ族の女性が入り口前までやってきた。

 双子か? 容姿も長い髪も二人とも見た目が全く同じだ。違いがあるとすれば髪の色くらいだな。一人は赤色で、もう一人は白銀だ。

「巫女様!」

 兵士の一人が、現れた双子に巫女と言う。

 彼女のどちらかが巫女なのだろう。

「申し訳ありません。我々の力不足で、あの男の仲間を捕らえることができませんでした」

「あの男の仲間?」

 双子の女性が俺に視線を向ける。

「あなたたちの目は節穴ですか? ちゃんと見なさい。男性が抱き抱えているのは神獣様ではないですか。神獣様が心を許しているお方が、ワタクシたちの守っている宝玉を奪おうとする悪党の仲間のはずがないではないですか」

「スカーヤの言うとおりですよ。警戒して気が立っているのはわかりますが、ちゃんと広い視野を持って観察しなければなりません」

 兵士たちを叱ると、双子は俺たちの前に来た。

「町の者が失礼を致しました。ワタクシ、この町で巫女をしておりますスカーヤと申します」

「同じく巫女のコヤンです。ご迷惑をお掛けしたお詫びをさせてください」

 お詫びをしたいと言われ、俺はマリーたちと顔を見合わせる。

 厄介ごとに巻き込まれるのは確実だろう。だけど、町民の雰囲気からしてここであっているはずだ。ならば、乗らない手はないよな。

「わかりました。では、お言葉に甘えさせてもらいます」

「よかったです。では、案内しますので、ワタクシたちに着いて来てください」

 双子の巫女が踵を返して歩き出し、俺たちも彼女の後ろを歩く。

「見て! あっちこっちにキャッツの銅像が置かれている!」

 町中に置かれてあるキャッツの銅像を見て、クロエが驚く。

「あのう、スカーヤさんがキャッツを見て神獣と言っていましたが」

「ええ、その方はこの町の守り神と言われている神獣なのです。『世界に大厄災が起きるとき、天から救いの獣が現れる』と言い伝えられております。なので神獣様の銅像を各家庭に置くことで、魔除けの効果を発揮しているのです」

「お前、そんなに凄い存在だったのか!」

『ワーウン?』

 俺の問いに、キャッツは首を傾げる。

 無自覚なのか。

 ケモノ族の町を歩いていると、他の家とは作りが違う建物に辿り着く。

「ここは社です。神様を祀っているところです」

「わたくしたちの家はここの裏にあります」

 社を通り過ぎ、その裏にある建物に俺たちは向かう。

 中に入ると広めの部屋に案内された。

「こちらでお寛ぎください」

「すぐに戻って来ますので」

 俺たちを部屋に案内した双子の巫女は、部屋から離れるとどこかに向かう。

「とりあえず、言われたとおりに寛ぐとするか」

「でも、どこにも椅子がありませんわ」

 マリーが辺りを見渡すも、椅子のようなものはどこにもなかった。

「あれって何かな?」

 今度はクロエが部屋の隅に置かれてある正方形の物体を指差す。

「どれどれ、中には綿のようなものが入っているみたいだね。おそらくこれに座れってことなのではないのか?」

 ミラーカが正方形の物体を触り、座るものではないのかと言ってくる。

「ミラーカ、俺にも一つ取ってくれ」

「なら、今私が持っているものを渡そう」

 ミラーカから正方形の物体を受け取り触ってみる。

 確かに柔らかいな。これなら尻に敷いても大丈夫そうだ。

 適当な場所に正方形の物体を置き、その上に座ってみる。

 うん。座っていても全然痛くない。これなら床の上に座っても大丈夫だな。

「多分、これが椅子代わりなのだろうな。みんなも自分の分を取って座ってくれ」

 彼女たちにも正方形の上に座るように言い、双子の巫女たちが戻ってくるのを待つ。

「シロウさん、シロウさん」

「うん? どうかしたか」

「聞きたいのですが、巫女ってなんですか?」

 クロエが巫女とはなんなのかと訊ねてきた。

「俺たちの住む大陸とは文化が違うから、分からないよな。そうだなぁ、シスターが一番近いかもな」

「なるほど、それなら、社と言うのは教会のようなものですか?」

「教会とはまた少し違うけど、イメージ的にはそんな感じでいいんじゃないかな?」

「お待たせしました」

 クロエに巫女と社のことについて説明していると、スカーヤさんとコヤンさんが戻ってきた。

 彼女達は着替えており、着物から巫女服になっていた。

「それでは、どのようなご用件でケモノ族の町に来たのかを話してもらいましょうか」

「はい。実は――」
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