上 下
114 / 191
第十二章

第七話 ガーベラとの決戦

しおりを挟む
「ガーベラ!」

 俺はワイバーンの背中に乗っている魔族の女の名を叫ぶ。

「ガーベラ、降りて来なよ。私が相手になってやるからさ」

「兄さんの仇、ここで討たせてもらうからね!」

 俺に続いてミラーカとクロエが声を上げる。

「どうして私があなたたちの言い分を利かなければならないのですか。上空にいる以上は、私のほうが地形的に有利なのですよ。これを有効活用しなくてどうするのですか」

 ガーベラの言うことは最もだ。勝つためには武力だけではなく、様々な状況を理解して戦況を有利にできる冷静さと、知略が必要。

 だけどまぁ、空中にいるのなら地べたに這いつくばらせればいいだけ。

「グラビティープラス」

 右手をワイバーンに向け、そのまま下に振り下ろす。その瞬間、空中に居たワイバーンは地面に落下して大地に這いつくばる。

「バカな! いったい何が起きた」

「魔法でワイバーンにかかる重力を増やした。今のこいつは体重の十倍の重力で地面に引き寄せられている。魔法の効果が切れるまでは起き上がるどころか、尻尾すら動かせられない」

「まさか、ワイバーンから引きずり降ろされるとは思ってもいなかったですね。これは計算が狂いました」

 ワイバーンから離れると、ガーベラは後方に跳躍して俺たちから一定の距離を取る。

「ガーベラ、私はお前の実力を知っている。だから言おう。大人しく降参するんだ。マリーとクロエの実家にあった二つの玉を返してくれれば、拘束するだけに留めるように、シロウにお願いしよう」

 ミラーカが玉を返すように言うと、ガーベラは懐から青と緑の玉を取り出した。

 彼女はバカではない。俺と言う存在がこの場にいる以上は、逃げきれないことを理解しているはずだ。いくら魔族でも、自分の命は惜しいはず。

「そのまま玉を返してくれれば、ミラーカの言うとおり、拘束だけにする」

「わかった。あげよう」

 よかった。これで彼女と戦わずに済む。正直、魔族であっても女性に手を上げるのは抵抗があるからな。

 ゆっくりと歩き、ガーベラに近づく。すると上空が厚い雲に覆われ、雲行きが怪しくなった。

「誰があなたたちにやるものですか! これは私たちの悲願のために、リーダーに渡します。リーダーのところに転送してください」

 握っていた二つの玉を、ガーベラは上空に放り投げる。すると青と緑の球体は重力を無視してどんどん上昇をしていく。

「ガーベラ!」

「あははははは、ざまぁ! 最初から渡す気なんて、さらさらなかったですよ。あれがあったら本気で戦えないですからね」

 ガーベラの笑い声を聞きながら、上空に上がって行く二つの玉を見上げる。

 くそう。こうなったら一か八かだ。間に合うかわからないが、賭けに出るしかない。

 両手を後方にもって行くと、姿勢を低くした。

「ファイヤージェット!」

 指先から炎が噴き出し、揚力を得ながら上昇していく。

 風の圧が強い。口を開ければ舌を噛みそうだ。

 分厚い雲の奥から空間が歪んで、渦を巻いているのが見える。

 あの中に入ったら終わりだ。それまでに、取り返さないと。

 右腕を伸ばして二つに球を掴もうとする。

 あともう少しで届く。頼む、間に合ってくれ!

 魔法で放出した炎の威力を上げ、どうにか二つの玉を掴む。

 やった間に合った!

 どうにか取り戻すことができたと安心した瞬間、転送の渦から触手が飛び出してきた。

「くっ!」

 触手は腕に巻き付くと、強く締め付けてくる。

 まずい。

 抵抗しようにも、今はファイヤージェットを使っている。他の攻撃をしようとしたら、集中力が途切れてしまう。

 どうするべきか考えていると、今度は転送の渦から細長い針のようなものが飛び出す。

 その針は拘束している俺の腕に突き刺さった。

 これは即効性のある毒か。ダメだ。手に力が入らない。

 毒により握力が低下した腕では力が入らず、手が滑ってしまった。そのせいで二つの玉を手放してしまう。

 それと同時に魔法の効果が消え、炎が噴射されなくなった。それと同時に触手は俺を解放し、重力に引っ張られて真っ逆さまに落下する。

 このままでは、死んでしまうな。早く解毒しないと。

「デトックスフィケイション」

 解毒の魔法を唱え、身体の麻痺を治す。

 さて、次はどうやって着地を決めるかだな。

 地面が近付き、みんなの姿が見えてくる。

 この際だ。八つ当たりも含めて、攻撃しながら着地をしよう。

「パップ!」

 ガーベラに向けて音の魔法を唱えた。ガーベラの足元の地面が砕けて爆風が発生。俺は地面に反発して吹き飛ばされるも、くるりと一回転をして着地を決める。

「ふう、上手くいったな」

 音による空気の振動が大地の強度を上回り、音の力だけで地面に穴を開ける。その衝撃で空気抵抗を生む作戦だったが、上手くいってよかった。

「さて、ガーベラは?」

 魔族の女の方を見る。彼女は音による爆発に巻き込まれ、吹き飛んで地面に転がっていた。

「シロウ! 家宝の玉は?」

 マリーが尋ね、俺は首を左右に振る。

「そうですか」

「シロウさんは頑張ってくれたよ。こうなったらガーベラを倒してどこに転送したのか吐かせよう」

 落ち込むマリーを見て、クロエが励ます。

「そうですわね。こうなったのなら、ガーベラを倒して転送場所を聞き出しますわ」

 もう一度ガーベラの方に視線を向けると、彼女は立ち上がった際に懐から何かを取り出した。

「よくも不意打ちなんて卑怯なことをしてくれましたね。こうなれば、本気であなたたちを叩き潰します」

 あれは液体の入った瓶!

 あの瓶は何度も見ている。レオとアーシュさんが使っていたものだ。

 まさか、ガーベラもあの液体を使って変身するのか!

 彼女の行動を直視する。

 あの液体を飲むと、変身前に全身が熱くなって服を脱ぎ出す。

 様子を伺うと、彼女は瓶の蓋を開けて液体を飲み始めた。

 当然ながら目を大きく見開く。彼女の脱衣シーンをガン見するために。

「シロウ、見てはダメだ」

『ワウーン!』

 ミラーカもあの瓶の正体に気付き、俺に何かを投げてきた。投擲されたものは顔面に張り付き、目の前が暗くなって何も見えなくなる。

 ミラーカ! なんてことをしてくれる!

 顔面に張り付いたものを引き剥がそうとすると、頭に何かがグサリと刺さる。

 いたーい。顔面に張り付いたモフモフの感触からしてキャッツか! キャッツが俺の邪魔をしているのか!

「キャッツ! 頼むから爪を立てないでくれ」

 ケガをしたところは、あとで回復魔法で治すしかないな。

 思いっきりキャッツを引き離す。すると視界が良好となり、周りの状況を把握することができた。

『さぁ、決着をつけましょうか』

 ガーベラの脱衣シーンは終わり、彼女は巨大な花の魔物と化していた。
しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

髪を切った俺が『読者モデル』の表紙を飾った結果がコチラです。

昼寝部
キャラ文芸
 天才子役として活躍した俺、夏目凛は、母親の死によって芸能界を引退した。  その数年後。俺は『読者モデル』の代役をお願いされ、妹のために今回だけ引き受けることにした。  すると発売された『読者モデル』の表紙が俺の写真だった。 「………え?なんで俺が『読モ』の表紙を飾ってんだ?」  これは、色々あって芸能界に復帰することになった俺が、世の女性たちを虜にする物語。 ※『小説家になろう』にてリメイク版を投稿しております。そちらも読んでいただけると嬉しいです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

俺だけ展開できる聖域《ワークショップ》~ガチャで手に入れたスキルで美少女達を救う配信がバズってしまい、追放した奴らへざまあして人生大逆転~

椿紅颯
ファンタジー
鍛誠 一心(たんせい いっしん)は、生ける伝説に憧憬の念を抱く駆け出しの鍛冶師である。 探索者となり、同時期に新米探索者になったメンバーとパーティを組んで2カ月が経過したそんなある日、追放宣言を言い放たれてしまった。 このことからショックを受けてしまうも、生活するために受付嬢の幼馴染に相談すると「自らの価値を高めるためにはスキルガチャを回してみるのはどうか」、という提案を受け、更にはそのスキルが希少性のあるものであれば"配信者"として活動するのもいいのではと助言をされた。 自身の戦闘力が低いことからパーティを追放されてしまったことから、一か八かで全て実行に移す。 ガチャを回した結果、【聖域】という性能はそこそこであったが見た目は派手な方のスキルを手に入れる。 しかし、スキルの使い方は自分で模索するしかなかった。 その後、試行錯誤している時にダンジョンで少女達を助けることになるのだが……その少女達は、まさかの配信者であり芸能人であることを後々から知ることに。 まだまだ驚愕的な事実があり、なんとその少女達は自身の配信チャンネルで配信をしていた! そして、その美少女達とパーティを組むことにも! パーティを追放され、戦闘力もほとんどない鍛冶師がひょんなことから有名になり、間接的に元パーティメンバーをざまあしつつ躍進を繰り広げていく! 泥臭く努力もしつつ、実はチート級なスキルを是非ご覧ください!

処理中です...