Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳

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第十二章

第四話 喧嘩は町のお祭りのようです

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 ベオと喧嘩をすることになった俺は、町長の家の外に出ていた。

 メイドさんが喧嘩のことを町民に話したことで、俺たちの周りにはギャラリーが集まってヤジを飛ばしている。

「ベオのアニキ! 余所者なんか叩き潰してください!」

「余所者の人ありがとう! お陰でいい気分転換になる」

 どう言う訳か、集まって来た町民たちの顔が生き生きとしている。中には俺に礼を言う人もいた。

 この町に着いたばかりのときは、あんなにギスギスしていたのに。

「驚いたでしょう。喧嘩はこの町にとって大きなお祭りのようなものなのです。喧嘩が起きれば町中が大騒ぎするのですよ」

 町民の代わり様に唖然としていると、町長が近付いて説明してくれた。

 なるほどなぁ。それで町民までもあんなにはしゃいでいるのか。

「さぁ、さぁ、賭けた! 賭けた! ベオ団長対余所者冒険者の喧嘩! この機会に小遣い稼ぎをしないかぁ?」

「美味しい焼き立てパンはいかが? ただ喧嘩を見るだけではつまらないでしょう」

 本当にお祭りのようになってきた。町民たちが賭けごとをしたり、出店のように物を売ったりしている。

 あの賭けごとに参加できないかな。俺の勝利に全財産を賭けるのに。

「そろそろギャラリーも温まってきたころだろう。お前ら! 喧嘩を始めるぞ! 準備はいいか!」

「「「おおー!」」」

 ベオが観客たちに尋ねると、彼らは元気に答える。

「お前ら! この町で一番強いのは誰だ!」

「「「アニキー!」」」

「この勝負で勝つのは誰だ!」

「「「アニキー!」」」

「「「ベオー!」」」

「「「アニキ、アニキ、アニキ!」」」

「「「ベオ、ベオ、ベオ」」」

 ベオが問いかけをする度にアニキコールが連発する。

 相当自警団や町の人からも愛されて信頼されているのだろうなぁ。はぁー、それだと余計にやり辛いよ。だって、俺が勝つのが前提の勝負だよ。こんなに大勢の前に敗北を晒すことになるなんて、ベオが可哀想だ。だけどまぁ、これも彼が自ら蒔いた種だ。自分で責任を取ってもらうとするか。

「それでは、これよりベオ対シロウの喧嘩祭りを始める。ルールは単純、魔法の使用は補助系のみ、攻撃魔法を使った瞬間、反則負けだ。テンカウントまで起き上がれなかった場合は、負けとみなす。それでは始め!」

 町長が喧嘩のルールを言い、勝負開始の合図を送る。

「先手必勝!」

 開始の合図が宣言された直後、ベオが間合いを詰めて拳を叩き込む。

 なかなか早いな。いいパンチを持っている。だけど、避けられないほど早くはない。

 一歩横にずれて彼の初撃を躱す。

「なん……だと!」

 すれ違いの際に、ベオが驚いた表情で言葉を漏らすのが見えた。

 きっと彼の頭の中では。一撃で倒すつもりでいたのだろうな。

「あの余所者、ベオのアニキの一撃を躱しやがった!」

「マジかよ! アニキの攻撃を避けたやつは初めて見たぞ」

 ギャラリーたちも驚く。

 うーん、なかなか早いのだけど、全然避けられないほどでもないのだけどなぁ、そんなに驚くことなのか?

「なかなかやるな。なら、今度は本気でいかせてもらう」

 なるほど、彼はまだ本気ではなかったのか。それもそうだよな。ベオは俺に喧嘩を売ってきたのだ。本気でやりあわなければ、喧嘩の意味がない。

「ベオがウルフの構えをした。あの余所者、あいつを本気にさせやがったぞ」

 ベオの構え方が変わった。ギャラリーの言うように、次は本気の一撃がくるのだろうな。

「ワン、ツウー」

 連続でベオが拳を放つ。先ほどよりも早いが、まだ避けるのに余裕がある。

「すげー! 何だよあの余所者は! ベオのアニキの一撃を全て躱していやがる!」

「とんでもねぇ実力じゃねぇか」

 観客たちの驚きの声を聞きながら、どうやって彼を倒そうか思考を巡らせる。

 さてと、どうやって倒そうかな。一番手っ取り早いのは失神魔法を使って気絶させるのが早いよな。攻撃魔法だけど、発動と同時に拳を叩き込めば、一撃を食らって気絶したように周囲は勘違いをするだろう。

 だけど、ルールを破るのは良心が痛む。やっぱり喧嘩らしく、泥臭く殴り合ったほうがいいかもしれないな。

「まずは第一段階だ。スピードスター」

 俊足の魔法を唱え、足の筋肉の収縮速度を上げる。これにより、走る速さは時速四十キロメートルになった。

「さぁ、俺を捉えることができるかな」

 円を描く様に、ベオの周りをぐるぐる回る。

「何だよこの魔法は! 余所者が複数いるように見えてしまう。くそう本物はこいつか?」

 素早くベオの周囲を走ることによって残像を生み出し、あたかも分身したように見せる。

 彼はがむしゃらに攻撃するも、当たることはない。

 さてと、周りをぐるぐると回っただけでは勝負が決まらない。そろそろ攻撃に転じるとするかな。

「エンハンスドボディー!」

 肉体強化の呪文を唱え、強化した拳をベオのお腹に叩き込む。

「ガハッ」

 拳が彼の腹部に触れた瞬間、ベオは口から唾を吐きながら地面に倒れる。

「ベオ、ノックダウン! これよりテンカウントを開始する。ワン、ツー、スリー、フォー、ファイブ、シックス」

「ベオのアニキ立ってください」

「ベオ、負けるな」

 カウントがされる度に、観客たちは倒れているベオに声をかける。

「セブン、エイト、ナイン」

 これで終わると思った刹那、ベオは上体を起こすとよろよろと立ち上がる。

「ベオのアニキ!」

「それでこそ俺たちの町で最強の男だ!」

 立ち上がった彼を見て、町民たちが声をかける。

 まさか、肉体強化した拳による一撃に耐えるとはな。だけど、次で終わらせる。

「サルコペニア」

 筋肉の量を減少させる弱体化魔法を唱える。

 これにより、ベオの筋肉の量を減少させた。全身の筋力低下が発生した彼は、攻撃力、防御力、素早さが著しく低くなる。

 さらに、速度が落ちたことで回避率が下がり、俺は必中に近い状態になる。

 まぁ、ふらふらな彼を攻撃するぐらいなら、必中がなくても一撃を当てることができるがな。

 ベオに近づき、もう一度彼の腹部に一撃を与える。

 男は再び地面に横たわり、すぐに起きようとはしなかった。

「ベオ、ノックダウン! これよりカウントを始める」

 審判役の町長がカウントを始め、先ほどのように町民がベオに声援を送る。

 しかし、今回ばかりは違った。町民の応援も虚しく、ベオはテンカウントが終わっても立ち上がらなかった。

「ベオ! 完全にノックダウン! 勝者、シロウ!」

「うおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!すげー喧嘩を見ちまったぞ!」

「まさかベオが負けるなんて」

「お互いよく闘った! 感動したぞ!」

 喧嘩を終えた俺は、倒れているベオと共に町民たちから称賛されるのであった。
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