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第十二章

第三話 邪神を崇める蛮族

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 馬車に揺られながら、俺たちは依頼を受けに隣町に向かっている。

 そろそろ依頼者のいる町に着くころだよな。

 ボーと外の風景を眺めていると、外壁が見えた。どうやら目的地にたどり着いたようだ。

「キャッツ、そろそろ馬車から降りるから、俺の頭から降りてくれ」

 俺の肩に後ろ足を置き、頭に身体を乗せている獣に声をかける。

『ワン』

 吠えて返事をすると、キャッツは頭から降りて膝の上に移動した。

「いい子だ」

 猫の頭を撫でると、キャッツは嬉しいようだ。犬のようなもふもふの尻尾を左右に振る。

 しばらくすると馬車が止まった。

「着いたみたいだな。みんな降りよう」

 仲間たちに声をかけ、馬車から降りる。

「お世話になりました」

「いや、こちらこそご利用頂きありがとうございました。また何かありましたら、お声かけください」

 御者に礼を言い、俺たちは町に入る。

「蛮族からの防衛の依頼があるだけあって、なんだか町民たちの表情がよくないですわね」

「みんなギスギスしているね。空気が張り詰めているから、なんだか居心地が悪い」

 町の様子を見ながら、マリーとクロエが町の状況を話す。

「これは町民に話を聞けそうにないね。下手に声をかけて刺激してしまったら、問題が起きそうな感じがするよ」

「確かにミラーカさんの言うとおりですわね。わたしもそう思いますわ。依頼者はこの町の町長さんでしたので、それなら一番大きい建物を訪ればいいのではないでしょうか?」

『ワウーン』

 エリーザの言うことにも一理ある。だけど、一番の権力者が大きい建物に住んでいるとは限らないよな。やっぱり誰かに聞いたほうが確実じゃないか?

 やっぱり誰かに話を聞こうと思い、周囲を見渡す。すると、建物から一人の女性が出てくるのが見えた。

 メイドの格好をしているということは、もしかしたら町長さんのところで働いている人かもしれないな。それなら彼女に話しかけたほうがいいかもしれない。

「あそこにいるメイドさんに話を聞いてみよう。もしかしたら町長さんのところで働いているかもしれないから、連れて行ってくれるかもしれない」

 メイドさんに駆け寄り、彼女に声をかける。

「あのう、すみません」

「はい、なんでしょうか?」

「俺たち、町長さんの依頼を受けに来た冒険者なのですが、町長さんの家はどこでしょうか?」

「あ、それなら案内しますね。ちょうど帰るところでしたので」

 俺の読みが当たった。このまま彼女に着いて行こう。

 メイドさんに案内され、俺たちは町長さんの家に来た。

「エリの読みが外れましたわね」

「マリーお姉様、誰だって予想が外れることだってありますわよ」

 案内された建物は、ごく普通の一軒家だった。

 家の中に入り、町長さんが居ると思われる部屋に案内される。

「旦那様、お客様をお連れしました」

「おや? こんなときにお客さんとは珍しい……見かけない顔だな。もしかしてギルドにお願いしていた件で来られたのかな?」

「はい、俺たちはギルドの依頼を受けてこの町に来ました。エグザイルドのリーダー、シロウです」

「遠いところよくお越しいただいた。そこに座ってください」

 ソファーに座るように促され、俺たちは座る。

「では、簡潔にお話ししましょう。この町の近くに邪神を崇める蛮族の集落があるのですが、奴らがこの町を襲う計画を立てている情報を得ました。そこであなたたちには、蛮族からこの町を守っていただきたい」

「わかりました。その蛮族と言うのは人なのでしょうか?」

 ここは重要なことなので、絶対に訊いておかないといけない。

 もし、相手が俺たちと同じ人間であれば、それなりの覚悟を決める必要がある。

 だけど蛮族の中には、ゴブリンやオーガと言った人型の魔物が、人と同じように生活をしているものを言う場合もある。できることならそっちのケースであってほしいものだ。

「蛮族は何年も前に疫病で亡くなった人々が魔物になったシャーマンです。奴らは何年もの間おとなしくしていたのですが、最近になって活動が活発になっているのです」

 相手が魔物であることを聞き、ホッとする。

 よかった。勝負ならともかく、人間同士で殺し合いをするのはなるべく避けたいからな。

「わかりました。では、シャーマンたちが襲撃してきたときは俺たちにお任せください」

「よろしくお願いします」

 町長が手を差し伸ばしてきたので彼の手を握り、握手を交わす。

 すると、ドタドタと音を鳴らしながら一人の男が部屋に入って来た。

「親父! ギルドの冒険者が来たと言う話は本当か!」

「ベオ、噂を嗅ぎつけるのが早いな。お前は仕事中だっただろうに」

 町長の息子さんだと思われる男性が俺を見ると睨みつける。

「余所者の手なんか借りねぇ! この町は俺たち自警団だけで守ってみせる。お前たちはさっさと帰りやがれ!」

「ベオ、冒険者の人たちになんてことを言うんだ。彼らはわざわざこんな遠くの町に来て、命をかけて戦ってくれると言っているのだぞ」

「どうせ、金に目が眩んで依頼を受けたのだろうが。冒険者共は金に汚い連中ばかりだからな」

 ベオと呼ばれた男の言葉が突き刺さる。

 いや、確かに報酬金が高い依頼を優先的に受けてはいるけれど、別に金に汚い訳ではないからな。ちゃんと将来のことを考えて、金払いのいい依頼を受けているだけだから。

 彼の言葉に対して、俺は心の中で呟く。

「とにかく、俺は認めねぇからな。さっさと出て行きやがれ!」

「そう言われてもなぁ。一度依頼を受けた以上は、簡単には引き下がれないんだよ」

「お前たちの都合なんて関係ない! 町長の息子にして、自警団の団長である俺が言っているんだ! さっさと出て行け!」

「断る!」

「出て行け!」

「断る!」

「出て行け!」

「断る!」

「で--」

「断る!」

「あーくそう! こうなったら力尽くでもお前たちを追い出してみせる! こうなったら勝負だ!」

 断り続けた結果、ベオは頭に血が昇ったようだ。大声を上げると俺に指を向け、勝負を申し込む。

 どうしてこうなってしまうんだよ。俺たちは普通に依頼を受けに来ただけなのになぁ。

 金にならない面倒ごとは勘弁してほしい。

 だけどまぁ、ここでベオを倒せば依頼を受けることを認めてくれるだろう。だから、面倒臭いけどやるしかないよな。

「分かった。その勝負受けて立つ。勝負方法は?」

「そんなの喧嘩に決まっているだろうが!」

「けん……か?」

 あまりにも幼稚な提案に、空いた口が塞がらなかった。

「喧嘩ってのはなぁ、殴って蹴って最後まで立っていたやつが勝者と言う、勝敗が分かりやすいものだ」

 確かに一番分かりやすいけれど、まさかこの年になって喧嘩するなんてなぁ。

「メイドさん、町中に宣伝をして来てくれ。久しぶりの大喧嘩だ」

「畏まりました! ぼっちゃん!」

 ベオから指示を受けると、メイドさんは声を弾ませて返事をした。そして喧嘩を宣伝するために部屋から出て行く。

「さぁ、俺たちも外に出るぞ」

 ベオが部屋から出て行くと、俺はマリーたちを見て苦笑いを浮かべた。
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