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第十二章
第一話 ガーベラは逃げ出した
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「ガーベラ!」
ワイバーンの背に乗っていた女性は、ミラーカの元仲間であるガーベラだった。
「あなたはシロウ! どうしてこんなところにいるのですか」
乗っていたワイバーンから降りると、彼女は構えた。
ガーベラの反応を見る限り、俺たちがダラスの近くに来ていたことを知らなかったようだな。
偶然であったとしても、こんなところで彼女と会えたのは絶好の機会だ。
「ガーベラ、緑色の透き通った球体をお前は持っているか?」
「緑色の球体? ああ、これのことですか?」
クロエの家に伝わる家宝を持っていないかと尋ねると、ガーベラは懐から二つの玉を取り出した。一つは緑色をしていたが、もう一つは青い色をしていた。
「それは、私のお父さんが大事にしていたもの!」
球体を見て、家に伝わる家宝だと気付いたクロエが声を上げる。
「もう一つはもしかして! ワタクシの家に伝わる家宝ではないですの!」
続いて意外にもマリーが反応をした。
「御明察だよ。一つはオルウィン家の人々に催眠をかけた際に、ブラドから受け取ったもの。そしてもう一つはエルフのお嬢さんの家から奪ったものだ」
「それはお父さんが大事にしていたもの。返して!」
「返しなさい! 貴族の家宝を奪うだなんて犯罪ですわよ!」
クロエが矢を放ち、マリーが鞭で攻撃する。だが、ガーベラは飛んで来る矢と鞭を掴んで回避した。
「私は魔族ですよ。下等種族の人間やエルフから物を奪うのは当たり前です。それにいつまでも、これを人間の所有物のままにしておく訳にはいきません」
ガーベラは二つの玉を懐にしまうと、パチンと指を離した。その瞬間、俺たちの影が立体となり、同じように構える。
「あなたたちの相手をしている暇はありません。早く最後の一つを見つけなければなりませんので。シャドー、後は頼みます。ヒール」
墜落させられたワイバーンにガーベラが回復魔法をかける。そして彼女は跨り、空に上った。
「お父さんの大事なものを返して!」
クロエが矢を放ち、もう一度ワイバーンを墜落させようとした。だが、クロエの影から生み出されたシャドーが、同じように黒い矢を放つ。
クロエの矢は、シャドーの攻撃に阻まれて当たることはなかった。
上空にいるワイバーンは北の方角に飛び去って行く。
くそう。せっかくのチャンスを逃してしまった。追いかけたいところだけど、まずは俺の影を倒さないといけない。
「早くこの魔物を倒しますわよ」
「そうだね。早く倒して追いかけないと」
「影とは言え、まさか自分と戦う日が来るとは思ってもいなかったね」
「わたしはまだ戦闘経験がないのに、どうやって倒せば良いのですか!」
『ワン、ワン、ワン』
「ファイヤーボール」
仲間たちの声が耳に入る中、俺は呪文を唱えて目の前のシャドーに攻撃する。しかし、こちらの攻撃に合わせて相手も同じ魔法を使い、相殺してきた。
俺の影だけあって、能力は同じか。これは倒すのに時間がかかりそうだな。
一旦攻撃を止めて思考を巡らせる。
これはもはや心理戦だ。いかにして自分の裏を描いて相手にダメージを与えることができるのかが鍵となる。
「ウォーターポンプと見せかけてのファイヤーボール」
もう一度火球を生み出し、直ぐに放つ。
おそらく、魔物は俺の魔法の言葉を聞いて同じ行動をとったはず。フェイントをかければ、咄嗟に反応して変えてくるのはムリだ。
当然水と炎では水のほうが有利だが、冷却効果を上回る熱量にすれば、俺の魔法が負けることはない。
そう思っていたが、俺の影はフェイントに引っかかることはなかった。同じファイヤーボールを放ち、先ほどと同じように相殺に持ち込む。
いくらなんでも、あのフェイントに追いつくことはできないはず。そうなると、前提が間違っていることになるな。
俺の言葉を聞いてから反応していないとなると、いったい何で判断している?
「とにかく色々と試してみるしかないな、トライ&エラーだ」
他のみんなは大丈夫だろうか?
心配になり仲間たちをチラリと見る。
「さすがワタクシですわね。ここまで強いとは思いもしませんでしたわ」
「何度も、何度も弾かれる! もう良い加減にしてよ!」
「私がスライムを出すと、相手も影のスライムを出してくるなんてね。マネをされるとなんだかイライラしてくるよ」
「えーと、どうしてわたしのシャドーは攻撃してこないのでしょうか? もしかして眠っておりますの?」
『フシャー!』
マリーとクロエはお互いを攻撃し合い、ミラーカはスライム対決をしている。そしてキャッツはお互い威嚇し合っているが、エリーザのシャドーだけは何もしていなかった。
もしかして!
この光景を見て、俺はある仮定を考えた。
目の前にいるシャドーは、元々俺の影だ。そして影である以上は、足とつながっている。つながっていると言うことは、もしかしたら思考までが共有されている可能性があるよな。
今だって、俺が考えごとをして隙を作っている。攻撃をするのであれば絶好の機会だ。なのにそれをしないのは、俺が攻撃をする意思がないからのはず。
「マリーとクロエは攻撃を止めてくれ。ミラーカはスライムをしまう。キャッツは威嚇するな。エリーザはなんでも良いからシャドーに攻撃をしてくれ」
「え、それはどういうことなのです!」
「攻撃を止めたらやられちゃうよ」
「きっとシロウには何かの考えがあるのだろう。私は指示に従うさ」
『…………』
「えーと、とにかく殴ってみますね? えーい」
マリーとクロエは攻撃を止め、ミラーカはスライムを仕舞い、キャトは威嚇を止めた。そしてエリーザが両目をつぶりながら拳を前に出す。
しかし、目を瞑っているせいで標的に当てることができずに、お互いが通り過ぎて行った。
「やっぱりそうだ! こいつらはただの時間稼ぎだ。俺たちが倒そうとすれば同じ攻撃をするし、何もしなければ様子を見るだけだ」
「なるほど、私たちはまんまとガーベラの策にはまってしまったと言うわけか」
「でも、このシャドーはどうしましょう? シロウさん」
「対処方法は今思いついた。ストロングウインド」
上空に強い風を発生させる。すると雲の動きが早くなり、俺たちの真上に雲が来る。
雲の影で俺たちの影ができなくなると、シャドーたちは消えた。
「ガーベラは北の方角に逃げて行った。あっち方面の依頼を中心に受けよう。そうすれば、いつかガーベラに行き着くはずだ」
「そうですわね。ガーベラはシロウを恐れて逃げて行きましたもの。追いかければ済む話ですものね」
「シロウさんの言う通りだね。もし、ガーベラが強ければ、ここで私たちを倒すもの。逃げたと言うことは、自分が弱いことを証言しているようなものだね」
「時間稼ぎだなんてせこいことをしているのがその証拠だ」
「そう考えれば全然悔しくないですわね。むしろ、今度こそ捕まえてやるという意思が強くなってきますわ」
『ワン、ワン、ワン』
彼女たちの態度を見てホッとした。俺は全然精神的敗北は感じてはいなかった。だけど彼女たちは違う。だからあえてガーベラは逃げたと言ったけれど、上手く士気を下げずに済んでよかったよ。
俺たちは討伐の報告をしに、一度ギルドに帰る。
ワイバーンの背に乗っていた女性は、ミラーカの元仲間であるガーベラだった。
「あなたはシロウ! どうしてこんなところにいるのですか」
乗っていたワイバーンから降りると、彼女は構えた。
ガーベラの反応を見る限り、俺たちがダラスの近くに来ていたことを知らなかったようだな。
偶然であったとしても、こんなところで彼女と会えたのは絶好の機会だ。
「ガーベラ、緑色の透き通った球体をお前は持っているか?」
「緑色の球体? ああ、これのことですか?」
クロエの家に伝わる家宝を持っていないかと尋ねると、ガーベラは懐から二つの玉を取り出した。一つは緑色をしていたが、もう一つは青い色をしていた。
「それは、私のお父さんが大事にしていたもの!」
球体を見て、家に伝わる家宝だと気付いたクロエが声を上げる。
「もう一つはもしかして! ワタクシの家に伝わる家宝ではないですの!」
続いて意外にもマリーが反応をした。
「御明察だよ。一つはオルウィン家の人々に催眠をかけた際に、ブラドから受け取ったもの。そしてもう一つはエルフのお嬢さんの家から奪ったものだ」
「それはお父さんが大事にしていたもの。返して!」
「返しなさい! 貴族の家宝を奪うだなんて犯罪ですわよ!」
クロエが矢を放ち、マリーが鞭で攻撃する。だが、ガーベラは飛んで来る矢と鞭を掴んで回避した。
「私は魔族ですよ。下等種族の人間やエルフから物を奪うのは当たり前です。それにいつまでも、これを人間の所有物のままにしておく訳にはいきません」
ガーベラは二つの玉を懐にしまうと、パチンと指を離した。その瞬間、俺たちの影が立体となり、同じように構える。
「あなたたちの相手をしている暇はありません。早く最後の一つを見つけなければなりませんので。シャドー、後は頼みます。ヒール」
墜落させられたワイバーンにガーベラが回復魔法をかける。そして彼女は跨り、空に上った。
「お父さんの大事なものを返して!」
クロエが矢を放ち、もう一度ワイバーンを墜落させようとした。だが、クロエの影から生み出されたシャドーが、同じように黒い矢を放つ。
クロエの矢は、シャドーの攻撃に阻まれて当たることはなかった。
上空にいるワイバーンは北の方角に飛び去って行く。
くそう。せっかくのチャンスを逃してしまった。追いかけたいところだけど、まずは俺の影を倒さないといけない。
「早くこの魔物を倒しますわよ」
「そうだね。早く倒して追いかけないと」
「影とは言え、まさか自分と戦う日が来るとは思ってもいなかったね」
「わたしはまだ戦闘経験がないのに、どうやって倒せば良いのですか!」
『ワン、ワン、ワン』
「ファイヤーボール」
仲間たちの声が耳に入る中、俺は呪文を唱えて目の前のシャドーに攻撃する。しかし、こちらの攻撃に合わせて相手も同じ魔法を使い、相殺してきた。
俺の影だけあって、能力は同じか。これは倒すのに時間がかかりそうだな。
一旦攻撃を止めて思考を巡らせる。
これはもはや心理戦だ。いかにして自分の裏を描いて相手にダメージを与えることができるのかが鍵となる。
「ウォーターポンプと見せかけてのファイヤーボール」
もう一度火球を生み出し、直ぐに放つ。
おそらく、魔物は俺の魔法の言葉を聞いて同じ行動をとったはず。フェイントをかければ、咄嗟に反応して変えてくるのはムリだ。
当然水と炎では水のほうが有利だが、冷却効果を上回る熱量にすれば、俺の魔法が負けることはない。
そう思っていたが、俺の影はフェイントに引っかかることはなかった。同じファイヤーボールを放ち、先ほどと同じように相殺に持ち込む。
いくらなんでも、あのフェイントに追いつくことはできないはず。そうなると、前提が間違っていることになるな。
俺の言葉を聞いてから反応していないとなると、いったい何で判断している?
「とにかく色々と試してみるしかないな、トライ&エラーだ」
他のみんなは大丈夫だろうか?
心配になり仲間たちをチラリと見る。
「さすがワタクシですわね。ここまで強いとは思いもしませんでしたわ」
「何度も、何度も弾かれる! もう良い加減にしてよ!」
「私がスライムを出すと、相手も影のスライムを出してくるなんてね。マネをされるとなんだかイライラしてくるよ」
「えーと、どうしてわたしのシャドーは攻撃してこないのでしょうか? もしかして眠っておりますの?」
『フシャー!』
マリーとクロエはお互いを攻撃し合い、ミラーカはスライム対決をしている。そしてキャッツはお互い威嚇し合っているが、エリーザのシャドーだけは何もしていなかった。
もしかして!
この光景を見て、俺はある仮定を考えた。
目の前にいるシャドーは、元々俺の影だ。そして影である以上は、足とつながっている。つながっていると言うことは、もしかしたら思考までが共有されている可能性があるよな。
今だって、俺が考えごとをして隙を作っている。攻撃をするのであれば絶好の機会だ。なのにそれをしないのは、俺が攻撃をする意思がないからのはず。
「マリーとクロエは攻撃を止めてくれ。ミラーカはスライムをしまう。キャッツは威嚇するな。エリーザはなんでも良いからシャドーに攻撃をしてくれ」
「え、それはどういうことなのです!」
「攻撃を止めたらやられちゃうよ」
「きっとシロウには何かの考えがあるのだろう。私は指示に従うさ」
『…………』
「えーと、とにかく殴ってみますね? えーい」
マリーとクロエは攻撃を止め、ミラーカはスライムを仕舞い、キャトは威嚇を止めた。そしてエリーザが両目をつぶりながら拳を前に出す。
しかし、目を瞑っているせいで標的に当てることができずに、お互いが通り過ぎて行った。
「やっぱりそうだ! こいつらはただの時間稼ぎだ。俺たちが倒そうとすれば同じ攻撃をするし、何もしなければ様子を見るだけだ」
「なるほど、私たちはまんまとガーベラの策にはまってしまったと言うわけか」
「でも、このシャドーはどうしましょう? シロウさん」
「対処方法は今思いついた。ストロングウインド」
上空に強い風を発生させる。すると雲の動きが早くなり、俺たちの真上に雲が来る。
雲の影で俺たちの影ができなくなると、シャドーたちは消えた。
「ガーベラは北の方角に逃げて行った。あっち方面の依頼を中心に受けよう。そうすれば、いつかガーベラに行き着くはずだ」
「そうですわね。ガーベラはシロウを恐れて逃げて行きましたもの。追いかければ済む話ですものね」
「シロウさんの言う通りだね。もし、ガーベラが強ければ、ここで私たちを倒すもの。逃げたと言うことは、自分が弱いことを証言しているようなものだね」
「時間稼ぎだなんてせこいことをしているのがその証拠だ」
「そう考えれば全然悔しくないですわね。むしろ、今度こそ捕まえてやるという意思が強くなってきますわ」
『ワン、ワン、ワン』
彼女たちの態度を見てホッとした。俺は全然精神的敗北は感じてはいなかった。だけど彼女たちは違う。だからあえてガーベラは逃げたと言ったけれど、上手く士気を下げずに済んでよかったよ。
俺たちは討伐の報告をしに、一度ギルドに帰る。
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