上 下
105 / 191
第十一章

第七話 今回も奪われたけど、最終的には勝ちました

しおりを挟む
「シャクルアイス!」

 俺は氷による拘束呪文を唱える。するとゾウ型の魔物、エレファントエンペラーの足元に水が出現した。その水は魔物の足に巻きつくと、すぐに氷に変化をする。

『パオオーン!』

 急に足が動かなくなり、エレファントエンペラーは吠える。

 やった。やつの動きを封じてしまえば、逃げられる心配はない。

 魔物は長い鼻を動かし、振り回す。

「マリーは攻撃をするな! エレファントエンペラーの鼻の先端は、斧のようになっている。触れれば簡単に斬られてしまうぞ」

「分かりましたわ。クロエ、ミラーカ、お願いしますわ」

「うん」

「言われなくとも分かっているさ」

 接近戦は危険だと伝えると、マリーがクロエとミラーカに指示を出す。

「狙って、発射!」

 クロエが弓を構えて矢を放つ。すると彼女の放った矢は、魔物の目に突き刺さった。

『パギャオオーン!』

 視界の一部を奪われたエレファントエンペラーは、斧になっている鼻を無茶苦茶に振り回す。

 相当怒っているようだな。下手に近づくのは危険だろう。

 魔物が暴れ疲れて動きが鈍くなるのを待つ。すると、やつの頭部にある王冠が輝き出した。

 すると、青空だった空が曇り、雷雲となる。

『パオオーン!』

 魔物が吠えた瞬間、雷が鳴る。落雷が発生し、エレファントエンペラーに直撃した。

 落雷による熱で拘束していた氷が溶かされ、魔物は自由になる。

「まずい! みんな散開してくれ!」

 急ぎ、仲間たちに散らばるように言う。

 解放された魔物が、雷を纏った状態でこちらに突進してきたからだ。

 マリーたちは左右に逃げて魔物の攻撃から逃れるが、俺はその場に立ち尽くす。

 これで狙いは俺だけに絞られた。

「さて、始めるとしますか。アクアガード」

 呪文を唱えて全身を水で覆う。そして跳躍すると、刃のない鼻の部分に飛びついた。

 魔物が纏っている電気が流れてくる。

 しかし、痺れを感じることはない。

 あることを確認したところで、魔物から飛び降りると地面に着地する。

 そして纏っていた水を体から離すと、それを球状に変えた。

 えーと、確か今日の料理当番はエリーザだったよな。

「エリーザ、食塩を投げてくれないか」

「食塩? 分かりましたわ」

 いきなり調味料を要求されて彼女は困惑していた。だが、俺に考えがあることに気づいてくれたようで、直ぐに荷物から食塩の入った瓶を取り出して投げる。

「ありがとう」

 エリーザにお礼を言い、蓋を開けると電気を纏った水の中に食塩を入れる。

「さあ、終わらせるとしよう」

 食塩入りの電気を纏った水を、エレファントエンペラーに放つ。

『パギャオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!』

 電気を纏った水が魔物に直撃した瞬間、獲物は悲鳴を上げながら地面に倒れる。今の攻撃で絶命したようで、エレファントエンペラーは動かなくなった。

 魔物が倒れた直後、マリーたちが俺のところにやって来る。

「自分から落雷を受けたときはなんともなかったのに、どうしてシロウの攻撃は通用しましたの?」

「ああ、それはな。水は電気をほとんど通さないからだ」

「え! 水は電気を通すものだよね!」

 マリーの質問に答えると、クロエが驚く。

「クロエの言う水と言うのは、水以外にも不純物が混ざった状態のものだ。純水であれば、電気を通さない。あの魔物は身体の表面に純水を纏っていたから、落雷を受けても平気だったと言うわけだ」

「なるほど、水を纏って、エレファントエンペラーに抱きついたのは、あいつの純水を奪うためだったと言うわけだね」

 さすがミラーカだ。今の説明である程度理解してくれた。

「そう。あいつの身体から水を奪い、食塩を加えたことで、電気を通す水になった。その水さえ当てれば、いくらエレファントエンペラーであっても電撃には耐えられない」

「魔物を倒した理屈なんてどうでもいいですわよ! それよりも早くしないと、また奪われてしまうかもしれませんわよ!」

『ワン、ワン、ワン!』

 説明している最中、エリーザとキャッツが、早く討伐の証を剥ぎ取るように言う。

「それもそうだな」

 エリーザの言うとおり、またあのオバサンが横取りに来るかもしれない。ここは早く採取を終わらせたほうがいいだろう。

「シロウ。今回は私が剥ぎ取りをさせてもらってもいいかい?」

「まぁ、いいけど場所は分かっているか?」

「口元にある牙だろう。それぐらい分かっているさ」

 持っている袋をミラーカに渡すと、彼女はエレファントエンペラーに近付き、二本の牙を剥ぎ取る。

「ほら、綺麗に剥ぎ取れただろう」

 綺麗に剥ぎ取れたことを証明したいのか、ミラーカが二本の牙を持ち上げて見せびらかす。

 そんなことをしないで早く袋にしまってくれよ。また奪われるかもしれないじゃないか。

 そんなことを心の中で呟いていると、再び風が舞い上がる。

 まさか!

 風に気付いたときには遅かった。再び目にゴミが入り、咄嗟に瞼を閉じる。

 くそう。早く瞼を開けて、牙を守らないといけないと言うのに!

「アハハハハ! まさか十万ポイントのエレファントエンペラーを倒すとは思ってもいなかったよ。一応あんたたちの実力は認めてやるさ。だけど最後に笑うのはこの私たちさ。戦いに負け、勝負に勝つってね! それじゃあさようなら」

 赤い髪の女性の声が聞こえてくる。

 くそう。またしても奪われてしまった。

 目の痛みがなくなり、閉じていた瞼を開ける。ミラーカの手には牙がなくなっていた。

「ミラーカ! 牙は?」

「どうやら、取られてしまったようだね」

「何を呑気なことを言っているのですか! 早く追いかけて取り戻しますわよ!」

 ミラーカの態度にマリーが怒り、彼女はあの女を探しに走って行く。

 マリーに続いて、クロエたちも追いかけて行った。

「俺も探さないと」

「シロウちょっと待った」

 探査魔法を使おうとして、両手を前に出したときだ。ミラーカが止めるように言う。

「シロウこいつを見てくれ」

 ミラーカは懐から空になっている瓶を見せる。容器の内側には、僅かにジェル状の物体が残っていた。

 これはもしかして。

 ミラーカを見ると、彼女はウインクをした。

「分かった。マリーたちを呼び戻そう」

 追いかけに行ったマリーたちを呼び戻し、俺たちは制限時間一杯まで他の魔物を討伐した。





「お前たちも頑張ったようだが、今回は俺たちが勝たせてもらう」

「結果が分かっていると言うのに、よく逃げ出さなかったね。まずは褒めてあげるよ」

「対戦相手が俺たちだったのだ。運がなかったと思うしかない」

 ギルドに戻って合流するなり、金髪の男、赤い髪の女、青い髪の男がそれぞれ勝ち誇った態度で俺たちに声をかける。

 討伐の証は先にギルドマスターのガイアに渡してある。あとは彼の集計が終わるのを待つだけだ。

 しばらくすると、ガイアが胸の前で腕を組みながら俺たちのところにやって来る。

「さて、まずは両チーム討伐ご苦労だった。証を確認したのだが、結果を見て俺はびっくりした。なんと、十万ポイントを超えていたのだ」

 ギルドマスターのガイアの言葉に、対戦相手のチームはニヤリと口角をあげる。

「では、勝者を発表しよう。勝ったのは、シロウ率いるエグザイルドだ!」

「やりましたわ! シロウ!」

「私たち、あのあと頑張ったものね!」

「本当に良かったです」

 カラクリが分かっていないマリーたちは、本当に逆転したと思い込んでいるようだ。三人は抱き合って勝利を喜ぶ。

「待て、待て、待て! それは可笑しいだろうが!」

「そうだよ! どうして私たちが負けるのさ!」

「俺たちは十万ポイントであるエレファントエンペラーを倒したのだぞ」

 結果に納得のいかない三人は、ギルドマスターのガイアに詰め寄る。しかし彼は、三人の言葉の意味が理解していないようで、キョトンとしていた。

「お前たち、何か変なものを食べて頭がおかしくなっているのか? エレファントエンペラーの牙を持ち帰ったのはシロウたちだぞ」

「「「はー!」」」

 ガイアの言葉に、三人は大きく口を開けて間抜け面を晒す。

「あははははは、あーはははは」

 三人の顔を見た瞬間、ミラーカがお腹を押さえながら大声で笑い出した。

「本当に気づいていないとは思ってもいなかったよ。あんたたち、あれを持っていて変な違和感を覚えなかったのかい?」

 ミラーカが三人に尋ねるが、彼らは言葉の意味が理解していない様子だ。

 パチン!

 ミラーカが指を鳴らした直後、事務所の奥からジェル状の生き物が飛び出した。

「スライム!」

 ガイアが声を上げた瞬間、スライムは象の牙に変身する。

「こいつは私が研究して作った人に無害なマネットライムだ。言葉は話せないが、変身能力は野生のものと変わらない。あんたたちの目を欺くために、こいつを囮にしたのさ」

「なんだって!」

 ミラーカの説明に、赤い髪の女性が驚く。

「因みにお前たちが証として持って来たのはエレメント階級のオーガの頭だけだぞ」

 ガイアの言葉を聞いた瞬間、思わず吹き出しそうになった。

 エレメント階級のオーガって、俺たちから奪ったものじゃないか。つまり、あいつらは一体も倒していなかったってことなのかよ。

 きっとこれまでベストスリーに入れたのも、他者から奪い、ハイエナをしていたからなのだろうな。

「まったく、第三位ともあろうものが情けないではないか! お前たちは今から降格だ! ランキング外からやり直して来い!」

「「「は、はい」」」

 疲れた表情を浮かべながら、三人は力なく返事をするのであった。
しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺だけ展開できる聖域《ワークショップ》~ガチャで手に入れたスキルで美少女達を救う配信がバズってしまい、追放した奴らへざまあして人生大逆転~

椿紅颯
ファンタジー
鍛誠 一心(たんせい いっしん)は、生ける伝説に憧憬の念を抱く駆け出しの鍛冶師である。 探索者となり、同時期に新米探索者になったメンバーとパーティを組んで2カ月が経過したそんなある日、追放宣言を言い放たれてしまった。 このことからショックを受けてしまうも、生活するために受付嬢の幼馴染に相談すると「自らの価値を高めるためにはスキルガチャを回してみるのはどうか」、という提案を受け、更にはそのスキルが希少性のあるものであれば"配信者"として活動するのもいいのではと助言をされた。 自身の戦闘力が低いことからパーティを追放されてしまったことから、一か八かで全て実行に移す。 ガチャを回した結果、【聖域】という性能はそこそこであったが見た目は派手な方のスキルを手に入れる。 しかし、スキルの使い方は自分で模索するしかなかった。 その後、試行錯誤している時にダンジョンで少女達を助けることになるのだが……その少女達は、まさかの配信者であり芸能人であることを後々から知ることに。 まだまだ驚愕的な事実があり、なんとその少女達は自身の配信チャンネルで配信をしていた! そして、その美少女達とパーティを組むことにも! パーティを追放され、戦闘力もほとんどない鍛冶師がひょんなことから有名になり、間接的に元パーティメンバーをざまあしつつ躍進を繰り広げていく! 泥臭く努力もしつつ、実はチート級なスキルを是非ご覧ください!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

異世界でただ美しく! 男女比1対5の世界で美形になる事を望んだ俺は戦力外で追い出されましたので自由に生きます!

石のやっさん
ファンタジー
主人公、理人は異世界召喚で異世界ルミナスにクラスごと召喚された。 クラスの人間が、優秀なジョブやスキルを持つなか、理人は『侍』という他に比べてかなり落ちるジョブだった為、魔族討伐メンバーから外され…追い出される事に! だが、これは仕方が無い事だった…彼は戦う事よりも「美しくなる事」を望んでしまったからだ。 だが、ルミナスは男女比1対5の世界なので…まぁ色々起きます。 ※私の書く男女比物が読みたい…そのリクエストに応えてみましたが、中編で終わる可能性は高いです。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

処理中です...