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第十一章

第二話 襲われていたから助けたけれど、この動物っていったい何なの?

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 クロエが聞いた動物の鳴き声を確かめるために、俺は全速力でその場所に向かっていた。

 しばらく走っていると、確かに鳴き声が聞こえた。この声は犬か?

 木々の間を通り抜け、襲われている動物が視界に入る。

いや、正確には動物と言っていいのか分からない。

 顔は猫だが耳は狐、そしてモフモフの尻尾は犬ぽかった。

 だけどこの状況を見て一番に分かること、それはあの奇妙な生き物が魔物に襲われているということだ。

 魔物のほうはゴブリンが十体ほど。ゴブリン程度なら、すぐに倒せるな。

「さっさと終わらせよう。ファイヤーアロー」

 魔法を発動し、複数の矢を象った炎を展開させると、それぞれに向けて放つ。

 しかし、ゴブリンたちは炎を躱した。

 なるほどな。いくらファイヤーアローでも、普通のゴブリンなら俺の攻撃を躱すことは難しい。だけどすんなりと回避したところ見る限り、あいつらはノーマルクラスではなく、ハイクラスなのだろうな。

 見た目はノーマルと一緒だから、見分けることはほぼ不可能だ。だけど、ノーマルクラスよりも何かに突出している特徴を持つ。俺の攻撃を避けたところを見る限り、動体視力が優れているのか、素早いのかのどっちかだ。

 魔物の特徴を分析していると、必死に逃げている奇妙な生き物が俺の背後に隠れる。

『グギャギャ!』

 先頭を走っていたハイゴブリンが地を蹴って跳躍する。そして握っていた斧を振り下ろしてきた。

「自分から倒されにくるなんてな。ファイヤーボール」

 奇妙な生き物を抱き抱えると後方に跳躍し、呪文を唱える。そしてハイゴブリンの着地地点に火球を配置した。

『グギャー!』

 いまさら回避に移ることができなかったハイゴブリンは、自ら火球の中に突っ込む。

 魔物は悲鳴を上げつつ炎に焼かれ、焼死体となって地面に転がった。

「シロウ遅くなりましたわ」

「遅れてごめんね」

「ふむ。やはり魔物が襲っていたか」

「数が多いですわね」

 遅れてマリーたちが合流してきた。俺一人でも十分だけど、ここは彼女たちにも手伝ってもらうか。

「敵は普通のゴブリンじゃない。回避に突出したハイゴブリンだ。そう簡単には当たらないぞ」

 抱き抱えた奇妙な生き物を下すと、マリーたちにハイクラスであることを伝える。

「わかりましたわ。皆さん行きますわよ」

 マリーの掛け声を合図に彼女たちは攻撃する。しかし、いくら攻撃しても回避されてしまっていた。

 やっぱりマリーたちでは苦戦してしまうか。こうなったら俺がサポートをするしかないな。

「サルコペニア」

 筋肉の量を減少させる弱体化魔法を唱え、ハイゴブリンを弱くする。

 筋肉の量が減少したハイゴブリンたちは、攻撃力、防御力、素早さが著しく低くなる。

 さらに、速度が落ちたことで回避率が下がり、攻撃側は必中に近い状態になった。

「あれ? 急にハイゴブリンに当たるようになった」

「あれだけワタクシたちの攻撃を避けていましたもの。体力がなくなって疲れたのでしょう」

「そんなこと本気で思っているのかい? そんなわけがないさ。きっとシロウがサポートしてくれたのだろう」

「ミラーカさんの言うとおりですわ! マリーお姉様、シロウさんの魔法で魔物が弱体化しましたわ。わたし隣で見ていましたもの」

「そうなのですね! さすがワタクシのシロウですわ!」

 俺がサポートをしたことにより、ハイゴブリンたちは次々と倒れていく。

 体感で十分ぐらいだっただろう。戦闘が終わり、魔物は全滅した。

『ワン、ワン』

 後ろから奇妙な生き物が吠える声が耳に入る。

 振り返って見ると、尻尾を左右に振っていた。

 きっとお礼を言っているのかもしれないな。

「それにしても、お前はいったい何なんだ? 頭は猫だけど、耳は狐だよな。尻尾は犬ぽいし、普通の生き物ではないよな?」

 屈んで奇妙な生き物を見つめる。すると、俺の足に身体を擦り付けてきた。

 この行動から考えるなり、やっぱり犬か? 犬が身体を擦り付ける理由はいくつかあるけど、状況から考えて俺の匂いを纏いたいのかもしれないな。

 あの戦闘を見て、野生の勘で俺が一番強いと判断した。だから、俺の匂いを身体につけることで、外的から身を守ろうとしているのかもしれない。

 まぁ、他にも甘えるなどのサインもあるけれど、最初に考えたのが一番理由としてはしっくりくるだろうな。

「その奇妙な動物が襲われていましたの? シロウ」

「ああ、そうなんだよ。ミラーカは一応学者だろう? 何か知っているか?」

「いや、こんな生き物は見たことがないね。だけど非常に気になる生き物だ。知的好奇心が刺激される。シロウがどうしても気になると言うのなら、解剖して正体を調べるけど?」

 ミラーカがポケットから小型ナイフを取り出す。

『キャン!』

「お、お前! どこに入ってきやがる!」

 小型ナイフを見て身の危険を感じたのか、奇妙な生き物は俺のシャツの中に身体を突っ込むと、襟ぐりから顔を出した。

「あら、シロウさんの中に隠れるなんて、よほど気に入られたみたいですわね」

「服が伸びるから出てくれよ」

 服の中に腕を突っ込み、奇妙な生き物を取り出す。そしてそのまま持ち上げた。

 うーんお腹を見た限り、オスの象徴がないからメスだな。それにしても本当にこいつは何なんだ? 魔物に襲われていたから魔物ということはないだろうけれど、本当に不思議な生き物だ。

 まぁ、何にせよ。身体を擦り付けて俺の匂いを纏ったのだ。もう魔物に襲われる心配はないだろう。

 抱き抱えた奇妙な生き物を地面に置くと、仲間たちを見る。

「それじゃあ、そろそろダラスに向かおうか」

 次の町に向けて歩こうと彼女たちに言い、歩みを進める。

「シロウさん、シロウさん」

「エリーザどうかしたか?」

「あの奇妙な生き物、わたしたちに着いて来ていますわ。もしかして懐かれたのでは?」

 振り返って後ろを見る。エリーザの言うとおり、あの奇妙な生き物が俺たちの後ろを歩いていた。

 まさか、本当に俺たちに付いて来ようとしているのか? だけどまだ結論を出すには早いよな。たまたま行く道が一緒なだけかもしれないし。

「みんな、あっちに小川が流れていただろう。少し休憩していこう」

 偶然か、本当に付いて来るつもりなのかを確かめるために、敢えて寄り道をすることにした。

 小川のほうに歩くと、やはりあの奇妙な生き物が着いて来る。そして小川に辿り着くまで、別の道を歩こうとはしなかった。

「よし、ここで休憩をしよう」

 腰をかけられそうな大きい石の上に座り、様子を窺う。

 さて、あの奇妙な生き物は?

 顔を真っ直ぐに向けたまま、眼球だけを動かして視線を動かす。

 すると、あの奇妙な生き物は隣に来るとお座りをした。

 これは間違いないだろうな。

「なぁ、もしかして俺たちに付いて来るつもりなのか?」

『ワン!』

 俺の言葉を理解しているようで、奇妙な生き物は吠えて返事を返す。

 しかたがないな。ここであったのも何かの縁だ。この奇妙な生き物を飼うとするか。

 こうして見たこともない奇妙な生き物が、マスコット的な存在として、エグザイルドのメンバーとなったのだ。
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