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第十章

第十三話 アーシュが自滅したその後

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 ~シロウ視点~



 魔神木となったアーシュさんの魔法で引き寄せられた隕石。それが彼自身に当たり、衝撃で爆風が発生した。

 凄まじい風は周辺の木々を薙ぎ倒していく。

「シロウ大丈夫ですわよね」

「当たり前だ。俺の魔法が爆風程度に負けるわけがない」

 マリーが心配そうに尋ねてきたので、彼女を安心させるために、俺は問題ないと言う。

 今まで体験したことのない人為的な災害に、不安になったのかもしれないな。

 皆んなの前なので強がってしまった。だけど正直に言えば、俺自身もこのあとどうなるのか分からない。だけどリーダーである俺が心を折る訳にはいかない。何が起きようとも、瞬時に対応して見せる。

 木の枝や岩が吹き飛ばされ、光の壁に衝突する。しかし難なく弾き返していく。

 魔神木の攻撃にも耐えたんだ。これぐらいでヒビが入るなんてことにはならない。

 これくらいであれば、いくらでも耐えられる。あとは治るのを待つだけ。

「シロウ! 地面を見てくれ」

 カーミラから地面を注視するように言われ、俺は足元を見る。すると地面にヒビが入り、足場が砕けた。

 地中に埋まっていた部分が見え、半球から球体になる。固めていた足場を失ったことにより、俺たちを包んでいる球体は、爆風に吹き飛ばされて空中に舞った。

 このままでは俺たちまでもどこかに吹き飛ばされる。こうなっては一か八か、やってみるしかない。

「デスボール!」

 上空に直径十メートルの火球を生み出し、地表面を暖めて上昇気流を生み出す。それにより、上空と地表で気温に差を生み出すと、雲を積乱雲に発達させる。

「トルネード!」

 発達した積乱雲に風を送り、回転させて竜巻を起こす。

 すると、こちらに爆風がくることなく、俺たちを包んでいる球体は重力に引っ張られ、地面に着地した。

 よし、どうにか上手くいった。

 俺たちの方に爆風が飛んでくるのは、隕石が衝突した場所を中心に、気圧に変化が起きたからだ。弱い気圧が強い気圧に押されることで風が生まれる。なら、爆風よりも強い風を発生させて俺たちの方を風上にすればいい。そうすれば、俺たちが吹き飛ばされる心配はない。

 竜巻によるガードのお陰で、俺たちのほうに物が飛んでくることもなかった。

 魔法で生み出された竜巻は爆風を呑み込む。隕石による風がなくなると、魔法で生み出した竜巻を消した。

「シロウさん、終わりましたの?」

「ああ、終わったな」

 エリーザの問いに、ポツリと答える。

「でも、随分と風景が変わってしまいましたわね。あれだけ自然豊かでしたのに、一帯は荒れ果てた大地になっておりますわ」

「だけど、これでも被害は最小限に抑えられたほうだと思うよ。シロウが機転を効かせてくれなければ、もっと酷い惨状になっていたかもしれない」

「うーん? あれ? 私どうして眠っていたんだっけ?」

 抱き抱えていたクロエが目を覚まし、ポツリと言葉を漏らす。

「お、目が覚めたみたいだな」

 クロエが目を覚ますと、彼女を地面に立たせる。

「えーと、確か兄さんが魔物になって。それで私が捕まって、それからの記憶が……そうだ! 兄さんは!」

 兄のことを思い出したクロエが周囲を見渡す。しかし、当然ながらアーシュさんの姿はどこにもない。

 彼女にとっては、あまりにも残酷な現実を突きつけることになるだろう。だけど、リーダーとして俺の口から言わないといけない。

「クロエ、実は――」

 アーシュさんが完全に魔物になり、最後は自滅して亡くなったことを告げる。

「そうだったんだ」

 落ち込んだ表情を見せるクロエに、俺は彼女にかけてやる言葉が思いつかない。すると、ミラーカが一歩前に出る。

「クロエ、君のお兄さんが戦闘中にガーベラのことを叫んでいた。きっと、マリーたちのときのように、操られていたのかもしれない」

 ミラーカの言葉を聞き、クロエは少し顔を俯かせて表情を曇らせる。しかしすぐに顔を上げると、真顔で俺たちを見た。

「皆んな、ガーベラを倒そう! 兄さんのことはあまり好きではなかったけれど、一応家族だもの。兄さんの仇を討ちたい」

 彼女の迷いのない言葉に、クロエは強いなと思った。

「そうだな。俺たちも協力する」

「そうですわね。あのガーベラとかいう女には、お父様を弄んだ罪がありますもの。ワタクシも尽力いたしますわ」

「ガーベラは私が倒すつもりでいたが、この際だ。クロエにも協力してもらうことにしよう」

「わたしも協力いたしますわ! 戦うことはできなくとも、サポートぐらいならできますもの」

 俺に続いてマリー、ミラーカ、エリーザがクロエの敵討ちに協力することを告げる。

 こうして俺たちは、ガーベラ打倒を決意したのだった。





 エルフの里が魔神木となったアーシュさんに破壊されて数日が経った。

 あのままエルフたちのことをほっといて、先に進むことができなかった俺たちは、復興作業を手伝っている。

「エンハンスドボディー、スピードスター」

 肉体強化の魔法と俊足魔法を自分の身体に付与し、猛スピードで木材を運ぶ。

「必要な木材はこれぐらいで足りますか?」

「ああ、充分なぐらいだ。助かったありがとう」

「それじゃあ次は建築のほうですね」

 魔法の効果で疲れ知らずとなっているので、釘とハンマーを使い、迅速にログハウスを建てていく。

「こんなものでどうでしょうか?」

「す、凄いなあんた!」

「本当に人間なのか? もしかして建築の精霊ブラウニーの化身なのではないのか?」

 俺の建築スピードにエルフの方々が驚く。だが、自分たちとは次元が違うことがわかっているようで、称賛してきた。

「いやー、自分で家を建てたのは初めてだったけれど、上手く建てられてよかったです」

 俺のユニークスキル【魔学者】の副産物で、異世界の知識を得ているからな。これぐらいお手の物だ。

「は、初めてだと! それでこの完成度とは……やはり建築の精霊ブラウニーの化身様で間違いない」

 一人のエルフが俺のことを精霊の化身だと言い出す。すると、他のエルフまでもが伝染して、俺のことをブラウニーの化身だと認識し出した。

 彼らは頭を地面につけ、俺を敬いだす。

 いや、俺は普通の人間で、別に精霊の化身じゃないからな!

「皆さんそんなに畏まらないでください。俺は普通の人間です。ただ自分ができることをしただけですので。だから頭を上げてください」

 頭を上げるように言うが、彼らは一向に体勢を崩そうとはしない。

 困ったなぁ。どうしようか。

「皆さん、シロウさんが困っていますよ。この人を精霊の化身だと思うのであれば、言うとおりにしなければ天罰が降るかもしれませんよ」

「おお、確かに君の言うとおりだ」

「こうしてはいられない」

 困っているとクロエがやってきて助け舟を出してくれた。

「ありがとう。助かった」

「お礼を言うのは私のほうですよ。シロウさんのお陰で、里の復興が予想以上に早く終わりそうです」

 笑顔を俺に向けると、クロエは顔を近づけてくる。そして頬に柔らかいものが当たった。

「これは私からのお礼です。それじゃあ」

 悪戯に成功した子供のような笑みを浮かべながら、クロエはこの場から去って行く。

 俺はその場に立ち尽くしたまま、頬に手を添えるのであった。
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