Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳

文字の大きさ
上 下
95 / 191
第十章

第十話 魔神木再び

しおりを挟む
 ~アーシュ視点~



 あれ? 俺は今まで何をやっていたんだ?

 俺ことアーシュは、数分間の記憶を思い出せないでいた。

 あの男からクロエを守るために倒そうとしたのは覚えている。だけど斧を振り回し、体力の限界に達した後の記憶がない。

 俺は地面に倒れているが、あの憎き男を倒したのか? うん? これは?

 周辺に綺麗な金髪がたくさん落ちている。

 この髪は……まさか!

 嫌な予感がしたので、腕を震わせながら頭部に持っていく。すると、髪の感触が全くなかった。

 髪がねええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!

「どうして俺の髪がこんなに抜け落ちているんだ!」

 思わず立ち上がり、ちょっとした恐怖に震える。

 こんなホラーなことがあっていいのか! 俺は三百歳を超えた辺りから、常に髪には気をつけていたんだぞ!

「あのう、アーシュさん。正気に戻ったみたいだからもう一度言うけどごめんな。実際に魔法の効果を見るのは初めてだったから、ここまで威力が高いとは思わなかったんだ」

 後方から憎きあの男の声が聞こえてくる。

 つまり、俺はまだシロウを倒してはいない。そしてやつの言葉からして、俺の髪が全て抜け落ちたのはあいつのせいだ。

 よくも、よくも、よくも! 俺の髪をおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!

 もう許さねぇ! 俺からクロエだけではなく、髪まで奪いやがって! 絶対に後悔させてやる!

 懐から液体の入った瓶を取り出す。そして蓋を開けると一気に飲み干した。

 その瞬間、身体全体が熱を帯び、とても我慢できない状態に陥る。

「きゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 何やっていますのあの人」

「兄さん、いったいどうしちゃったの!」

「この光景はどこかで見たような気がするね」

 クロエとその連れの女の子たちが悲鳴をあげる。彼女たちは両手で目を隠していた。

 身体中に感じる熱を少しでも逃そうと、俺は服を脱ぎ捨て、裸体を曝け出していた。

 まさか、こんな形で俺の美しい肉体を曝け出すことになるとは思ってもいなかったが、いずれクロエには見てもらうことになるからな。それが早まったというだけだ。

 さぁ、クロエよ! 兄さんの生まれたままの姿をその目に焼き付けるのだ……いだ! イタダダダダ……痛い!

「がああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 ちょとした優越感に浸っていると、急に身体中が筋肉痛になったかのように激しい痛みを覚えた。その痛みは尋常ではない。俺は耐えきれずに絶叫する。

 そして再び意識を失った。

 目が覚めると周囲の風景が違うことに気づく。

 あれ? どうして木がこんなに小さく見える? そしてどうしてこんなに青空が近いんだ?

 周囲を見ようとした。しかし首が動かせられない。それなのに、なぜか三百六十度の光景が見えてしまっている。

 これはいったいどういうことだ?

 状況を確認しようと、眼球を動かす。

『なんだこれは! お、俺の身体があああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』

 俺は悍ましい光景に絶叫をしてしまった。

 目が覚めれば、俺は人の身体ではなかった。胴体は樹木のようになっており、足だか手だかわからないものが地面から突き出し、触手のようにうねっている。そして身体には無数の目が存在していた。

 三百六十度周囲を把握することができたのも、この目によるものなのだろう。

「魔神木!」

 シロウが声を荒げた。

 魔神木と言うのは何だ? 名前からして神の名なのか? そう言えば、ガーベラのやつが言っていたな。あの液体を飲めば俺は神となり、悪魔であるシロウに神の鉄槌を下すことができると。

 つまり、俺は今神となったのだ! これであの憎き男に制裁を下すことができる!

『喰らえ! 神の鉄槌!』

 触手のようにうねっている枝と根っこを使い、シロウに攻撃をする。

「エンハンスドボディー」

 やつは呪文を唱えると、生意気にも俺の攻撃を受け止めやがった。

 まぁ、いい。この身体にはまだ慣れてはいないのだ。まだ動きがぎこちない感じがする。慣れさえすれば、シロウを倒してクロエを守ってやることができる。

 うん? クロエのやつ、里の者を逃しているのか? ああ、クロエは本当にいい子だ。俺にとっての天使、マイスイートエンジェル!

 だけど、俺を構ってくれないのは嫌だな。クロエは俺だけのクロエなのだから。

 触手のような枝を伸ばし、クロエを捕まえてこちらに引き寄せる。

「きゃああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 ああ、悲鳴をあげるところもなんてチャーミングなんだ。本当に俺の妹は世界で一番可愛いやつだな。

「シロウさん! 助けて!」

 クロエがあの男の名を呼び、助けを求める。

 いったいどうしてクロエはあの男の名を呼んで助けを求める! お前を魔の手から救っているのは俺なんだぞ!

『クロエ、どうしてお前はアイツの名を呼ぶ! どうしてあの男に助けを求める!あいつは……』

「それはシロウさんが私を救ってくれた神様で、私の大好きな人だからよ」

 大好き……あの……男を。

 クロエの言葉を聞いた瞬間、俺の中にある何かが壊れたような気がした。

『嘘だ! 嘘だ! 嘘だああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』

 叫び声をあげると、触手のような枝と根っ子を乱暴に振り回す。

 無数の触手が建物を破壊し、家財などが吹き飛ぶ。

 実家もぶっ壊してしまったようで、俺の大事にしているクロエ人形が家から飛び出し、地面に落ちたのが見えた。

 すると、人形のクロエと過ごした夜のできごとを思い出す。

 そうだ。クロエを食べちゃえばいいんだ。俺と彼女がつながってひとつになれば、クロエは俺のもの! 奪われる前に奪ってしまえ!

『クロエ、おねんねの時間だ』

 クロエと視線があっている瞼を大きく見開く。

「あれ? どうして……急に……眠く」

 俺の催眠により、クロエは眠りにつく。

 ああ、本当に眠っている姿も可愛らしい。こんな寝顔が見られなくなるのは残念だが、これも愛ゆえ。

 まずは体力をつける必要があるな。周囲の木から栄養分と水を奪ってやろう。

 周囲の木から栄養と水を奪い取り、枯らしていく。

 これだけお腹が満たされれば、準備万端だろう。さぁ、始めようではないか。

「さぁ、お兄ちゃんとひとつになろう」

 触手のような枝で、クロエの姿が見えなくなるまで優しく包み込む。

 そして身体を引き裂くと、体内に取り入れようとした。

『いただきま……ぎゃあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』

 最愛の妹を体内に取り入れようとした瞬間、途轍もない痛みを覚えた。眼球を前後左右に動かし、痛みの原因を探る。

 すると、俺の触手のような枝が腐り、ボロボロとなって崩れ落ちていた。

「妹に執着しすぎるのはどうかと思うぞ。お前のシスコンは、犯罪レベルを超えている」

 ニヤリと口角を上げ、してやったりと言いたげな表情で俺を見ている男に、憎悪の念を抱く。

『シロウ! よくもおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! 身体がいだいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!』

 肉体が崩れ落ちる恐怖と痛みに、俺は絶叫せずにはいられなかった。
しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。 森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。 その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。 これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語 今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ! 競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。 まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

僻地に追放されたうつけ領主、鑑定スキルで最強武将と共に超大国を創る

瀬戸夏樹
ファンタジー
時は乱世。 ユーベル大公国領主フリードには4人の息子がいた。 長男アルベルトは武勇に優れ、次男イアンは学識豊か、3男ルドルフは才覚持ち。 4男ノアのみ何の取り柄もなく奇矯な行動ばかり起こす「うつけ」として名が通っていた。 3人の優秀な息子達はそれぞれその評判に見合う当たりギフトを授かるが、ノアはギフト判定においてもハズレギフト【鑑定士】を授かってしまう。 「このうつけが!」 そう言ってノアに失望した大公は、ノアを僻地へと追放する。 しかし、人々は知らない。 ノアがうつけではなく王の器であることを。 ノアには自身の戦闘能力は無くとも、鑑定スキルによって他者の才を見出し活かす力があったのである。 ノアは女騎士オフィーリアをはじめ、大公領で埋もれていた才や僻地に眠る才を掘り起こし富国強兵の道を歩む。 有能な武将達を率いる彼は、やがて大陸を席巻する超大国を創り出す。 なろう、カクヨムにも掲載中。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

無能扱いされた実は万能な武器職人、Sランクパーティーに招かれる~理不尽な理由でパーティーから追い出されましたが、恵まれた新天地で頑張ります~

詩葉 豊庸(旧名:堅茹でパスタ)
ファンタジー
鍛冶職人が武器を作り、提供する……なんてことはもう古い時代。 現代のパーティーには武具生成を役目とするクリエイターという存在があった。 アレンはそんなクリエイターの一人であり、彼もまたとある零細パーティーに属していた。 しかしアレンはパーティーリーダーのテリーに理不尽なまでの要望を突きつけられる日常を送っていた。 本当は彼の適性に合った武器を提供していたというのに…… そんな中、アレンの元に二人の少女が歩み寄ってくる。アレンは少女たちにパーティーへのスカウトを受けることになるが、後にその二人がとんでもない存在だったということを知る。 後日、アレンはテリーの裁量でパーティーから追い出されてしまう。 だが彼はクビを宣告されても何とも思わなかった。 むしろ、彼にとってはこの上なく嬉しいことだった。 これは万能クリエイター(本人は自覚無し)が最高の仲間たちと紡ぐ冒険の物語である。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...