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第十章

第六話 クロエは家族と再会したけれど、何故か俺はお兄さんから嫌われているのだが

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 港を出てから数日が経った。今はクロエの案内のもと、エルフの集落に向かっている。

「そろそろ見えてくるころですよ」

 クロエが前方を指差しながら声を弾ませている。

 久しぶりの里帰りだ。家族や知り合いの顔を見ることができるから、少しテンションが上がっているのだろうな。

「ほら、見えてきました!」

 前方に複数の家が見えくると、クロエは小走りを始めた。

「おい、そんなにはしゃいでいると転ぶ……」

「キャ!」

 注意をした途端に、クロエは何かに躓いたようだ。前に倒れてしまう。

「アイタタ」

「大丈夫か?」

「はい。平気です」

 クロエに近づき、彼女に手を伸ばして起き上がらせる。足には擦りむいた跡があり、血が滲んでいた。

 さすがにケガをした状態で、家族と再会させるわけにはいかないよな。

「ヒール」

 回復の呪文を唱えると、クロエの傷はなくなり、ケガをする前に戻る。

「ありがとうございます」

 クロエは俺に笑顔を向ける。

 彼女は病気で苦しんでいる両親のお見舞いに来たのだ。それなのに俺たちに明るく振る舞っているのは、彼女なりの配慮なのかもしれないな。だったら、俺もクロエの意にそうようにしないといけない。

はしゃぐ気持ちはわからなくもないが、落ち着けよ。ご両親は逃げたりしないぞ」

「そうですね」

 道沿いを歩き、エルフたちの集落に入る。

 集落に入った途端に、複数のエルフたちからの視線を感じた。

「クロエ、なんだかワタクシたち見られていませんか?」

「人間がここにやってくるのは珍しいからね。それでじゃないのかな? でも、全く交流がないわけじゃないから、気にしなくていいと思うよ」

 まぁ、珍しい客人であれば、視線を集めたりもするか。クロエの言うように気にしないようにしておこう。

 クロエの後ろを歩いていると、急に彼女は立ち止まった。

「兄さん」

 井戸の前に立ち、水汲みをしている男性エルフにクロエは視線を向けていた。

 あの人がクロエのお兄さんか。後ろ姿しか見えないが、彼女には他のエルフとの区別がついているようだな。

「兄さんただいま!」

「その声はまさか!」

 背後からクロエが声をかけ、水汲みをしていた男性エルフが驚きの声を上げる。

「ク、クロエ! お前、声が出るようになったのか!」

「うん! そうだよ」

「おおー! それはよかった! お兄ちゃんは嬉しいぞ!」

 彼女の兄は目から涙を流し、その勢いのままクロエを抱きしめようとした。しかし、クロエは後方に跳躍して彼の抱擁を躱す。

「ク、クロエ? どうして俺から逃げる?」

「なんとなく、嫌だもの」

「そ、そんな! 久しぶりの再会なのだぞ!」

「それでも嫌なものは嫌だもの」

「そんな! これが年ごろの妹が兄を煙たがる現象というやつか」

 クロエの態度によほどショックを受けたようだ。彼は両手と膝を地面につけ、しばらく動けないでいた。

 何だか入りづらい空気になったが、一応挨拶をしておかないといけないよな。

「あのう」

「何だお前は? 人間ではないか。人間が我らエルフの里に何の用だ」

 声をかけると、お兄さんは顔を上げて俺を睨んでくる。彼は見せものではないと目で訴えていた。

「この人は私の神様であるシロウさん。私の呪いを解いてくれたの」

 なぜかクロエは、俺の腕に自身の腕を絡ませてお兄さんに紹介する。

 わざわざ腕を絡ませる必要はないだろう?

「ク、クロエ! お前は何をやっている! その人間から離れなさい!」

 お兄さんは勢いよく立ち上がると、俺とクロエの間に腕を入れ、強引にも引き剥がそうとしてきた。

 まぁ、別にこれ以上は、クロエと腕を組んでいる必要はないよな。

 クロエから腕を離し距離を開ける。

「どうしてそんなことをするのよ! 別に私が誰と腕を組もうといいじゃない!」

「言い訳がないだろう! 相手は人間なんだぞ! 人間の男は理性のないけだものだ! お前はまだ百六十歳! その年で妊娠でもしたらどうする!」

「に、妊娠って! 何を言っているのよ! シロウさんとは健全なお付き合いをしているのだから!」

 お兄さんの斜め上を行く発言に驚いているのはわかるが、その言い方だと語弊があるぞ。それではますます勘違いをされるではないか。

「な、何だと! 俺は許さないからな! 人間とエルフなんて絶対に許さない!」

「別に兄さんの許しを得るつもりなんて、全然ないから。シロウさん行きましょう。みんなも着いてきて」

 クロエが俺の腕を引っ張り、彼女の家に連れて行かれる。

「ここが私のお家」

 木造の家に案内されると、クロエは扉を開けて中に入る。

「お父さん、お母さんただいま」

 病気でせている両親に配慮しているのだろう。クロエはあまり大きな声を出すことなく、誰もいない空間に向けて言う。

「お父さんたちの寝室はこっち」

 彼女に案内してもらい、クロエのご両親が寝ている寝室に入る。

 キングサイズのベッドには、二人のエルフが眠っていた。

「お父さん、お母さん」

 母親の手を握り、クロエは声をかける。しかし、彼女の呼び声に反応することはない。

 可笑しいな。病に臥せているにしては、全然苦しんでいる様子がない。どちらかと言うと、普通に眠っているようだ。

 失礼ながら、クロエの父親の額に手を置いてみる。

「やっぱりな」

「シロウ、どうかなさいましたの?」

「もしかして、お父さんとお母さんの病の原因がわかったの?」

「いや、まだ確信があるわけではないが、おおよその見当はついた。もしかしたら治してあげられるかもしれない」

 一度深呼吸をすると、確認のために呪文を唱える。

「パースペクティブ」
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