Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳

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第十章

第五話 エリザベート、ナンパされる?

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 スプラッシュスクイッドとの戦闘から数日が経った。あれから海の魔物の襲撃はなく、天候も荒れることもなかった。

 俺は甲板で見張りを行っていると、大陸らしきものが小さく見え出す。

「一日程度の遅れがあったけれど、どうやら目的地である隣の大陸に到着することができそうだな」

 最後まで気を緩めることなく、周囲を警戒していたが、何も起きることはなかった。

 船は船着場に到着すると、俺たちは船から降りる。

「お前さんたちが依頼を受けてくれて助かった。こいつはお礼だ。受け取ってくれ」

 今回の報酬金を受け取り、念の為に確認をする。

「五十万ギル。確かに受け取った。もし、また何か困ったことがあったら、ギルドに依頼を出しておいてくれ、報酬金が高ければ、また受けるからよ」

「ガハハハ! またその時はお願いするよ。その辺の冒険者よりも、お前たちエグザイルドに頼んだほうが安全だからな。俺はこれから積荷を下す作業をするのでこの辺で」

 クロヒゲは俺たちに背を向けると船に戻った。

「さて、クロエの実家がある隣の大陸に来たが、エルフたちの集落はここからどれくらいかかるんだ?」

「えーとね。そんなに離れてはいないよ。だいたい二、三日ぐらい歩けば到着する。ほら、あそこに山があるでしょう。あそこの麓にエルフの集落があるんだ」

 クロエが指を差した方向に顔を向ける。

「あそこか。取り敢えずは、ここの港で食糧を調達できないか聞いてみよう。道中に宿屋があるわけでもないだろうし、野宿の準備もしておかないといけない」

「シロウさん、今日はもう休みませんか? わたし、とても疲れましたわ」

 今からやるべきことを伝えると、エリーザが休みたいと言い出す。

 彼女は海に恐怖心があり、依頼を受けている間はずっと気を張っていた。地面にある大陸に辿り着いたことで、安心して一気に疲弊してしまったのかもしれないな。

「わかった。でもさすがに港に宿屋があるとは思えないから、エリーザはここで休んでおいてくれないか? 俺たちだけで食材とかを調達してくるから」

「わかりました。では、休ませてもらいます」

 エリーザがその場で座り込み、彼女を除いたメンバーで山登りの準備を行う。

「それじゃあ、お金をみんなに渡すから、それぞれの判断で必要と思ったものを調達してきてくれ」

 マリーたちにお金を渡し、人海戦術で買い物を始める。

 俺は港で働いている人たちに話しかけ、上手く交渉して物資を分けてもらった。

「さて、それなりにいいものを分けてもらったし、そろそろエリーザのところに戻るとするか」

 必要なものを手に入れ、集合場所に歩いて行く。

 うん? エリーザと一緒にいるのはマリーたちではないな? いったい誰だ?

 彼女と一緒にいる人は、見知らぬ三人組の男だ。

 エリーザの表情からして、彼女の知り合いではなさそうだな。もしかしてナンパか? こんな港でもナンパをするやつがいるんだな。

 そんなことを思いつつも、彼女に近づく。

「なぁ、いいだろう。俺たちが案内してやるよ」

「そうだぜ。最高にいい場所に連れて行ってやるよ」

 更に近づくと男たちの声が耳に入ってきた。

 やっぱりナンパか。さてと、どうやってあしらってやるか。見た感じだと、とくに身体を鍛えているような感じには見えないし、追い払うにしても手加減をしないといけないよな。

「ほら、行こうぜ」

「いや、でも」

「そんなに遠慮をするなよ」

 エリーザが断ろうとしていると、一人の男が彼女の手首を掴んだ。それを見た瞬間、急いで駆け寄る。

「お前たち、何をしている」

「はぁ? 何だよお前は」

「俺たちの邪魔をするんじゃねぇよ」

 男の一人が殴りかかってくる。

 だが、普段から魔物や魔族を相手にしているだけに、彼の攻撃はあまりにも弱々しく見えた。

 やっぱり、ぜんぜん鍛えていないただのナンパやろうじゃないか。攻撃が素直すぎて、欠伸をしていても簡単に避けられそうだ。

 身体を九十度回転させると、男の攻撃を避ける。そして放たれた腕を掴み、そのまま背中に持っていく。

「イテー!」

 殴ってきた男は身体が固かったようで、大きな声で喚き出す。

「さぁ、お前たちもこうなりたくなければ、さっさとエリーザから離れろ」

 ナンパをしている男たちを睨み、離れるように警告する。

「ちょ、ちょっと待ってくれ! 誤解なんだ!」

「そうだ! 俺たちはこの子が気分を悪そうにしていたから、景色のいい場所に連れて行ってやろうとしていただけだ」

 ナンパ男たちは勘違いをしていることを言うが、俄に信じられない。

 エリーザに顔を向けると、彼女は首を立てに振った。

 そうか。彼らはエリーザを介抱しようとしていただけなのか。

「わかった」

 手を離して解放すると、殴ってきた男は涙目になりながら俺に指を向ける。

「いきなり殴りかかって悪かったけどよ! 体調の悪い女の子をほっといて、その辺を彷徨いているなよ! 彼氏なら、側にいてあげるものだろう!」

「景色のいい場所はこの先にある丘だからな!」

「ちゃんと連れて行って側にいてやれよ!」

 男たちは去り際に言葉を吐き捨てると、俺が訂正する前に見えなくなってしまった。

 いや、俺はエリーザの彼氏ではないのだけど? まぁ、今はそんなことはどうでもいい。それよりもエリーザだ。

「そのう、なんだ? 大丈夫か?」

「あ、はい。ケガはしていませんわ。あのう、なんだか勘違いされましたね」

「そうだな。だけど勘違いをされるような要素って、どこかにあったか?」

「多分、シロウさんが勘違いをして、わたしを助けにきたからではないですか? 女の子が絡まれているところに駆けつけるのは、恋人が多いですわ。わたしが愛読している物語では王道ですもの」

「そうなのか?」

 俺にはいまいちわからない。

「あのう、シロウさん。あの人たちが言っていた景色がいい場所に行ってみませんか?」

「そうだな。もしかしたら、本当にエリーザの気分もよくなるかもしれない」

 体調が悪いまま歩かせるようなことをしたら、転んでしまうかもしれないよな。

 俺はエリーザの手を握る。

「シ、シロウさん!」

「あ、ごめん。驚かせてしまったか。体調が悪いだろうから、手を握ってあげていたほうかいいかなと思ったのだけど。もし、嫌なら離すよ」

「いえ、いえ、大丈夫ですわ。寧ろ、ずっとこうしていたいぐらいですもの」

「さすがにずっとはムリだろう」

 エリーザと手をつないだまま、彼女をエスコートして教えられた丘に向かう。

「ここか」

「綺麗ですわね」

 丘から見える景色は教えてもらったとおり、素晴らしい光景が広がっていた。

 海に太陽光が反射し、キラキラと輝いている。まるで水面に宝石が浮かんでいるかのようだ。

「海って、わたしにとっては怖いところですけど、綺麗な景色も楽しめるのですね」

「そうだな」

 この綺麗な光景を見て、エリーザが少しでも海を克服できればいいな。

 そんなことを思いながら、俺は彼女の体調が良くなるまで隣で海を見続けた。
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