上 下
82 / 191
第九章

第六話 せっかく作戦を立てたのに、ブラゴのせいで全てが台無しです

しおりを挟む
 マリーの本音を聞き出すために、俺はエリーザと仮の婚儀を結ぶことになった。

 作戦中に変な噂が立たないように、彼女の父親である騎士爵様と会い、事情を話す。

「と言う訳で、騎士爵様にもご協力願いたいのですが」

「なるほど、だけど難しいなぁ。俺としては兄さんの気持ちは分かる」

 娘を持つ父親の立場からすれば、やっぱり男爵様と同じ気持ちになってしまうのだろう。騎士爵様は腕を組んだまま、瞼を閉じて悩む素振りを見せる。

「兄さんのことだ。俺のような失敗はしない。だけど、強引に話しを進めれば、娘との亀裂が生じるということも、この身が体験していることだからなぁ。兄さんが落ち込むような姿は見たくない」

 騎士爵様の言葉からは、何だから兄弟愛のようなものが感じられるなぁ。余程仲が良さそうだ。

「お父様! 娘であるわたしのお願いが聞けないと言うのですか!」

 中々直ぐに結論を出さないことに対して、苛立ちを覚えたのだろう。説得役として一緒に来ているエリーザが、座っている椅子から立ち上がって声を張り上げた。

「エリザ、これはとてもデリケートなことなんだ。様々な観点から物事を考えて、大局を見極めなければ、貴族として危うくなる。俺のような平民に近い貴族ならまだいい。だけど兄さんは男爵だ。仮に行動に移すとしても、慎重にことを進めなければならない」

 やっぱり一度失敗を経験している人は違うな。経験を糧にして物事を考える。

「わかりましたわ! もう、お父様には期待いたしません! 貴族なんてものがあるから、こんなに尻込むのですわ! こうなったら、わたしがオルウィン家と言う貴族をぶっ潰します! 貴族のプライドよりも、マリーお姉様が幸せな道を歩むほうが何倍も大事ですわ! シロウさん行きましょう。お父様なんか大嫌いですわ」

「大嫌い……だと」

 エリーザの言葉に、騎士爵様は固まったかのように動かなくなる。

 娘からの拒絶の言葉は、父親からしたら凄まじいダメージなのだろうな。もし、将来俺に娘ができたのなら、気をつけよう。

 エリーザが俺の腕を掴み、強引に立ち上がらせる。彼女に引っ張られる形で、騎士爵邸を出ていくことになった。

「お父様があんなに分からず屋だとは思いもしませんでしたわ。こうなったら、世間にどんな目で見られようとかまいませんわ。このまま作戦を実行するとしましょう」

 本当に大丈夫なのだろうか? 何だか心配になってくる。

 頼むから、面倒臭いようなことにはならないでくれよ。

 心の中で呟きながら、エリーザと一緒に宿屋に戻る。

 そして騎士爵様からの協力を得られなかったこと、そのまま作戦を実行することになったことをクロエたちに話す。

「騎士爵様の協力が得られなかったのですか。それは残念です」

「仕方がないね。どう転ぶかわからないけれど、とにかくやってみるとしようか……おや?」

 ミラーカが建物の横にある木を見て首を傾げたな? 何かあるのか?

 気になったので、建物の横にある木に視線を向ける。すると、黒服の男が俺たちのほうを見ていた。

 確かあの人は、マリーを追いかけてギルドに来た男だったよな。

 視線が合うと、彼は逃げるようにこの場から走り去っていく。

 いったい何だったのだろう? 何だか嫌な予感がするな、一応気をつけておこう。

「それじゃあ、行くとしようか」

 俺たちはオルウイン邸に向かう。

 屋敷の前に辿り着くと、タイミング良く扉が開かれた。そして白い肌の男が外に出る。彼は俺たちに気づくとこちらにやってきた。

「ちょうどよかったです。今からお呼びに行こうとしていました」

「俺たちを呼びに?」

「ええ、旦那様とお嬢様から、シロウを呼ぶように言われましたので」

「シロウさん良かったですね。門前払いをされるかと思っていましたけれど、家の中に入れるのなら、第一段階は完了じゃないですか! このまま第二段階に移りましょう!」

 クロエが喜ぶが、俺には違和感を覚えた。

 昨日、リピートバードの言葉では、二度と自分の前に顔を見せるなと言っていた。それなのに、急に俺たちを呼ぶと言うのは何か変だ。

 やっぱり可笑しい。だけど、親子で話し合った結果、最後に一度だけ顔を合わせる方がいいという話しになったのかもしれないよな。勘繰りすぎるのはよくない。

 少しだけ警戒するも、屋敷の中に入る。

 通された場所は前回と同じ部屋だ。

「これはシロウ君、よく来てくれたね。さぁ、座ってくれたまえ」

 男爵様に座るように促されたが、違和感をまったく感じない。

 どうやら俺の考えすぎだったようだな。

「執事よ。皆さんに飲み物を」

「畏まりました」

 俺たちを連れてきた男は、一礼をすると応接室から出ていく。

「話しは飲み物が来てからにしよう」

 飲み物が来てから話すと言われ、俺たちは飲み物が運ばれてくるのを待つ。

「お待たせしました」

 しばらくして執事の男が飲み物を持ってくると、俺たちの前においた。

「まずは一口飲みたまえ。今日はかなり美味しいのを仕入れてね。自慢の紅茶なんだ」

 紅茶を飲むように促され、俺はカップを口元に持っていく。

「この僅かに香る匂いは……皆んな! この紅茶を飲んではダメだ!」

 カップの縁が唇に触れた瞬間、ミラーカが突如叫ぶ。しかし時既に遅い。

 少しの量ではあるが、紅茶が口内から喉を通っていく。

 すると、急に身体の痺れを感じ、まともに動かせられなくなった。身体は自然と倒れ、テーブルにぶつける。

「クロエとエリーザも飲んでしまったか。これはまずいね」

 身体が動かせられないので、他の皆んながどうなっているのか分からない。だが、ミラーカの言葉を聞く限り、二人も俺と同じ状況に陥っているようだ。

「あははははは、さすがミラーカと言いましょう。僕の毒入り紅茶を見抜くなんて。ですが、これでシロウは封じた。あなた一人ではどうすることもできないでしょう」

 執事が笑ったかと思うと、俺は驚いた。執事の顔はレオを魔神木に変えた魔族、ブラゴに代わっていたのだ。

「さぁ、この間の借りを返させてもらいますよ」
しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

最強の男ギルドから引退勧告を受ける

たぬまる
ファンタジー
 ハンターギルド最強の男ブラウンが突如の引退勧告を受け  あっさり辞めてしまう  最強の男を失ったギルドは?切欠を作った者は?  結末は?  

処理中です...