Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳

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第九章

第九章 第二話 ブラゴの屈辱

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  ~ブラゴ視点~



 僕ことブラゴは、崩壊した闘技場の陰に隠れながら、シロウたちを見る。

「やってくれましたね。まさか一度ならず二度までも僕たちの邪魔をしてくれるとは。まぁ、まだ実験段階ではありましたし、いい研究結果を得られたと前向きに考えるとしましょう」

 さて、これからどうしようミラーカに続いて、僕の作戦までもがシロウに邪魔をされて失敗したなんて報告をしてしまえば、間違いなく僕はミラーカと同じ処分が下される。

 このまま報告はできない。次に仲間たちと連絡を取るときは、いい報告でなければならない。

「早急に次の作戦を考えなければならないですね。シロウに一泡吹かせるような屈辱を与える作戦を考えなければ」

「ブラゴこれはどういうことですか? あなたが考えたシナリオとは結末が違うようですが?」

 背後から女性の声が聞こえ、僕は身の毛がよだった。

「ガ、ガーベラ」

 振り返って女の名を呟く。彼女は僕を冷ややかに見ていた。

 バレてしまった。バレってしまった。もう、言い訳はできない。おそらく彼女は僕の作戦が失敗したことをリーダーに伝えるだろう。そうなれば、僕もミラーカのように追放されてしまう。もし、彼女と同じような道を辿ってしまえば、僕は行くところがなくなる。

 心臓の鼓動が激しく高鳴っているのが聞こえてくる。おそらく僕の白い肌は、青白くなっているだろう。

「頼むガーベラ。この失敗は必ず挽回してみせる。だから、リーダーには報告しないでくれ」

 彼女は僕に視線を送ったまま微動だにしない。

「まぁ、いいでしょう。あなたには以前の借りがありますので、今回は見なかったことにします」

 ガーベラの言葉に、僕は安堵した。

 よかった。彼女に貸しを作っておいて。

「それで、次の作戦はもう考えているのですか?」

「いや、まだだ。これから考える」

「そうですか。ですが、あまり報告が遅いとリーダーも痺れを切らします。迅速に終わらせることをお勧めしますよ」

「そんなこと、言われなくともわかっている」

 忠告を受け、僕は歯を食いしばる。

 そんなことは、わざわざ言われなくとも理解している。だけど、次の作戦が思いつかない。まさか僕の作戦が失敗に終わるとは思ってもいなかったのだから。

 シロウを嘗めすぎていた。いや、そもそもレオ君を利用しようと考えていたところから間違いだったのだ。弱い人間でも寄生型のミミックを使えば、強くなると思っていた。だけど所詮ザコを強くしたところで能力に限界があった。

 デンバー国で一番の冒険者であるコーウを騙して利用していたほうが、もしかしたら勝てていたのではないか?

 レオ君が弱いせいで、今の僕は追い詰められている。全てはあの男のせいだ。彼が弱すぎるのが悪い。僕の作戦は完璧だったのだ。

 失敗の責任を他者にぶつけることで、少しだけ気が晴れたような気がした。

「その様子だと、失敗したときのことを考えてはいないようですね。では、借りの利子を払いましょう。あなたの作戦と同時に、私が水面下で行っていた作戦の一部を提供しましょう」

 ガーベラの言葉に、僕は複雑な気持ちになる。

 正直、今の状況で彼女の作戦を譲ってもらうのはありがたい。だけど彼女はこういった。僕の作戦と同時に水面下で行っていたと。つまり、彼女は僕の作戦が成功するとは最初から思っていなかったということになる。

 最初から、僕を信じていなかったのだ。

 くそう。仲間たちからも信用されていなかったってことかよ!

 僕は拳を強く握り、唇を噛んだ。

「ありがとう。その作戦を譲ってもらうよ」

「そうですか。既に種は蒔いておりますので、後はあなたの判断で実行してください」

 ガーベラが顔を近づけると、耳元で彼女が行っていた作戦を教えてもらう。

 なるほど、そういうことか。確かにそれなら、内部から崩壊させることができるかもしれない。それに人間という生き物は、顔見知りが相手だと本気を出せない生き物だ。成功確率も高いはず。

「因みにそいつらの意識はどの位残っているのですか?」

「そうですね。基本的には身体の支配権は彼らにありますが、こちらが合図を送った途端に操り人形に切り替わります。なので、近隣の者であったとしても違和感に気づかないはずです」

「それはいいですね。必要なときだけ使うことができる駒は便利です。では、早速向かうとしましょうか」

 僕はニヤリと口角を上げる。そしてシロウたちに気づかれることなく闘技場を出ると、ある町に向かった。





 数日が過ぎたある日の夜、僕は目的地の屋敷の前に来ていた。

「ここがガーベラの言っていたお屋敷ですか。男爵家だけあって、そこそこいい建物ではないですか」

 門を開けて敷地内に入ると、今度は屋敷の扉を開けて中に入った。

「さて、目的の人物はどこにいるのかな?」

 ガーベラの情報によると、普段は書斎で仕事をしていると言っていた。ひとまずはそこに向かうとしよう。

 屋敷内を歩いていると、書斎と書かれたプレートのある部屋を発見した。

 どうやらここのようですね。では、入ってみるとしましょうか。

 扉を開けて中に入る。

「おや? もう夜食の時間だったかね? すまないがいつものところに置いておいてくれ」

 男爵は僕をメイドか何かと勘違いをしているようだ。こちらを見ないで書類に釘付けとなっている。

「こんばんは。悪いが夜食は用意していないんだ。ごめんね」

「なんだ貴様は! どこから入ってきた」

 僕が声をかけたことで、ようやく彼はこの部屋に入ってきたのが屋敷の者ではないことに気づいたようだ。こちらに鋭い視線を向けてくる。

「僕の名はブラゴ。悪いが、シロウを倒すための人形になってもらうよ」

「侵入者だ! 誰か来てくれ!」

 彼は大声を上げて助けを求める。その刹那、この書斎に複数の男たちが入ってきた。

「侵入者よ。我がオルウィン家に侵入したのが運の尽きだったな。この屋敷には警備として凄腕の格闘家を雇っている。やつを拘束しろ!」

 男爵が僕を捕まえるように言うと、男たちは一斉に襲いかかってきた。

「僕を捕まえる? やれるものならやってみてください」

 ニヤリと笑みを溢しながら僕は指をパチンと鳴らす。その瞬間、男たちを含め、男爵たちの動きも止まる。

「アハハハハ! これはいい! ガーベラが言ったとおりですね」

 僕は男爵に近づき耳元で囁く。

「今日からよろしく頼むよ、僕のお人形」









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