Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳

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第八章

第八章 第十一話 ブラゴとミラーカの追いかけっこ 

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 ~ミラーカ視点~



 私ことミラーカは、この騒ぎの黒幕であるブラゴを探していた。

 まさか、ブラゴのやつが関与していたとは思わなかったけど、まさかこんなにも早く、元仲間と再会することになるとは思わなかった。

 観客席に向かう通路には、まだ一般人たちが避難を続けている。私は上手いところ避難者の隙間に入り込んで逆走した。

「ブラゴのことだ。おそらくことの顛末を見守るために、闘技場内のどこかにいるはず」

 避難者たちを抜けて階段を登り、観客席に辿り着く。首を左右に振って探している人物がいないか見渡してみると、巨大な魔物を目の前にして平然としている男を発見した。

「ブラゴ!」

 やつの名を叫びながら、私は彼に近づく。

「やはり、僕を追って来ましたね。ミラーカ」

「まさか、こんなに早く再会できるとは思わなかったけれどね。さぁ、今すぐあの魔物を人間に戻す方法を教えてもらおうか」

 私は一歩、また一歩とブラゴに近づく。

「ハハハ。教えろと言われて、はいそうですかと素直に教える僕ではないことはご存知でしょう? ですが、僕とミラーカの仲です。僕を捕まえることができたのなら、教えてあげましょう」

「そうかい。なら、すぐに終わらせるとしようか」

 懐から毒薬の入った瓶を取り出し、やつに投げつける。

「おっと……相変わらず手が早いですね。ですが、あなたの行動パターンは知り尽くしております。簡単には当たりませんよ」

 投擲した毒薬の入った瓶は、ブラゴに簡単に避けられ、地面に当たると割れて撒き散らせる。

「一発で当たるとは思ってもいないよ。一回避けたぐらいでいい気になるんじゃない」

「ハハハ、それもそうですね。では、逃げさせてもらいますよ。クイック」

 ブラゴが素早さを向上させる呪文を唱える。すると、彼は私の横を通り過ぎた。

「僕を捕まえられるといいね」

 擦れ違った瞬間、ブラゴの挑発的な言葉が耳に入る。

「面白い。絶対にお前を捕まえて見せるよ。クイック」

 私も同じ呪文を唱えて速度を上げ、やつを追いかける。

 観客席はつながっており、一周することができる。私たちは何周も観客席内を走った。

「鬼さんこっちだ。手のなる方へ」

 挑発的な言葉をブラゴが口にする。

 くそう。クイックは元々、現在の足の速さを上げる魔法だ。最初から身体能力に差があるのだから、同じ魔法を使ったところで追いつくことはない。

「いやー、こうして走っていると、子どものころを思い出しますね。昔はよく追いかけっこをして遊んでいましてよね」

「確かに子どものころはよく遊んでいたね。だけど今はそんな仲ではないだろう。ファイヤーボール」

 追いかけながら、私は呪文を唱えて火球をブラゴに放つ。

 速力で勝てない以上は、やつを足止めするしかない。

「そんなので怯む僕ではないですよ。ウォーターボール」

 私の解き放った火球は、ブラゴの水球に阻まれ、当てることもできない。

「ならば、これならどうだ」

 懐からジェル状の液体が入った瓶を取り出し、前方に投げる。

 投擲した瓶は、ブラゴを通り過ぎた。

「どうやら疲れているみたいですね。コントロールまで失うと……は!」

 言葉の途中で彼は驚きの声をあげた。私が投げたのはただの液体ではない。スライムを仮死状態にして圧縮し、瓶の中に封じ込めていた。

 瓶が割れて解放されたスライムは、膨れ上がってブラゴに覆いかぶさろうとする。

「スライム如きに捕まるような僕ではないですよ」

 ブラゴは跳躍して上空に避難すると、そのまま一回転をして着地し、再び走り去っていく。

「くそう。ちょこまかと逃げやがって。相変わらず逃げ足だけは早いやつだ。このチキン野郎」

「ハハハ、言いたければお好きなように気が済むまで言えばいいですよ。何を言われようと、生き残った者が勝者ですからね。どんな手を使っても生き残り、利用できる者は全て利用する。だから、今回もシロウを倒すために、彼に執着しているバカを利用したのですよ」

「へぇーそういうことだったんだ。よくも私たちを利用して、レオを魔物に変えてくれたわね! あなただけは絶対に赦さないんだから! ファイヤーボール」

 ブラゴを追いかけていると、どこかで聞いたことのあるような声が耳に入った。そして前方からブラゴに向けて火球が飛んでくる。

「ウォーターボール」

 先ほどと同じように、やつは水球をぶつけて火球を回避した。

「エリナさん。僕とミラーカの追いかけっこの邪魔をしないでくださいよ」

「そうはいかないわ。あなたからレオを元に戻す方法を聞き出してみせる」

 どうやら彼女も目的は一緒のようだ。なら、ここは手を組んだほうが互いに利益がでるはず。

「お嬢ちゃんはたしかエリナと言ったね。一応シロウと敵対している以上は、私の敵だが、ここは一度手を組まないかい?」

「敵の敵は味方と言いたいの? まぁいいわ。私一人でブラゴを捕まえられるとは思っていないし、今回だけは特別に手を組んであげる」

 一応シロウと敵対しているからか、妙に棘のある言い方をする娘だ。だけど彼女が手伝ってくれるのなら、ブラゴを捉えやすくなるだろう。

「ファイヤーボール」

「ファイヤーボール」

 私が火球を生み出したと同時に、エリナも火球を放つ。

 タイミングは合わせていない。偶然にも同時に魔法を発動させた。

 二つの火球がブラゴに襲いかかる。

「挟み撃ちとか、なかなか卑怯なことをするね。でも水使いの僕には、ムダに終わるだけだ。ウォーターウォール」

 ブラゴが呪文を唱えると、二つの水壁が火球の前に立ち塞がる。

 私たちの火球は水の壁に阻まれてしまった。

「ハハハ、魔法の相性がある限りは、僕を捕まえることはできないですよ……あれ?」

 勝ち誇ったかのように、ブラゴは笑い声を上げる。しかし、その笑いも長くは続かず、彼は困惑の表情を浮かべた。

「これはいったいどうしたというのだ。僕のウォーターウォールが消えていく」

 私たちの魔法を防いだ水の壁が霧状になって霧散していった。それと同時に途轍もない熱量を感じ、リングのほうに顔を向ける。

 リングの真上には、巨大な火球が天高く翳されていた。

「あれはデスボールなのか? バカな! デスボールにしては熱量が尋常じゃない!」

 突如出現したデスボールに、ブラゴは驚きの声を上げる。

 おそらく、シロウの魔法だろう。当然こちらの状況は把握してはいないはずだ。

 だけど偶然にも彼が特大の火球を生み出したことで、ブラゴの防御壁がなくなり、やつは戸惑いを見せている。捕まえるなら今だ。

 私は観客席を駆け、元仲間に接近した。

「くそう。くるな! ウォーターポンプ!」

 ブラゴが水の魔法を唱える。彼の魔法は発動し、水を出現させた。けれどその水も、瞬く間に霧散していく。

「さぁ、お縄につく時間だ!」

 今なら確実に拘束することができる。そう判断した私は、スライムを仮死状態にして封じている瓶を懐から取り出し、ブラゴに向けて投げつける。

 瓶は割れ、解放されたスライムはブラゴに張り付く。

「これで決まったね。そのスライムは繊維を食べるスライムさ。丸裸にされたくなければ、今すぐにあの男を元に戻す方法を教えるんだ」

 私はブラゴに近づく。すると彼に異変が起きていることに気づいた。

 可笑しい。私が投げたスライムは肉食ではない。それなのに、どうしてブラゴの身体が溶けている。

 予想外の展開に、私は驚きが隠せなかった。

 ブラゴを拘束しているスライムは草食で間違いない。だけど、やつの身体が溶けているということは。

「まさか!」

「どうやら気づいたようだね。そうさ! この僕は本物ではない! 系で作り上げた人形さ。本当の僕はここにはいないよ。だけどまぁ、約束は約束だからね。彼を元に戻す方法を教えてあげよう」

「身体が溶けているじゃない! 早くレオを元に戻す方法を教えなさい!」

 ブラゴが動かなくなったのを見て、エリナが駆け寄ってきた。

「あの魔神木となったレオ君の肉体は、人形に魂が入れられたようなもの。まだ器と肉体が融合しきれていない。完全に融合する前に分離させることができれば、可能性はある」

「その分離の仕方は、いったいどうやってやるのよ!」

「そこまでは教えられないね。あとは自分たちで考えるんだ。それじゃあ、この肉体も限界のようだから、僕はこの辺でリタイアしよう。ミラーカ、久しぶりに遊べて楽しかったよ。だけどあのシロウとは縁を切ったほうがいい。幼馴染としての忠告だ」

 その言葉を最後に、偽者のブラゴは消滅した。

「完全ではないが、一応あの男を救う方法はわかった。この情報をシロウに教えよう」

 私は観客席から、リングで今も戦っているシロウを見る。











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