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第八章

第二話 エリーザと夜のレッスン

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 俺たちは今、宿屋の一室で作戦会議をしていた。

「さて、美少女コンテストに向けた作戦会議だけど、先ほど言った様に、容姿に関しては何も問題ないと思う。見た目審査では間違いなく合格するだろう」

「それは当然でしょう。何せ、ワタクシの親戚ですもの」

 エリーザの容姿を誉めると、なぜかマリーが誇らしげに胸を張る。

「でも、本当にあの子爵の息子って見る目がないですよね。エリちゃん、こんなに可愛いのに」

「男という生き物は、ブスに対して冷たい態度をとるということは魔学で証明されている。だけどあの男の目は腐っていると私も思うよ。仮にエリーザの容姿が普通以下だったとしたら、この世界で生きている女のほとんどがブスということになる」

 クロエに続き、ミラーカが魔学の研究者らしい表現でエリーザをフォローした。

「だけど、慢心はいけない。確実に優勝するためには、エリーザの魅力を更に引き出すようにしなければならないよな」

 腕を組んで俺は考える。すると、酒場でオルテガがバニーガールたちにやらせていたことを思い出した。

「ひとつ提案がある。これは強制できないから、エリーザがやりたくないと思えば、しなくてもいい。ギルドマスターのオルテガと一緒に飲んでいたときの話だが、彼はバニーガールたちに胸や尻を強調させるようなポーズを取らせて喜んでいたんだ」

「あの男、酒場でそんなことをしていますの?」

「まぁ、オルテガさんらしいといえばらしいかもしれないですね」

「なるほど、男は基本的スケベな生き物だ。性欲を刺激するようなポーズを取れば、更に票が集まりやすい」

 言葉の途中でマリー、クロエ、ミラーカが口を挟んできたが、俺は続きを語る。

「ミラーカも言ったが、美少女コンテストを見に来る客層は男が殆どのはず、そして彼らは出場者の可愛いポーズやセクシーなポーズを求めているはずだ。観客たちの求める事をすれば、自然と票が集まるのではないかと思うんだが」

「それなら、私からも提案という名のアドバイスをしよう。男たちはラッキースケベ的なものを求めている。水着審査があっただろう? その時にポロリがあれば間違いなく優勝できるはず。エリーザが協力してくれるのであれば、私が細工してやろう」

「そ、それはちょっと……シロウさんだけならともかく、他の殿方にまで見せるわけには」

 エリーザが顔を赤くしながらミラーカの提案を拒むと、彼女はブツブツと何かを言っていた。声が小さすぎたので、内容までは聞き取ることができない。

「あのう、シロウさんはわたしの胸やお尻を強調したポーズを見たら、喜びますか?」

 小声で何かを呟いていたエリーザだったが、顔を赤くしたまま、彼女は自分の胸や尻が強調されたポーズが見たいのかと俺に訪ねてきた。

 うーん、なんて返答をしたらいいのだろうか? 正直に言って、どちらでもいいというのが本音なんだけどなぁ。でも、さすがに今の気持ちを正直に言ってしまっては、彼女のやる気を削ぐことになるだろうな。ここは、嘘でもやる気を維持させる方向で考えたほうがいいだろう。

「俺はエリーザのセクシーなポーズが見たいな」

「そうですか。わかりました。少し恥ずかしいですが、シロウさんがそんなに見たいのなら頑張ってみます」

 どうやら、彼女のやる気を削ぐような結果にならずに済んだようだ。

 ホッとすると、三つの鋭い視線を感じ、俺は自然と苦笑いを浮かべる。

 マリー、クロエ、ミラーカから、普段あまり感じられないようなタイプの視線を送られてくるのだ。

 俺、何か彼女たちの機嫌を損ねるようなことを言ってしまったか?





 その日の夜、俺は宿屋のベッドで横になっていた。

「明日も早いし、そろそろ寝たほうがいいだろうな」

 明かりを消して、今から眠りに就こうとしたときだ。扉が二度ノックされる。

「エリーザです。シロウさん、起きていますか?」

 エリーザか。こんなに夜遅い時間帯に何のようだろうか?

「起きているぞ。鍵は空いているから入ってきてくれ」

 廊下側にいる彼女に声をかけると、扉が開かれてエリーザが入ってきた。

 彼女はなぜかローブを着ており、全身を隠している。

「どうした? そんな格好をして? もしかして外に散歩に行くのか?」

 俺は彼女に尋ねた。

 普段は服を着ているだけなのに、今はローブを着ている。その理由が、夜の散歩に行くための寒さ対策というのであれば納得がいく。俺に声をかけたのは、護衛をしてもらおうと考えたのだろう。

「ち、違います」

 彼女は首を左右に振って、俺の推理を全否定してきた。

 うーん、俺の予想が外れてしまったか。でも、それ以外にエリーザがローブを着て、俺の部屋に来る理由が思いつかないのだけどな?

 もう少し彼女を観察してみると、若干顔が赤いようにも見えた。

「もしかして風邪でも引いたのか?」

「風邪も引いてはいませんわ。顔が赤いのは緊張しているからです」

 緊張? エリーザが? 何を今更俺たちの間で緊張をするようなことがある?

 どうして彼女が緊張しているのかが分からないでいると、エリーザは俺の前でローブを脱ぐ。内側に隠されていたものを見た瞬間、彼女が緊張しているという意味がわかった。

 エリーザは水着を着ていたのだ。しかも普通の水着とは違い、遥かに布面積が少ない。

 そんな彼女を見ていると、俺まで鼓動が激しく高鳴りだした。

「エ、エリーザ! ど、どうしたんだその水着は!」

「こ、これは美少女コンテストの練習用として、ミラーカさんが用意してくれましたの。本番で恥ずかしがっては失敗するから、普段の練習でより恥ずかしいものを身につけて、殿方に見られれば本番では緊張しなくなると」

 確かにミラーカが言うことにも一理ある。だけど、これはさすがにやりすぎなのではないか。

 頭の中でシミュレーションをしてみる。

 今の状態の彼女を人通りの多いところに連れて行ったとしよう。周囲からは痴女扱いをされて、最悪彼女にトラウマを植え付けることにもなる。それにエリーザは騎士爵の娘とはいえ、立派な貴族だ。今の彼女を見たら、卒倒するかもしれない。娘を痴女にしてしまった責任を負うことになり、多額の賠償金を請求されたら、俺はきっと生きてはいられなくなるだろう。

「エリーザ、頼むからその姿で外に出るようなことはしないでくれよ。最悪俺が責任を取ることになるかもしれない」

「シロウさんが責任をとってくれるのであれば、外に出てみるのもいいかもしれませんね」

 彼女の言葉に、俺は思わずゾッとしてしまう。

 子爵の息子に一泡吹かせる件で忘れていたが、そういえばエリーザは俺のことを嫌っていた。

 少しは溝が埋まったかと思っていたが、どうやらそれは俺の勘違いのようだ。

 もう少し、彼女との接し方は考えたほうがいいのかもしれないな。

「ふふ、冗談ですわよ。さすがにこの姿は、どう頑張ってもシロウさんにしか見せられないですもの」

「そうですか。それは俺としてもありがたい。それで、俺の部屋に来たのは、その水着を俺に見せるためか?」

「それもありますが、シロウさんにレッスン相手になってもらいたいのです」

「レッスン?」

「はい! 優勝するために、殿方の視点でポージングの指摘をしてもらおうかと」

 なるほど、それで彼女が大好きなマリーの部屋ではなく、俺の部屋に来たというわけか。それなら協力しないわけにはいかないよな。

「わかった。俺ができる範囲で協力しよう」

「ありがとうございます。朝まで寝かせませんので、そのつもりで」

 こうしてエリーザと、真夜中のレッスンが始まるのであった。









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